相続税評価額と固定資産税評価額の違い
固定資産税評価額から相続税は計算できない
相続税評価額と固定資産税評価額の基本的な違い
不動産業務では顧客から「相続税評価額と固定資産税評価額って同じですか?」という質問を受けることがあります。結論から言えば、これらは全く異なる評価額です。
目的も決定者も計算方法も異なります。
固定資産税評価額は、固定資産税・都市計画税を課税するための基準となる評価額です。市区町村(東京23区では東京都)が総務大臣の定めた固定資産評価基準に基づいて評価・決定します。納税者が自分で計算する必要はなく、毎年4月から6月の間に送付される固定資産税の課税明細書で確認できます。3年ごとに評価替えが行われ、直近では令和3年度に実施されました。
一方、相続税評価額は、相続税や贈与税を申告するときの基準となる評価額です。固定資産税評価額のように自動的に通知されるものではありません。納税者が自ら財産評価基本通達に沿って計算しなければなりません。国税庁が毎年7月に路線価を公表し、それをもとに評価します。
つまり両者は別物です。
固定資産税評価額は地方税のために市区町村が決定するもので、相続税評価額は国税のために納税者自身が計算するものという違いがあります。不動産業従事者として顧客に説明する際は、この根本的な違いを最初に伝えることが重要です。混同すると相続税の試算を誤り、顧客に不利益を与えるリスクがあります。
評価替えの時期も異なります。固定資産税評価額は3年に1度の評価替えですが、相続税評価額の基準となる路線価は毎年更新されます。このタイミングの違いも理解しておくべきでしょう。
相続税評価額と固定資産税評価額の金額差と計算式
2つの評価額には金額的な差があります。どちらも公示価格を基準に設定されていますが、その割合が異なるためです。
固定資産税評価額は公示価格の約70%、相続税評価額(路線価)は公示価格の約80%を目安に設定されています。
この10%の違いが実務上重要です。
例えば公示価格が5,000万円の土地なら、固定資産税評価額は約3,500万円、相続税評価額は約4,000万円となります。
約500万円の差です。
この関係性を利用すれば、固定資産税評価額から相続税評価額の概算を求めることができます。
計算式は以下のとおりです。
$$\text{相続税評価額の目安} = \text{固定資産税評価額} \times 1.14$$
114%という数値は、80%を70%で割った値です($$80 \div 70 = 1.14$$)。例えば固定資産税評価額が2,000万円の土地なら、$$2,000\text{万円} \times 1.14 = 2,280\text{万円}$$が相続税評価額の目安となります。
あくまで概算です。
実際の相続税評価額は土地の形状や接道状況によって補正が入るため、1.14倍で求めた金額とは異なります。不整形地、奥行が長い土地、間口が狭い土地などは補正率で減額されます。逆に角地や二方路線に面している土地は加算調整があります。
ただし顧客への初期説明や簡易試算では、この1.14倍の計算は非常に便利です。課税明細書さえあれば、電卓一つで相続税評価額の目安を伝えられます。不動産業従事者としてこの計算式を覚えておくと、顧客対応がスムーズになるでしょう。
相続税評価額の土地評価方法|路線価方式と倍率方式
相続税評価額の計算方法は土地と建物で異なります。特に土地は「路線価方式」と「倍率方式」という2つの方法があり、対象地がどちらに該当するかを確認する必要があります。
路線価方式は、主に市街地の宅地で使われる評価方法です。評価対象の土地に接する道路(路線)に付けられている路線価に、土地の面積を乗じて評価します。
計算式は以下のとおりです。
$$\text{相続税評価額} = \text{路線価} \times \text{各種補正率} \times \text{地積}$$
路線価は国税庁のホームページで公開されている路線価図で確認できます。路線価図には「300C」のように数字とアルファベットが記載されており、数字は1㎡あたりの価格(千円単位)、アルファベットは借地権割合を示します。
補正率が重要です。
土地の形状による価値の低下を調整するため、奥行価格補正率や不整形地補正率などを適用します。奥行が一般的な宅地より長い場合や、土地の形状が正方形・長方形でない場合に価値を調整するためです。
一方、倍率方式は路線価が定められていない地域で使われます。
主に郊外や農村部の土地が対象です。
計算式は非常にシンプルです。
$$\text{相続税評価額} = \text{固定資産税評価額} \times \text{倍率}$$
