旧耐震基準マンション建て替え費用と合意形成
旧耐震マンション建て替えは実現率わずか1%未満です。
旧耐震基準マンションの定義と該当物件数
旧耐震基準とは1981年5月31日以前に建築確認を受けた建物に適用される耐震基準のことです。この基準では震度5強程度の地震に耐えられることを目標としていましたが、震度6以上の大規模地震については明確な規定がありませんでした。
現在、全国に存在する旧耐震基準のマンションは約100万戸以上と推測されています。国土交通省の発表によれば、2024年4月時点でマンション建て替えが実現したのは累計297件、約24000戸のみです。仮に建て替えられたマンションがすべて旧耐震マンションだとしても、その実現率は1%未満という驚くほど少ない水準にとどまっています。
不動産業従事者として把握しておくべきは、工期を考慮すると1983年以前に竣工したマンションも旧耐震基準で建築されている可能性があるという点です。建築確認の日付と竣工日にはタイムラグがあるため、築年数だけで判断せず建築確認済証の日付を確認することが重要となります。
旧耐震基準のマンションは、新耐震基準と比較して耐震性能が劣る可能性が高く、大地震発生時の倒壊リスクが懸念されます。これは居住者の安全性に直結する問題であり、資産価値にも大きな影響を与える要素です。
旧耐震マンション建て替え時の1戸あたり費用負担の実態
建て替えを実施する場合、区分所有者は原則として自己負担で費用を拠出する必要があります。建て替え時の1戸あたりの自己負担額は、一般的に1000万円から3000万円程度が相場とされています。ただしこれはあくまで目安であり、マンションの立地・規模・仕様・行政条件により大きく変動します。
具体的な費用の内訳として、解体費用、設計費用、建築工事費用、各種申請・許認可取得費用、コンサルタント費用、予備費などが含まれます。さらに居住者個人が負担する一時的費用として、建設期間中の仮住まい費用、引っ越し費用(往復2回分)も発生します。
首都圏のマンション建て替え事例では、1戸あたり1000万円が相場とされていますが、都心部の高額物件では数千万円から億単位の持ち出しが必要になるケースも存在します。東京都内の市場価格が高額なエリアでも、工事費の高騰により負担金ゼロで建て替えが実施できるケースはほとんどありません。
不動産業従事者としては、顧客が旧耐震マンションの購入や売却を検討する際に、将来的な建て替え費用の可能性について適切に説明する必要があります。特に高齢者や年金受給者にとって、数千万円規模の費用負担は現実的に困難な場合が多いという実情を理解しておくことが重要です。
建て替え決議に必要な5分の4の合意と2026年法改正の影響
マンションの建て替えを実施するには、原則として区分所有者および議決権の各5分の4以上の賛成決議が必要です。つまり100戸のマンションなら80戸以上の賛成が求められます。逆に考えると、21戸以上が反対すれば建て替えは実現しないということです。
この高いハードルが建て替えが進まない大きな要因となっています。マンションには投資目的で資産価値を高めたい若い世代、現在の住まいを終の棲家としたい高齢者など、利害の異なる区分所有者が混在しており、合意形成が極めて難しいのが実情です。
しかし2026年4月1日に施行される改正区分所有法により、状況が変わる可能性があります。改正法では、耐震性不足などの客観的事由に該当する場合に限り、建て替え決議の要件が4分の3(75%)以上に緩和されます。条件としては、現行のマンション建替円滑化法における要除却認定の基準に相当する5項目、具体的には耐震性不足、外壁等の剥落危険性、バリアフリー基準への不適合などが認められる場合です。
不動産業従事者にとって重要なのは、この改正により旧耐震マンションの建て替えが促進される可能性がある一方で、居住者が安易な賛成で住まいを失うリスクも高まるという点です。建て替え決議に反対した区分所有者に対しては、建替組合が売渡請求権を行使できるため、最終的には時価での買取を受け入れざるを得なくなります。
旧耐震マンション売却時の重要事項説明と告知義務
不動産業従事者が旧耐震基準のマンション売却を仲介する際には、宅地建物取引業法に基づく重要事項説明における注意が必要です。宅建業者は、昭和56年5月31日以前に建築確認を受けた建物について、耐震診断がある場合にはその内容を必ず説明しなければなりません。
重要事項説明を充実させることは、売買契約後のトラブルを防ぐために極めて重要です。説明が不十分であると、買主から契約不適合責任を問われ、契約解除や損害賠償を求められる可能性があります。旧耐震であることを必ず告知し、契約不適合責任の範囲を契約書に明確に記載しておくことが不可欠です。
