用法遵守義務条文と民法の関係|賃貸借契約違反・解除の要件

用法遵守義務の条文と民法の基礎

契約書にペット禁止が書かれていなくても賃借人の責任を問える

📌 この記事の3つのポイント
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民法616条・594条が自動適用

契約書に記載がなくても、民法で賃借人に用法遵守義務が発生します

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違反は信頼関係破壊で判断

単なる違反だけでは契約解除できず、信頼関係破壊の立証が必須です

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損害賠償と原状回復費用

違反による損害は賃料相当額・補修費・逸失利益で計算されます

用法遵守義務を定める民法616条と594条の条文内容

不動産業に従事していると、賃借人の用法遵守義務違反に直面する場面が少なくありません。この義務の法的根拠を正確に理解しておくことは、トラブル対応の第一歩です。

用法遵守義務は、民法616条が594条1項を準用する形で規定されています。民法594条1項では「借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない」と定められています。この条文は使用貸借(無償の貸借)に関する規定ですが、民法616条によって賃貸借契約にも適用されるのです。

つまり賃借人は、賃貸借契約で定められた使用方法を守る義務があるということですね。

この義務は民法に明記されているため、契約書に具体的な禁止事項が書かれていなくても、賃借人は当然に負担します。例えば「居住用」として賃貸した物件を事務所として使う行為や、「ペット禁止」の特約がある場合の動物飼育は、用法遵守義務違反に該当します。重要なのは、契約の性質や目的物の性質から「当然に想定される使用方法」に反する行為も違反となる点です。

条文の解釈において注目すべきは「契約又はその目的物の性質によって定まった用法」という文言です。これは契約書の条項だけでなく、建物の構造や立地、周辺環境などから客観的に判断される「適切な使用方法」も含まれることを意味します。

民法616条の詳細な解説と賃借人の義務について、クレアール司法書士講座の条文解説ページ

用法遵守義務が契約書に記載されていない場合の法的効力

契約書作成の際、具体的な禁止事項を詳細に記載することは実務上重要ですが、仮に記載漏れがあったとしても用法遵守義務は発生します。

これが民法の強制力です。

保管義務も用法遵守義務も民法に規定されていますので、契約書に明記されていなくても賃借人はこれらの義務を負っています。この点は裁判例でも繰り返し確認されており、賃貸人側に有利な法的構造といえます。

契約書記載なしでも義務が生じるということです。

ただし実務的には、契約書に具体的な禁止事項を列挙しておくべきです。

理由は立証の容易さにあります。

「居住目的での使用に限る」「ペットの飼育を禁止する」「無断転貸を禁止する」といった条項があれば、違反の事実を証明しやすくなります。契約書がない場合や記載が曖昧な場合、賃借人が「そのような使用方法が禁止されているとは知らなかった」と主張する余地が生まれるためです。

国土交通省が公開している「賃貸住宅標準契約書」では、使用目的の遵守義務を第3条に明記し、第8条各項で具体的な禁止事項を定めています。これらの条項は、民法の規定を具体化したものです。契約書作成時には、この標準契約書を参考にして、物件の特性に応じた禁止事項を明確に記載することが推奨されます。

用法遵守義務違反の具体的な事例とペット・騒音・転貸

用法遵守義務違反が問題となる典型的なケースは、使用目的違反、ペット飼育、騒音などの迷惑行為、無断転貸の4つです。それぞれのケースで違反の判断基準が異なります。

使用目的違反では、居住用物件を事業用に転用するケースが最も多く見られます。例えば賃貸マンションの一室で学習塾を開設したり、居住用として借りた部屋を民泊施設として運用したりする行為です。裁判例では、建物の使用形態がほとんど変わらず周辺にも大きな影響を与えない場合には違反に当たらないとされることもあります。

ペット飼育の問題は、契約書に「動物飼育禁止」の特約がある場合に明確な違反となります。特約の有無を問わず、危険な動物や多くの人が恐怖を感じる動物(毒ヘビ、毒グモなど)の飼育は、特段の事情のない限り用法違反です。過去の裁判例では、ペット可と記載された重要事項説明書があっても、賃貸借契約書で禁止されている場合には契約書の内容が優先されると判断されています。

