建物明渡し訴訟の流れと費用回収の実務

建物明渡しの流れと費用

所有物件でも勝手に立ち入ると損害賠償を請求されます。

この記事の3つのポイント
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建物明渡しには法的手続きが必須

賃料滞納や契約違反を理由に入居者を退去させるには、内容証明郵便、訴訟、強制執行という段階的な手続きが必要です。自力救済は違法行為となり損害賠償のリスクがあります。

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強制執行費用は一旦賃貸人が負担

強制執行の費用は法的には賃借人負担ですが、実際には賃貸人が予納金6~7万円、執行業者費用40~100万円を先払いします。滞納者からの回収は困難なケースが多いのが実態です。

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保証会社活用で手続きを効率化

家賃保証会社を利用すれば代位弁済により家賃は回収でき、明渡訴訟費用も保証会社が負担するケースがあります。占有移転禁止の仮処分など予防的措置も重要です。

建物明渡し訴訟の基本的な流れ

建物明渡しとは、賃借人が賃貸物件から退去し、空の状態にして賃貸人に返却する手続きのことです。賃料滞納が数ヶ月続いた場合や、契約違反行為が確認された場合に、賃貸人は賃借人に対して明渡しを求めることができます。

まず最初の段階として、賃貸人は賃借人に対して内容証明郵便で催告を行います。これは賃料の支払いを督促するとともに、支払いがない場合には契約を解除する旨を通知するものです。催告期間として相当な期間、一般的には1週間から10日程度を設定します。

催告期間内に支払いがなかった場合、次に賃貸借契約の解除通知を行います。解除が有効となるには、信頼関係が破壊されたと認められる必要があり、判例では賃料3ヶ月分以上の滞納がある場合に解除が認められるのが一般的です。

つまり解除が成立する基準です。

解除通知後も賃借人が任意に退去しない場合、裁判所に建物明渡請求訴訟を提起することになります。訴訟では、賃貸借契約書、滞納の証拠、内容証明郵便の控えなどを提出し、明渡しの正当性を主張します。

訴訟提起から判決までの期間は、賃借人が争わない場合で3~4ヶ月、争った場合は6ヶ月以上かかることもあります。裁判所は双方の主張を聞き、証拠を検討した上で判断を下します。途中で和解が成立すれば、和解調書が作成され、これも判決と同様の効力を持ちます。

判決が確定しても賃借人が退去しない場合、最終手段として強制執行の申立てを行います。強制執行では、執行官が物件を訪れて催告を行い、約1ヶ月後に断行期日を設定して強制的に荷物を搬出し、物件を明け渡させます。これが完了するまでさらに1~2ヶ月を要します。

全体として、内容証明郵便の送付から明渡し完了までに、最短でも4~6ヶ月、長ければ1年近くかかるケースもあるのが実態です。早期解決を目指すならば専門家に相談するのが得策です。

建物明渡し手続きにかかる費用と内訳

建物明渡し手続きには、訴訟段階と強制執行段階でそれぞれ異なる費用が発生します。まず理解しておくべきは、法的には最終的に賃借人が負担すべき費用ですが、実際には賃貸人が一旦立て替える必要があるという点です。

訴訟提起時には、裁判所に納める収入印紙代がかかります。建物明渡請求訴訟の訴額は、建物の固定資産税評価額の2分の1で計算されるため、評価額が1000万円の建物であれば訴額は500万円となり、印紙代は3万円程度です。これに郵便切手代として6000円から1万円程度が必要となります。

さらに弁護士に依頼する場合は、着手金として10万円から30万円、成功報酬として20万円から50万円程度が相場です。案件の複雑さや物件の規模によって金額は変動します。

厳しいところですね。

強制執行段階では、より高額な費用が発生します。裁判所に納める予納金として、賃借人1名あたり6~7万円が必要です。これは執行官の手数料や旅費などに充てられます。

最も費用がかかるのが、執行業者に支払う荷物の搬出・保管・処分費用です。1ルームマンションで20万円程度、2DK~3DKのファミリー向けマンションで40万円~60万円程度、2階建ての一戸建てで70万円~100万円程度が目安となります。荷物の量や物件の構造によって大きく変動するため、事前に見積もりを取ることが重要です。

