特定賃貸借標準契約書の記載事項と重要ポイント解説

特定賃貸借標準契約書の基礎知識と重要事項

標準契約書はオーナーではなく業者を守る設計です。

この記事の3つのポイント
📋

標準契約書は国交省が推奨するひな形

特定賃貸借契約の適正化を図るため、記載すべき項目や条件を網羅した契約書のモデルです

⚖️

借地借家法が適用され業者が保護される

サブリース業者は借主として保護され、家賃減額請求権や契約解除の制限が適用されます

⚠️

違反行為には6か月以下の懲役または50万円以下の罰金

重要事項説明の不実告知や不当な勧誘には厳しい罰則が設けられています

特定賃貸借標準契約書とは何か

 

特定賃貸借標準契約書は、国土交通省が令和2年11月に公表したサブリース契約マスターリース契約)のひな形です。賃貸住宅管理業法の施行に伴い、オーナーとサブリース業者との間で締結される特定賃貸借契約の適正化を図るために作成されました。

この契約書は、賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律第2条第4項に規定する特定賃貸借契約を想定しています。つまり、営利の意思を持って反復継続的に転貸する事業を営むことを目的とした契約が対象です。一時的に第三者に転貸する場合は該当しません。

標準契約書には、契約期間、家賃、敷金、免責期間、修繕費用の分担、転貸の条件、維持保全の実施方法など、特定賃貸借契約で定めるべき重要事項が網羅されています。国交省はこのひな形の活用を推奨していますが、実際の採用状況や普及率については、令和6年度の調査でも具体的な数値は明示されていません。

ただし、この契約書は法的に使用が義務付けられているわけではなく、各事業者が独自の契約書を使用することも可能です。重要なのは、賃貸住宅管理業法で定められた必須記載事項をすべて含んでいるかどうかという点です。

国交省は特定賃貸借契約の普及状況等を踏まえ、今後も必要な見直しを行うとしています。これは業界の実態や課題に応じて、契約書の内容が新される可能性があることを意味します。

国土交通省「サブリース住宅標準契約書について」特定賃貸借標準契約書のダウンロードや解説コメントが確認できます

特定賃貸借標準契約書の必須記載事項と法的根拠

賃貸住宅管理業法第30条では、サブリース業者が特定賃貸借契約を締結する際に、一定の事項を書面に記載して交付することを義務付けています。これらの事項が記載された契約書であれば、当該契約書をもって交付書面とすることができます。

必須記載事項には以下のような項目が含まれます。まず、契約当事者の情報として、マスターリース契約を締結するサブリース業者の商号・名称・氏名・住所が必要です。次に、マスターリース契約の対象となる賃貸住宅の情報を明記します。

契約の核心部分として、契約期間、家賃、敷金その他の金銭の額及び支払い方法を具体的に記載しなければなりません。家賃については、初回の改定日や改定の頻度、改定の条件なども明示することが望ましいとされています。

維持保全に関する事項も重要です。具体的には、乙(サブリース業者)が行う維持保全の実施方法、費用分担のルール、修繕の責任範囲などを詳細に定めます。国交省の標準契約書では、頭書の(6)と(7)でこれらを表形式で整理しています。

転貸の条件についても記載が必要です。転貸借契約において定めるべき事項、契約態様(普通賃貸借か定期賃貸借か)、民泊の可否、敷金の分別管理の方法などを明確にします。

契約の解除に関する条件も必須項目です。これには更新拒絶の通知期間、解約申入れの条件、催告の要否などが含まれます。

これらの記載事項を欠いた契約書を交付した場合、賃貸住宅管理業法違反となり、業務改善命令や登録取消などの行政処分の対象となる可能性があります。

つまり契約書の作成は形式的な作業ではありません。

特定賃貸借標準契約書における借地借家法の適用

特定賃貸借契約には原則として借地借家法が適用されます。これはサブリース業者が「借主」として保護されることを意味し、実務上、オーナーにとって不利な条件となるケースが多いことを理解しておく必要があります。

借地借家法第28条(更新拒絶等の要件)が適用される場合、オーナーが契約の更新を拒絶するには「正当の事由」が必要です。単に「別の業者に変更したい」「自主管理に切り替えたい」という理由だけでは正当事由として認められません。建物の使用を必要とする事情、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況、建物の現況、立退料の提供などを総合的に考慮して判断されます。