倍率は国税庁が公表する倍率表で確認できます。例えば倍率が1.1で固定資産税評価額が2,000万円なら、相続税評価額は$$2,000\text{万円} \times 1.1 = 2,200\text{万円}$$となります。倍率方式では土地の形状による補正は行いません。その理由は、固定資産税評価額にすでに土地の個別要因が反映されているためです。
評価方式の判定は国税庁のホームページで行えます。
財産評価基準書の路線価図に「倍率地域」と記載があれば倍率方式、路線価が記載されていれば路線価方式です。顧客の所有する土地がどちらに該当するかを確認することが、正確な評価額算出の第一歩となります。
上記リンクから全国の路線価図と評価倍率表を確認できます。
相続税評価額を算出する際の必須ツールです。
相続税評価額における建物の評価方法
建物の相続税評価額は土地と比べて非常にシンプルです。原則として固定資産税評価額と同額で評価します。
つまり以下の式が成立します。
$$\text{建物の相続税評価額} = \text{固定資産税評価額} \times 1.0$$
固定資産税の課税明細書に記載されている建物の評価額がそのまま相続税評価額になります。
追加の計算は不要です。
これは土地とは大きく異なる点で、顧客に説明する際も分かりやすいポイントでしょう。
ただし例外があります。
建物を第三者に貸している場合は、借家権相当額を控除します。貸家の相続税評価額の計算式は以下のとおりです。
$$\text{貸家の相続税評価額} = \text{固定資産税評価額} \times (1 – \text{借家権割合})$$
借家権割合は全国一律で30%です。例えば固定資産税評価額が3,000万円の建物を賃貸している場合、$$3,000\text{万円} \times (1 – 0.3) = 2,100\text{万円}$$が相続税評価額となります。賃貸することで評価額が30%減額されるわけです。
集合住宅では賃貸割合を考慮します。
全戸が賃貸されていれば上記の計算でよいのですが、空室がある場合は実際に賃貸している部分の割合(賃貸割合)を乗じます。
計算式は以下のとおりです。
$$\text{貸家の相続税評価額} = \text{固定資産税評価額} \times (1 – 0.3 \times \text{賃貸割合})$$
賃貸割合が80%なら、$$3,000\text{万円} \times (1 – 0.3 \times 0.8) = 2,280\text{万円}$$となります。なお、被相続人が死亡したときに一時的に空室だった場合でも、継続的に賃貸していた実態があれば賃貸しているものとして扱える場合があります。
親族に無償で貸している場合(使用貸借)では借家権相当額を控除しません。
固定資産税評価額と同額で評価します。
権利関係が発生していないためです。
相続税評価額を減額できる土地の特例と実務ポイント
相続税評価額を減額できる特例がいくつかあります。不動産業従事者として知っておくべき重要な制度が「小規模宅地等の特例」です。この特例を使えば、自宅の敷地や事業用地の評価額を最大80%減額できます。
自宅の敷地(特定居住用宅地等)は330㎡まで80%減額できます。例えば相続税評価額が5,000万円の土地なら、$$5,000\text{万円} \times (1 – 0.8) = 1,000\text{万円}$$で評価できます。
4,000万円も減額です。
ただし適用には要件があり、被相続人と同居していた相続人が取得することなどが条件となります。
事業用地も同様です。
特定事業用宅地等は400㎡まで80%減額、貸付事業用宅地等は200㎡まで50%減額できます。賃貸アパートの敷地も貸付事業用宅地等に該当するため、不動産賃貸業を営む顧客にとって重要な特例でしょう。
この特例を使うかどうかで相続税額が数百万円から数千万円変わることがあります。顧客に土地の相続税評価額を説明する際は、小規模宅地等の特例の存在を必ず伝えるべきです。ただし税理士ではない不動産業従事者が詳細な適用可否を判断することは避け、専門家への相談を勧めることが賢明でしょう。
その他の減額要素もあります。貸宅地・貸家建付地は借地権割合や借家権割合を控除して評価額が下がります。地積規模の大きな宅地(三大都市圏で500㎡以上、その他の地域で1,000㎡以上)も規模格差補正率で減額されます。
騒音・震動が激しい場所、墓地に隣接する土地、土壌汚染がある土地なども評価額を減額できる可能性があります。利用価値が著しく低下している土地は、通常の評価額から10%を引いて評価します。これらの減額要素を見落とすと、顧客は本来より高い相続税を支払うことになってしまいます。