売主からの告知書により耐震性に問題があるなどの情報を取得した場合には、重要事項説明書に記載して説明する義務があります。たとえ耐震診断が実施されていない場合でも、旧耐震基準であること自体が買主の判断に重大な影響を与える事実であるため、適切に説明する必要があります。
マンションで建て替えの検討が始まっている場合や建て替え決議が行われた場合も、買主の判断に影響する重要な情報です。売主側の不動産業者としては、建て替えに関する全ての情報を正確に把握し、適切な重要事項説明書を作成して買主に説明することが求められます。説明義務を怠ると宅建業法違反となり、行政処分の対象となるリスクがあります。
建て替え反対者への売渡請求権と立ち退きの実務
建て替え決議が成立した後、建て替えに参加しない区分所有者に対しては、参加者側が売渡請求権を行使することができます。これは建替組合が不参加者に対して、区分所有権および敷地利用権を時価で売り渡すよう請求する権利です。
売渡請求権の重要な特徴は、これが形成権であるという点です。形成権とは一方的に法律関係を変動させる権利であり、売渡請求を受けた所有者は拒否することができません。建替組合が売渡請求権を行使した場合、自動的に売買契約が成立し、不参加者は立ち退かざるを得なくなります。ただし、売渡金額については争うことが可能です。
不動産業従事者として理解しておくべきは、この仕組みにより建て替えに反対する区分所有者も最終的には権利を失うという点です。建て替え決議に賛成しても反対しても、最終的には建て替えに応じなければならない状況に追い込まれる可能性があります。賛成した場合は建て替え手続きに協力する義務が生じ、協力しなければ組合からの損害賠償請求の対象になります。
売渡請求を受けた区分所有者は、従前資産評価額に基づく転出補償金を受け取り立ち退くことになります。転出補償金は権利変換の認可後に建替組合より支払われますが、この金額が必ずしも市場価格と一致するとは限りません。特に築古物件では、評価額が低く設定される可能性があり、新たな住まいを確保するには不十分な場合もあります。
不動産業従事者は、旧耐震マンションの売買仲介において、将来的に建て替え決議が行われた場合のリスクについても顧客に説明することが望ましいでしょう。特に投資用として購入する場合や、長期居住を予定している高齢者には、売渡請求権の存在と立ち退きの可能性について十分に理解してもらう必要があります。
容積率余剰と補助金活用による費用負担軽減策
旧耐震マンションの建て替え費用負担を軽減する方法として、容積率の余剰を活用した収益充当と、公的補助金・融資制度の活用があります。これらを組み合わせることで、区分所有者の自己負担額を大幅に削減できる可能性があります。
容積率に余剰がある場合、建て替え後のマンションで床面積を増やし、その増加分をデベロッパーに売却することで建て替え事業費に充当できます。売却できる床面積が多いほど、自己負担額を抑えた建て替えが可能です。容積率は行政により地域ごとに決められていますが、耐震性不足などの一定の理由が認められた場合には、容積率緩和の特例を受けられる場合があります。
また、もともと広い敷地に小さい容積のマンションが建っている場合には、建て替えにより容積を最大限に増やすことが可能です。建て替えに参加せずに転出する住戸が多い場合も、売却できる床面積が増えます。都心部の駅近物件など立地条件が良いマンションほど、この手法による費用軽減効果が大きくなります。
公的支援制度としては、住宅金融支援機構による建替組合に対する事業費融資、各地方自治体の補助金制度があります。日本政策金融公庫や各自治体では、長期事業資金として事業費に充てる費用の融資制度を設けています。負担金の捻出が困難な高齢者に対しては、返済負担を軽減する高齢者向け返済特例などの制度もあります。
東京都では建て替えを行うマンションの居住者に都営住宅を仮住居として提供する制度があり、各区分所有者が負担する一時費用が軽減されます。適用条件や上限、申請時期などは行政・制度により異なるため、早期に情報収集し、採択可能性を精査することが重要です。
不動産業従事者としては、これらの費用軽減策について基本的な知識を持ち、必要に応じて専門家への相談を勧められるようにしておくことが望ましいでしょう。特に建て替え検討段階のマンション管理組合からの相談を受けた際には、こうした選択肢があることを提示できると、顧客の信頼を得ることにつながります。
国土交通省のマンション建替え円滑化法に関する情報(補助制度や要除却認定の基準について詳細が記載されています)
住宅金融支援機構のマンション建て替え融資制度(建替組合向けの長期事業資金融資の詳細が確認できます)