洪水浸水想定区域と浸水想定区域の違い
区域外でも説明しないと宅建業法違反で業務停止になります。
洪水浸水想定区域と他の浸水想定区域の基本的な違い
浸水想定区域という言葉は、水防法に基づいて指定される水害リスクのある区域の総称です。この中には洪水浸水想定区域、雨水出水浸水想定区域、高潮浸水想定区域という3種類が含まれており、それぞれ異なる水害の原因に対応しています。
洪水浸水想定区域とは、河川が氾濫した場合に浸水が想定される区域のことです。国土交通大臣または都道府県知事が、想定し得る最大規模の降雨によって河川が氾濫した場合の浸水範囲や浸水深を指定します。対象となるのは洪水予報河川や水位周知河川として指定された、流域面積が大きく重要な河川です。
つまり外水氾濫が原因です。
一方、雨水出水浸水想定区域(内水浸水想定区域)は、大雨などによって下水道や水路の排水能力を超えた場合に浸水が想定される区域を指します。河川から溢れるのではなく、地表の水の増加に排水が追いつかない状態、いわゆる内水氾濫によるものです。都市部では下水道整備が進んでいても、想定を超える豪雨では内水氾濫のリスクが高まります。
高潮浸水想定区域は、台風などによる海面上昇で海水が陸地に浸入する高潮によって浸水が想定される区域です。沿岸部の自治体で指定されており、想定最大規模の高潮を前提として作成されます。
国土交通省の洪水浸水想定区域図のページでは、各地域の洪水浸水想定区域図が公表されており、浸水深や浸水継続時間などの詳細情報を確認できます。
洪水浸水想定区域におけるL1とL2の違い
洪水浸水想定区域図には、降雨の規模によってL1(計画規模)とL2(想定最大規模)という2つのパターンがあります。この違いを理解することは、不動産業従事者にとって顧客への正確な説明に不可欠な知識です。
L1(計画規模)とは、河川整備において基本となる降雨を想定したものです。発生確率は概ね30年から100年に1回程度とされています。河川の洪水防御計画の基本となる降雨規模であり、堤防などの河川整備はこのL1の降雨を想定して行われています。
比較的発生頻度が高いですね。
L2(想定最大規模)とは、想定し得る最大規模の降雨を想定したもので、発生確率は1000年に1回程度とされています。2015年の水防法改正により、従来のL1に加えてL2での浸水想定区域図の作成が義務付けられました。これは関東・東北豪雨などの甚大な水害を受けて、より厳しい想定での避難計画が必要とされたためです。
L2の降雨は、その河川だけでなく近隣の河川における過去最大の降雨データも考慮に入れています。日本を降雨の特性が似ている15の地域に分け、それぞれの地域で過去に観測された最大降雨量を基に設定されているのです。
たとえば東京都の神田川では、L1で浸水深0.5m未満だった地域が、L2では2m以上の浸水深になるケースもあります。これは概ねマンション1階の天井まで水没する深さに相当します。
不動産取引では、顧客にこの2つの違いを説明し、特にL2の想定最大規模での浸水リスクを認識してもらうことが重要です。
リスク管理Naviの計画規模と想定最大規模の解説では、企業のBCP対策としての活用方法も紹介されており、不動産購入者への説明材料としても有用です。
洪水浸水想定区域内での家屋倒壊等氾濫想定区域の意味
洪水浸水想定区域の中でも、特に危険度が高いのが家屋倒壊等氾濫想定区域です。2015年の関東・東北豪雨で堤防決壊により家屋が倒壊・流失する被害が多発したことを受けて、新たに公表されるようになりました。
家屋倒壊等氾濫想定区域は2つのタイプがあります。1つ目は氾濫流による家屋倒壊等氾濫想定区域で、堤防が決壊した際の激しい水の流れによって木造家屋が倒壊・流失する危険性が高い区域です。堤防沿いの地域で、決壊地点から数百メートルの範囲が該当することが多くなっています。
2つ目は河岸侵食による家屋倒壊等氾濫想定区域です。洪水の流れによって河岸が削り取られ、家屋の基礎ごと崩落する危険性がある区域を指します。河川の外側のカーブ部分など、水流が強く当たる場所で指定されることが一般的です。
この区域が危険な理由は明確です。
家屋倒壊等氾濫想定区域では、建物内に留まっていると命の危険があるため、早期の立退き避難が必須とされています。浸水深が浅くても家屋が倒壊する可能性があるため、通常の浸水想定区域とは対応が大きく異なるのです。
