仮登記抹消の単独申請方法と必要書類
仮登記名義人は登記識別情報がなくても利害関係人として仮登記を抹消できます。
仮登記抹消における単独申請の法的根拠
不動産登記の抹消手続きは、通常であれば登記権利者と登記義務者の共同申請が原則です。しかし仮登記の抹消については、不動産登記法110条により特別な取り扱いが定められています。これは仮登記が仮定的・暫定的な性格を持つことから、その抹消手続きについても簡易な方法が認められているためです。
共同申請が原則ですね。
仮登記の抹消における単独申請は、2つのパターンで認められています。第一に、仮登記名義人自身が単独で申請できるケース(不動産登記法110条前段)です。これは仮登記名義人が「もうこの仮登記は不要だ」と判断した場合に、相手方の協力を得ることなく抹消できる制度です。たとえば売買予約に基づく所有権移転請求権の仮登記を設定したものの、契約が白紙撤回された場合などが該当します。
第二に、登記上の利害関係人が仮登記名義人の承諾を得て単独で申請できるケース(不動産登記法110条後段)です。この利害関係人には、現在の所有権登記名義人も含まれます。昭和33年登記研究461号において、所有者も利害関係人に該当することが明確にされています。
つまり2つの方法です。
この制度により、仮登記名義人が遠方に住んでいたり、多忙で手続きに立ち会えない場合でも、承諾書を郵送してもらうことで所有者側から抹消手続きを進められます。不動産取引の実務では、古い仮登記が残ったままになっているケースが少なくありません。このような場合に、所有者側から能動的に抹消手続きを進められる制度は、不動産流通の円滑化に大きく寄与しています。
法務局の不動産登記申請手続について(申請書様式や添付書類の詳細が確認できます)
仮登記名義人による単独申請の手続き
仮登記名義人が単独で抹消申請を行う場合、添付書類として登記識別情報(または登記済証)と印鑑証明書の提出が必要です。登記識別情報は、仮登記を設定した際に法務局から通知されたもので、12桁の英数字で構成されています。古い登記の場合は、登記済証(いわゆる権利証)が該当します。
印鑑証明書は発行から3か月以内のものに限定されます。
所有権に関する仮登記の場合、仮登記名義人は登記義務者の立場になるため、実印による押印と印鑑証明書の添付が求められるのです。これは本人確認と意思確認の両方を担保するための制度設計です。登記研究155号および343号において、この取り扱いが示されています。
申請書には、登記の目的として「何番仮登記抹消」と記載し、登記原因として「放棄」または「解除」などの具体的な原因を明記します。登録免許税は不動産1個につき1000円です。土地と建物であれば2個で2000円、マンションの場合は建物部分と敷地権部分でそれぞれカウントするため、敷地が複数筆に分かれている場合は注意が必要です。
手続きは法務局の窓口に直接持参するか、郵送でも可能です。郵送の場合は書留郵便を利用し、登記完了後の書類返送用の封筒(切手貼付済み)を同封します。登記申請から完了までの期間は、通常1週間から2週間程度です。繁忙期や複雑な案件の場合は、さらに時間がかかることもあります。
仮登記利害関係人による単独申請の実務対応
利害関係人が単独で抹消申請を行う場合、仮登記名義人の協力が必要になります。具体的には、仮登記名義人から実印が押印された承諾書と、発行から3か月以内の印鑑証明書を取得しなければなりません。この方法の大きなメリットは、仮登記名義人の登記識別情報や登記済証が不要である点です。
権利証がなくても大丈夫です。
古い仮登記の場合、登記済証を紛失しているケースが非常に多く見られます。昭和40年代や50年代に設定された仮登記では、半世紀近くが経過しており、権利証の保管状況を確認すること自体が困難な場合もあります。このような状況でも、承諾書方式であれば抹消手続きを進められるのです。
承諾書には「私は下記の仮登記を抹消することに承諾します」という趣旨の文言と、対象不動産の表示、仮登記の順位番号、仮登記名義人の住所・氏名・実印の押印が必要です。書式に厳格な決まりはありませんが、法務局によっては独自の書式を推奨している場合もあるため、事前に確認しておくとスムーズです。
実務では、仮登記名義人との連絡が取れない場合や、協力を拒否される場合があります。このようなケースでは、仮登記の原因となった権利が時効により消滅していないか検証します。たとえば売買予約に基づく所有権移転請求権は、改正民法により5年で時効消滅します(旧契約の場合は10年)。時効消滅が成立していれば、仮登記抹消請求訴訟を提起し、判決に基づいて抹消することが可能です。
仮登記抹消における混同と相続の取り扱い
