二重価格表示と不動産公正競争規約違反
二重価格表示の定義と不動産公正競争規約違反の考え方
不動産広告でいう「二重価格表示」は、実際に販売する価格(実売価格)に、これより高い価格(比較対照価格)を併記して“安くなった感”を出す表示を指します。典型例は「旧価格4,000万円 → 新価格3,500万円」のような表現で、消費者の判断に強い影響を与えるため、公正競争規約(表示規約)では「事実に相違する広告表示」や「有利であると誤認されるおそれのある広告表示」をしてはならない、という枠組みでチェックされます。
この領域で重要なのは、「二重価格表示そのものが全面禁止」ではなく、“原則として誤認リスクが高いので、一定要件を満たす場合に限って許される”という設計になっている点です。つまり、二重価格表示をするなら「要件を満たしている」だけでなく、「要件を満たしていることを説明できる」状態まで作っておく必要があります。
また、現場で見落とされがちなのが、社内では“値下げの事実”が明確でも、広告面では「比較対照価格の根拠」「公表日」「値下げ日」「同一性」など、第三者が検証できる情報が欠落しているケースです。この欠落が、規約違反の指摘や是正対応につながりやすいポイントになります。
参考リンク(規約上、二重価格表示が「不当」にならないための要件が条文で確認できます)
不動産の表示に関する公正競争規約施行規則(第13条:過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示の要件)
二重価格表示で違反にならない要件(公表日・値下げ日・同一性)
過去の販売価格を比較対照価格にする二重価格表示は、施行規則(実務ルール)上、複数の要件を“すべて”満たし、さらに「その期間、その価格で販売していたことを資料で客観的に明らかにできる」場合を除き、不当な二重価格表示に該当すると整理されています。
要件の中核は次のとおりです(条文の骨格を実務用に噛み砕いたものです)。
- 📅 旧価格の公表時期(公表日)と、値下げの時期(値下げ日)を明示する。
- 🕒 比較対照価格(旧価格)は、値下げの3か月以上前に公表された価格で、かつ値下げ前3か月以上「実際に販売のために公表していた」価格である。
- ⏳ 値下げ日から6か月以内に二重価格表示を行う(ただし災害等で物件価値の同一性が失われたら、その時点まで)。
- 🏠 対象は土地(現況有姿分譲地を除く)または建物(共有制リゾートクラブ会員権を除く)。
※上記の「3か月」部分は、地区や改正状況で運用が変わることがあります。たとえば首都圏不動産公正取引協議会の解説では、2022年9月1日施行の新施行規則で、過去価格の公表期間が「3か月以上」から「2か月以上」へ短縮された旨が示されています。
ここで実務的に怖いのは、「公表していた」だけでは足りず、“販売のために公表していた”こと、そして“実際にその価格で販売していたことを資料で示せる”ことまで要請される点です。 価格改定の履歴が社内チャットだけ、ポータルの掲載履歴が残っていない、紙チラシの版が欠けている、といった状態だと、いざ指摘を受けたときに説明が崩れます。
参考リンク(改正により「2か月以上」に短縮された点や、キャッシュバックが不当な二重価格表示になり得る視点が読めます)
首都圏不動産公正取引協議会:二重価格表示(2022年改正のポイント/表示例/注意点)
二重価格表示の違反パターン(賃料・キャッシュバック・割引)
不動産の二重価格表示で事故が多いのは、売買の「旧価格→新価格」だけではありません。実務では、賃貸の広告で“実質家賃”を作るようなキャッシュバックや、条件を曖昧にした割引表示が、二重価格表示(またはそれに類する誤認表示)として問題視されやすいです。
首都圏不動産公正取引協議会の解説では、例えば「家賃10万円、毎月1万円キャッシュバック(2年)」のような見せ方は、実際の家賃が9万円であるのに、10万円という架空の比較対照価格を置いた不当な二重価格表示に該当するおそれが強い、という趣旨で注意喚起されています。 “キャッシュバックだから値引きとは違う”という社内感覚が通りにくい代表例です。
参考)http://arxiv.org/pdf/2401.16942.pdf
また施行規則には、一定条件に適合する相手方に割引をする場合は、その条件を明示して「割引率・割引額・割引後の額」を表示する場合を除き、規約第20条で禁止される不当な二重価格表示に該当する、という整理も置かれています。 つまり、キャンペーン訴求をするなら「誰が」「どの条件で」「いくら」得するのかを、広告上で読者が検証できる粒度まで落とすことが重要です。
二重価格表示の証拠化(資料・社内ルール)と違反リスク低減
二重価格表示の実務は、表現のテクニックより「証拠化の設計」が本体です。施行規則は、要件適合に加えて“当該期間、その価格で販売していたことを資料により客観的に明らかにできる”場合でない限り、不当な二重価格表示とする、という立て付けを取っています。
現場で効くのは、広告審査や指摘対応のために「価格履歴の一次資料」を残す運用です(媒体のスクリーンショット、ポータル掲載開始・終了の記録、チラシPDFの版管理、価格改定の稟議書、物件サイトの更新ログなど)。この整備があると、旧価格の“公表日”や“公表期間”を広告に落とすときも、制作側と法務(または管理部門)が同じ根拠を見ながら確認できます。
さらに意外と盲点なのが「物件の価値の同一性」です。条文上、値下げから6か月以内でも災害等で同一性が失われた場合は、その時点までに限る、という但し書きがあり、価値変動が明らかな局面では“旧価格との比較”が不適切になり得ます。 価格改定の背景(リフォーム実施、境界確定、用途変更、インフラ状況の変化など)があるなら、比較表示よりも「改定理由の説明」を主にした訴求へ切り替える判断も、結果的に安全です。
二重価格表示の独自視点:売主変更(買取再販)と不動産公正競争規約違反の落とし穴
検索上位の一般論だと「旧価格を2か月(3か月)以上公表していればOK」という受け取り方になりがちですが、買取再販のように“売主が変わる”局面は、同じ表示でも説明責任が一段上がります。首都圏不動産公正取引協議会の解説でも、売主が変更され、かつ自社が旧価格で販売していた実績がないケースでは、「前売主から買い取って販売する」旨を併せて表示する必要があるだろう、という趣旨が示されています。
この論点は、現場の運用に置き換えると「旧価格の主体は誰か」という話です。旧価格が“前所有者(前売主)の売出価格”で、自社の販売価格ではないなら、単純に「旧価格→新価格」と書くと、読者が“同一主体が値下げした”と誤認しやすくなります。 そのため、旧価格を出すにしても「旧価格の公表主体」「買取再販であること」「当社が値下げしたわけではない(または当社の価格改定ではない)こと」を広告内の同一視野で説明する、という発想が実務では重要になります。
加えて、買取再販ではリフォームや瑕疵保険の付保、設備更新などで“商品性(価値)の同一性”が揺れやすいのも特徴です。価値が変わったのに旧価格と並べると、比較の前提が崩れ、誤認リスクが高まります。 値下げ訴求をするなら「同一性が保たれているか」「改修で変わったなら比較より説明」を先に検討すると、規約違反の地雷を踏みにくくなります。

