買換え特約の仕組みと契約解除のリスク

買換え特約の基本と契約解除

買換え特約を使えば手付金を没収されずに契約を白紙解除できます

この記事の3ポイント要約
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買換え特約の性質

旧居が期限内に一定金額以上で売却できない場合、買主が新居の購入契約を違約金なしで白紙解除できる特約です。解除権留保型が主流で停止条件型とは異なります。

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売主承諾の難しさ

売主にとって販売機会損失のリスクがあり、特約期間中は他の買主と契約できません。個人売主では承諾率が極めて低く、法人売主や売却困難物件でのみ可能性があります。

実務での成功条件

専任媒介契約で売却と購入を同一不動産会社に依頼することが重要です。期限は2~3ヶ月、金額条件は明確に設定し、契約書に具体的な解除権の発生条件を明記します。

買換え特約の定義と旧居売却の条件設定

買換え特約とは、不動産の住み替えにおいて買主が旧居の売却代金で新居を購入する際に設定する特約です。この特約では「○年○月○日までに旧居が金○○万円以上で売却できなかった場合、新居の購入契約を白紙解除できる」という内容を売買契約書に明記します。

通常の契約解除では手付金の放棄や違約金の支払いが必要ですが、買換え特約による解除では手付金が全額返還され、違約金も発生しません。

つまり契約がなかったことになります。

期限の設定については新居の引渡し日から2~3ヶ月後に設定するのが一般的です。例えば新居の引渡しが4月1日であれば、6月末までに旧居を売却できなければ契約解除できるという形になります。この期間は売主と買主が合意すれば自由に設定できますが、売主にとっては期間が長いほど販売機会の損失リスクが高まるため、3ヶ月を超える期間設定は承諾を得にくくなります。

金額条件の設定も重要な要素です。「3,000万円以上で売却」のように具体的な金額を明記する必要があります。この金額設定が高すぎると旧居が売れず契約解除になる可能性が高まり、低すぎると買主が損をする可能性があります。不動産会社の査定価格を参考に、市場相場から大きく乖離しない現実的な金額を設定することが成功の鍵です。

全日本不動産協会の「買換えに関する問題点」では、買換え特約の実務上の留意点が詳しく解説されています

買換え特約の解除権と停止条件の違い

買換え特約には「解除権留保型」と「停止条件型」の2種類がありますが、実務では解除権留保型が主流です。両者の違いを理解しておくことは不動産業従事者として必須の知識です。

解除権留保型は、売買契約の効力はすでに発生しているものの、旧居が売れなかった場合に買主が解除権を行使できるという仕組みです。買主が明示的に「解除する」という意思表示をしない限り契約は有効に継続します。期限が来ても自動的に契約が解除されるわけではありません。

一方、停止条件型は「旧居が○○円以上で売却できる」という条件が成就して初めて売買契約の効力が発生する仕組みです。条件が成就しなければ契約は自動的に効力を失います。

買主の意思表示は不要です。

実務で解除権留保型が選ばれる理由は、契約の安定性と柔軟性にあります。停止条件型では条件不成就により自動的に契約が消滅するため、買主が「やはり購入したい」と思っても契約を継続できません。しかし解除権留保型であれば、旧居が売れなくても買主が別の資金調達方法を見つけた場合、解除権を行使せずに契約を継続できます。

売主にとっても解除権留保型の方が契約の予測可能性が高まります。期限到来時に買主の明確な意思表示があるため、その後の対応を判断しやすくなります。

宅建業法上は両方とも問題ありませんが、契約書の文言では「買主は解除できる」という表現を使うのが一般的です。

買換え特約による契約解除と仲介手数料の支払い義務

買換え特約による契約解除が行われた場合、仲介手数料の支払い義務はどうなるのでしょうか。不動産業従事者として顧客に正確に説明できる必要があります。

結論から言えば、買換え特約による白紙解除の場合、買主・売主ともに仲介手数料の支払い義務は原則として発生しません。契約が白紙になるということは、売買契約そのものが最初からなかったことになるため、不動産会社の仲介手数料請求権も消滅します。

これは手付解除や違約解除とは大きく異なる点です。手付解除では買主が手付金を放棄して契約を解除しますが、この場合は売買契約自体は有効に成立していたため、仲介手数料の支払い義務は残ります。