また、明渡し後には鍵の交換費用として3~5万円、原状回復費用も発生します。原状回復費用は通常の退去と同様に賃借人に請求できますが、長期滞納者からの回収は困難なケースが多いのが実情です。

全体として、ワンルームマンションの明渡しでも最低50万円程度、ファミリー向けや戸建てでは100万円を超える費用を覚悟する必要があります。これらの費用は本来賃借人が負担すべきものですが、そもそも賃料を滞納している相手から回収できる保証はありません。

三井住友トラスト不動産「建物明渡し訴訟の費用」では、具体的な費用試算が紹介されており、滞納開始から明渡し完了までの総額が100万円近くになることが示されています。

建物明渡しの強制執行における実務的注意点

強制執行は建物明渡し手続きの最終段階ですが、実務上多くの注意点があります。まず重要なのが、強制執行を申し立てる前に占有移転禁止の仮処分を行うべきケースがあるということです。

占有移転禁止の仮処分とは、賃借人が第三者に物件の占有を移転することを禁止する手続きです。強制執行は判決で明渡しを命じられた当事者に対してのみ行えるため、訴訟中に賃借人が別の人物に占有を移してしまうと、判決を得ても執行できなくなってしまいます。悪質な賃借人ほどこうした手段を使う傾向があるため、訴訟提起前または提起直後に仮処分を申し立てるのが効果的です。

仮処分の申立てには、裁判所に担保金を供託する必要があります。住宅の場合は賃料の1~3ヶ月分、店舗の場合は賃料の2~5ヶ月分が目安とされています。この担保金は手続き完了後に返還されますが、一時的に資金を拘束されることになります。

強制執行の実施には、執行官との綿密な打ち合わせが必要です。執行官は現地で催告を行い、約1ヶ月後の断行期日を設定します。この間に賃借人が任意に退去すれば強制執行は不要となりますが、実際には退去しないケースがほとんどです。

断行期日当日は、執行官、賃貸人、執行業者、鍵開け業者などが現地に集合します。執行官の指揮のもと、室内の荷物をすべて搬出し、一時保管場所に移動させます。荷物の搬出には細心の注意が必要で、破損や紛失があれば賃貸人が損害賠償責任を負う可能性があります。

これは使えそうです。

搬出した荷物は通常1ヶ月程度保管し、その間に賃借人が引き取りに来なければ売却または廃棄することができます。ただし、貴重品や重要書類については慎重に取り扱う必要があり、売却・廃棄の前に十分な告知を行うことが求められます。

また、自力救済は絶対に避けなければなりません。たとえ所有者であっても、賃借人の承諾なく物件に立ち入ったり、荷物を勝手に処分したりすると、住居侵入罪や器物損壊罪に問われる可能性があります。民事上も不法行為として損害賠償請求の対象となり、慰謝料として100万円以上支払うことになったケースもあります。

みずほ中央法律事務所「建物明渡の実力行使は違法となる」では、自力救済の違法性と法的責任について詳しく解説されています。

建物明渡し費用の回収可能性と対策

建物明渡し手続きにおいて最も現実的な問題は、かかった費用を賃借人から回収できるかどうかです。法律上は賃借人が負担すべきですが、実際の回収率は決して高くありません。

そもそも数ヶ月以上賃料を滞納している賃借人は、経済的に困窮していることがほとんどです。まとめて滞納賃料や執行費用を支払う能力がある人は、最初から滞納しないでしょう。判決で支払いを命じられても、支払う資力がなければ回収は困難です。

つまり費用倒れになります。

さらに、強制執行で退去した賃借人は、多くの場合連絡先を残さず、所在不明となります。追跡調査にも費用がかかり、仮に見つけても財産がなければ回収できません。養育費の未払い率が約75%と言われるように、判決があっても実際の回収は別問題なのです。

