原状回復ガイドライン フローリング負担と費用算定
フローリングは部分補修でも全額負担になります。
原状回復ガイドライン フローリングの基本的な考え方
国土交通省の原状回復ガイドラインにおけるフローリングの取り扱いは、壁紙などの他の設備とは大きく異なる特徴を持っています。この違いを理解していないと、入居者とのトラブルや貸主への説明で混乱を招くことになります。
原状回復とは、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧することです。フローリングにおいても、この基本原則は変わりません。つまり、日常生活で避けられない経年劣化や通常損耗については、借主は費用を負担する必要がないということですね。
具体的には、家具設置による軽微なへこみ跡や日照による変色、人が歩くことで生じる細かな擦り傷などは通常損耗として扱われます。これらは賃料に含まれている費用で対応すべきものとガイドラインで明記されています。不動産業従事者として、この境界線を明確に説明できることが求められます。
一方で、重い物を落として生じた深い傷やへこみ、飲み物をこぼして放置したことによるシミや変色、ペットによる引っかき傷などは、善管注意義務違反として借主負担になります。この判断には、傷の深さや範囲、発生原因の合理性などを総合的に考慮する必要があります。
フローリング原状回復で最も重要なのは「部分補修」と「全面張替え」で費用負担の考え方が異なる点です。他の設備では経過年数による減価償却が原則ですが、フローリングの部分補修では経過年数を考慮しないというルールがあります。
つまり部分補修の場合は全額借主負担が基本です。
この理由は、フローリングが長期間の使用に耐えられる耐久性の高い建材であり、部分補修を行っても建物全体の価値が増大するわけではないためです。例えば、10年居住した物件でも、1㎡だけの部分補修なら修繕費用の全額を借主が負担することになります。
ただし、フローリング全体にわたる毀損により全面張替えが必要になった場合は話が変わります。この場合は当該建物の耐用年数を用いて残存価値1円となるような直線を想定し、負担割合を算定します。木造アパートなら22年、RC造マンションなら47年といった建物構造別の耐用年数が適用されます。
不動産業従事者として押さえておくべきは、ガイドラインはあくまで「一般的な基準」であり、最終的には契約内容や個別の状況によって判断されるという点です。契約書に特約がある場合は、その有効性を慎重に検討する必要があります。
国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」参考資料では、フローリングの費用算定方法について具体的な計算例とともに詳しく解説されています
原状回復ガイドライン フローリングの費用計算方法
フローリングの原状回復費用を正確に算定するには、損傷の範囲と建物の構造、経過年数を正しく把握する必要があります。不動産業従事者として、借主と貸主双方に納得してもらえる説明をするためには、計算方法の理解が不可欠です。
部分補修の場合の計算は比較的シンプルです。フローリングの張替え単価(1㎡あたり約10,000円〜20,000円が相場)に、補修が必要な面積を掛けた金額が借主負担となります。
経過年数は考慮されません。
例えば、5年居住した物件で2㎡の部分補修が必要な場合、1㎡あたり15,000円なら30,000円が全額借主負担です。
ここで注意が必要なのは「最低限度の施工単位」という考え方です。傷が1箇所であっても、フローリングの施工は最低1㎡単位で行われるのが実態ですから、1㎡分の費用負担を求めることは妥当とされています。ただし、不必要に広い範囲での補修を求めることは認められません。
全面張替えの場合は減価償却の考え方を適用します。計算式は「張替え費用総額×(建物の耐用年数−経過年数)÷建物の耐用年数」です。仮に10㎡のフローリング全面張替えで、1㎡あたり15,000円、合計150,000円かかるとします。RC造マンション(耐用年数47年)で10年居住していた場合、150,000円×(47−10)÷47=約118,085円が借主負担となります。
建物構造別の耐用年数は、木造22年、木骨モルタル造20年、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)47年、鉄筋コンクリート造(RC造)47年、レンガ・石・ブロック造38年です。同じマンションでも構造によって計算結果が大きく変わるため、建物の登記簿謄本などで正確に確認することが重要ですね。
実務では、部分補修で済むのか全面張替えが必要なのかの判断でトラブルになることがあります。ガイドラインでは「フローリング全体にわたっての毀損」という表現が使われていますが、具体的な基準は明示されていません。一般的には、損傷箇所が広範囲に及び、部分補修では美観を損なう場合などが全面張替えの対象となります。
費用計算で見落としがちなのが、工事費用に含まれる項目です。フローリングの材料費だけでなく、既存床材の撤去費用、廃材処分費、施工費、養生費なども原状回復費用に含まれます。ただし、グレードアップに相当する部分(元の材料より高価な材料を使用する等)は貸主負担となるため、見積書の内訳を細かく確認する必要があります。
