強制執行の流れと養育費回収の手続き

強制執行の流れと養育費回収の手順

公正証書がないと差し押さえできないと思い込んでいませんか?

📋 この記事の3ポイント要約
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債務名義なしでは強制執行不可

調停調書・判決・強制執行認諾文言付公正証書のいずれかが必須。単なる離婚協議書では法的手続きが取れません

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養育費は給与の2分の1まで差押可能

通常債権は4分の1だが養育費は特例で手取りの2分の1まで差押え可能。将来分も継続して回収できる点が大きなメリット

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不動産賃料も差押対象になる

給与だけでなく家賃収入など継続的な債権も対象。不動産業に関わる財産情報の把握が回収成功の鍵

強制執行の養育費回収における基本的な手続きの流れ

 

養育費の未払いが発生した際、強制執行は法的に認められた有効な回収手段となります。不動産業に従事する方が元配偶者から養育費を受け取れない状況に直面した場合、まず理解すべきは強制執行の全体的な流れです。

強制執行を開始するには、まず「債務名義」と呼ばれる公的な書類が必要になります。債務名義とは、養育費の支払い義務が明確に記載された法的効力のある文書のことです。具体的には、家庭裁判所での調停調書、確定判決、強制執行認諾文言が付いた公正証書などが該当します。つまり、単なる口約束や私的な離婚協議書では、強制執行の手続きを開始できません。

債務名義を取得した後の手続きは、相手の財産を特定し、地方裁判所に強制執行の申立てを行うという流れになります。申立てが受理されると、裁判所から差押命令が発令され、相手の勤務先や金融機関などの第三債務者に送達されます。差押命令が送達されてから1週間以内に相手から異議申立てがなければ、直接第三債務者から養育費を取り立てることが可能になるのです。

この一連の流れは、想像以上にシンプルです。

ただし、不動産業従事者として知っておくべき重要なポイントがあります。それは、相手の財産情報を正確に把握しておくことの重要性です。勤務先が不明、銀行口座が分からない、不動産の所有状況が把握できていないといった状況では、強制執行の申立て自体が困難になります。離婚時や養育費の取り決め時に、できるだけ詳細な財産情報を記録しておくことが、将来の回収成功率を大きく左右します。

強制執行に必要な債務名義の取得方法と費用

債務名義がない状態で養育費を取り決めていた場合、まず家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てる必要があります。調停では、調停委員を交えて養育費の金額や支払い方法について話し合いを行います。双方が合意に至れば調停調書が作成され、これが債務名義として機能するのです。

調停の申立てにかかる費用は、子ども1人につき収入印紙1200円と、郵便切手代約1000円程度です。つまり、子どもが2人いる場合でも3400円程度で債務名義を取得できます。これは、不動産業で扱う契約書作成費用と比較しても、かなり低コストと言えるでしょう。

調停で合意に至らなかった場合は、自動的に審判手続きに移行します。審判では裁判官が双方の収入や子どもの年齢などを考慮して、養育費の金額を決定します。この審判も確定すれば債務名義となり、強制執行が可能になります。

費用は調停と同様で、追加負担はありません。

離婚時に強制執行認諾文言付き公正証書を作成していた場合は、調停や審判を経ずに直接強制執行が可能です。公正証書の作成費用は養育費の総額によって変動しますが、一般的には1万円から3万円程度となっています。不動産取引における公正証書作成と同様、公証役場で手続きを行います。

債務名義取得の段階で弁護士に依頼する場合、着手金として10万円から30万円程度が相場です。しかし、調停や審判は本人でも申立て可能なため、費用を抑えたい場合は自力での手続きも検討できます。裁判所のウェブサイトには詳細な手続きガイドや申立書の書式が公開されており、不動産業で契約書類に慣れている方であれば、十分対応可能な内容となっています。

裁判所公式サイト「養育費に関する手続」では、債務名義取得の詳しい手順と必要書類が確認できます。

養育費の強制執行で差し押さえできる財産の種類

強制執行で差し押さえ可能な財産は、大きく分けて「債権」「不動産」「動産」の3種類があります。不動産業従事者として特に理解しておくべきは、不動産関連の財産がどのように差押えの対象となるかです。

まず最も効果的なのが給与債権の差押えです。養育費の場合、通常の債権回収とは異なり、手取り給与の2分の1まで差し押さえることができます。例えば、相手の手取りが月30万円であれば、15万円まで差押えが可能です。手取りが66万円を超える場合は、33万円を超える部分について全額差押えができます。

預貯金債権も差押えの対象となります。銀行口座が判明している場合、口座に入っている金額をまとめて差し押さえることが可能です。ただし、差押命令が銀行に届いた時点での残高が対象となるため、タイミングによっては十分な回収ができない可能性もあります。

不動産の差押えも可能ですが、実際に換金するには競売手続きが必要となり、半年以上の期間がかかることが一般的です。相手が不動産を所有している場合、まず法務局で登記情報を取得し、その情報をもとに強制執行を申し立てます。不動産業の知識があれば、登記簿の読み取りや抵当権の状況把握はスムーズに行えるでしょう。

