NOI計算の基本と利回り
減価償却費をNOI計算に入れると物件評価を大きく見誤ります
NOIとは何か:不動産投資の純営業収益を理解する
NOIはNet Operating Incomeの略称で、日本語では純営業収益または営業純利益と呼ばれます。不動産から得られる賃料収入から、物件の運営に実際にかかった費用を差し引いた金額を指す指標です。
この指標が重要なのは、物件そのものが持つ本来の収益力を測定できるからです。個人の資金調達状況や税務処理方法に左右されない、純粋な物件の稼ぐ力を数値化できます。
計算式は以下の通りです。
$$\text{NOI} = \text{満室想定賃料} – \text{空室損} – \text{運営費} + \text{その他収入}$$
運営費には固定資産税・都市計画税、保険料、管理費、修繕費、水道光熱費などが含まれます。一方で、減価償却費、借入金の返済や利息、所得税などは含みません。現金支出を伴わない費用や、オーナー個人の資金調達状況に依存する費用は除外するのが原則です。
IREM JAPAN(全米不動産管理協会日本支部)の2025年版調査によると、全国の区分単身向け物件の平均NOIは年間約53,751円(1平米あたり月額2,566円)となっています。地域別では関東地方が最も高く、年間53,785円です。
不動産鑑定や収益還元法による物件価格の算定では、このNOIを還元利回り(キャップレート)で割ることで適正価格を導き出します。つまり、NOIは投資判断の根幹となる数値ということですね。
NOI計算で絶対に間違えてはいけない費用項目
NOI計算で最も多い間違いが、減価償却費を運営費に含めてしまうことです。減価償却費は会計上の費用であり、実際の現金支出を伴いません。NOI計算では現金ベースの運営費のみを考慮するため、減価償却費は除外します。
同様に借入金の利息や元本返済も含めません。これらは資金調達方法によって変動する費用であり、物件本来の収益力とは無関係だからです。金融機関の審査や個人の信用状況で借入条件は変わりますが、物件の稼ぐ力は変わらないという考え方です。
もう一つの落とし穴が、大規模修繕費用の扱いです。日常的な修繕費(エアコン交換、水漏れ修理など)は運営費に含めますが、10年に一度の外壁塗装や屋上防水などの資本的支出(CAPEX)は含めません。これらはNCF(正味純収益)を計算する際に別途差し引きます。
IREM JAPANの調査方法を見ると、以下の費用が運営費として計上されています。
📌 運営費に含まれる項目
- 固定資産税・都市計画税(木造は1平米あたり589円+築年数加算)
- 火災保険・地震保険(木造823円/平米、非木造328円/平米)
- 賃貸管理手数料(通常、賃料の3~5%)
- 原状回復工事費用
- 共用部の水道光熱費
- 消防点検費用(一棟物件で年間6万円程度)
- 日常清掃費用
区分マンションの場合、管理費・修繕積立金の扱いが複雑です。管理費は運営費に含めますが、修繕積立金は将来の資本的支出のための積立なので、NOI計算では考慮しません。ただし実際に大規模修繕が実施され積立金を取り崩した場合も、その支出はNOIには反映しないのが原則です。
空室損の計算にも注意が必要です。満室想定賃料に対する実際の空室期間を乗じて算出しますが、フリーレント期間も実質的な空室損として扱います。IREM JAPANの調査では、契約時のフリーレント期間も空室率計算に含まれています。
つまり正確なNOI算出が前提ということですね。
NOI利回りと表面利回りの決定的な違い
表面利回りは「年間賃料収入÷物件価格×100」という単純な計算式で、物件の概略を掴むための指標です。不動産ポータルサイトに掲載される利回りは、ほぼすべてがこの表面利回りになります。
一方、NOI利回りは「NOI÷物件価格×100」で計算され、実際の運営費と空室損を反映した現実的な収益性を示します。同じ物件でも表面利回りとNOI利回りには大きな差が生じます。
具体的な比較例を見てみましょう。
【計算例:1億円の一棟アパート】
📊 表面利回りのケース
- 年間満室賃料:850万円
- 物件価格:1億円
- 表面利回り:8.5%
📊 NOI利回りのケース
- 年間満室賃料:850万円
- 空室損:51万円(空室率6%想定)
- 運営費:170万円(運営費率20%)
- NOI:629万円
- NOI利回り:6.29%
同じ物件でも2.21ポイントの差が生じます。表面利回りだけで判断すると、実際の収益力を30%近く過大評価してしまうことになりますね。
IREM JAPANの2025年調査によると、関東地方の一棟木造物件では平均NOI率が約84%です。これは満室賃料の84%がNOIとして残ることを意味します。表面利回りが10%の物件なら、実質的なNOI利回りは8.4%程度になる計算です。
