建物譲渡特約付借地権 口頭
契約書なしの建物譲渡特約で30年後に訴訟になります
建物譲渡特約付借地権における口頭契約の法的有効性
建物譲渡特約付借地権は、借地借家法第24条に規定された定期借地権の一種で、借地権設定から30年以上経過した日に借地上の建物を地主に譲渡する特約を付けた契約形態です。この契約形態の大きな特徴は、一般定期借地権や事業用定期借地権と異なり、書面による契約が法律上の要件とされていない点にあります。つまり、口頭での合意だけでも契約は法的に有効に成立します。
借地借家法第22条の一般定期借地権では「公正証書等の書面」による契約が必須とされ、第23条の事業用定期借地権では「公正証書による契約」が必須条件です。これらの定期借地権では、書面によらない契約は無効となり、普通借地権として扱われることになります。しかし建物譲渡特約付借地権については、法文上このような書面要件が定められていません。
書面が不要な理由です。
建物譲渡という物権変動が将来発生することで、その時点で所有権移転登記や仮登記といった登記手続きが行われることが想定されているためです。登記という客観的な記録が残ることから、契約の存在自体を書面で証明する必要性が相対的に低いと立法時に判断されました。また30年以上の期間経過後には建物の所有権が地主に移転するという明確な終了事由があるため、一般定期借地権のような50年以上の超長期契約に比べて、契約内容の証明が容易であるとも考えられています。
国土交通省の定期借地権解説においても、建物譲渡特約付借地権について「特に書面による必要はなく口頭でも可能とされる」と明記されています。これは行政機関が公式に口頭契約の有効性を認めている証拠といえます。
国土交通省「定期借地権の解説」(建物譲渡特約付借地権の契約方式について詳細に解説)
ただし、法律上有効であることと、実務上推奨されることは全く別の話です。実際の不動産取引の現場では、口頭契約で進めることは極めて稀であり、ほぼすべてのケースで書面による契約書を作成します。法律専門家や不動産実務家の間では、将来の紛争予防のために必ず書面化すべきというのが共通認識となっています。
建物譲渡特約付借地権の口頭契約で発生する実務上のトラブル事例
30年以上という長期間を前提とする建物譲渡特約付借地権において、口頭契約は極めて高いリスクを伴います。契約締結時の当事者が30年後も健在で記憶が鮮明という保証はどこにもありません。実際の紛争事例を見ると、口頭契約の危険性が明確に浮かび上がってきます。
最も多いトラブルは、契約内容の存在そのものに関する争いです。地主の相続人が「建物譲渡の特約など聞いていない」と主張し、借地人側が「確かに口頭で合意した」と反論するケースが頻発しています。契約締結から30年経過すると、当時の地主や借地人本人が既に亡くなっているケースも珍しくありません。相続人同士が争うことになり、当時の状況を知る第三者も見つからず、証拠がないまま訴訟に発展します。
つまり証拠の問題です。
契約書がない場合、契約の存在を証明する手段は極めて限られます。地代の領収書や振込記録では借地権の存在は証明できても、建物譲渡特約という重要な条項の存在までは証明できません。当時のやり取りを記録したメモや証人の証言も、30年という時間の経過により信憑性が疑われることになります。訴訟になれば、弁護士費用だけで数百万円規模の出費を覚悟しなければなりません。
建物買取価格の算定に関する紛争も深刻です。借地借家法第24条では「相当の対価で譲渡する」と規定されていますが、この「相当の対価」の具体的な算定方法について当初の口頭合意で明確にしていないケースがほとんどです。30年後の譲渡時点で、地主は「築30年の古い建物だから残存価値は低い」と主張し、借地人は「適切にメンテナンスしてきたので十分な価値がある」と主張して対立します。
不動産鑑定士による鑑定を実施すれば客観的な評価額は出ますが、鑑定費用は30万円から50万円程度かかります。さらに鑑定結果に不服がある当事者が別の鑑定士に再鑑定を依頼すると、評価額が異なる複数の鑑定書が並び、かえって混乱が深まります。最終的には裁判で決着をつけることになり、時間とコストが膨大になります。
