契約不適合責任期間10年の基本構造
引渡し後10年で追完請求できなくなる売主がいます。
契約不適合責任の期間における1年と10年の違い
契約不適合責任には、実は2つの異なる期間制限が存在します。これが不動産業従事者の混乱を招く最大の要因です。
まず1つ目は「通知期間」と呼ばれるもので、買主が契約不適合を知った時から1年以内に売主へ通知しなければ、その後の請求権が失われます。これは民法566条に定められており、不適合の種類や範囲を把握できる程度に具体的な内容を伝える必要があります。たとえば中古マンションの雨漏りを発見した場合、「2階の洋室天井から雨漏りがある」という程度の通知で構いませんが、この通知を怠ると追完請求も損害賠償請求もできなくなります。
つまり通知が基本です。
2つ目は「消滅時効」で、権利を行使できる時から10年間行使しないと時効により権利が消滅します。仮に買主が不適合を知って1年以内に通知を完了していても、その後5年間(不適合を知った時から起算)または10年間(引渡し時から起算)のうちいずれか早い方の期間内に実際の請求をしなければ、権利は時効消滅してしまいます。
この二重構造は実務上、大きな落とし穴です。多くの不動産業者が「10年間は大丈夫」と誤解していますが、実際には「知った時から1年以内の通知」と「その後の時効期間内の請求」の両方をクリアしなければならないのです。
たとえば新築住宅を引き渡して9年後に構造上の欠陥が発覚した場合を考えてみましょう。買主は発覚から1年以内に通知し、かつ引渡しから10年以内に請求しなければなりません。つまり発覚が9年6か月後なら、実質的に請求できる期間は6か月しか残っていないことになります。
BUSINESS LAWYERSの契約不適合責任解説記事では、期間制限と消滅時効の関係について詳しい条文解説が掲載されており、実務での判断基準として参考になります。
売主側としては、この二重構造を理解したうえで、引渡し後の経過年数と買主からの通知の有無を常に把握しておく必要があります。特に9年目以降は、いつ不適合が発見されても即座に対応できる体制を整えておくことが重要です。
契約不適合責任期間10年が適用される新築住宅の範囲
新築住宅については、品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)により、構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分について、引渡しから10年間の契約不適合責任が義務付けられています。
10年が原則です。
構造耐力上主要な部分とは、具体的には基礎、基礎杭、壁、柱、小屋組、土台、斜材(筋かい等)、床版、屋根版、横架材(梁や桁等)といった住宅の骨組みに関わる部分を指します。雨水の浸入を防止する部分には、屋根、外壁、開口部(窓やドアなど)の防水措置が該当します。
この10年責任は強行規定であり、特約で短縮することはできません。契約書に「引渡しから5年間に限る」と記載しても、その条項は無効となり、民法と品確法の規定により10年間の責任を負うことになります。延長は可能で、20年以内であれば当事者間の合意で責任期間を延ばすことができます。
注意すべきは、この10年間の責任は「構造耐力上主要な部分」と「雨水の浸入を防止する部分」に限定される点です。たとえば設備機器の故障、内装の傷、建具の不具合などは品確法の対象外であり、民法の原則に従って「不適合を知った時から1年以内の通知」という期間制限が適用されます。
つまり10年だけ覚えておけばOKです。
実際のトラブル事例として、引渡し後8年目に給湯器が故障したケースでは、買主が「10年保証だから請求できる」と主張しましたが、給湯器は構造耐力上主要な部分でも雨水浸入防止部分でもないため、発覚時点で1年以上前から故障していたことを立証できなければ請求が認められませんでした。
売主業者としては、契約時に「10年保証の対象範囲」を明確に説明し、書面で交付しておくことが紛争予防につながります。構造部分は10年、その他の部分は引渡しから2年(宅建業法の最低期間)など、部位ごとに責任期間を明記した一覧表を作成すると買主の理解も得やすくなります。
