入会権とは何か基礎から不動産取引の注意点まで

入会権とは

登記がなくても土地を売れなくなる

この記事のポイント
📋

入会権の基本構造

村落共同体が山林や原野を共同で利用する慣習法上の物権で、民法で認められた権利

⚠️

登記できない特殊性

不動産登記法上登記できないが、登記なしでも第三者に対抗できる例外的な権利

🔍

不動産取引での注意

山林や原野の取引では現地調査と地元住民への聞き取りが必須

入会権の基本的な意味と法的位置づけ

 

入会権とは、一定地域の住民が特定の山林や原野、漁場などを共同で利用する権利のことです。民法で物権として認められている権利であり、正式には「いりあいけん」と読みます。この権利は、江戸時代以前から続く日本の伝統的な慣習に基づくもので、村落共同体が薪炭用の雑木を採取したり、山菜やキノコを採ったりする際の法的根拠となってきました。

民法第263条と第294条に規定がありますが、非常に特徴的なのは、その内容の大部分が各地方の慣習に委ねられている点です。つまり法律で細かく定められているわけではなく、地域ごとの「おきて」や「きまり」が優先されます。これは入会権が、画一的な法律よりも地域の実情に合わせた柔軟な運用を必要とする権利だからです。

この権利の対象となる土地を「入会地」と呼びます。入会地は通常、山林や原野が中心ですが、河川や漁場も含まれることがあります。入会権を有する人々の集団を「入会団体」といい、その団体の構成員である住民が「入会権者」となります。団体の規模は、数世帯から数百世帯まで地域によってさまざまです。

現代においても、全国の農山村地域には多くの入会地が存在しています。林野庁の統計によれば、昭和41年の入会林野近代化法制定時点で約300万ヘクタールの入会林野が存在していたとされ、その後整備が進められましたが、現在でも相当数が残っています。これは東京ドーム約64万個分に相当する広大な面積です。

不動産業に従事する立場からすると、入会権は非常に注意が必要な権利です。なぜなら後述しますが、登記できないにもかかわらず強力な対抗力を持つという、通常の不動産取引の常識とは異なる性質を持っているからです。

入会権の種類と民法上の分類

入会権には、民法上2つの種類が規定されています。共有の性質を有する入会権と、共有の性質を有しない入会権です。この分類を理解することは、不動産取引において入会権が存在する場合の対応を判断する上で極めて重要になります。

共有の性質を有する入会権とは、民法第263条に規定されるもので、入会団体がその土地の地盤所有権を持っている場合を指します。つまり登記簿上、複数の住民の共有名義になっているか、あるいは代表者名義になっている場合でも、実態としては入会団体全体が土地を総有している状態です。総有とは、団体の構成員全員に帰属するものの、個々の構成員に持分権がない所有形態のことをいいます。

この場合、各地方の慣習に従うほか、民法の共有に関する規定が適用されます。ただし実際には通常の共有とは大きく異なり、個人が勝手に持分を処分することはできません。入会権の処分には原則として入会権者全員の同意が必要とされる「全員一致原則」が適用されることが判例で確立しています。

一方、共有の性質を有しない入会権とは、民法第294条に規定されるもので、土地の地盤所有権が入会団体にない場合を指します。例えば、他人が所有する山林に対して、特定の村落住民が伝統的に立ち入り、資源を採取する権利を持っている場合がこれに当たります。この場合は地役権に関する規定が準用されます。

実務上は共有的入会権の方が圧倒的に多く見られます。地役的入会権は、歴史的な経緯で特定の土地について慣習的な利用権が認められてきたケースで、現代では比較的珍しい形態といえるでしょう。不動産取引では、特に山林や原野の売買において、まずは共有的入会権の存在を疑うことが基本です。

両者の区別は、登記簿上の所有権が誰にあるかで判断しますが、実際には現地調査や地元住民への聞き取りなしには判別が困難な場合も多くあります。

入会権が登記できない理由と対抗力の特殊性

不動産に関する権利のほとんどは登記によって公示され、登記がなければ第三者に対抗できないのが民法第177条の大原則です。しかし入会権は、この原則の重大な例外となっています。入会権は不動産登記法上、登記できる権利として列挙されていません。それにもかかわらず、登記なしで第三者に対抗できるのです。

なぜ登記できないのか。それは入会権の内容が各地方の慣習によって定まり、その範囲や利用方法が地域ごとに大きく異なるため、画一的な登記制度になじまないからです。また入会団体は権利能力なき社団であることが多く、団体名義での登記ができないという技術的な問題もあります。

明治時代の民法起草者である梅謙次郎は、地役権として入会権を登記できるとする見解を示していましたが、実際の運用では入会権の登記は認められませんでした。不動産登記法の解釈として、入会権は用益物権として列挙されていないため、登記できないと解されています。

