犯罪収益移転防止法 本人確認 義務 特定取引 確認記録

犯罪収益移転防止法 本人確認 義務 特定取引

本人確認義務の全体像(不動産売買)
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対象は「売買」中心

宅建業者の特定取引は「宅地・建物の売買契約の締結/代理/媒介」。賃貸借・交換は原則として対象外。

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義務は4点セット

取引時確認(本人確認)・確認記録の作成保存・取引記録の作成保存・疑わしい取引の届出が基本。

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ハイリスクは厳格化

なりすまし疑い等では、追加書類や実質的支配者の裏取り、一定条件で資産・収入確認まで必要。

犯罪収益移転防止法 本人確認 義務の対象「特定取引」不動産の範囲

 

不動産実務で最初に押さえるべきは、「何の取引で本人確認義務が発生するか」です。宅地建物取引業者は犯罪収益移転防止法上の「特定事業者」に位置付けられ、一定の取引(特定取引)で取引時確認等が義務になります。国土交通省の整理では、宅建業者の特定取引は「宅地又は建物の売買契約の締結又はその代理若しくは媒介」です。

ここで現場で誤解が起きやすいのが、宅建業法の対象=すべて犯収法の対象、ではない点です。国土交通省は明確に、交換や貸借の媒介などは宅建業法の適用があっても、犯収法の適用はないと説明しています。したがって、賃貸仲介の通常案件を犯収法の様式で運用している会社もありますが、「法令上の義務として必須」かどうかは分けて考える必要があります(社内統制として広めにやるのは別問題です)。

また、売買でも「誰を顧客として確認するか」がズレやすいです。媒介であれば売主・買主双方が顧客で、双方の取引時確認が必要という運用に寄りやすい一方、現場では「依頼者(片側)だけ確認している」ケースが残りがちです。犯収法の趣旨は資金移転の追跡可能性を確保する点にあるため、売主・買主いずれの資金・名義にも目を向ける運用が重要になります。

参考リンク(宅建業者の特定取引範囲、交換・貸借が対象外、4つの義務の全体像が整理されています)

建設産業・不動産業:犯罪収益移転防止法の概要 - 国土交通省
国土交通省のウェブサイトです。政策、報道発表資料、統計情報、各種申請手続きに関する情報などを掲載しています。

犯罪収益移転防止法 本人確認 義務の「取引時確認」本人特定事項と確認方法

取引時確認(いわゆる本人確認)は、単に身分証を見るだけではありません。国土交通省資料では、個人なら本人特定事項(氏名・住居・生年月日)に加え、取引目的と職業の確認が必要とされています。法人なら本人特定事項(名称・本店等所在地)に加え、取引目的・事業内容・実質的支配者を確認する整理です。

確認方法は、対面・非対面で分かれ、宅建業者向け資料では「提示のみ法」「提示+送付法」「受理+送付法」といった“分かりやすい呼称”で説明されています。ポイントは、本人確認書類の種類によって、追加の手当て(送付や補完書類)が必要になることです。特に、顔写真のない本人確認書類は、提示だけで完結しない方向へ改正で厳格化されており、現場の「保険証だけで済ませた」運用が事故になりやすい領域です。

さらに実務上の盲点になりやすいのが、代理人・代表者・取引担当者の扱いです。国交省の説明では、実際に特定取引の任に当たる自然人(代理人や法人担当者等)についても本人特定事項の確認が必要とされています。つまり、売主本人が来店せず委任状で親族が来る、法人で担当者が窓口になる、といった一般的なケースほど、確認対象が増えます。

ここを「担当者名刺をもらったからOK」とすると、犯収法の想定から外れます。特に法人取引では、取引担当者が正当な取引権限を有することの確認が論点になり、過去の運用で通っていた手段が改正で使えなくなった点(社員証の扱い等)も国交省資料で注意喚起されています。受付から契約、決済まで関与者が多い不動産取引ほど、誰をどう確認したかを分解して設計するのが安全です。

参考リンク(個人・法人の確認事項、確認方法、顔写真なし書類の追加措置、代表者等の確認、実質的支配者など“細かい落とし穴”まで図表で載っています)

https://www.mlit.go.jp/common/001147570.pdf

犯罪収益移転防止法 本人確認 義務の確認記録と取引記録 7年間保存の実務

本人確認が終わっても、記録が残っていなければ「義務を果たした」と言い切れません。国土交通省の整理では、宅建業者は(1)本人確認記録(確認記録)と(2)取引記録を作成し、いずれも7年間保存することが求められています。ここは監査・行政対応で必ず見られるため、紙・電子のどちらでもよいとしても、検索できる状態にしておくことが肝になります。

確認記録で実務が詰まるのは、「様式の指定がない」点です。つまり会社が自由に作れる一方、網羅していないと穴になります。国交省ページでは、確認記録に記載すべき事項として、本人確認を行った者・作成者、確認方法、顧客の本人特定事項、代表者等の情報と関係、提示を受けた書類の名称・番号、送付日、現住居確認のための補完書類、異名義使用の理由、検索用事項など、かなり具体的に列挙されています。