住宅瑕疵担保責任保険法人の公式サイトでは、10年保証の対象となる部位の詳細な図解が掲載されており、契約書作成時の参考資料として活用できます。
契約不適合責任で宅建業者が負う最低2年の期間義務
宅建業者が売主となる場合、宅建業法40条により、買主に不利な特約として引渡しから2年未満の責任期間を定めることは禁止されています。この規定に違反する特約は無効となり、結果として民法の原則である「不適合を知った時から1年以内の通知+その後の時効期間」が適用されることになります。
これは使えそうです。
たとえば宅建業者が中古マンションを仕入れて再販する際、契約書に「引渡しから1年間に限り責任を負う」と記載した場合、この条項は宅建業法違反で無効です。買主が引渡しから1年半後に不適合を発見した場合でも、発見から1年以内に通知すれば請求権を保持できます。つまり実質的には、買主は何年経過後に発見しても、そこから1年間は通知の機会があるということです。
実務上よくある誤解は「2年間の責任を負えば十分」という認識です。正しくは「最低2年間」であり、2年より長い期間を設定することは可能です。また、この2年間というのは「通知期間」を引渡しから2年以上とする特約のみが有効という意味であり、消滅時効の10年は別途進行します。
売主業者は必須です。
具体的な数字で示すと、引渡し後1年11か月で買主が不適合を発見し通知した場合、その時点で売主は責任を免れません。しかしもし責任期間を「引渡しから1年」と定めていた場合、その特約は無効となり、買主は発見時から1年以内の通知で権利を保全できます。結果として売主は、当初想定していたよりも長期間にわたって責任を負うリスクを抱えることになります。
この規定は「宅建業者ではない買主」を保護するためのものです。したがって買主も宅建業者である業者間取引の場合には、宅建業法40条は適用されません。業者間取引では、引渡しから1か月や3か月といった短期間の責任期間を定めることも有効です。
売主業者側の対策としては、まず契約書で責任期間を明記する際、必ず「引渡しから2年以上」とすることです。実務上は引渡しから2年間とする例が最も多いですが、競合他社との差別化として3年や5年を設定する業者もあります。
期間内に通知がなければ大丈夫です。
また、2年経過直前には買主に対して「責任期間が間もなく満了する」旨の案内状を送付する業者もあります。これは一見すると買主に請求の機会を与えているようですが、実際には「期間内に請求がなかった」という証拠を残すためのリスク管理手法です。
契約不適合責任における商法の6か月ルール
商人間取引、つまり会社同士の売買契約では、商法526条により民法よりも厳しい期間制限が適用されます。買主は目的物を受領したら「遅滞なく」検査を行い、契約不適合を発見したら「直ちに」売主へ通知しなければなりません。
厳しいところですね。
さらに重要なのは、直ちに発見できない種類または品質に関する不適合については、受領後6か月以内に発見して直ちに通知しなければ、その後の請求ができなくなる点です。民法では「知った時から1年」ですが、商法では「受領後6か月以内の発見」が条件となり、期間が半分に短縮されます。
たとえば不動産業者A社が別の不動産業者B社から収益物件を購入した場合、引渡し後すぐには分からなかった配管の腐食が7か月後に発覚したとします。この場合、商法526条2項後段により、6か月を超えているため原則として請求できません。ただし売主B社が配管の腐食を知りながら告げなかった場合(悪意)には、この期間制限は適用されず請求可能です。
判例(最高裁昭和47年1月25日判決)では、買主が6か月以内に不適合を発見できなかった場合でも、過失なく発見できなかったという事情は考慮されず、6か月経過により権利が失われるとされています。これは除斥期間と解釈されており、時効のように中断や更新はできません。
意外ですね。
