耐震改修補助金と国土交通省の支援制度

耐震改修補助金と国土交通省の支援

契約後の補助金申請は全額対象外です。

この記事の3つのポイント
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補助金の基本構造

国土交通省の制度は国と地方自治体が協力して支援。住宅は最大175万円、建築物は補助率2/3まで補助対象となる仕組みを解説

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申請タイミングの重要性

工事契約前の事前申請が必須条件。契約後の申請は対象外となり数十万円から100万円以上の損失リスクが発生する

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所得制限と税制優遇

課税所得507万円未満の制限がある自治体も多数。固定資産税の2年間半額減額や所得税控除など複数の優遇措置を併用可能

耐震改修補助金の基本制度と国の支援内容

 

国土交通省が推進する耐震改修補助金は、住宅・建築物の耐震化を進めるために国と地方自治体が協力して実施する支援制度です。令和7年度の予算では、社会資本整備総合交付金と防災・安全交付金を活用した「住宅・建築物安全ストック形成事業」が基幹事業として位置づけられています。

住宅に対する補助では、耐震診断で国と地方が合わせて3分の2を補助します。民間が実施する場合は同じく3分の2の補助率です。補強設計と耐震改修については、密集市街地等では定額で最大175万円、多雪区域では140万円、その他の地域では115万円が交付されます。

建築物については、多数の者が利用する1,000平方メートル以上の百貨店等を対象に、民間建築物は国と地方で23%の補助率が適用されます。避難所等の防災拠点となる建築物は、民間建築物で国と地方合わせて3分の2の補助が受けられるのが特徴です。

また「住宅・建築物防災力緊急促進事業」として、令和7年度末までの期限付きで国費110億円の予算が組まれています。改正耐震改修促進法により耐震診断が義務付けられた建築物に対し、重点的・緊急的に支援を実施中です。要緊急安全確認大規模建築物(ホテル・旅館、デパート等)では、補強設計で2分の1、耐震改修で3分の1の補助が出ます。

国土交通省の令和7年度耐震改修支援策PDFでは、補助率や限度額の詳細が確認できます

不動産業従事者として顧客に説明する際、国の制度と自治体の制度が重層的に設計されている点を理解しておく必要があります。国の補助金が直接個人に交付されるのではなく、自治体を通じて交付される仕組みです。そのため自治体ごとに上乗せや独自の条件が設定されているケースが多く見られます。

耐震改修補助金の対象となる建築物と条件

補助金の対象となる建築物は、ほとんどの自治体で「昭和56年5月31日以前に建築確認を受けた建築物」が基本条件となっています。

つまり旧耐震基準で建てられた建築物です。

木造住宅の場合、一戸建て、長屋、共同住宅が対象ですが、多くの自治体では地階を除く地上階数が2階建て以下に限定されています。3階建て以上の住宅は特殊な耐震工事や構造計算が必要となるため、補助金の対象外となることが一般的です。

所有者の条件として、市税の滞納がないことが必須要件です。加えて課税所得金額の制限を設けている自治体も多数あります。枚方市や八尾市など大阪府内の複数自治体では、課税総所得金額が507万円未満という基準を設定しています。この所得制限は年金収入を所得に含まないため、高齢者世帯では比較的クリアしやすい条件です。

意外な点として、新耐震基準の建築物でも補助対象になるケースがあります。大阪市は2009年度から、新耐震基準に基づいた住宅でも2000年5月以前の木造住宅については改修工事の補助対象としています。千葉、和歌山、徳島、熊本各県を中心に約200の自治体が、1981年から2000年までに建てられた物件を補助対象としているのです。

読売新聞の報道では、自治体間で対象基準が大きく異なる実態が指摘されています

建築物の種類によっても条件が異なります。マンションの場合は国と地方で3分の1の補助率が適用され、住宅とは異なる枠組みになっています。避難路沿道の建築物や防災拠点建築物は、耐震診断が義務付けられている場合、より手厚い補助が受けられる仕組みです。