取引記録も同様で、取引の日付・種類・価額、移転元/移転先の名義、確認記録を検索するための事項などが必要です。特に注意したいのは、国交省が「特定業務」に係る取引では、特定取引に該当しないケース(売買契約に至らない場合など)でも取引記録が必要になり得る、と明示している点です。媒介の現場では、申込み~重要事項説明~契約~決済まで多段階なので、「契約書がないから記録不要」と短絡しないように、社内の“取引の定義”を揃える必要があります。

現場向けの工夫としては、次のように「記録作成のタイミング」と「保管単位」を固定すると事故が減ります。

・確認記録:初回面談(または重説前)で一次作成→契約締結時に更新→決済後に確定(添付漏れを回収)

・取引記録:申込み受領時点で暫定作成→契約・決済で価額や名義を確定

・保管単位:案件台帳番号で統一し、確認記録・取引記録・本人確認書類写し・送付記録(転送不要の控え等)を紐づける

「7年保存」は長く感じますが、不動産はトラブルの尾を引きやすく、後から“いつ誰が何を確認したか”が問われます。だからこそ、作成者・確認者・時刻などの粒度が効いてきます。

犯罪収益移転防止法 本人確認 義務と疑わしい取引の届出 参考事例の使い方

疑わしい取引の届出は、現場が一番ためらいやすい義務です。しかし国交省資料は、疑いが生じた場合は速やかに免許行政庁へ届け出る必要があると明記し、判断にあたっての参考事例も示しています。ポイントは「確定的に犯罪収益だと証明できるか」ではなく、「疑いが生じたか」という実務判断で動く点です。

国交省の参考事例(不動産売買における疑わしい取引)には、例えば次のような観点がまとまっています。

・現金の使用形態:収入・資産に見合わない高額物件を多額現金で購入、短期に複数物件を現金取引

・真の契約者の隠匿:架空名義・借名の疑い、書類への署名拒否、書類ごとに別名使用、法人実体なしの疑い、住所と異なる送付希望

・取引の特異性:短期間で多数売買、購入後すぐ転売、市場価格を大きく下回る売却を急ぐ、物件の状態等に無関心、合理的理由が見出せない

・契約後事情:決済延期の不合理な申し入れ、突然の高額物件への変更

・その他:秘密を不自然に強調、届出をしないよう依頼・強要・買収、反社関連、外部機関から照会・通報

この“例示”が実務で有用なのは、現場の感覚を言語化できることです。たとえば「現金客だから怪しい」といった曖昧さではなく、「収入・資産との不整合」「短期転売」「名義・住所の不自然さ」「書面行為の拒否」といった観点に落とすと、社内の判断が揃います。

運用面では、届出の是非を営業担当の単独判断にしない方が安全です。改正で「体制整備(教育訓練、規程、統括管理者等)」が努力義務として触れられていることも踏まえ、最低限「疑わしい取引レビューの窓口」を設け、判断ログ(なぜ疑わしい/なぜ届出しない)を残すと、後日の説明責任に耐えやすくなります。

犯罪収益移転防止法 本人確認 義務の独自視点: 実質的支配者と取引担当者の権限委任で事故を防ぐ

検索上位の解説は「本人確認書類は何か」「保存期間は7年」といった基本に寄りがちですが、現場で実害が出るのは“法人案件の地味な部分”です。特に、(1)実質的支配者、(2)取引担当者の権限委任(代理権)の2点は、書類が揃っているように見えて、後で崩れやすい領域です。

まず実質的支配者です。国交省資料では、法人顧客では実質的支配者の確認が義務付けられ、改正により「すべての法人に存在する」という考えのもと、代表者等から申告を受ける枠組みが示されています。さらにハイリスク取引では、株主名簿や有価証券報告書等で実質的支配者を確認し、本人特定事項の申告を受けるなど、裏取りが厚くなります。

ここで起きる事故の典型は、「名義は法人だが、資金の出し手や意思決定者が別」「実体の薄いSPCや持分会社を挟む」「海外絡みで構造が複雑」といったケースです。現場での対策としては、申告を“口頭で聞いて終わり”にしないことが重要です。申告内容を確認記録に落とし、案件ごとのリスク(高額現金、短期転売、住所・名義の不自然さ等)とセットで保管しておくと、後から「なぜそう判断したか」を説明しやすくなります。

次に取引担当者の権限委任です。国交省資料では、法人の取引担当者等が正当な取引権限を有していることを確認する必要があるとされ、確認手段の見直し(社員証等が適用されなくなった注意点)も示されています。つまり「名刺+社員証で担当者確認」という旧来の軽い運用に依存していると、いざという時に根拠が弱くなります。

実務の落とし込みとしては、次のように“必要書類の最低ライン”を社内で固定すると運用が安定します(案件のリスクに応じて上乗せする前提)。

・法人:登記事項証明書等で法人の本人特定事項(名称・本店所在地)を確認

・担当者:本人確認書類で本人特定事項を確認(担当者本人の確認)

・権限:委任状、代表権の登記確認、本店等への電話確認など、資料に沿った形で「権限を確認した根拠」を確認記録に残す

・実質的支配者:申告内容を記録し、必要に応じ裏取り資料も添付

不動産取引はスピードが求められますが、犯収法対応は“最初に設計しておけば早くなる”領域です。案件が重なるほど、都度判断ではなく、チェックリスト+記録テンプレート+統括窓口(相談ルート)という構造で、営業負担をむしろ下げられます。


詳説 犯罪収益移転防止法 2025年版: 組織犯罪との戦い