では、どのように第三者対抗力を持つのか。判例によれば、入会権の対抗要件は「入会集団による土地管理の事実」そのものだとされています。つまり実際に住民が山に入り、草を刈ったり木を伐採したりする姿が誰の目にも見える形で存在していることが、公示方法となっているわけです。

この仕組みは、取引安全の観点からは問題があります。第三者が登記を信頼して土地を購入しても、入会権の存在を知らなかったという主張は基本的に通りません。ただし第三者が善意無過失である場合、つまり土地を実際に見ても入会権の存在に気づけなかった場合には、対抗を受けない可能性もあります。

不動産業従事者としては、山林や原野の取引では必ず現地調査を行い、地元の区長や自治会長に入会権の有無を確認する必要があります。登記簿だけを見て安心することは絶対にできません。

入会権の処分と全員一致原則の実務的影響

入会権の処分、つまり入会地を売却したり、第三者に賃貸したりする行為には、原則として入会権者全員の同意が必要です。

これを「全員一致原則」といいます。

最高裁判所の判例でも、「入会権者の全員の同意なしには入会権ないし入会地の処分をすることができないことは、入会権の最も基本的な原則である」と明確に述べられています。

この原則は、不動産取引において極めて大きな障害となります。例えば50世帯で構成される入会団体の入会地を売却しようとする場合、50世帯全員の同意を得なければならないのです。一人でも反対者がいれば、売買契約は無効となるリスクがあります。

実務では、入会団体が規約や慣習で多数決による処分を認めている場合があります。過去には、多数決による処分を有効とする地方の慣習が認められた判例も存在します。しかし近年の裁判例では、環境保護の観点から全員一致原則を厳格に適用する傾向が見られ、多数決での処分が無効とされるケースも出ています。

特に問題となるのは、入会権者の一部が所在不明になっている場合です。相続が繰り返されて相続人が増え、連絡が取れない権利者が多数存在するケースでは、実質的に処分が不可能になります。これは現代の所有者不明土地問題とも深く関連しており、入会地の利用や処分を困難にしている要因となっています。

入会地を購入しようとする買主にとっては、入会権者全員の同意書を取得することが必須です。単に代表者や区長の同意だけでは不十分で、構成員全員から書面で同意を得る必要があります。不動産業者としては、入会権者名簿を入手し、一人ひとりに確認を取る地道な作業が求められます。

また入会権の放棄についても同様で、全員一致が必要とされます。入会林野近代化法に基づく整備を行う場合でも、原則として全員の同意が前提となっており、手続きの困難さが整備の進展を妨げる要因の一つとなっています。

入会権のある土地の調査方法と取引上の注意点

山林や原野を取引する際、入会権の有無をどう調査すればよいのか。これは不動産業従事者にとって極めて実践的な課題です。登記簿には入会権は記載されないため、別の手段で調査する必要があります。

まず登記簿調査では、所有者の名義に注目します。「○○区」「○○集落」といった地縁団体名や、「○○外○○名」といった記名共有の表示がある場合、入会地である可能性が高くなります。ただしこれはあくまで手がかりであり、確定的な判断はできません。

次に市町村の農林課や林務課に問い合わせます。入会林野近代化法に基づく整備が行われている場合、その記録が残っています。整備済みであれば入会権は消滅し、所有権地上権などの近代的な権利に転換されているため、取引上の障害は軽減されます。逆に整備未了の場合は、慎重な対応が必要です。

最も重要なのは現地調査と地元住民への聞き取りです。

土地を実際に訪れ、管理の状況を確認します。

草刈りの跡、植林の形跡、立ち入りを示す道や小屋などがあれば、入会的な利用がなされている証拠です。また近隣の住民、特に自治会長や区長に直接話を聞くことで、地域の慣習や入会権の実態が明らかになることが多くあります。

聞き取りでは以下のような質問が有効です。「この山は昔から地域の方が利用されていますか」「山菜採りやキノコ狩りに住民が入ることはありますか」「この土地について集落で管理していることはありますか」といった形で、押しつけがましくならないよう配慮しながら情報を収集します。

入会権が存在することが判明した場合、取引を進めるには入会権者全員の同意取得が必須です。具体的には、入会団体の総会で売却議案を諮り、議事録を作成してもらうのが確実な方法です。その上で、全構成員から個別に同意書を取得します。時間と手間がかかりますが、後日のトラブルを避けるためには省略できないプロセスです。

買主に対しては、入会権のリスクを十分に説明する必要があります。重要事項説明書には入会権の存在とその内容、処分に全員同意が必要なこと、将来的な利用制限の可能性などを明記します。説明を怠れば、宅建業法違反損害賠償責任を問われるリスクがあります。

林野庁による入会林野等整備の詳細

入会林野の整備状況や手続きについて、林野庁の公式サイトで確認できます。入会林野近代化法に基づく整備の実績や、具体的な手続き方法が掲載されており、取引前の調査に役立ちます。


入会権の解体〈第3〉 (1968年)