こうした回収リスクを軽減するための対策として、事前の財産調査が重要です。訴訟提起前に、賃借人の勤務先、銀行口座、所有不動産などを可能な限り調査しておきます。そして判決前または判決直後に、仮差押えの手続きを行うことで、財産を隠されるのを防ぐことができます。

仮差押えとは、債権者が債務者の財産を仮に差し押さえる手続きで、後の強制執行を確実にするための保全措置です。給与債権を仮差押えすれば、毎月の給与から少しずつ回収することが可能になります。預金口座を仮差押えすれば、残高の範囲で即座に回収できます。

また、連帯保証人がいる場合は、保証人に対して請求することも重要です。保証人は賃借人と同等の責任を負うため、滞納賃料や執行費用を全額請求できます。ただし、保証人も資力がない場合は回収できません。

最も効果的な対策は、家賃保証会社を活用することです。保証会社と契約していれば、滞納が発生しても保証会社が代位弁済してくれるため、家賃収入は確保できます。さらに、保証会社によっては明渡訴訟の費用や強制執行の費用まで負担してくれるサービスもあります。

大家の味方「保証会社が入っていれば賃料保証・明け渡しまで行う」では、保証会社活用のメリットが詳しく紹介されています。

契約書に特約条項を設けることも検討すべきです。訴訟費用や執行費用を賃借人負担とする条項を明記しておけば、後の請求がスムーズになります。ただし、あまりに賃借人に不利な条項は無効とされる可能性もあるため、弁護士に相談して適切な文言を作成することが重要です。

建物明渡しにおける保証会社活用の実務

近年、家賃保証会社の活用が建物明渡し実務において重要性を増しています。保証会社は賃借人の賃料支払いを保証し、滞納が発生した場合には代位弁済を行う仕組みです。

代位弁済とは、賃借人に代わって保証会社が賃貸人に賃料を支払うことです。滞納が発生すると、通常は翌月中旬から下旬にかけて保証会社から賃貸人に入金されます。賃貸人にとっては家賃収入が途絶えないという大きなメリットがあります。

ただし、保証会社が代位弁済したからといって、賃貸借契約が自動的に継続するわけではありません。最高裁判所の判例では、「保証会社から代位弁済されても、賃借人自身が賃料を支払っていない以上、信頼関係は破壊されており、賃貸人は契約を解除できる」と判断されています。

意外ですね。

つまり、代位弁済により賃貸人は金銭的損失を免れますが、賃借人による賃料不払いという契約違反の事実は消えないため、契約解除と明渡請求は可能なのです。この点を理解していないと、「保証会社が払ってくれているから問題ない」と誤解してしまいます。

保証会社の中には、代位弁済だけでなく明渡訴訟の対応まで行ってくれるサービスを提供しているところもあります。具体的には、訴訟費用、弁護士費用、強制執行費用をすべて保証会社が負担し、手続きも保証会社が主導してくれます。賃貸人は費用負担なく明渡しを実現できるため、非常に心強いサービスです。

保証会社を選ぶ際には、保証範囲を確認することが重要です。賃料のみを保証する会社もあれば、原状回復費用や訴訟費用まで保証する会社もあります。保証料は賃料の30%~100%程度が相場ですが、保証範囲が広いほど高額になる傾向があります。

また、保証会社との連携体制も重要です。滞納発生時の連絡体制、代位弁済までの期間、訴訟対応の開始時期などを事前に確認しておくことで、スムーズな対応が可能になります。保証会社によっては、滞納2ヶ月目から自動的に訴訟準備に入るなど、迅速な対応を売りにしているところもあります。

ただし、保証会社を利用していても、賃借人とのコミュニケーションは怠らないことが大切です。滞納の背景には一時的な経済困難や病気など、やむを得ない事情がある場合もあります。早期に状況を把握し、分割払いなどの柔軟な対応を検討することで、訴訟に至らずに解決できるケースもあります。

保証会社の活用は、建物明渡しの費用リスクを大幅に軽減する有効な手段です。新規契約時には可能な限り保証会社を利用し、既存契約についても契約更新のタイミングで保証会社への加入を提案するなど、積極的な活用を検討すべきでしょう。