厳しいところですね。
建物の譲渡時期についても争いが生じやすい点です。「30年以上経過した日」という条件は満たしていても、具体的に何年何月何日に譲渡するのかが口頭では曖昧なまま進むケースがあります。地主が早期の譲渡を求め、借地人がまだ事業継続中で譲渡を先延ばししたいという利害対立が生じます。契約書に具体的な譲渡期日や通知方法を定めていれば回避できたトラブルです。
建物譲渡特約付借地権の契約書作成における必須記載事項
口頭契約が法的に有効であっても、実務では必ず書面による契約書を作成すべきです。では、建物譲渡特約付借地権の契約書にはどのような内容を記載すべきなのでしょうか。
特に重要な条項を具体的に見ていきます。
まず借地権の存続期間を明記する必要があります。30年以上という法定の最低期間を満たす具体的な年数と、契約開始日・終了日を年月日まで特定して記載します。たとえば「2024年4月1日から2054年3月31日まで」というように明確にします。期間が30年未満だと建物譲渡特約付借地権として無効となり、普通借地権として扱われてしまうため、この点は絶対に誤りがあってはなりません。
建物譲渡の時期と方法も詳細に定めます。「存続期間満了日に」という記載だけでは不十分で、譲渡の通知方法、建物の引渡し時期、所有権移転登記の申請期限まで具体的に記載します。たとえば「期間満了の6ヶ月前までに地主から借地人に対して書面で譲渡の意思表示を行う」「期間満了日に建物の引渡しと所有権移転登記手続きを同時に行う」といった具体的な手順を定めておきます。
譲渡代金が最大の争点です。
「相当の対価」という抽象的な表現では30年後に必ず紛争になります。可能な限り具体的な算定方法を契約時に合意しておくべきです。たとえば「不動産鑑定士による鑑定評価額を基準とする」「建物の再調達価格から経年劣化を考慮した価格とする」「固定資産税評価額の○○倍とする」など、算定の基準を明記します。複数の不動産鑑定士に依頼した場合の平均値を採用する条項や、鑑定費用の負担者も定めておくと安心です。
地代の金額と改定方法も重要な記載事項です。30年という長期間の間には地価や物価が大きく変動します。当初の地代が固定されたままでは地主に不利になる可能性があり、逆に頻繁な改定は借地人の負担になります。「3年ごとに協議により改定する」「消費者物価指数の変動に応じて自動改定する」といった改定ルールを定めておきます。協議が整わない場合の調停や仲裁の手続きも併せて規定すると紛争予防になります。
建物の用途制限や増改築の可否についても明確にします。建物譲渡特約付借地権では建物の用途に制限はありませんが、住宅専用、店舗併用住宅、事業用など、当事者間で合意した用途を記載します。増改築については地主の承諾が必要とする場合が多いですが、軽微な修繕は承諾不要とするなど、具体的な範囲を定めます。30年の間には建物の老朽化で大規模修繕が必要になるケースもあるため、この点の取り決めは重要です。
建物譲渡特約付借地権の口頭契約を書面化する手続きと費用
既に口頭で建物譲渡特約付借地権の合意をしてしまっている場合でも、後から書面化することは十分に可能です。
むしろ早急に書面化を進めるべきです。
書面化の具体的な手続きと必要な費用について解説します。
当事者双方の合意があれば、市販の契約書雛形を使って自分たちで契約書を作成することもできます。書店やインターネットで「借地契約書」の雛形は入手できますが、建物譲渡特約付借地権に特化した雛形は少ないため、一般定期借地権の雛形をベースに建物譲渡条項を追加する形になります。費用は雛形代の数千円程度で済みますが、法律的に適切な内容になっているか不安が残ります。
結論は専門家に依頼です。
弁護士や司法書士に契約書の作成を依頼すれば、法的に不備のない内容で作成してもらえます。
報酬の相場は10万円から30万円程度です。
既に口頭で合意済みの内容を整理して契約書にまとめるだけなら10万円前後、契約条件自体をゼロから相談しながら決めていく場合は20万円から30万円程度が目安となります。この費用は地主と借地人で折半するケースが多いですが、どちらが負担するかは当事者間の協議次第です。