入居期間が非常に長い場合、計算上の借主負担額が極めて少額になることがあります。例えばRC造で40年居住した場合、残存価値がほぼ1円に近づくため、全面張替えでも借主負担はほとんど発生しません。この場合は貸主負担が大部分を占めることになりますが、部分補修が必要なら依然として借主全額負担です。
不動産業従事者として、見積もりを取得する際は複数の業者から相見積もりを取ることをお勧めします。相場から大きく外れた金額での請求はトラブルの原因となります。地域や物件の条件によって単価は変動しますが、著しく高額な場合は説明責任が求められます。
原状回復ガイドライン フローリングの負担区分判断
フローリングの原状回復において最も重要なのは、どの損傷が借主負担でどれが貸主負担かを正確に判断することです。不動産業従事者として、グレーゾーンの案件でも根拠を持って判断できる力が求められます。
借主負担となる典型例として、まず重量物の落下による深い傷やへこみが挙げられます。家具の移動時に引きずったことによる傷、キャスター付き椅子の長期使用による深いへこみ、飲食物をこぼして放置したことによるシミや腐食なども該当します。これらは通常の注意を払っていれば避けられた損傷として、善管注意義務違反と判断されます。
ペット飼育による損傷も借主負担となることが多いですね。犬や猫の爪による引っかき傷、排泄物による変色や腐食、ペットが走り回ることで生じた通常を超える摩耗などです。ペット可物件であっても、これらの損傷は通常使用の範囲を超えるとされます。契約書にペット飼育に関する特約がある場合は、その内容も判断材料となります。
水濡れに関するトラブルも頻繁に発生します。洗濯機のホースが外れて水浸しになった、結露を放置してカビやシミが発生した、観葉植物の水やりで床に水分が浸透したなどです。これらは入居者が適切に管理していれば防げた損傷として、借主負担となる可能性が高いです。
一方、貸主負担となるのは通常損耗と経年劣化です。具体的には、日照によるフローリングの変色や色あせ、家具設置による軽微なへこみ跡(保護マットを使用していなくても通常使用の範囲内)、人の歩行による細かな擦り傷や摩耗、ワックスの自然な剥がれなどです。
フローリングの色落ちについては、原因の特定が重要です。日照や建物の構造欠陥による色落ちは貸主負担ですが、入居者が水をこぼして放置したり、不適切な清掃方法を繰り返したりしたことによる色落ちは借主負担となります。退去時の立会いで、色落ちの箇所や範囲、パターンを確認し、原因を推定することが必要ですね。
判断が難しいのが「程度」の問題です。例えば家具設置によるへこみでも、軽微なものは通常損耗ですが、深さ数ミリに及ぶような深いへこみは善管注意義務違反とされることがあります。一般的には、へこみの深さが2mm以上で明確に視認できる場合は借主負担、1mm以下で注意深く見ないと分からない程度なら貸主負担という基準が参考になります。
傷の本数や密集度も判断材料です。数箇所の小さな擦り傷なら通常損耗ですが、同じエリアに無数の傷が密集している場合は通常使用を超えると判断される可能性があります。キャスター付き椅子を長年使用したエリアなどが該当しますが、この場合でも保護マットの使用が義務付けられていたかどうかで判断が分かれます。
不動産業従事者として、判断に迷う案件では写真撮影と詳細な記録が重要です。損傷の大きさ、深さ、範囲、周囲の状況を記録し、可能であれば定規などでスケール感を示す写真を撮影します。入居時の写真と比較できれば、より客観的な判断が可能になります。
原状回復ガイドライン フローリング特約と契約時の注意点
フローリングの原状回復では、契約書の特約が大きな影響を持ちます。ガイドラインと異なる内容でも、一定の要件を満たせば特約は有効とされるため、不動産業従事者として契約時の説明責任を十分に理解しておく必要があります。
特約が有効となるための要件は3つあります。第一に、特約の必要性があり、かつ暴利的でないなどの客観的・合理的理由が存在すること。第二に、借主が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること。第三に、借主が特約による義務負担の意思表示をしていることです。
フローリングに関する特約として実務でよく見られるのが「ペット飼育可物件における経過年数不考慮特約」です。これは、ペットによる損傷については全面張替えの場合でも経過年数を考慮せず、全額または一定割合を借主負担とする内容です。ペット可物件では通常より損傷リスクが高いという客観的理由があるため、適切に説明されていれば有効とされることが多いですね。
喫煙に関する特約も増えています。喫煙によるヤニ汚れや臭いが壁紙だけでなくフローリングにも付着し、通常のクリーニングでは除去できない場合、経過年数を考慮せず借主負担とする内容です。近年の禁煙志向の高まりから、このような特約の必要性も認められやすくなっています。
特約を設ける際の注意点として、まず契約書への明記が必須です。「フローリングの損傷については、ペットによるものは経過年数を考慮せず借主負担とする」など、具体的に記載する必要があります。口頭説明だけでは特約の存在を証明できず、トラブル時に無効と判断される可能性が高いです。
重要事項説明時に、特約の内容と通常のガイドラインとの違いを明確に説明することも重要です。「通常は建物の耐用年数で減価償却しますが、この物件ではペット飼育可のため、ペットによる損傷は減価償却なしで全額負担となります」というように、借主が内容を理解できる説明が求められます。