不動産の個別要因を正確に把握することが重要です。
現地調査で土地の形状、接道状況、周辺環境を確認し、減額要素がないかチェックする習慣をつけましょう。顧客からの相談時に「この土地は不整形地なので補正が入りますね」「隣が墓地なので評価減の可能性があります」と伝えられれば、プロフェッショナルとしての信頼が高まります。
固定資産税評価額の調べ方と注意点
固定資産税評価額を調べる方法は主に3つあります。最も簡単なのは、毎年4月から6月に市区町村から送付される固定資産税の課税明細書を確認することです。課税明細書には土地・建物それぞれの固定資産税評価額が記載されています。
課税明細書が見つからない場合は、市区町村の資産税課(東京都の場合は都税事務所)で固定資産評価証明書を取得できます。
手数料は1物件あたり300円程度です。
本人または相続人であれば取得可能で、委任状があれば代理人でも取得できます。
名寄帳も有用です。
名寄帳とは、所有者ごとに市区町村内の全ての固定資産をまとめた一覧表です。複数の不動産を所有している場合、名寄帳を取得すれば一度に全ての固定資産税評価額を確認できます。相続が発生した際に被相続人の全財産を把握するのに役立ちます。
固定資産税評価額には誤りがある場合があります。ごくまれですが、他人の土地が混ざっていたり、地目や面積が間違っていたりすることがあります。課税明細書を確認する際は、地目・面積・住宅用地の特例適用の有無をチェックしましょう。
住宅用地の特例は重要です。
住宅1戸につき200㎡までの部分は、固定資産税評価額に6分の1を乗じた金額を課税標準として税額を計算します。
200㎡を超える部分は3分の1を乗じます。
ただしこの特例は課税標準を減額するだけで、固定資産税評価額自体が減額されるわけではありません。倍率方式で相続税評価額を求める際は、特例適用前の固定資産税評価額を使用します。
誤りを発見したら市区町村に確認しましょう。もし評価額に不服がある場合は、納税通知書の交付を受けた日の翌日から3ヵ月以内に、固定資産評価審査委員会に審査の申出ができます。
不動産業従事者が知るべき評価額の実務活用法
不動産業務において相続税評価額と固定資産税評価額の知識をどう活用すべきでしょうか。顧客対応の実務ポイントをいくつか紹介します。
まず売却相談を受けた際の価格説明です。顧客は「路線価が1,000万円だから、この土地は1,000万円で売れるんですよね?」と誤解していることがあります。相続税評価額(路線価)は公示価格の約80%で、実勢価格は公示価格の1.1〜1.2倍が目安です。つまり路線価を1.25倍から1.5倍した金額が実勢価格の目安となります。
$$\text{実勢価格の目安} = \text{路線価} \div 0.8 \times 1.1 \sim 1.2$$
路線価が4,000万円なら、実勢価格は$$4,000\text{万円} \div 0.8 \times 1.1 = 5,500\text{万円}$$から$$4,000\text{万円} \div 0.8 \times 1.2 = 6,000\text{万円}$$程度が目安です。この説明ができれば、顧客の期待値を適切に調整できます。
相続発生前の顧客には事前試算を提案しましょう。固定資産税の課税明細書さえあれば、1.14倍の簡易計算で相続税評価額の概算を示せます。「おおよそですが、土地の相続税評価額は●●万円程度です。建物は課税明細書の金額がそのまま評価額になります」と伝えられます。
相続後の売却相談では、売却時期が重要です。相続開始から3年10ヶ月以内に売却すれば、相続税の取得費加算の特例が使えます。支払った相続税のうち一定額を譲渡所得の計算上、取得費に加算でき、譲渡所得税を軽減できます。この期限を意識した提案ができれば、顧客にとって大きなメリットとなります。
賃貸提案時には評価減の説明も有効です。「自用地のまま相続するより、賃貸アパートを建てれば土地は貸家建付地として評価が下がり、建物も貸家として30%減額されます」という説明ができます。ただし、相続開始前3年以内に新たに貸付事業を始めた土地は、小規模宅地等の特例で制限がある点も伝える必要があります。
税理士との連携が大切です。
不動産業従事者は税理士ではないため、具体的な税額計算や節税アドバイスは税理士に委ねるべきです。しかし基本的な評価額の仕組みを理解していれば、「この土地の相続税評価額はおおよそ●●円です。詳細は税理士に相談されることをお勧めします」と適切な範囲でアドバイスできます。信頼できる税理士とのネットワークを持つことも、不動産業従事者の重要なスキルでしょう。