実務上の注意点として、商人間取引であるかの判断が重要です。宅建業者は商人に該当しますが、一般個人は商人ではありません。したがって宅建業者同士の取引では商法が適用されますが、宅建業者が一般個人に売却する場合は民法が適用されます。
業者間取引で売主となる場合、契約書に「商法526条の適用を排除し、民法の規定に従う」という特約を入れることも可能です。ただし買主が応じるかは交渉次第であり、一般的には売主側が商法の厳しい期間制限を主張できる立場にあります。
買主として業者間取引で物件を購入する際は、引渡し後速やかに専門家による詳細な調査を実施することが不可欠です。6か月という期間は、たとえば冬季に引き渡された物件の夏季の不具合(冷房関連など)を発見するには極めて短いため、季節を跨ぐ検査計画を立てる必要があります。
この場面の対策として、引渡し時に売主から設備の点検記録や過去の修繕履歴をできるだけ詳細に入手しておくことです。後日不適合が発覚した際、「売主が知りながら告げなかった」事実を立証するための証拠となります。
契約不適合責任で売主が知りながら告げなかった場合の扱い
民法572条は、売主が契約不適合の事実を知りながら買主に告げなかった場合、契約不適合責任を免除または制限する特約の効力を否定しています。つまり契約書で「一切の責任を負わない」と定めていても、売主に悪意があればその条項は無効となり、買主は通常通り追完請求や損害賠償請求ができます。
痛いですね。
たとえば中古戸建の売買で、売主業者が購入時の調査で雨漏りの痕跡を確認していたにもかかわらず、買主には「雨漏りはありません」と説明し、契約書には「現況有姿で引き渡し、売主は一切の責任を負わない」と記載したケースを考えます。引渡し後に買主が雨漏りを発見した場合、売主の悪意が立証されれば免責特約は無効となり、修繕費用の全額を請求される可能性があります。
判例では、売主の「悪意」とは契約不適合の事実を知っていることを指し、重大な過失で知らなかった場合は含まれないとされています。ただし買主側が重過失を主張して免責特約の無効を争うケースもあり、裁判所は個別の事情を総合的に判断しています。
実際の紛争事例として、売主業者が物件の告知書に「シロアリ被害の有無:なし」と記載して売却した後、買主が引渡し3か月後にシロアリ被害を発見したケースがあります。調査の結果、被害は数年前から進行しており、売主が仕入れ時に実施したインスペクションの報告書にも「床下にシロアリの蟻道あり」と記載されていました。この場合、売主は明らかに被害を認識していたにもかかわらず虚偽の告知をしたため、免責特約は無効となり約800万円の駆除費用と補修費用を負担することになりました。
それで大丈夫でしょうか?
売主業者としての実務上の対応は、まず物件の状況について知り得た情報をすべて買主に開示することです。「告知すれば売れなくなる」と考えて隠蔽すると、後で発覚した際の責任がより重くなります。告知した上で価格を調整するか、売主負担で事前に修繕するかを検討するのが賢明です。
また、仲介業者も注意が必要です。売主から物件状況について情報を得ている場合、その内容を正確に買主へ伝える義務があります。売主の意向で隠蔽に加担すれば、仲介業者自身も損害賠償責任を負うリスクがあります。
告知書作成時には、「不明」という選択肢も用意しておくことです。確信が持てない事項について「なし」と断言するよりも、「詳細不明のため専門家による調査を推奨」と記載する方が後のトラブルを防げます。
この情報を得た売主側が安全に取引を進めるには、引渡し前に既存住宅状況調査(インスペクション)を実施し、その結果を買主に提示することです。国土交通省の既存住宅状況調査技術者による調査であれば、客観的な証拠として買主の信頼も得やすくなります。調査費用は5万円から15万円程度ですが、後で数百万円の賠償を請求されるリスクと比較すれば十分に合理的な投資です。
不動産流通推進センターの既存住宅状況調査の解説ページでは、調査項目や費用の目安、技術者の検索方法が紹介されており、実務での活用方法を確認できます。

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