不動産取引では、物件が家屋倒壊等氾濫想定区域に含まれているかどうかを必ず確認する必要があります。該当する場合は、購入者に対して建物の構造的な危険性や早期避難の必要性を明確に説明しなければなりません。自治体によっては、この区域を居住誘導区域から除外している場合もあり、将来的な不動産価値への影響も考慮すべき要素です。
イクラ不動産の浸水想定区域の解説記事では、家屋倒壊等氾濫想定区域について図解付きで詳しく説明されており、顧客説明の参考資料として活用できます。
洪水浸水想定区域の不動産取引における重要事項説明の義務
2020年8月28日に宅地建物取引業法施行規則が改正され、水害ハザードマップにおける対象物件の所在地の説明が重要事項説明の義務項目として追加されました。この改正により、不動産業従事者の責任範囲が大きく拡大しています。
説明義務の対象となるのは、水防法第15条第3項に基づいて市町村が作成した水害ハザードマップです。具体的には洪水ハザードマップ、雨水出水(内水)ハザードマップ、高潮ハザードマップの3種類が該当します。
重要なポイントがあります。
対象物件が浸水想定区域の外にあっても、ハザードマップ上に表示されている場合は位置を示して説明する義務があります。これは多くの不動産業者が見落としがちな点です。区域外だからといって説明を省略すると、宅建業法違反として業務停止処分を受けるリスクがあります。
説明の方法としては、ハザードマップを提示し、対象物件の位置に印をつけるなどして視覚的に示すことが求められます。口頭での説明だけでは不十分とされており、書面での記録も必要です。賃貸借契約でも売買契約と同様に説明義務があるため、賃貸仲介でも注意が必要になります。
また、浸水想定区域外であることをもって水害リスクがないと相手方が誤認することのないよう配慮することも求められています。「区域外ですので安全です」という説明は不適切であり、想定を超える降雨や他の要因による浸水の可能性についても言及すべきです。
説明義務違反に対する罰則は厳しいです。宅建業法47条1号に基づき、故意に重要な事項を告げなかった場合、業務停止処分の対象となります。さらに悪質な場合は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される可能性もあります。
LIFULL HOME’Sビジネスの水害ハザードマップ説明のポイント解説では、実務での説明手順や注意事項が詳しく紹介されており、実践的な参考資料として有用です。
洪水浸水想定区域が不動産価値に与える影響と対策
洪水浸水想定区域に指定されると不動産価値が下がる可能性があることは、不動産業従事者として顧客に正直に伝えるべき事実です。ただし、その影響の程度は複数の要因によって変わってきます。
居住誘導区域との関係が大きな影響を持ちます。国のコンパクトシティ政策により、各自治体は居住を誘導すべき区域を設定しています。浸水深が2m以上の洪水浸水想定区域や家屋倒壊等氾濫想定区域は、原則として居住誘導区域に含まれないこととされているのです。
これが意味することは深刻です。
居住誘導区域外になると、行政サービスや都市機能の維持が将来的に縮小される可能性があります。結果として、区域内の不動産は価値を維持する一方、区域外の不動産は中長期的に価格が下落するリスクを抱えることになります。人口減少が進む地方都市では、この傾向がより顕著になる見込みです。
過去の浸水実績の有無も価格に大きく影響します。洪水浸水想定区域に指定されているだけであれば、地域全体が同じ条件のため特定の物件だけが不利になるわけではありません。しかし実際に床上浸水などの被害を受けた物件は、想定が現実になったことで買い手が敬遠し、相場より1割から2割程度価格が下がることもあります。
対策としては、水害保険の加入や防水対策の実施を提案できます。物件の1階部分に居室を設けない設計、電気設備を高所に配置するなどの工夫も有効です。また、浸水想定区域内でも高台にある物件や、堤防強化などの治水対策が進んでいる地域であることをアピールポイントとして説明することも可能です。
新築や大規模リフォームを行う場合は、想定浸水深以上の高さに居住空間を設ける提案も検討に値します。たとえば浸水深2mの想定がある地域では、1階を駐車場やピロティにし、2階以上を居住空間とする設計です。
顧客への説明では、リスクを正直に伝えた上で、具体的な対策や保険でカバーできる範囲を示すことが信頼関係の構築につながります。
エルホームの浸水想定区域の売却価格への影響解説では、実際の取引事例を踏まえた価格への影響度合いが紹介されており、顧客との相談時の参考になります。