不動産業従事者が顧客に物件を紹介する際、築年数だけでなく建築確認の日付を正確に確認することが重要です。昭和56年5月31日という基準日の前後で、補助金の適用可否が決まります。

耐震改修補助金の申請タイミングと手続きの注意点

補助金申請で最も重要なのが「工事契約前の事前申請」という原則です。多くの自治体で、補助金交付決定前に工事契約を締結した場合、補助対象外になると明記されています。

新座市の事例では、助成要件から外れてしまうため必ず認定の連絡後に事業者と契約するよう注意喚起しています。足立区では「全て契約をする前に申請(事前申請)をして下さい。契約後の申請は助成対象外になります」と明確に記載されています。羽曳野市も「耐震改修工事を先に着手(契約)されますと補助対象にはなりません」と警告しています。

福岡市では「工事請負契約は、福岡市からの補助金交付決定通知後に行ってください。通知前に契約した場合や工事を開始、完了した場合は、補助の対象とならない」としており、2026年2月3日時点で情報が更新されています。

申請の流れとしては、まず自治体の窓口で事前相談を行います。その後、耐震診断を実施し、診断結果に基づいて補助金の交付申請を提出します。交付決定通知を受け取ってから初めて、施工業者と工事契約を締結できるのです。

工事完了後は、完了報告書と関係書類を自治体に提出し、検査を受けます。検査に合格すれば、補助金が交付される流れです。一部の自治体では「代理受領制度」を採用しており、施工業者が直接補助金を受け取ることで、申請者の初期負担を軽減できます。

福岡市の木造戸建住宅耐震化支援ページでは、契約タイミングの注意点が詳しく説明されています

施工業者の選定にも注意が必要です。自治体によっては、専用の登録制度で登録された建築士や事業者に工事を依頼しないと制度が利用できない場合があります。市区町村内に営業所があることを条件とする自治体や、補助金対応に慣れた登録事業者リストから選定することを推奨する自治体もあります。

不動産業従事者として顧客に中古物件を紹介する際、耐震改修の補助金制度を活用する予定がある場合は、必ず「契約前申請」の原則を説明しておく必要があります。これを怠ると、顧客が数十万円から100万円以上の補助金を受け取れなくなるリスクがあります。

耐震改修補助金と併用できる税制優遇措置

耐震改修を実施した場合、補助金に加えて複数の税制優遇措置を併用できます。所得税と固定資産税の両面で優遇が受けられるのが特徴です。

所得税については、令和7年12月までの期限付きで「住宅耐震改修特別控除」が適用されます。耐震改修工事に係る標準的な工事費用相当額の10%等を所得税から控除できる制度です。控除対象となる工事費用には250万円という上限額が設けられており、最大で25万円が所得税から直接差し引かれます。

この控除を受けるためには、合計所得金額が2,000万円以下であることが条件です。補助金を適用している場合、補助金額を除いた自己負担分が控除の対象となります。

固定資産税については、令和8年3月までに耐震改修を行った場合、翌年度分の固定資産税が2分の1に減額されます。昭和57年1月1日以前から所在する家屋に対し、現行の耐震基準に適合する耐震改修工事を行った場合が対象です。

減額の対象となるのは、住宅の120平方メートルに相当する部分までです。通常は1年間の減額ですが、特に重要な避難路として自治体が指定する道路の沿道にある住宅では2年間2分の1に減額されます。

耐震診断義務付け対象の建築物で、政府の補助を受けて耐震改修を行った場合も、固定資産税が2年間2分の1に減額される措置があります。これはホテル・旅館、病院、百貨店などの大規模建築物が該当します。

国土交通省の耐震改修に係る固定資産税減額措置PDFでは、適用条件と手続きが詳しく記載されています

住宅金融支援機構による融資制度も利用可能です。個人向けには、融資限度額1,500万円で償還期間10年以内1.30%、11年から20年以内1.67%の金利(令和7年4月1日現在)でリフォーム融資が受けられます。

