資金供与と暴力団排除と不動産取引

資金供与と暴力団排除

資金供与と暴力団排除:不動産実務の要点
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最初に決める「線引き」

取引を成立させる前に、反社会的勢力を排除する基準(判断材料・社内報告・外部相談)を用意し、担当者の独断を防ぐ。

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契約書の「武器化」

暴力団排除条項を、抑止(牽制)・解除(排除)・違約金(回収)まで一体で運用し、言い逃れの余地を小さくする。

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有事の「段取り」

脅迫・威力・偽計による妨害が出たら、民事と刑事の両輪で対応できるよう、警察・暴追センター・弁護士との連携導線を平時から確保する。

資金供与の禁止と暴力団排除の基本原則

 

不動産取引は「高額で換金性が高い」という性質から、反社会的勢力の資金獲得や資金洗浄(マネー・ローンダリング)に利用されやすい領域です。

国の整理した考え方では、排除の軸として「組織としての対応」「外部専門機関との連携」「取引を含めた一切の関係遮断」「有事における民事と刑事の法的対応」「裏取引や資金提供の禁止」という5つの基本原則を踏まえるべきとされています。

この中で「資金供与の禁止」は、単に現金を渡さないという意味に限られず、結果として相手の活動維持に利益が流れる取引(便宜供与を含む)を“成立させない・継続させない”という運用まで含めて考える必要があります。

現場で誤解が起きやすいのは、「こちらに利益が出る取引だから、資金供与ではないはず」という思い込みです。反社会的勢力が取引当事者に入るだけで、取引利益が資金源になり得るため、「儲かる話ほど危ない」という前提で社内の判断基準を統一します。

参考)https://www.fsa.go.jp/news/25/20140604-1/15.pdf

また、排除は担当者個人の勇気や経験に依存させないことが重要で、経営者を含む組織としての対応に落とし込む必要があります。

✅チェック観点(例)

  • 「条件が良すぎる」現金一括・短期売買など、資金移転・資金洗浄を連想させる形になっていないか。
  • 当事者が不自然に前面に出ない、名義・代理人・法人スキームが過度に複雑ではないか。
  • 断るときの説明文言、社内決裁、外部相談の導線が用意されているか。

資金供与リスクを抑える暴力団排除条項の実務

不動産実務で最も実装しやすい排除策が、契約書に入れる「反社会的勢力排除条項(暴力団排除条項)」の整備と運用です。

警察庁のモデル条項例(売買)では、相手が反社会的勢力でないことの確約(属性要件)だけでなく、脅迫的言動・暴力・偽計・威力による妨害等をしないこと(行為要件)まで確約させる設計になっています。

さらに、確約違反が判明した場合に「催告なく解除できる」約定解除権を置くことで、後から判明したケースでも排除の根拠を持てる点が実務上大きいです。

ここで“意外と効く”のが、名義利用(名義貸し)を明確に排除対象へ入れておくことです。昨今の組織実態の隠ぺい・企業活動の仮装などを踏まえ、モデル条項は「反社会的勢力に名義を利用させて契約しない」旨を確約事項に入れています。

参考)https://www.mlit.go.jp/common/000036775.pdf

つまり、本人が反社会的勢力でないと主張しても、背後関係(名義利用)が疑われる構図なら、条項運用上の“止めどころ”を作れます。

🧾条項を「機能」させるコツ

  • 確約(属性+行為)→解除(催告不要)→違約金(損害賠償額の予定)まで、セットで設計する。
  • 売主・買主の片方だけを想定せず、売主側が反社会的勢力となる場合も想定して双務的にする(資金洗浄対策の観点)。
  • 現場での説明文言を社内で統一し、「条項があるから形式的に入れた」にならないよう運用ルール化する。

参考リンク(売買契約書のモデル条項例と、解除・違約金等の考え方の根拠)。

https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/bouryokudan/boutai9/baibaikaisetsu.pdf