公正証書にする必要はありませんが、公正証書にしておけば証拠力が格段に高まります。公証役場で公正証書を作成する場合、手数料は契約金額に応じて決まります。建物譲渡特約付借地権では将来の建物譲渡代金の額によって手数料が変わりますが、一般的には5万円から10万円程度です。公証人が契約内容を精査するため、法的に問題のある条項があれば指摘してもらえるメリットもあります。
書面化にあたっては、両当事者が揃って契約書に署名押印する必要があります。実印を使用し、印鑑証明書を添付すれば、後日の本人確認や意思確認のトラブルを防げます。契約書は最低でも2通作成し、地主と借地人が各1通ずつ保管します。さらに写しを作成して第三者(親族や税理士など)に預けておくと、紛失のリスクに備えられます。
契約書作成後の手続きとして、借地権の登記も検討すべきです。借地権は登記しなくても対抗要件を備えられますが(建物に借地人名義の登記があれば対抗可能)、将来の建物譲渡特約については「始期付所有権移転仮登記」という形で登記することができます。この登記をしておけば、地主が第三者に土地を売却した場合でも、建物譲渡特約の効力を主張できます。登記費用は司法書士報酬を含めて10万円前後が相場です。
建物譲渡特約付借地権における地主側と借地人側のリスク管理
建物譲渡特約付借地権では、地主と借地人それぞれが異なるリスクを抱えることになります。立場ごとのリスクを理解し、適切な対策を講じることが重要です。
地主側の最大のリスクは、30年後に想定外の老朽建物を引き取ることになる可能性です。契約時には新築だった建物も、30年経過すれば築30年の中古建物になります。借地人が適切にメンテナンスしていなければ、大規模修繕が必要な状態で引き渡されることもあります。「相当の対価」で買い取るとはいえ、その後のリフォーム費用や解体費用は地主負担です。
このリスクへの対策です。
契約書に建物の維持管理義務を明記し、定期的な修繕を借地人に義務付けます。5年ごとや10年ごとに建物の状態を確認する条項を設け、必要な修繕が実施されていない場合の措置(地主が修繕を実施して費用を請求できるなど)も定めておきます。また建物譲渡時の建物状態について「通常の使用による劣化を除き、重大な瑕疵がない状態で引き渡す」といった条項を入れることで、極端に劣化した建物を押し付けられるリスクを減らせます。
地主にとっては地代収入の確保も重要課題です。30年間という長期にわたり安定的に地代が支払われるかどうかは、借地人の信用力次第です。借地人が事業に失敗したり経営難に陥ったりして地代の滞納が発生すると、契約解除の問題に発展します。契約解除になれば建物譲渡特約も実現せず、普通借地権の扱いになってしまう可能性があります。
地代の滞納に備えて、連帯保証人を付ける、保証会社の保証を利用する、一定期間分の地代を保証金として預かるといった対策が考えられます。また地代滞納が一定期間(たとえば3ヶ月)続いた場合の催告手続きや、最終的な契約解除の要件を契約書に明記しておきます。解除になった場合の建物譲渡特約の扱いについても、明確にしておくべきです。
借地人側のリスクは建物投資の回収です。
30年後に建物を地主に譲渡することが決まっているため、建物への投資は30年で回収する計画を立てる必要があります。建築費が5000万円なら、30年間の家賃収入や事業収益で5000万円以上を回収し、さらに地代を支払い続けなければなりません。事業計画が甘いと、30年経過時点で投資回収できず、建物譲渡代金でも元が取れない事態になります。
借地人にとっては、建物譲渡代金の算定方法が最大の関心事です。契約時に「相当の対価」としか定めていないと、30年後の評価で地主と対立します。築30年の建物の評価は、構造や管理状態によって大きく変わります。鉄筋コンクリート造で適切にメンテナンスされていれば相応の評価が得られますが、木造で劣化が進んでいれば評価は低くなります。