違約解除でも同様に仲介手数料は発生します。

ただし実務では、不動産会社によって対応が分かれるケースもあります。例えば売却活動に相当な労力をかけていた場合、調査費用や広告費用の実費分を請求される可能性があります。また媒介契約書に「特約解除の場合でも一定の費用を請求する」という特約が記載されていれば、その特約に従うことになります。

トラブルを避けるためには、媒介契約締結時に買換え特約を利用する可能性があることを伝え、解除時の費用負担について明確に確認しておくことが重要です。

書面で確認を取っておくとより安心です。

買換え特約の活用を検討する顧客には、この仲介手数料の扱いについても事前に説明しておきましょう。

買換え特約の文言記載例と契約書での注意点

買換え特約を売買契約書に記載する際は、曖昧な表現を避け、具体的な条件を明記する必要があります。

不備があるとトラブルの原因になります。

契約書に記載すべき必須項目は以下の5点です。

📌 買換え対象物件の特定(所在地、面積など具体的に記載)

📌 売却期限(○年○月○日までに売却契約締結)

📌 最低売却金額(金○○万円以上で売却)

📌 解除権の行使期限(所有権移転時期まで)

📌 解除時の金員返還義務(手付金等の全額無利息返還)

具体的な文言例としては以下のようになります。

「買主は、買主所有の東京都○○区○○所在の土地建物(以下「買替物件」という。)の売却代金をもって本物件を購入するものとする。買主は、令和○年○月○日までに買替物件が金○○万円以上で売却する契約が締結できなかったとき、本物件の所有権移転の時期までであればこの契約を解除できるものとする。前項によってこの契約が解除された場合、売主は受領済みの金員全額を無利息で買主に返還するものとする。」

注意すべき点は「売却契約の締結」と「売却代金の受領」を区別することです。売却契約が締結されても、実際に代金が入金されるまでには時間がかかります。買換え資金として確実に使えるのは代金受領後です。そのため「代金受領」を条件とする文言を追加することも検討すべきです。

また「買主の責に帰すことのできない事由により売却できなかった場合」という表現を入れるかどうかも重要です。この表現があると、買主が意図的に売却活動を怠った場合は解除できないという解釈になります。売主保護の観点からこの表現を入れることが推奨されます。

契約書のドラフトは弁護士や司法書士に確認してもらうことをお勧めします。

買換え特約と売主承諾率の現実と対策

買換え特約は買主にとって非常に有利な特約ですが、売主にとってはリスクが大きいため、実務では承諾を得ることが最大の課題となります。特約期間中は他の買主候補と契約できず、期限到来後に白紙解除されれば販売機会を大きく失うことになります。

個人の売主が買換え特約に応じる確率は極めて低いというのが業界の実情です。特に新築物件や人気エリアの物件では、わざわざリスクを取る必要がないため、ほぼ承諾されないと考えるべきです。

承諾を得やすいケースは以下の3つです。

🏢 法人売主の物件 – 不動産会社や建売業者は複数の物件を抱えており、一つの物件にこだわる必要がありません。また事業として割り切った判断ができるため、条件次第で応じる可能性があります。

⏰ 売却に苦戦している物件 – 長期間売れ残っている物件の売主は、買換え特約付きでも買主が現れることを歓迎する場合があります。ただし売れ残りには理由があるため、物件の瑕疵や立地条件を慎重に確認する必要があります。

🤝 専任媒介で売却・購入を一社に依頼 – 不動産会社が売主側と買主側の両方から仲介手数料を得られる「両手取引」になる場合、不動産会社が積極的に売主を説得してくれる可能性が高まります。

承諾率を上げるための具体的な交渉術としては、以下が有効です。まず旧居の査定書や売却活動の証拠資料を提示し「この価格なら確実に売れる」という根拠を示します。次に特約期間を2ヶ月以内に短縮することで、売主のリスクを軽減します。さらに手付金を相場より高めに設定することで、買主の本気度を示すことも効果的です。

それでも承諾が得られない場合は、売り先行方式への切り替えやつなぎ融資の活用など、別の手段を検討する必要があります。