違法とは刑法における構成要件と違法性阻却事由の基本

違法とは刑法

不動産侵奪罪には罰金刑がないため、起訴されれば必ず懲役刑または執行猶予です。

この記事の3つのポイント
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刑法における違法の定義

構成要件該当性と違法性の関係、違法性阻却事由の基本を理解できます

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不動産業務での具体例

不動産侵奪罪や境界損壊罪など実務で注意すべき犯罪類型を解説します

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違法性阻却の条件

正当防衛や緊急避難など例外的に違法でなくなる場合を説明します


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違法とは刑法における定義と意味

 

刑法における「違法」とは、法律で規定する禁止・命令の規定に違反することを指します。単に法律に書かれた行為をしただけでは犯罪は成立しません。犯罪が成立するには、構成要件該当性、違法性、有責性(責任)の3つの要件がすべて揃う必要があります。

参考)犯罪の成立要件 ~「構成要件該当性、違法性、有責性」「違法性…

構成要件とは、刑法などの法律に規定されている犯罪の成立要件のことです。たとえば窃盗罪の場合、刑法235条に「他人の財物を窃取した者」という記載があり、この「他人の財物を窃取した」の部分が構成要件になります。

参考)刑法総論(構成要件)

構成要件に該当する行為があっても、それだけで犯罪が成立するわけではありません。次に違法性の有無を判断し、さらに有責性(責任能力など)を確認して、初めて犯罪が成立します。

刑法における構成要件該当性の判断基準

構成要件該当性の判断では、行為が法律の条文に書かれた要件を満たしているかを確認します。刑法204条の傷害罪であれば「人の身体を傷害した」に当たるかどうかを判断することになります。

参考)刑法総論(違法性)|前田誓也法律事務所│宮城県│仙台市│弁護…

構成要件には客観的要素と主観的要素があります。客観的要素とは、誰が、何を、どのようにしたかという外形的な事実です。主観的要素とは、故意や過失といった行為者の内心の状態を指します。

構成要件に該当したからといって、すぐに違法と判断されるわけではありません。

つまり構成要件該当性は違法の原則です。

違法性阻却事由としての正当防衛と緊急避難

構成要件に該当しても、例外的に違法ではないとされる事由を違法性阻却事由といいます。代表的なものは正当防衛(刑法36条)、緊急避難(刑法37条)、法令行為・正当業務行為(刑法35条)です。

参考)【学ぼう‼刑法】入門編/総論11/違法性阻却事由と違法性の実…

正当防衛は、急迫不正の侵害に対して、自己または他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為です。たとえば暴漢に襲われた際、身を守るために反撃した場合などが該当します。

参考)【いまさら聞けない法令用語】「違法」「不法」「非合法」「脱法…

緊急避難は、現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為で、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に成立します。正当防衛が違法な侵害に対する反撃であるのに対し、緊急避難は違法でない権利侵害行為に対する回避措置という点で異なります。

参考)【学ぼう‼刑法】入門編/総論14/緊急避難/違法性阻却説と責…

違法性阻却事由が認められれば、構成要件に該当する行為をしても犯罪は成立しません。

無罪となります。

不動産侵奪罪における違法性の具体例

不動産業務に関連する犯罪として、不動産侵奪罪があります。これは刑法235条の2に規定されており、他人の不動産を侵奪した者を10年以下の懲役(拘禁刑)に処するとされています。

参考)不動産侵奪罪とは? 罰則内容や成立要件を具体的に解説!|刑事…

「侵奪」とは、不動産に対する他人の占有を排除して、自己または第三者の占有を設定することをいいます。他人の土地に無断で建物を建てる行為が典型例です。

参考)不動産侵奪罪・境界損壊罪|土地に関する刑事事件

不動産侵奪罪には罰金刑の定めがないため、起訴されると良くても執行猶予付きの有罪判決となり、前科がついてしまいます。

逆に不起訴処分になれば前科はつきません。

参考)土地を無断使用して取調べ【不動産侵奪罪】 – 弁護士法人あい…

土地の転貸禁止特約があるにもかかわらず無断転貸が行われ、転借人が容易に撤去できない建物を設置した事例では、転借人に不動産侵奪罪の成立が認められました。不動産従事者は、こうした占有をめぐる問題に注意する必要があります。

