宅建業法 履行の着手 手付解除 契約

宅建業法 履行の着手

宅建業法における履行の着手
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定義

契約の履行行為の一部を客観的に認識可能な形で行うこと

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法的意義

手付解除の可否を決定する重要な基準

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判断基準

行為の態様、債務内容、履行期の趣旨等を総合的に考慮

宅建業法における履行の着手の定義

宅建業法における「履行の着手」とは、契約の履行行為の一部を客観的に外部から認識できる形で行うことを指します。これは単なる準備行為とは区別され、契約の本質的な部分の実行に着手したと評価できる行為を意味します。

具体的には、以下のような行為が「履行の着手」に該当する可能性があります:

  • 売主による所有権移転登記の申請
  • 買主による売買代金の一部支払い
  • 売主による物件の引渡し準備(荷物の搬出など)

ただし、これらの行為が「履行の着手」に該当するかどうかは、個々の事案における具体的な状況によって判断されます。

履行の着手と手付解除の関係

「履行の着手」は、手付解除の可否を決定する重要な基準となります。民法557条1項では、相手方が契約の履行に着手した後は、手付による契約の解除ができないと規定されています。

この規定の趣旨は、契約の履行に着手した当事者の信頼を保護し、不測の損害を防ぐことにあります。したがって、「履行の着手」があったと認められる場合、手付解除はできなくなります。

最高裁判所の判例(昭和40年11月24日)で、履行の着手と手付解除の関係について詳細に解説されています。

宅建業法 履行の着手の判断基準

「履行の着手」に該当するかどうかの判断は、以下の要素を総合的に考慮して行われます:

  1. 行為の態様
  2. 債務の内容
  3. 履行期が定められた趣旨・目的
  4. その他の諸般の事情

これらの要素を踏まえ、個々の事案ごとに具体的な判断がなされます。例えば、売買契約における「履行の着手」の判断では、以下のような点が考慮されます:

  • 契約の内容(物件の種類、規模、取引金額など)
  • 履行行為の重要性
  • 履行期と当該行為が行われた時期との関係

履行の着手に関する裁判例

「履行の着手」に関する裁判例を見ると、以下のような事例があります:

  1. 売主による履行の着手が認められた事例

    • 売買物件の賃貸借契約の解消
    • 売買物件の境界画定作業
    • 売買物件の抵当権の抹消
  2. 売主による履行の着手が認められなかった事例

    • 売買物件の鍵の交付
    • 司法書士への登記手続の委任
  3. 買主による履行の着手が認められなかった事例

    • 金融機関への融資の申込み

これらの裁判例から、単なる準備行為ではなく、契約の本質的な部分の実行に着手したと評価できる行為が「履行の着手」として認められる傾向にあることがわかります。

不動産適正取引推進機構の資料で、履行の着手に関する詳細な裁判例が紹介されています。

宅建業法 履行の着手におけるトラブル事例

「履行の着手」をめぐっては、しばしばトラブルが発生します。以下に典型的な事例を紹介します:

  1. 準備行為と履行の着手の区別
    売主が固定資産評価証明書を取得し、司法書士に登記手続きを委任した後、買主が手付解除を通知したケース。裁判所は、これらの行為を準備行為に過ぎないとして、買主の手付解除を認めました。

  2. 履行期前の履行行為
    履行期前に売主が行った行為が「履行の着手」に該当するかが争われたケース。裁判所は、履行期が定められた趣旨・目的との関連で、当該行為の時期も重要な要素として考慮しました。

  3. 買主の融資申込みと履行の着手
    買主が金融機関に融資を申し込んだことをもって「履行の着手」を主張したケース。裁判所は、これを単なる準備行為とみなし、「履行の着手」には該当しないと判断しました。

これらの事例から、「履行の着手」の判断には慎重な検討が必要であり、契約当事者間で解釈の相違が生じやすいことがわかります。

宅建業法 履行の着手と特約の関係

契約書に手付解除の期限を設定する特約を入れることで、「履行の着手」をめぐるトラブルを回避できる場合があります。しかし、この特約と民法557条1項の関係については注意が必要です。

例えば、「相手方が契約の履行に着手するまで、または○月○日までは手付解除ができる」という特約がある場合、以下の点が問題となります:

  1. 特約の解釈

    • 「または」の前後どちらが優先されるか
    • 期限内であれば履行の着手があっても解除できるのか
  2. 民法との関係

    • 特約が民法557条1項の規定を排除できるか
    • 消費者契約法における不当条項に該当しないか

これらの問題について、裁判所は個々の事案ごとに判断を行っています。一般的には、特約の文言や当事者の意思を重視しつつ、民法の規定との整合性も考慮する傾向にあります。

名古屋高等裁判所平成13年3月29日判決で、手付解除の特約と履行の着手の関係について詳細に判断されています。

以上のように、宅建業法における「履行の着手」は、手付解除の可否を左右する重要な概念です。宅建業者は、この概念を正確に理解し、適切に対応することが求められます。また、トラブルを未然に防ぐためには、契約書の作成時に「履行の着手」や手付解除に関する条項を明確に規定することが重要です。

宅建試験では、「履行の着手」に関する問題が頻出します。具体的な事例を通じて、どのような行為が「履行の着手」に該当するか、また手付解除との関係をどのように理解すべきかを学習することが、試験対策として効果的です。