相隣関係の民法改正/令和5年の宅建解答解説

相隣関係の民法改正

令和5年の問題

【問  2 】 相隣関係に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。

  1. 土地の所有者は、境界標の調査又は境界に関する測量等の一定の目的のために必要な範囲内で隣地を使用することができる場合であっても、住家については、その家の居住者の承諾がなければ、当該住家に立ち入ることはできない。
  2. 土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越える場合、その竹木の所有者にその枝を切除させることができるが、その枝を切除するよう催告したにもかかわらず相当の期間内に切除しなかったときであっても、自らその枝を切り取ることはできない。
  3. 相隣者の一人は、相隣者間で共有する障壁の高さを増すときは、他方の相隣者の承諾を得なければならない。
  4. 他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に出るためにその土地を囲んでいる他の土地を自由に選んで通行することができる。
解答

正しいのは1です。

1は正しいです。民法209条1項により、土地の所有者は一定の目的のために必要な範囲内で隣地を使用できますが、住家については居住者の承諾がなければ立ち入れません。

2は誤りです。改正民法233条3項により、枝の切除を催告したにもかかわらず相当期間内に切除されない場合などには、土地所有者自らその枝を切り取ることができるようになりました。

3は誤りです。民法231条により、相隣者の一人は共有の障壁の高さを増すことができ、他方の承諾は不要です。ただし、障壁が工事に堪えない場合は、自己の費用で必要な工作を加えるか障壁を改築する必要があります。

4は誤りです。他の土地に囲まれた土地(袋地)の所有者は、公道に出るために他の土地を通行できる権利(囲繞地通行権)を有しますが、通行方法は囲繞地に最も損害が少ない方法でなければなりません。自由に選べるわけではありません。

以上より、1が正しい記述となります。

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相隣関係における隣地の使用権の整備に関する民法の規定

改正民法209条1項により、土地の所有者は以下の目的のために必要な範囲内で隣地を使用することができるようになりました。

  • 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕
  • 境界標の調査又は境界に関する測量
  • 第二百三十三条第三項の規定による枝の切取り

改正前は「隣地の使用を請求することができる」とされていましたが、改正後は「隣地を使用することができる」と明確化され、隣地所有者の承諾がなくとも使用権を有することになりました。

ただし、住家への立ち入りには居住者の承諾が必要です。また、隣地所有者・使用者の利益への配慮も明文化されました。

これにより、所有者不明土地等でも、一定の要件の下で隣地の使用が可能になり、土地の円滑な利用・管理に資するものと期待されています。

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隣地使用権の整備に関する民法の規定は、枝の切り取りに関係する?

改正民法209条1項3号により、隣地使用権は民法233条3項の規定による枝の切り取りにも適用されるようになりました。

民法233条3項では、以下の場合に土地所有者が隣地から越境してきた枝を自ら切り取ることができるようになりました。

  • 竹木の所有者に枝の切除を催告したにもかかわらず、相当期間内に切除しないとき
  • 竹木の所有者を知ることができず、またはその所在を知ることができないとき
  • 急迫の事情があるとき

これらの場合に、土地所有者は民法209条1項により、枝を切り取るために必要な範囲内で隣地を使用することができます。

つまり、改正民法では隣地使用権の範囲が拡大され、隣地から越境してきた枝の切り取りのために隣地に立ち入ることが明確に認められるようになったのです。これにより、所有者不明土地等でも枝の切り取りが容易になり、土地の円滑な管理に資するものと期待されています。