dcf法 計算式 不動産の評価手法
割引率が1%違うだけで評価額は数百万円も変わります。
dcf法とは不動産評価における割引計算の基本
DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)は、不動産が将来生み出す収益を現在の価値に換算して評価する手法です。企業の財務評価でも用いられる理論をベースにしており、不動産投資や不動産鑑定評価の分野で広く活用されています。
この手法の核心は「将来のお金は現在のお金より価値が低い」という考え方にあります。たとえば、5年後に受け取る100万円は、インフレや投資機会の損失を考えると、今の100万円と同じ価値ではありません。DCF法では、この時間的価値の差を「割引率」を使って調整し、将来の収益を現在価値に変換します。
具体的には、保有期間中に発生する各年の純収益(家賃収入から管理費や税金を差し引いた額)と、保有期間終了時の売却価格(復帰価格)をそれぞれ現在価値に割り引いて合算します。純収益は各年ごとに計算され、経年による家賃下落や空室リスクも織り込むことができます。
計算の基本式は「収益価格=Σ(各年の純収益÷(1+割引率)の年数乗)+(復帰価格÷(1+割引率)の年数乗)」となります。たとえば5年保有を想定する場合、1年目から5年目までの純収益をそれぞれ割り引き、さらに5年後の売却価格も割り引いて、すべてを合計するわけです。つまり収益の時系列変化を反映できるということですね。
不動産鑑定評価基準では、DCF法は連続する複数の期間に発生する純収益および復帰価格を予測し明示することから、収益価格を求める過程について説明性に優れた手法とされています。特に不動産投資信託(REIT)では、保有不動産をDCF法によって鑑定評価することが原則とされており、投資家への透明性を確保する役割も果たしています。
不動産のDCF法について解説する専門記事(中実グループ)では、DCF法の詳細な計算手順や不動産鑑定評価基準での位置づけが解説されています。
dcf法 計算式の構成要素と具体的な算出手順
DCF法の計算に必要な要素は、年間の純収益(NOI)、割引率、保有期間、復帰価格の4つです。それぞれが評価額に直接影響するため、正確な設定が求められます。
年間の純収益は「年間賃料収入-運営費用(管理費、修繕費、固定資産税等)」で算出します。たとえば年間家賃収入が180万円、空室率を15%と見込むと実質収入は153万円、ここから運営費用30万円を引いた123万円が純収益となります。この純収益は、築年数が経過するにつれて家賃下落や空室増加を見込んで減少させていくのが実務的な処理です。
割引率は投資のリスクを反映した利回りで、不動産の場合は一般的に4~7%程度が用いられます。立地が良く賃貸需要の安定した物件なら低め、築古や地方物件ならリスクを見込んで高めに設定します。この割引率が1%変わるだけで、評価額は数百万円単位で変動することがあるため、慎重な判断が必要です。
厳しいところですね。
保有期間は通常5年から10年で設定されることが多く、期間が長いほど遠い将来の収益も計算に含まれます。ただし遠い将来ほど不確実性が高いため、割引の効果も大きくなり、現在価値への影響は相対的に小さくなります。
復帰価格は保有期間終了時の売却想定価格で、「最終年度の純収益÷還元利回り」で求めるのが一般的です。たとえば5年後の純収益が100万円、還元利回りを6%とすると、復帰価格は約1,667万円となります。この復帰価格も、5年分の割引計算を経て現在価値に変換されます。
実際の計算例を示します。年間純収益123万円、割引率5%、5年保有、復帰価格1,667万円とすると、1年目の純収益現在価値は123÷1.05≒117万円、2年目は123÷1.05の2乗≒112万円…と続き、5年間の合計が約532万円。復帰価格の現在価値は1,667÷1.05の5乗≒1,306万円。合計して約1,838万円がDCF法による収益価格です。
結論は約1,838万円ということですね。
不動産投資分析の実践解説(CIGR)では、Excelを使った具体的な計算例が図解付きで紹介されています。
dcf法と直接還元法の違いと使い分けの実務判断
収益還元法には直接還元法とDCF法の2種類があり、物件の特性や評価目的によって使い分けることが重要です。両者の決定的な違いは、計算に用いる純収益の対象期間にあります。
直接還元法は1年間の純収益を還元利回り(キャップレート)で割るだけのシンプルな計算です。「不動産価格=年間純収益÷還元利回り」という式で、たとえば年間純収益が100万円、還元利回り5%なら不動産価格は2,000万円となります。計算が簡単で理解しやすく、安定した収益が見込める物件に適しています。
基本はこれだけです。
一方DCF法は、連続する複数年の純収益と復帰価格を割り引いて合算するため、収益の時系列変化を反映できます。家賃の下落傾向、大規模修繕の予定、空室率の変動など、年ごとに異なる収益パターンを織り込めるのが最大の強みです。精度が高い分、計算は複雑になり、多くのパラメータを設定する必要があります。
使い分けの目安としては、築浅で入居率が高く収益が安定している物件、短期保有を想定する物件には直接還元法が向いています。収益変動が予想される物件、長期保有を前提とする物件、開発型案件など収益発生時期が不規則な物件にはDCF法が適しています。
実務上の注意点として、DCF法は将来予測に依存するため、楽観的なシナリオを設定すると評価額が過大になるリスクがあります。たとえば賃料が将来も下がらないと仮定したり、空室リスクを過小評価したりすると、実際の投資成果との乖離が生じます。保守的な前提で計算することが失敗を避けるコツです。