高齢者向けには「リ・バース60」という制度があります。融資限度額は1,000万円で、70歳以上で申し込む場合は無利子化されます。60歳代で申し込む場合も金利低減措置があり、返済方法は利用者の死亡時に物件売却等で返済する仕組みです。

令和7年度から開始された「リ・バース60耐震改修利子補給制度」では、地方公共団体の耐震改修補助金を利用する方が対象となります。住宅金融支援機構が利子補給することで、70歳以上の方は月々の支払いがゼロで耐震改修融資を利用できるのです。利子補給の対象となる借入金利は3.3%が上限とされています。

不動産業従事者として、これらの制度を組み合わせることで顧客の実質負担を大幅に軽減できることを説明できれば、物件の成約率向上につながります。特に高齢の売主や買主に対しては、リ・バース60の制度を紹介することで、資金面のハードルを下げられます。

不動産業従事者が知っておくべき顧客対応のポイント

不動産業従事者として顧客に耐震改修補助金を説明する際、いくつかの重要なポイントがあります。まず理解しておくべきは、自治体によって制度内容が大きく異なるという点です。

補助金額の上乗せ制度がある自治体では、所得制限がより厳しく設定されているケースがあります。枚方市の例では、課税総所得金額が507万円未満の場合は上限40万円、世帯全員の年間所得合計が256万8千円以下の場合は上限60万円と、所得によって補助額が変わります。

旧耐震基準の賃貸物件を仲介する際には、重要事項説明で耐震診断の結果を伝えることが義務付けられています。旧耐震基準で建てられている集合住宅の場合、この説明義務を怠ると宅建業法違反となるリスクがあります。耐震診断や耐震補強を行って建物の安全性を確保することは、入居者の命や財産を守ることにつながるため、オーナーへの提案も重要です。

中古住宅の売買仲介では、買主が耐震改修の補助制度を利用したい場合の手続きサポートが差別化要因になります。多くの場合、耐震診断や耐震改修工事にかかる費用の一部を自治体が補助する制度となっています。ただし申請時期や所有者の要件など、細かな条件が設定されているため、事前に自治体の担当窓口に確認することが必須です。

耐震基準適合証明書の取得支援も重要なサービスです。売主が申請する必要があり、買主が申請できないという制約があります。これは租税法による規定であり、減税は住宅耐震化へのインセンティブという政策目的があるためです。この点を理解せず、買主が自分で申請できると誤解したまま契約すると、後でトラブルになります。

適合証明に関する解説ページでは、なぜ売主申請が原則なのか詳しく説明されています

補助金対応に慣れた施工業者の紹介も付加価値の高いサービスです。制度によっては専用の登録制度で登録された事業者に工事を依頼しないと制度が利用できない場合があります。リフォーム事業者を選択する段階で、補助金申請の実績がある業者かどうかを確認しておくことで、顧客の手続き負担を大幅に軽減できます。

物件調査の段階で、建築確認日を正確に把握することも重要です。昭和56年5月31日という基準日は覚えておくべきですが、2000年5月という日付も重要になってきています。一部の自治体では、新耐震基準でも2000年5月以前の木造住宅を補助対象としているからです。

顧客への説明では「補助金がもらえる可能性がある」という曖昧な表現ではなく、具体的な自治体名と制度名、補助金額の目安を示すことが信頼につながります。「この物件は昭和55年築なので、○○市の木造住宅耐震改修補助制度が使えます。

上限70万円の補助が出る可能性があります。

ただし所得制限などの条件があるので、詳細は市の建築指導課に確認しましょう」といった具体的な説明が理想的です。

契約のタイミングについても明確に説明する必要があります。「補助金を使う予定なら、必ず工事契約の前に市役所で交付決定を受けてください。先に契約すると補助対象外になります」と明示的に伝えることで、後のトラブルを防げます。

不動産業従事者として、これらの知識を持っていることで、顧客に対して付加価値の高い提案ができるようになります。特に築古物件の仲介では、耐震改修補助金の活用提案が成約の決め手になることも多いのです。


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