借地借家法第32条(借賃増減請求権)も重要な論点です。この条文により、サブリース業者はいつでも家賃の減額を請求できる権利を持ちます。具体的には、①土地又は建物に対する租税その他の負担の増減、②土地又は建物の価格の上昇又は低下その他の経済事情の変動、③近傍同種の建物の借賃との比較、のいずれかにより不相当となったときに減額請求が可能です。

注意すべきは、「空室の増加」や「業者の経営状況の悪化」だけでは減額請求の根拠にならないという点です。あくまで上記①~③の要件を充足する必要があります。

定期建物賃貸借(借地借家法第38条)を選択し、かつ特約で家賃の増減額請求権を排除している場合は、契約期間中の減額請求に応じる必要はありません。

この違いは非常に大きいです。

ただし、定期建物賃貸借とする場合でも、公正証書等の書面により契約を締結すること、契約の更新がなく期間満了により終了することを事前に説明することなど、一定の要件を満たす必要があります。これらの手続きを怠ると、定期建物賃貸借としての効力が認められない可能性があるため注意が必要です。

特定賃貸借標準契約書の重要条項チェックポイント

実務で特定賃貸借契約書を確認する際には、いくつかの重要条項を特に注意深くチェックする必要があります。これらの条項は、後々のトラブルに直結する可能性が高いためです。

家賃改定条項は最も重要なチェックポイントの一つです。標準契約書では、初回の家賃改定日を「本契約の始期から〇年を経過した日の属する月の翌月1日」、2回目以降を「初回の家賃改定日経過後〇年毎」と定める形式になっています。この改定頻度が短すぎる場合、オーナーにとって不利な条件となる可能性があります。

また、家賃改定の協議がまとまらない場合の処理方法も確認が必要です。標準契約書では、協議が整わないときは調停・裁判手続により相当家賃額が決定されると記載されています。

つまり一方的に決まるわけではありません。

免責期間(家賃支払義務発生日)も重要な条項です。標準契約書の頭書(5)では、引渡日から一定期間を「支払い免責期間」として、その間はサブリース業者が家賃を支払わなくてもよいとされています。この期間が長すぎる場合、オーナーの収入に大きな影響が出ます。

修繕費用の分担ルールも詳細に確認すべき項目です。標準契約書では、甲(オーナー)が負担する修繕と乙(サブリース業者)が負担する修繕を頭書(7)で明確に区分しています。ただし、「乙の責めに帰すべき事由(転借人の責めに帰すべき事由を含む)によって必要となった修繕については、甲はその費用を負担しない」という条項があるため、責任の所在が争点になるケースもあります。

敷金の分別管理の方法も確認が必要です。頭書(9)では、サブリース業者が転借人から受け取った敷金を「整然と管理する方法により、自己の固有財産及び他の賃貸人の財産と分別して管理しなければならない」と定めています。この方法が具体的にどのような仕組みになっているのか、業者に確認することが重要です。

中途解約条項の有無も重要なポイントです。標準契約書では中途解約に係る条項の規定がありませんが、実際の契約では禁止期間を設定するケースが多く見られます。賃貸住宅管理業法のFAQでは、「契約で定めた禁止期間内は、借主(管理業者)から同契約を解約することができないこととするのが望ましい」とされています。

特定賃貸借契約における重要事項説明の実施義務

賃貸住宅管理業法第30条では、サブリース業者が特定賃貸借契約を締結しようとするときは、契約締結前に、相手方に対して一定の事項について書面を交付して説明することを義務付けています。この重要事項説明を怠った場合、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金、あるいはその両方が科される可能性があります。

重要事項説明の実施者については、令和6年度の国交省調査によると、最も多くの事業者が「業務管理者」を実施者としており、その割合は31.3%でした。業務管理者以外にも、宅地建物取引士や賃貸不動産経営管理士が説明を行うケースもあります。

説明すべき重要事項には、家賃の減額の可能性が特に重要です。「家賃保証」という言葉の響きから、契約期間中ずっと同じ家賃が保証されると誤解するオーナーも少なくありません。しかし実際には、契約期間中でも家賃が減額される可能性があることを明確に説明する必要があります。