見落としがちなのが賃料債権です。

相手が不動産を賃貸しており、家賃収入を得ている場合、その賃料債権も差押えの対象となります。裁判所の規定によれば、「給料や家賃収入などの継続的に支払われる金銭」は将来分についても差押えが可能とされています。つまり、アパートやマンションを所有して賃貸経営をしている元配偶者の場合、毎月の家賃収入から継続的に養育費を回収できるのです。

この賃料債権の差押えは、不動産業従事者にとって理解しやすい仕組みです。相手が賃貸物件を所有していることが判明している場合、入居者(転借人)を第三債務者として、直接家賃の支払いを受けることができます。不動産業の実務で扱う賃貸借契約の知識が、そのまま強制執行の場面でも活用できる点は大きなアドバンテージと言えます。

強制執行の申立てから取立てまでの実務手順

申立てにかかる費用は、収入印紙4000円と郵便切手代約3000円の合計7000円程度です。これは債権者1名、債務者1名、債務名義1通の場合の標準的な金額となります。不動産取引における登記費用と比較すると、かなり低額な手続き費用と言えるでしょう。

申立てが受理されると、裁判所は相手の財産を調査し、差押えが可能かを判断します。問題がなければ、差押命令が発令され、第三債務者(勤務先や銀行など)に送達されます。相手本人にも差押命令が送達されますが、この時点で勤務先には養育費の未払い事実が知られることになります。

差押命令が第三債務者に送達されてから1週間が経過すると、取立てが可能になります。

給与債権を差し押さえた場合、勤務先に対して直接支払いを請求できます。請求方法は書面で行い、振込先の銀行口座を指定します。不動産業で家賃の集金業務を経験している方であれば、この取立て手続きの流れは理解しやすいでしょう。

重要なのは、養育費の場合、一度の差押えで将来分についても継続して回収できる点です。例えば、月5万円の養育費が未払いとなり、給与を差し押さえた場合、未払い分の回収だけでなく、翌月以降の養育費も自動的に給与から差し引かれて支払われます。この継続性が、養育費の強制執行の最大の特徴であり、メリットなのです。

ただし、相手が退職や転職をした場合、差押えの効力は失われます。その場合は、新しい勤務先を特定して再度強制執行の申立てを行う必要があります。2020年の民事執行法改正により、養育費の債権者は「第三者からの情報取得手続」を利用して、市町村や年金事務所から相手の勤務先情報を取得できるようになりました。この制度により、転職後の勤務先特定が以前より容易になっています。

不動産業従事者が知るべき財産開示手続きの活用法

相手の財産状況が不明な場合、財産開示手続きを利用することができます。これは、裁判所が相手を呼び出して、所有する財産について陳述させる制度です。不動産業従事者として、この制度を理解しておくことで、より効果的な養育費回収が可能になります。

財産開示手続きの申立てには、債務名義が必要です。費用は収入印紙2000円程度で、比較的低コストで利用できます。裁判所が財産開示期日を決定すると、相手は裁判所に出頭し、宣誓の上で自身の財産を開示しなければなりません。不動産、預貯金、給与、式など、すべての財産について申告する義務があります。

この財産開示手続きで重要なのは、虚偽の陳述や出頭拒否に対する罰則が強化されている点です。正当な理由なく出頭しなかった場合や、虚偽の陳述をした場合は、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金という刑事罰が科されます。これにより、相手が財産を隠すことが難しくなっているのです。

財産開示手続きを経ると、「第三者からの情報取得手続」も利用できるようになります。この手続きでは、銀行や証券会社、法務局、市町村などから、相手の財産情報を取得できます。例えば、法務局に申し立てれば、相手が所有する不動産の情報を入手できます。不動産業の知識があれば、取得した登記情報から物件の価値や抵当権の状況を正確に判断し、差押えの優先順位を決めることができます。

銀行に対する情報取得手続きでは、相手がどの銀行に口座を持っているかを調査できます。ただし、具体的な残高までは開示されないため、口座が判明した後に預貯金債権の差押えを申し立てる必要があります。複数の銀行に申し立てることも可能ですが、それぞれに費用がかかるため、効率的な財産調査が求められます。

不動産業に従事している場合、賃貸物件の入居者情報にアクセスできる可能性があります。

もちろん、業務上知り得た情報を私的に利用することは倫理的に問題がありますが、公開情報や適法な調査方法を活用すれば、相手が不動産収入を得ているかどうかを把握するヒントが得られることもあります。例えば、相手が以前話していた投資物件の情報や、SNSでの投稿内容などから、所有不動産を推測することも一つの方法です。

財産開示手続きと第三者からの情報取得手続きを組み合わせることで、以前は困難だった財産調査が可能になりました。特に不動産や賃料収入については、法務局からの情報取得により正確な把握ができるため、不動産業の知識を持つ方にとっては有利な状況と言えるでしょう。これらの制度を適切に活用し、計画的に財産を特定した上で強制執行を申し立てることが、養育費回収の成功率を高める鍵となります。


強制執行の仕方と活用法