宅建業法とハザードマップ
宅建業法改正の背景と目的
近年、日本各地で大規模な水災害が頻発しており、不動産取引においても水害リスクに関する情報が契約締結の判断に大きな影響を与えるようになりました。このような状況を踏まえ、国土交通省は2020年7月17日に宅地建物取引業法施行規則の一部を改正する命令を公布しました。
この改正の主な目的は、不動産取引時における水害リスク情報の提供を促進し、購入者や借主が物件の水害リスクを事前に把握できるようにすることです。これにより、不動産取引の透明性が高まり、より安全な住環境の選択につながることが期待されています。
水害ハザードマップの説明義務化
改正された宅建業法施行規則では、重要事項説明の対象項目として、水防法の規定に基づいて作成された水害ハザードマップにおける対象物件の所在地が追加されました。具体的には、以下の3種類のハザードマップが説明の対象となります:
- 洪水ハザードマップ
- 雨水出水(内水)ハザードマップ
- 高潮ハザードマップ
宅地建物取引業者は、これらのハザードマップを提示し、取引対象物件の概ねの位置を示す必要があります。また、市町村が配布する印刷物や公式ウェブサイトに掲載されている最新のハザードマップを使用することが求められます。
宅建業法ハザードマップ説明の具体的方法
水害ハザードマップの説明を行う際は、以下の点に注意する必要があります:
- 取引対象物件が存する市町村が作成した最新の水害ハザードマップを使用する。
- 取引対象物件の位置が含まれる洪水・内水・高潮ハザードマップのそれぞれを取引の相手方に提示する。
- ハザードマップ上で取引対象物件の概ねの位置を示す。
- 重要事項説明書には、各ハザードマップの有無を記載し、「別紙のとおり」または「別添ハザードマップ参照」などと記載する。
また、説明の際には以下の点にも留意することが望ましいとされています:
- ハザードマップ上に記載された避難所の位置も併せて示す。
- 対象物件が浸水想定区域に該当しないことをもって、水害リスクがないと誤解されないよう配慮する。
- ハザードマップの内容が将来変更される可能性があることを補足する。
- 詳細な内容の確認については、ハザードマップを作成した市町村に問い合わせるよう伝える。
宅建業法ハザードマップ説明の対象取引
水害ハザードマップの説明義務は、売買・交換取引だけでなく、賃貸借取引にも適用されます。つまり、以下のすべての取引形態において、水害ハザードマップの説明が必要となります:
- 宅地・建物の売買
- 宅地・建物の交換
- 宅地の貸借
- 建物の貸借
これは、あらかじめ宅地・建物に関する水害の危険性を知っておくことが、どのような取引形態であっても重要だと考えられているためです。
宅建業法ハザードマップ説明のデジタル化対応
近年のデジタル化の流れを受け、水害ハザードマップの説明においてもデジタル技術の活用が進んでいます。例えば、オンラインでの重要事項説明が認められるようになり、ビデオ会議システムを通じてハザードマップを画面共有しながら説明することが可能になりました。
また、国土交通省が運営する「ハザードマップポータルサイト」では、全国の水害ハザードマップをオンラインで確認することができます。このサイトを活用することで、宅建業者は効率的に最新の水害リスク情報を入手し、説明に活用することができます。
ハザードマップポータルサイト – 国土交通省
このリンクでは、全国の水害ハザードマップを簡単に検索・閲覧できます。
さらに、一部の不動産ポータルサイトでは、物件情報と併せて水害リスク情報を表示する機能を導入しています。これにより、消費者自身が物件探しの段階から水害リスクを考慮することが可能になっています。
宅建業法におけるハザードマップの説明義務化は、不動産取引の透明性を高め、安全な住環境の選択を促進する重要な施策です。宅建業者は、この法改正の趣旨を十分に理解し、適切な説明を行うことが求められます。同時に、消費者も水害リスク情報に関心を持ち、物件選びの際の重要な判断材料として活用することが大切です。
水害リスクは地域によって大きく異なるため、ハザードマップの内容を正しく理解し、必要に応じて専門家や行政機関に相談することも重要です。また、ハザードマップは定期的に更新されるため、最新の情報を常に確認する習慣をつけることが望ましいでしょう。
宅建業法の改正により、水害リスク情報の提供が義務化されたことは、安全・安心な不動産取引の実現に向けた大きな一歩と言えます。今後も、気候変動の影響などを考慮しながら、より精度の高い水害リスク情報の提供と活用が期待されています。