不動産業務で注意すべき境界損壊罪と刑事責任

土地トラブルで問題になりやすいのが、刑法262条の2が定める境界損壊罪です。法定刑は5年以下の懲役または50万円以下の罰金です。

参考)不動産侵奪罪とは?構成要件や時効、判例についてわかりやすく解…

境界損壊罪は刑法第40章「毀棄及び隠匿の罪」に置かれています。不動産侵奪罪が窃盗の罪の一形態であるのに対し、境界損壊罪は器物損壊の一種という違いがあります。

不動産侵奪罪の公訴時効は7年です。これは「人を死亡させた罪」以外で「長期15年未満の拘禁刑」にあたるためです。

また、宅地建物取引業法違反も刑事責任を問われる場合があります。免許を保有していない者が業として不動産取引を行えば、宅地建物取引業法第12条第1項違反となります。令和3年の最高裁判例でも、無免許者に報酬を分配する行為は違法だと指摘されています。

参考)違法行為?不動産ブローカーの実態と被害実例を紹介│不動産会社…


<参考リンク>

不動産侵奪罪の詳しい構成要件や判例については、以下のページが参考になります。

不動産侵奪罪とは? 罰則内容や成立要件を具体的に解説!

刑法理論における行為無価値論と結果無価値論

違法性の本質をどう捉えるかについて、刑法学では行為無価値論と結果無価値論という2つの考え方があります。

参考)刑法総論(序)

行為無価値論は、違法性の本質を犯罪の行為に重点を置いて解釈する考え方です。殺人罪であれば、人を殺害するという行為そのものが違法の本質ということになります。

結果無価値論は、違法性の本質を犯罪の結果に重点を置いて解釈します。この考え方によれば、故意・過失という意志的要素は違法性の本質に含まれず責任の問題に過ぎません。

参考)行為無価値論と結果無価値論とは?わかりやすく解説! – Le…

どちらの理論を採用するかによって、同意殺人などの事例で違法性阻却の判断が変わってきます。行為無価値を重視すれば、行為者の動機など諸般の事情を踏まえて判断するため、不当な動機があれば違法性が阻却されません。

最高裁は行為無価値を重視して違法性を判断していると言われています。ただし刑法総論の学説としては結果無価値論も有力です。

不動産従事者が知るべき刑法の違法性判断実務

不動産業務では、さまざまな場面で刑法上の違法性が問題になります。たとえば不動産会社の社員が顧客から預かった金銭を着服した場合、刑法上の業務上横領罪(刑法253条)や窃盗罪(刑法235条)といった犯罪行為に該当します。

参考)不動産会社の社員による不正が発覚した場合の対処法と注意点を解…

違法性の判断では、まず構成要件に該当するかを確認し、次に違法性阻却事由があるかを検討します。どういうことでしょうか?

法令行為や正当業務行為(刑法35条)も違法性阻却事由の一つです。消防隊が消火活動のために家を壊しても建造物損壊罪にならないのは、法令行為として違法性が阻却されるためです。ボクシングの試合で人を殴っても暴行罪にならないのは、正当行為として認められるからです。

ただし、こうした違法性阻却事由は限定的に解釈されます。自力救済を図った事例では、地権者が不法占拠されていた土地のバラック店舗を重機で破壊したところ、建造物損壊罪で起訴されました。これは不動産侵奪罪が作られる契機となった「梅田村事件」です。

不動産取引の現場では、法的リスクを回避するため、契約内容の精査や適法性の確認が欠かせません。疑わしい行為については事前に弁護士に相談することが大切です。

違法性阻却事由の成立要件を正確に理解しておけば、万が一トラブルに巻き込まれた際にも適切な対応ができます。刑法の基本的な知識は、不動産従事者にとって業務上の保険になります。


違法捜査と冤罪—捜査官!その行為は違法です。(第2版)