地役権とは高圧線下地の評価と建築制限
地役権を登記なしでも評価減できると知らずに、数百万円の控除機会を逃す業者が後を絶ちません。
地役権とは高圧線下地における法的権利の基本
地役権とは、他人の土地を自分の土地の便益のために利用できる権利のことです。民法第280条に規定されており、設定行為で定めた目的に従って利用する物権にあたります。高圧線に関わる地役権は、正式には「送電線路敷設地役権」と呼ばれ、電力会社が送電線を敷設するために土地所有者と契約する権利です。
具体的には、電力会社が要役地(便益を受ける側)として、土地所有者の土地を承役地(便益を提供する側)として利用します。土地の所有権は民法第207条により上下に及ぶため、上空を送電線が通過する場合でも権利設定が必要になるというわけです。
高圧線下地の地役権には大きく分けて2つの形態があります。1つ目は地役権設定契約を結び、登記を行うケース。2つ目は線下補償契約のみを結び、登記を行わないケースです。どちらのケースでも土地の利用制限が発生し、建築制限などの条件が課されることになります。つまり登記の有無に関わらず地役権としての効果は生じるのです。
高圧電線が上空を通過している土地の評価方法(チェスター相続税実務アカデミー)
こちらのページでは、地役権設定の具体的な登記記載例と評価方法の詳細が解説されています。
実務で参考になる内容です。
不動産業者として注意すべきは、線下補償契約のみで地役権の登記がなされていないケースです。現地調査を怠ると高圧線の存在を見落とし、評価減の機会を逃してしまいます。鉄塔には必ず管理者の連絡先と鉄塔番号が記載されているため、現地で確認し電力会社に問い合わせることが重要です。
地役権設定による高圧線下地の建築制限の内容
高圧線下地の建築制限は、送電線の使用電圧によって明確に区分されています。使用電圧が17万Vを超える場合、垂線下水平離隔距離3m以内には建造物を建築できません。高圧線の直下を含む側方3mの範囲に建物を建てることは不可能です。
一方、使用電圧が17万V以下の場合は、電線から一定の離隔距離を保てば建築が可能になります。具体的には電線から3m以上離れることで、線下にも建造物を建設できます。ただし、建物の高さは送電線から3m以上低くしなければなりません。この制限は電気設備技術基準により定められており、安全確保のための法的義務です。
建築制限の内容を確認するには、地役権設定契約書または線下補償契約書を入手することが最も確実です。登記がある場合は全部事項証明書の乙区欄に記載されています。登記がない場合は、鉄塔に表示された電力会社に直接問い合わせて確認しましょう。
電圧の違いによる制限の差は、土地評価にも大きく影響します。17万V超で建物がまったく建てられない場合は評価減50%、17万V以下で建物の構造や用途に制限がある場合は評価減30%が適用されます。この違いを理解していないと、査定額に数百万円の誤差が生じることになるのです。
こちらでは電圧別の具体的な建築制限基準が詳しく解説されており、実務での確認事項がわかります。
鉄塔の近くでは、建築制限以外にも騒音の問題があります。送電線は風によって振動し、コロナ放電による「ジージー」という音を発生させることがあるためです。購入希望者に対してはこの点も説明しておくと、後のトラブル回避につながります。
高圧線下地の評価減の計算方法と適用要件
高圧線下地の土地評価は、区分地上権に準ずる地役権として減額評価が認められています。評価方法は、承役地である部分を含めた全体を一画地の宅地として評価した価額から、地役権の価額を控除する形です。地役権の価額は、建築制限の内容によって自用地評価額の30%または50%となります。
建物の構造や用途、規模などに制限を受ける場合は30%の減額です。たとえば100平方メートルの土地で自用地評価額が4,500万円、うち50平方メートルに地役権が設定されている場合を考えましょう。地役権部分の価額は4,500万円×50平方メートル÷100平方メートル×30%=675万円となり、土地全体の評価額は4,500万円-675万円=3,825万円です。
家屋の建築がまったくできない場合は50%、または借地権割合のうち高い方の割合で減額します。借地権割合が70%の地域なら70%で計算するということです。17万V超の高圧線下地は建物建築不可なので、この50%以上の減額が適用されます。結果として土地評価額が大幅に下がることになるのです。
評価減を適用するには、地役権設定の登記は必須ではありません。国税庁の質疑応答事例でも、登記の有無は問わないとされています。線下補償契約のみの場合でも、電力会社との契約内容や現地の状況から建築制限が明らかであれば評価減が可能です。
区分地上権に準ずる地役権の目的となっている宅地の評価(国税庁)
国税庁の公式見解として、地役権評価の具体的な計算式と適用基準が示されています。
注意が必要なのは倍率地域に所在する場合です。高圧線下地として固定資産税評価額が既に低く設定されているケースでは、その評価額をそのまま使うと不合理が生じます。この場合は利用価値の低下がなかったものとして、近隣の通常の固定資産税評価額を基準に評価を行います。
地役権なしの線下補償契約のみの場合の対応
線下補償契約のみで地役権の登記がなされていない土地は、不動産取引で見落とされやすい減額要素です。登記簿謄本の乙区欄に地役権の記載がないため、書類上の調査だけでは高圧線の存在に気づかないことがあります。現地調査で上空を見渡して確認することが絶対に必要です。