資金供与に直結する「賃貸借」と活動拠点の排除

売買は単発取引になりやすい一方、賃貸借は継続性があるため、いったん入居・使用が始まると関係遮断が難しくなりがちです。

そのため、賃貸借では特に「排除条項の活用徹底」が必要だと整理されています。

また、不動産が反社会的勢力の活動拠点になると、周辺住民の生活への影響や、環境的・心理的な影響による価値毀損など、取引当事者以外にも損害が波及する点が重要です。

警察庁の解説でも、物件が事務所その他の活動拠点に供されることを防ぐ条項を置く趣旨として、周辺住民への危険や価値下落などの影響が挙げられています。

ここは「資金供与」の議論と一見ずれるようで、実務では直結します。活動拠点を提供すること自体が便宜供与にあたり得るため、入居目的・使用実態の確認、違反時の解除導線がないと、結果的に“支える側”に回ってしまうからです。

🏠賃貸借で起きやすい落とし穴

  • 申込時は「普通の法人利用」に見せ、入居後に出入り・看板・来客対応などで実態が変化する。
  • 「更新」「名義変更」「転貸」など、入口以外の手続で活動継続が起きる。
  • 現場担当が“近隣トラブル扱い”に矮小化して、反社会的勢力対応のルートに乗せられない。

参考リンク(不動産取引からの反社会的勢力排除の全体像・賃貸借条項の徹底論点)。

https://www.mlit.go.jp/common/000036775.pdf

資金供与を生まない「情報共有」と外部専門機関

排除条項を入れるだけでは、相手が反社会的勢力かどうかの判断材料が不足し、結果として“断れない取引”が残ります。

国の整理では、反社会的勢力に係る情報は「属性に係る情報」と「不当要求等の行為要件に着目した情報」に大別され、さらに介入事例や対応策のケーススタディ共有も有益だとされています。

また、情報には秘匿性が高いものが多く、誤共有による不利益のリスクもあるため、共有範囲・管理更新・個人情報の取扱いなど運用面の設計が必要とされています。

ここで不動産会社がやりがちな失敗は、「疑わしいから社内だけで抱える」ことです。国の整理でも、警察・暴追センター・弁護士会等の外部専門機関との連携が不可欠で、判断時の情報提供や、現場の恐怖心を克服する効果があるとされています。

つまり“疑わしい段階”で相談できる導線こそが、資金供与を未然に止める装置になります。

📌平時に整える運用(例)

  • 「迷ったら相談」の社内ルール(相談先・相談テンプレ・記録様式)。
  • 担当者を孤立させないエスカレーション(上長・専門部署・経営者が関与)。
  • 事例共有の仕組み(案件の兆候・対応・結果を社内ナレッジ化)。

資金供与と暴力団排除の独自視点:解除後の「現場コスト」設計

検索上位で語られやすいのは「条項を入れよう」「反社チェックしよう」ですが、現場で本当に効くのは、解除に至った後のコストと混乱を最小化する設計です。

警察庁の解説でも、解除権の行使は期間無制限に一律で解すべきでなく、契約後の経過期間や物件状況等を考慮し、弁護士等に相談することが望ましいとされています。

つまり「解除できるか」だけでなく、「解除した後に事業継続できるか(現場負荷・風評・二次被害)」まで含めて設計しないと、担当者は現実的に動けなくなります。

不動産実務では、解除後に発生しがちな“見えないコスト”があります。例えば、近隣対応、管理会社・オーナーとの調整、次の募集への影響、社内稟議の停滞、従業員の安全確保などです。

このコストを見越して、排除対応を「コンプライアンス」ではなく「リスク管理の投資」として、手順・担当・記録・外部連携の型を持つことが、結果的に資金供与(裏取引)へ傾く誘惑を減らします。

🛠️実務の型(例)

  • 解除判断の前提資料:面談記録、相手の説明の変遷、取引の合理性メモ(後から説明できる形)。
  • 解除時の同席ルール:担当者単独での通知・交渉を禁止し、組織対応にする。
  • 二次被害対策:近隣苦情の窓口一本化、現場訪問の複数名対応、外部専門機関への即時相談導線。


マネロン・テロ資金供与リスクと金融機関の実務対応(第2版)