契約時点で建物譲渡代金の最低保証額を定めておく方法もあります。たとえば「建築費の30%を最低保証額とする」といった条項を入れれば、最悪でも建築費の3割は回収できる安心感が得られます。ただし地主側がこのような条項に同意するかどうかは交渉次第です。地主としては、建物の実際の価値に基づいて支払いたいと考えるのが自然だからです。
両当事者に共通するリスクとして、相続の問題があります。30年の間に地主や借地人が亡くなり、相続人に権利義務が承継されるケースは珍しくありません。相続人が複数いる場合、遺産分割協議で借地権や底地をどう扱うかが争点になります。契約内容が不明確だと、相続人同士の対立がさらに深まります。
建物譲渡特約付借地権と他の定期借地権との比較検討
建物譲渡特約付借地権は定期借地権の一種ですが、他の定期借地権とは大きく異なる特徴があります。土地の有効活用を考える際には、それぞれの特性を理解した上で最適な選択をする必要があります。
一般定期借地権は、存続期間50年以上で設定する定期借地権です。契約期間満了時には建物を取り壊して更地にして返還するのが原則で、建物買取請求権もありません。地主にとっては確実に更地が戻ってくるメリットがありますが、借地人にとっては建物を解体する費用負担が重くなります。解体費用は建物の規模にもよりますが、一般住宅でも200万円から300万円、大型建物なら数千万円になることもあります。
契約の方式が厳格です。
一般定期借地権は「公正証書等の書面」による契約が必須で、口頭契約は無効です。書面であれば公正証書である必要はありませんが、実務では公正証書にするケースが多くあります。50年以上という超長期契約のため、契約当事者が存命のうちに期間満了を迎えることは稀で、子や孫の世代に権利義務が承継されます。このため契約内容を公的に証明できる公正証書の形にしておく必要性が高いのです。
事業用定期借地権は、事業用建物の所有を目的とし、存続期間10年以上50年未満で設定する定期借地権です。居住用建物には利用できず、店舗、オフィス、工場など事業用途に限定されます。契約は必ず公正証書で行わなければならず、期間満了時には建物を取り壊して更地で返還します。事業用に特化している分、地代は一般の借地権より高めに設定されるケースが多く、土地価格の5%から6%程度が相場とされます。
建物譲渡特約付借地権の独自性は、期間満了時の処理方法にあります。更地返還ではなく建物付きで譲渡するため、借地人は解体費用を負担する必要がありません。地主にとっても、建物を取得できるため、そのまま賃貸に回したり、リフォームして利用したりできます。ただし建物買取に資金が必要になる点は地主側のデメリットといえます。
用途の自由度も違います。
建物譲渡特約付借地権には用途制限がなく、居住用でも事業用でも設定可能です。一方で事業用定期借地権は事業用に限定され、一般定期借地権も用途制限を設けるケースがあります。この柔軟性が建物譲渡特約付借地権の魅力の一つです。住宅として利用し始めて、途中から店舗併用住宅に転換するといった使い方もできます。
期間の面では、建物譲渡特約付借地権は30年以上、一般定期借地権は50年以上、事業用定期借地権は10年以上50年未満と、それぞれ異なります。30年という比較的短い期間で建物を譲渡して関係を終了できる点は、両当事者にとって予測可能性が高いといえます。50年先の社会状況や不動産市況を予測するのは困難ですが、30年程度なら一定の見通しを立てやすいからです。
地代の水準も比較のポイントです。一般的には、一般定期借地権の地代が土地価格の2%から3%、事業用定期借地権が5%から6%、建物譲渡特約付借地権が2%から3%程度が相場とされます。建物譲渡特約付借地権の場合、地主は30年後に建物を買い取る資金負担があるため、地代は一般定期借地権と同等か若干低めに設定されることが多いです。
どの定期借地権を選ぶかは、土地活用の目的と期間、建物の用途、資金計画によって変わります。確実に更地が戻ることを重視するなら一般定期借地権、比較的短期で建物を取得したいなら建物譲渡特約付借地権、事業用途に限定して高い地代収入を得たいなら事業用定期借地権という選択になります。いずれを選ぶにしても、契約内容を書面で明確にすることが紛争予防の大前提です。