表面利回りが高い物件ほど、NOI利回りとの乖離が大きい傾向があります。郊外や地方の高利回り物件は、実は空室率が高かったり、管理コストが割高だったりするケースが多いのです。広告に踊る「利回り15%」という数字に飛びつく前に、NOI利回りで冷静に検証する必要があります。
物件の真の収益力はNOI利回りで判断するのが基本です。
NOI率で見る地域別の収益性データ
NOI率とは、満室想定賃料に対するNOIの比率を示す指標です。「どれだけの割合が純収益として手元に残るか」を一目で把握できます。
IREM JAPANが2025年2月に発表した第13回全国賃貸住宅実態調査では、全国3,844物件のデータから地域別・物件タイプ別のNOI率が明らかになっています。この調査は日本賃貸住宅管理協会と共同で実施され、不動産業界で最も信頼性の高いベンチマークデータとされています。
📊 区分単身向け物件のNOI率(2025年版)
- 全国平均:73.07%
- 関東地方:73.09%
- 中部・近畿地方:84.85%
- 北海道・東北:71.42%
- 中国・四国・九州:62.95%
注目すべきは中部・近畿地方の高いNOI率です。大阪府は87.14%と全国トップクラスで、運営費率がわずか12.86%に抑えられています。これは区分所有の管理費が比較的安価であることと、空室率が低いことが要因です。
一方、一棟物件では様相が異なります。
📊 一棟木造物件のNOI率(2025年版)
- 全国平均:81.62%
- 関東地方:83.95%
- 中部・近畿地方:72.63%
- 北海道・東北:76.42%
- 中国・四国・九州:75.70%
一棟物件では関東地方が優位です。東京都の一棟木造は88.34%と極めて高く、運営費率は12.88%に留まります。賃料水準が高いため、固定費の割合が相対的に小さくなるのが理由ですね。
地域の経済規模や人口動態が、NOI率に大きく影響します。東京23区のようなエリアでは空室率が1.85%と低く、賃料も高いため、運営費の比率が下がるのです。
逆に地方都市では空室率が5%を超えることも珍しくありません。福岡県の一棟木造では空室率2.23%、運営費率19.35%でNOI率は79.51%となっています。表面利回りは高く見えても、実際の手取りは意外と少ないケースがあります。
物件選定時は、該当エリアの平均NOI率と比較することが重要です。
上記のサイトでは過去の調査データも閲覧でき、経年変化を追うことができます。長期的な市場動向を把握する上で、貴重な情報源となります。
NOI向上のための実践的な改善策
NOIを向上させるアプローチは、大きく「収入増加」と「費用削減」の2つに分かれます。どちらか一方だけでなく、両面から同時に取り組むことで、最大の効果が得られます。
収入増加の王道は、空室率の改善です。IREM JAPANの調査では、関東地方の区分単身向け物件の平均空室率は1.70%でした。仮に年間賃料が72万円の物件で空室率を5%から2%に改善できれば、年間2.16万円(72万円×3%)の収入増になります。
具体的な空室対策として効果が高いのは、以下の施策です。
🔧 空室率を下げる実践策
- 無料インターネット設備の導入(単身者の必須条件化)
- 宅配ボックスの設置(非対面受取ニーズ対応)
- ペット可物件への転換(需要過多の市場)
- 内装のプチリノベーション(築古物件の差別化)
全国賃貸住宅新聞の2024年調査によると、「無料インターネット」は入居者の8割以上が重視する設備となっており、設置コストは1戸あたり2~3万円程度です。月額500円の負担で空室期間を1ヶ月短縮できれば、年間5~6万円の賃料を守れる計算になります。
費用削減では、固定費の見直しが効果的です。特に火災保険は、複数年契約や一括払いで10~15%の割引が適用されるケースが多くあります。保険料が年間10万円なら、1.5万円の削減になりますね。
管理会社への手数料交渉も検討価値があります。管理戸数が10戸を超える場合、手数料率を5%から4%へ引き下げ交渉できる可能性があります。月額賃料が総額50万円なら、年間6万円のコスト削減です。
もう一つ見逃せないのが、原状回復工事費の適正化です。退去時の工事見積もりを複数社から取ることで、20~30%のコスト削減に成功する事例が多数報告されています。年間2件の退去があり、1件あたり10万円削減できれば年間20万円の改善です。
ただし過度なコスト削減は禁物です。清掃頻度を減らしたり、設備点検を怠ったりすると、かえって入居率が下がり、長期的にNOIを悪化させます。
費用削減の目安は運営費率で判断します。IREM JAPANの調査によると、関東の一棟木造では平均15.55%です。自身の物件がこれを大きく上回っている場合、削減余地があると考えられます。
NOI改善は一度で完結せず、継続的なPDCAサイクルが必要ということですね。
四半期ごとに収支を見直し、ベンチマークデータと比較しながら、改善ポイントを探し続ける姿勢が求められます。
Please continue.