仮登記名義人と現在の所有者が同一人物になった場合、民法520条の混同により仮登記の権利は消滅します。典型例は、所有権移転請求権の仮登記がある不動産を、仮登記名義人が相続により取得したケースです。この場合、仮登記名義人が権利者兼義務者として単独で抹消登記を申請できます。
混同なら相続登記不要です。
添付書類は通常の仮登記抹消と同様で、仮登記の登記識別情報(または登記済証)と印鑑証明書が必要です。登記原因証明情報については、登記記録から混同が明らかな場合は「添付省略」できます。混同の原因日付は、相続開始の日(被相続人の死亡日)となります。
ただし注意すべき点があります。混同後に仮登記名義人が死亡した場合、相続人全員で抹消登記を申請しなければなりません。これは、混同により消滅した権利であっても、その抹消登記申請権は相続財産として相続人全員に帰属するためです。相続人が5人いれば5人全員、10人いれば10人全員が申請人となる必要があります。
相続人調査で戸籍謄本や除籍謄本を遡って取得しなければならず、相続人の数が多い場合や疎遠な相続人がいる場合は、手続きが非常に煩雑になります。このような場合は、司法書士などの専門家に依頼することで、円滑に進められる可能性が高まります。相続人調査や遺産分割協議のサポート、申請書類の作成など、トータルでサポートを受けられます。
仮登記抹消で見落としがちな権利消滅のケース
仮登記そのものには消滅時効はありませんが、仮登記の原因となった権利は時効により消滅する可能性があります。改正民法166条1項1号により、債権者が権利を行使できることを知ったときから5年間行使しないときは、債権は時効により消滅します。仮登記をした時点で「権利を行使できることを知った」と解釈されるため、仮登記から5年で本登記請求権が時効消滅するのです。
5年で時効が成立します。
旧民法下で締結された契約については10年の時効期間が適用されますが、2020年4月1日以降に発生した債権については5年が原則です。売買予約に基づく所有権移転請求権仮登記の場合、予約完結権が時効消滅すれば、仮登記の根拠が失われます。農地の売買予約仮登記では、農地法上の許可申請協力請求権も10年で時効消滅します。
時効消滅を原因として仮登記を抹消する場合、時効の効力は起算日に遡るため(民法144条)、前提として相続登記を入れる必要がありません。仮登記名義人が死亡していても、時効消滅を原因とすれば直接抹消できるのです。これは混同を原因とする場合と大きく異なる点で、実務上のメリットが大きい方法です。
時効消滅の主張には、相手方(仮登記名義人)への「時効の援用」が必要です。内容証明郵便で「予約完結権は時効により消滅したため、仮登記の抹消を求める」旨を通知します。相手方が任意に応じない場合は、仮登記抹消請求訴訟を提起し、勝訴判決を得て抹消登記を申請することになります。訴訟では、仮登記設定の日付や権利の性質を立証し、時効期間の経過を証明します。
仮登記名義人が所在不明の場合の対処法
仮登記が数十年前に設定されたものである場合、仮登記名義人の所在が不明になっているケースが頻繁にあります。このような場合、まず住民票や戸籍の附票を取得して現在の住所を確認します。
転居先が判明すれば、そこへ連絡を試みます。
しかし転居を繰り返していたり、海外に移住していたりすると、追跡が困難になります。
行方不明なら裁判です。
所在調査を尽くしても連絡が取れない場合、仮登記抹消請求訴訟を提起することになります。被告の所在が不明な場合は「公示送達」という特別な送達方法を利用できます。公示送達とは、裁判所の掲示板に訴状を掲示し、官報に公告することで、被告に訴状が送達されたものとみなす制度です。
公示送達の要件は厳格で、通常の送達方法では送達できないことを疎明しなければなりません。具体的には、登記簿上の住所への郵送が不達で返送されたこと、住民票・戸籍の附票を取得したが現住所が判明しなかったこと、親族等への照会も功を奏さなかったことなどを、資料とともに裁判所に提出します。
訴訟では、仮登記の原因となった権利が時効消滅していること、または契約が解除されたこと、あるいは混同により消滅したことなどを主張立証します。相手方が欠席のまま進行する「欠席判決」により、原告の主張が認められることが一般的です。判決確定後は、その確定判決書を添付して法務局に抹消登記を単独で申請できます。
訴訟費用として、印紙代や予納郵券のほか、弁護士・司法書士への報酬が発生します。着手金として5万5000円程度、成功報酬として数万円から十数万円が相場です。ただし事案の複雑さや不動産の価額、相続人の数などにより変動します。費用対効果を考慮しながら、専門家と相談して方針を決定することが重要です。