具体的には、「契約で定めた家賃改定日における見直しにより減額または増額の改定となる場合がある」こと、「借地借家法第32条第1項が適用されるため、改定日以外の日でも減額請求ができる」ことなどを説明します。ただし、「空室の増加や経営状況の悪化だけでは減額請求できない」という制限についても正確に伝える必要があります。

契約期間・更新・解除に関する事項も説明義務の対象です。「契約期間中においても、サブリース業者から解約の申入れをすることにより解約できる」ことや、「オーナーからの更新拒絶には借地借家法第28条が適用され、正当事由が必要」であることを説明しなければなりません。

維持保全の実施方法や費用分担についても説明が必要です。どの部分の修繕をオーナーが負担し、どの部分をサブリース業者が負担するのか、緊急時の対応はどうなるのかなど、具体的な内容を伝えます。

借地借家法その他マスターリース契約に係る法令に関する事項の概要も説明事項に含まれます。特に、借地借家法が適用されることにより、オーナーの権利が制限される場面があることを明確に伝える必要があります。

国土交通省は「特定賃貸借契約重要事項説明書<記載例>」を公表しており、これを参考にすることで適切な説明を行うことができます。

賃貸不動産経営管理士協議会「特定賃貸借契約重要事項説明書<記載例>」具体的な説明文言やチェック項目が確認できます

特定賃貸借契約違反の罰則と行政処分のリスク

賃貸住宅管理業法では、特定賃貸借契約に関する違反行為に対して、厳格な罰則と行政処分が定められています。不動産業者としてこれらのリスクを正確に把握しておくことは、コンプライアンス上不可欠です。

最も重い罰則は、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金、あるいはその併科です。この罰則が適用される違反行為には、次のようなものがあります。まず、特定賃貸借契約の締結の勧誘をする際に、相手方の判断に影響を及ぼす重要なものにつき、故意に事実を告げず、または不実のことを告げた場合です。

誇大広告や虚偽広告も厳しく規制されています。家賃、賃貸住宅の維持保全の実施方法、その他の事項について、著しく事実に相違する表示をし、または実際のものよりも著しく優良・有利であると誤認させるような表示をすることは禁止されています。

重要事項説明を行わなかった場合や、説明時に書面を交付しなかった場合も罰則の対象です。また、契約締結時に書面を交付しなかった場合も同様に処罰されます。これらは形式的な手続きと軽視されがちですが、実際には重大な違反行為です。

行政処分としては、業務改善命令、業務停止命令、登録取消処分などがあります。業務改善命令は、業務の運営の改善に必要な措置をとることを命じるもので、違反の程度が比較的軽微な場合に適用されます。

業務停止命令は、1年以内の期間を定めて、業務の全部または一部の停止を命じるものです。この処分を受けると、実質的に事業継続が困難になるケースも少なくありません。

登録取消処分は最も重い行政処分で、賃貸住宅管理業の登録を取り消されることにより、特定賃貸借契約に関する業務を行うことができなくなります。

令和6年時点で、国土交通省は賃貸住宅管理業法に基づく違反行為の申出制度を設けており、オーナーや入居者から違反行為の情報が寄せられた場合には調査を行い、必要に応じて処分を行うとしています。

違反時の経済的損失は罰金だけでなく、業務停止による機会損失、信用失墜による取引先の喪失、登録取消後の再スタートコストなど、多岐にわたります。50万円の罰金という金額自体は大きくないように見えますが、実際の影響ははるかに大きいです。

近年、サブリース契約に関するトラブルが社会問題化したことを背景に、監督官庁の監視も厳しくなっています。特に、家賃保証の仕組みについて誤解を招くような説明や広告については、重点的にチェックされる傾向があります。

コンプライアンスリスクを最小化するには、社内での定期的な研修、契約書・重要事項説明書のダブルチェック体制の構築、顧客とのやり取りの記録保存などの対策が有効です。これらの対策を講じることで、法令違反のリスクを大幅に低減できます。

国土交通省「賃貸住宅管理業法ポータルサイト 制度解説」罰則・監督処分の詳細な一覧表が確認できます

日本法令 貸室賃貸借契約書(タテ書)(B4・10枚) 契約3