線下補償契約とは、土地所有者と電力会社が送電線架設保持について結ぶ契約のことです。地役権設定契約とは異なり登記を伴わないため、第三者への対抗要件は備えていません。しかし、実質的には土地の利用制限が発生しており、評価減の対象となります。
契約内容を確認するには、まず土地所有者に電力会社との契約書の有無を尋ねましょう。契約書が見つからない場合は、鉄塔に記載された管理者の連絡先に問い合わせて建築制限の内容を聞き取ります。電力会社は通常、鉄塔番号から該当する土地の利用制限情報を提供してくれます。
線下補償契約の場合、土地所有者は電力会社から線下補償料を受け取っているケースが多いです。補償料の相場は線下の敷地面積×2,000円程度が年間で支払われます。たとえば100平方メートルなら年間20万円ということです。補償料の支払い履歴も、線下補償契約の存在を確認する手がかりになります。
地役権登記がない高圧線下にある土地の相続税土地評価(富士相続税理士法人)
登記なしの高圧線下地について、評価減に成功した具体的な事例が紹介されています。
地役権の登記がないことで、長期放置すると時効取得のリスクも発生します。民法第283条により、継続的に行使され外形上認識できる地役権は20年で時効取得の対象です。電力会社が一定期間以上送電線を通して使用し続けた結果、交渉余地を失う可能性があります。
早めの確認と対応が必要です。
高圧線下地の売却と重要事項説明での告知義務
高圧線下地の売却では、重要事項説明での告知義務が極めて重要です。宅地建物取引業法により、建築制限や地役権は契約前に説明する義務があります。高圧線の振れ幅の範囲内にあることも説明すべき事項とされており、これを怠ると損害賠償責任が発生します。
判例では、売買対象の土地が高圧線の振れ幅の範囲内にあることを説明しなかった仲介業者に対し、買主への損害賠償が認められたケースがあります。売主と仲介業者が高圧線の存在を知りながら説明しなかった場合、十分な情報提供を受けた上で契約する機会を奪ったとして責任を問われるのです。
重要事項説明で伝えるべき内容は以下の通りです。まず、高圧線が土地の上空を通過している事実。次に、地役権設定または線下補償契約の有無とその内容。
そして、建築制限の具体的な範囲と程度。
さらに、線下補償料の支払い状況と金額。
最後に、電磁波や騒音の可能性についてです。
買主が最も気にするのは建築制限の内容です。どの範囲に建物を建てられるのか、建物の高さはどこまで制限されるのかを明確に示す必要があります。地役権設定契約書や線下補償契約書のコピーを添付し、電力会社からの回答書も用意しておくと説明がスムーズです。
土地上空を高圧送電線の通過する土地の売買(三井住友トラスト不動産)
重要事項説明における高圧送電線の説明ポイントが実務的に解説されています。
高圧線下地は「嫌悪施設」として捉えられ、一般の買主が敬遠する傾向があります。そのため売却価格は相場より低くなりがちです。しかし、駐車場や資材置き場など建物を必要としない用途での活用を提案すれば、買主候補の幅が広がります。線下補償料という継続収入があることもメリットとして伝えましょう。
地役権設定の時効取得と不動産業者の注意点
地役権には時効取得と消滅時効の両方が存在し、不動産業者として理解しておくべき重要なポイントです。民法第283条により、地役権は継続的に行使され、かつ外形上認識できるものに限り時効によって取得できます。高圧線の場合、送電線が目に見える形で存在し続けているため時効取得の要件を満たしやすいのです。
時効取得の期間は、善意無過失の場合10年、それ以外の場合は20年です。電力会社が20年間継続して土地の上空を使用し続けた場合、地役権が時効取得される可能性があります。長期間放置されて地役権未登記の土地では、電力会社から時効取得を主張され、土地所有者が交渉余地を失うリスクがあるということです。
逆に、地役権の消滅時効も存在します。民法第291条により、継続的に行使される地役権は権利の行使が妨げられる事実が生じてから20年で時効消滅します。たとえば送電線が撤去され、その状態が20年続けば地役権は消滅するわけです。ただし高圧線が現役で稼働している限り、消滅時効の起算点は訪れません。
不動産業者が取引で注意すべきは、地役権の存在を早期に発見し適切に評価に反映させることです。現地調査で上空を確認する、鉄塔の存在を見逃さない、電力会社に必ず問い合わせるという3つの基本を徹底しましょう。これを怠ると買主に正確な情報を提供できず、説明義務違反のリスクが高まります。
契約書の記録や事情説明が不十分な物件ほど、時効取得のリスクが高まります。宅地建物取引業法の重要事項説明により、建築制限や地役権は契約前に説明義務があるため、放置期間が長いと契約関係の整理が困難になるのです。できるだけ早い段階で電力会社との関係を明確にすることが大切です。
地役権とは?設定の目的や登記の必要性、時効などの注意点について解説(HOME4U)
地役権の時効取得と消滅時効について、具体的な要件と注意点が解説されています。
また、地役権未登記の状態で土地所有者が変わると、新所有者に地役権の存在を対抗できないケースがあります。登記がある地役権なら第三者に対抗できますが、線下補償契約のみでは対抗要件を備えていません。売買時にはこの点も買主に説明し、必要に応じて地役権設定登記を勧めることも検討しましょう。