費用の目安を示すことも効果的です。「フローリング全面張替えの場合、通常なら10年居住で約5万円の負担ですが、ペット特約により約15万円の負担となる可能性があります」など、具体的な金額を示すことで、借主の理解と納得が深まります。契約時に十分な説明をしておけば、退去時のトラブルを大幅に減らせます。
一方で、特約の内容が不当に借主に不利な場合、消費者契約法により無効とされることがあります。例えば「フローリングの損傷はいかなる場合も全額借主負担」という包括的な特約は、通常損耗まで借主負担とする内容で無効と判断される可能性が高いです。特約は合理的な範囲内で設定する必要があります。
地域によっては、条例で特約の説明義務が詳細に定められている場合があります。東京都や京都市などでは、賃貸住宅紛争防止条例により、原状回復の費用負担について書面を交付して説明することが義務付けられています。該当地域で業務を行う際は、条例の内容も確認しておく必要がありますね。
契約書作成時は、フローリングに限らず原状回復全体について、ガイドラインに沿った負担区分を基本としつつ、物件の特性に応じた合理的な特約を設けるバランス感覚が求められます。過度に借主に不利な契約は後々トラブルの原因となり、結果的に貸主の不利益にもつながります。
原状回復ガイドライン フローリングトラブル防止の実務対応
フローリングの原状回復トラブルを防ぐには、契約時から退去時まで一貫した記録管理と適切なコミュニケーションが不可欠です。不動産業従事者として、実務で即活用できる具体的な対応方法を押さえておく必要があります。
入居時の物件状況確認が最も重要な第一歩です。フローリングの既存傷、変色、へこみなどを詳細にチェックし、物件状況リストに記録します。このとき、「リビング西側に約5cm×3cmの擦り傷あり」など、位置と大きさを具体的に記載することがポイントです。
曖昧な記述は後日の判断材料になりません。
写真撮影は証拠として極めて有効です。部屋全体の俯瞰写真に加えて、既存の傷やへこみは接写で撮影します。このとき定規やコインなど大きさの比較対象を一緒に写すと、より客観的な記録となります。日付が記録される設定にしておけば、入居時の状態であることの証明にもなりますね。
撮影箇所で見落としがちなのが、家具配置予定エリアや部屋の隅です。大型家具で隠れる部分に既存の傷がある場合、退去時に「入居者がつけた傷」と誤解されるリスクがあります。クローゼット内部や窓際など、日常的に目につかない部分も忘れずに記録しましょう。
入居中の定期点検も効果的な予防策です。契約内容によりますが、年1回程度の室内確認を実施している管理会社もあります。このとき新たに発生した傷や汚れを発見したら、写真を撮影し、入居者と状況を共有します。「この傷はいつ頃できましたか」と確認することで、入居者の記憶が鮮明なうちに原因を把握できます。
入居者からの修繕依頼にも適切に対応する必要があります。「フローリングに傷をつけてしまった」という連絡があった場合、すぐに状況確認に行き、写真を撮影して記録します。この時点で原状回復費用の概算を伝えておくと、退去時の surprise を避けられます。
火災保険の適用可能性も確認しましょう。
退去時の立会いでは、入居時の記録と照合しながら確認します。入居時の物件状況リストと写真を持参し、「ここは入居時からあった傷ですね」「これは新しくできた傷のようです」と一つずつ確認していきます。入居者の立場に立った丁寧な説明が、納得感を高め、トラブルを防ぎます。
立会い時に借主が不在でも、後日トラブルにならないよう詳細な記録を残します。退去前に入居者に写真撮影を推奨しておくことも有効です。「退去時に立ち会えない場合は、ご自身でも部屋の状態を撮影しておくことをお勧めします」と伝えておけば、双方に証拠が残り、認識の齟齬を減らせます。
見積書の提示方法も重要です。「フローリング張替え 一式 50,000円」という記載では内容が不明確で不信感を招きます。「フローリング部分張替え 2㎡×15,000円=30,000円(内訳:材料費12,000円、撤去・施工費18,000円)」というように、単価と内訳を明示することで透明性が高まります。
費用請求前に、借主に内容を説明する機会を設けることも効果的です。「この傷は入居時にはなかったもので、深さや範囲から通常使用を超えると判断しました。ガイドラインでは部分補修の場合は経過年数を考慮しないため、2㎡分の30,000円をご負担いただくことになります」と根拠を示した説明をします。
トラブルが発生した場合の対応方法も準備しておく必要があります。借主が費用負担に納得しない場合、まずは冷静に話し合いの場を設けます。ガイドラインのコピーや類似事例を提示し、客観的な判断基準を説明します。それでも合意に至らない場合は、少額訴訟や調停などの紛争解決手段も視野に入れます。
不動産業従事者として、原状回復は「できるだけ多くの費用を請求する」ことが目的ではありません。ガイドラインに基づいた公平な費用負担を実現し、貸主と借主双方が納得できる解決を目指すことが、長期的な信頼関係構築につながります。丁寧な記録管理と誠実なコミュニケーションこそが、トラブル防止の最大の武器なのです。
こちらの記事では、国交省のフローリング原状回復ガイドラインについて、2025年版の最新情報と具体的な負担基準が詳しく解説されています

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