また、不動産鑑定評価では両方の手法を併用し、結果を比較検討することが推奨されています。直接還元法で大まかな相場感を掴み、DCF法で詳細な収益シミュレーションを行うという使い方が一般的です。
これは使えそうです。
銀行融資の審査では、収益還元法(特にDCF法)が重視されます。将来の収益性を考慮するため、融資額の判断に直結するからです。物件購入時には、売主が提示する価格がDCF法で妥当かを自分で検証することが、割高な物件を掴まないための防衛策になります。
DCF法と直接還元法の違いを解説する記事(小田急不動産)では、両手法の特徴と使い分けの判断基準が詳しく説明されています。
dcf法における割引率設定の影響と失敗を避ける実践知識
割引率の設定は、DCF法で最も重要かつ難易度の高い作業です。割引率が1%違うだけで、評価額が数百万円から数千万円も変動することがあり、投資判断を誤る原因になります。
割引率は本来、投資のリスクに見合った期待利回りを表します。リスクが高い投資ほど高いリターンを要求するため、割引率も高く設定されます。不動産の場合、立地、築年数、テナント属性、市場環境などを総合的に判断して決定します。
具体的な設定方法として、まず無リスク利回り(国債の利回り)を基準にし、そこに不動産特有のリスクプレミアムを上乗せします。たとえば無リスク利回り1.5%に対して、物件リスクを3~5%加算すると、割引率は4.5~6.5%になります。さらに築古物件や地方物件なら、追加で1~2%上乗せすることもあります。
これが原則です。
実務での落とし穴として、割引率を安易に決めてしまうケースがあります。ある業者が「この地域は5%が相場」と機械的に適用すると、個別物件のリスクが反映されず、評価が甘くなります。特に売主側が作成したDCF計算では、低めの割引率を設定して評価額を高く見せる傾向があるため、買主は独自に検証すべきです。
割引率の妥当性を確認する方法として、類似物件の取引事例から逆算する手法があります。実際の売買価格と収益データから、市場が要求している利回り水準を推定し、それを割引率の参考にするわけです。また、複数の割引率でシミュレーションを行い、評価額の変動幅を把握しておくと、リスク管理に役立ちます。
さらに見落としがちなのが、割引率と還元利回り(復帰価格の計算に使う利回り)の整合性です。通常、将来の不確実性を考慮して、還元利回りは割引率より0.5~1%程度高く設定します。この関係が逆転していると、理論的におかしな評価になるため、計算全体の信頼性が失われます。
注意が必要なポイントですね。
プロの不動産鑑定士でも、割引率の設定では判断が分かれることがあります。それほど主観的要素が入りやすい部分なので、透明性を確保するために、設定根拠を文書で残しておくことが重要です。後で検証や説明が必要になった際に、その記録が役立ちます。
DCF法の割引率設定とデメリットを解説する専門記事では、割引率の変動が企業価値や不動産評価に与える影響が詳しく分析されています。
dcf法の計算で見落としやすい復帰価格と実需市場への転換
DCF法の計算において、復帰価格の設定は将来の出口戦略を左右する重要な要素です。しかし多くの実務家が、機械的な計算だけで済ませてしまい、物件タイプごとの市場特性を見逃しています。
復帰価格は通常「保有期間終了時の純収益÷還元利回り」で求められ、これは投資市場での売却を前提とした計算です。ワンルームマンションや大規模商業ビルなど、投資家が主な買い手となる物件では、この方法で問題ありません。
ところが、ファミリータイプの区分マンションや戸建て、築古アパートなど、実需市場(居住目的の購入者)が買い手となる物件では、話が変わってきます。入居中は投資物件として評価されますが、空室になった瞬間に実需市場に切り替わり、投資市場より高値で売れることが珍しくありません。
具体例を挙げると、投資利回りで計算すると2,000万円の区分マンションが、空室後にリフォームして実需市場で売却すると3,000万円になるケースがあります。差額1,000万円は、リフォーム費用100~200万円を差し引いても大きな利益です。この場合、DCF法の復帰価格は実需相場を参考に3,000万円で設定し、リフォーム費用は売却時のコストに計上するのが正しい処理です。
この視点を持つと、一見利回りが低く見える物件でも、実は高収益な投資だったと気づくことがあります。特に都心の築浅ファミリー物件は、レバレッジが効かず、キャッシュフローも薄いため投資家から敬遠されがちですが、実需市場での売却プレミアムを織り込めば、トータルリターンは魅力的になります。
意外ですね。
さらに、入居中の家賃設定も工夫できます。実需売却を前提とするなら、賃貸期間中の家賃収入は二の次で、物件状態を良好に保つことが優先されます。そのため、無理に家賃を上げて空室リスクを高めるより、適正価格で安定稼働させ、退去のタイミングを待つ戦略が合理的です。
ただし、この戦略には注意点もあります。入居者の退去はコントロールできないため、DCF計算では複数のシナリオを用意すべきです。早期退去の場合と長期入居の場合で、それぞれリターンを試算し、最悪ケースでも許容できる投資かを判断します。
実需市場の相場は、不動産流通機構(REINS)や不動産情報サイトで調べられます。同じマンション内や近隣の売却事例を集め、平米単価を比較することで、妥当な復帰価格の目安が得られます。この作業を怠ると、DCF法の精度が大幅に低下するため、必ず実施してください。
必須の作業です。
DCF法の落とし穴と実需転換を解説するコラム(ホームズ)では、賃貸中のファミリー物件における復帰価格の考え方が実例付きで紹介されています。

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