契約書の条項が最優先されるわけです。

騒音などの迷惑行為については、賃借人は付随義務として「正当な理由なしに近隣住民とトラブルを起こさないように努める義務」を負います。深夜の騒音、ゴミの放置、共用部分の私物化などが該当します。東京地裁の判例では、夜中に騒音を発生させたり大声で騒いだりする行為は、他の入居者への迷惑行為として用法遵守義務違反に該当するとされています。

無断転貸は民法612条で別途規定されていますが、用法遵守義務違反としても問題になります。賃借人が賃貸人の承諾なく第三者に転貸する行為は、契約関係の基礎を揺るがすものとして、特に厳しく判断される傾向があります。

迷惑行為による契約解除の可否について、公益財団法人不動産流通推進センターの詳細解説

用法遵守義務違反による契約解除の要件と信頼関係破壊理論

用法遵守義務違反があったからといって、直ちに契約解除ができるわけではありません。ここで重要になるのが「信頼関係破壊理論」です。

賃貸借契約は継続的な契約であり、当事者相互の信頼関係を基礎とします。判例では、賃借人に債務不履行があった場合でも、いまだ賃貸借契約の基礎となる相互の信頼関係を破壊したものといえない場合には、賃貸借契約の解除はできないとされています(最判昭和39年7月28日)。

つまり違反の程度が軽微なら解除できないということです。

信頼関係破壊の有無を判断する際の考慮要素は、違反行為の態様、継続期間、賃貸人への影響、周辺住民への影響、賃借人の改善意欲などです。例えば一度だけペットを預かっただけで、賃貸人からの注意後すぐに改善した場合、信頼関係破壊とは認められない可能性が高いでしょう。一方で、再三の警告にもかかわらず騒音行為を続けたり、ペット飼育を継続したりするケースでは、信頼関係が破壊されたと判断されやすくなります。

立証責任は原則として賃貸人側にあります。賃貸人が契約解除を主張する場合、違反行為の事実とその継続性、注意・警告の経緯、改善されなかった事実などを具体的に証明する必要があります。この点で、書面による警告や内容証明郵便の送付、写真や録音などの証拠収集が重要になります。

実務上のリスクとして、安易に契約解除を通知すると、解除が無効と判断された場合に賃貸人側が不利な立場に立たされる可能性があります。解除通知後に賃料の受領を拒否していた場合、賃貸人側が債務不履行責任を問われるケースもあるのです。

用法遵守義務違反の損害賠償額の算定方法と不動産実務

用法遵守義務違反によって賃貸人に損害が発生した場合、賃借人は損害賠償責任を負います。損害額の算定方法は違反の内容によって異なります。

物理的損害が発生している場合、例えばペット飼育による床や壁の損傷、無断増改築による建物の変などでは、原状回復費用が損害額の基礎となります。これには補修工事費用、清掃費用、設備交換費用などが含まれます。東京地裁の判例では、設計積載荷重を超える重量物を設置した事案で、補修工事費用の賠償が命じられています。

建物の価値が減少した場合の損害額はより複雑です。代表的なのが自殺のケースで、賃貸することができない期間の相当賃料額と、その後の賃料下落額に期間を乗じて算定します。具体的には、事故後2年程度は賃料相当額全額が損害、その後5年程度は賃料の30%から50%程度の減額分が損害とされることが多いでしょう。

自殺の場合は長期的な損害が発生します。

事業用物件で使用目的違反があった場合、建物のイメージダウンによる賃料下落や、次の入居者が決まらない期間の逸失利益が損害となります。例えば高級マンションで風俗営業が行われていた場合、建物全体のブランドイメージが損なわれ、他の部屋の賃料にも影響が出る可能性があります。

迷惑行為による損害では、他の入居者が退去した場合の逸失利益、建物の評判低下による募集難、管理コストの増加などが考慮されます。ただし因果関係の立証が難しいケースも多く、実務上は示談交渉で解決することが一般的です。

連帯保証人がいる場合、保証人は賃借人の損害賠償債務についても保証責任を負います。賃借人本人が自殺した場合でも、保管義務違反による損害賠償債務を相続人が相続し、連帯保証人も保証債務を負うことになります。

この点は不動産実務において重要な知識です。

保管義務・用法遵守義務違反による損害賠償の詳細な裁判例の分析は、池田総合法律事務所の専門解説