適正価格と法律|業者が守るべき根拠と基準

適正価格と法律の基準

時価80%未満で売買すると贈与税が課される

この記事の3つのポイント
📋

宅建業法で義務付けられた価格根拠の説明

宅建業者は媒介契約時に価格意見の根拠を明示する法的義務があります

⚖️

適正価格の判断基準と税法リスク

時価の80%未満での取引はみなし贈与に該当し高額な課税対象となります

🔍

3つの査定手法と不動産鑑定評価基準

取引事例比較法・収益還元法・原価法による合理的な価格算定方法を解説

適正価格の法的根拠と宅建業法34条の2

 

不動産の適正価格とは、市場で合理的に成立する取引価格のことを指します。しかし、この「適正」という概念は法律で明確に定義されているわけではありません。

宅建業法第34条の2では、宅建業者が媒介契約を締結する際に「売買すべき価額またはその評価額」を書面に記載し、依頼者に交付する義務を定めています。さらに同条第2項では、価額または評価額について意見を述べるときは、その根拠を明らかにしなければならないと規定されているのです。

つまり根拠なしです。

この規定の背景には、不動産取引における価格決定の重要性があります。宅建業者の査定価格は、売買当事者の価格決定に大きな影響を与えるため、合理的な根拠に基づく必要があるということですね。根拠の明示方法は口頭でも書面でも構いませんが、合理性が求められます。

価格査定マニュアルの活用が一般的です。公益財団法人不動産流通推進センターが作成した価格査定マニュアル、またはこれに準じた査定マニュアルを使用することで、合理的な根拠を示すことができます。このマニュアルは国土交通省も認める信頼性の高いツールとなっています。

公益財団法人不動産流通推進センター|価格査定マニュアル

ただし注意が必要なのは、根拠明示のために行った査定作業の費用を依頼者に請求できないという点です。法律上の義務であるため、査定費用は業者側の負担となります。これは業務コストとして認識しておく必要があります。

違反した場合の罰則については、直接的な罰金規定はありません。しかし都道府県知事や国土交通大臣による監督処分の対象となり、業務停止命令などの行政処分を受ける可能性があるため、確実に遵守すべき義務です。

適正価格と不動産鑑定評価法の関係

不動産鑑定評価法は、不動産の鑑定評価に関する専門家である不動産鑑定士と、不動産鑑定業について必要な事項を定めた法律です。この法律の目的は、土地等の適正な価格の形成に資することにあります。

不動産鑑定評価基準では、適正な価格を「市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格」と定義しています。

これが正常価格と呼ばれるものです。

宅建業者が日常業務で行う査定と不動産鑑定士による鑑定評価は、明確に区別する必要があります。不動産鑑定評価法第33条では、不動産鑑定業者の登録を受けない者は、不動産鑑定業を営んではならないと定めています。不動産鑑定業とは、他人の求めに応じ報酬を得て、業として不動産の鑑定評価を行うことを指します。

違反すると重いペナルティです。無登録で不動産鑑定業を営んだ場合、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはこれらの併科という刑事罰が科せられます。宅建業者が査定書を作成する際は、「不動産鑑定評価書ではない」ことを明記し、依頼者に対しても他の目的に利用しないよう要請する必要があります。

取引事例の取り扱いにも注意が必要です。査定のために取引事例を収集する際は、成約価額や成約時期、物件情報など査定に必要な範囲に限定し、取引当事者の氏名などの個人情報は収集してはいけません。また収集した事例は営利目的で第三者に伝達することも禁止されています。

国土交通省|不動産鑑定評価基準(PDF)

不動産鑑定士による正式な鑑定評価が必要なケースもあります。相続税の申告、訴訟での証拠資料、金融機関への担保評価など、法的効力が求められる場面では、国家資格を持つ不動産鑑定士による鑑定評価書が必要です。費用は物件によって異なりますが、一般的に20万円から50万円程度かかります。

適正価格の査定手法と3つの評価方法

不動産の価格査定には、取引事例比較法、収益還元法、原価法という3つの基本的な手法があります。物件の種類や用途によって適切な手法を選択する必要があります。

取引事例比較法は、最も一般的に使用される手法です。査定対象物件と条件が類似する取引事例を複数収集し、立地条件、築年数、間取り、方位などの個別要素を比較検討して価格を算出します。特に居住用マンションや戸建住宅の土地部分の査定に適しています。

この手法のポイントは事例の選定です。売り急ぎや買い急ぎなど特殊な事情がある取引は除外し、正常な市場取引の事例を使用する必要があります。また事例は新しいほど信頼性が高く、一般的には直近6ヶ月以内の成約事例が望ましいとされています。地域差はありますが、対象物件から半径500メートル以内の事例を優先的に使用します。

収益還元法は、投資用不動産の査定に用いられる手法です。その不動産から将来得られる収益を現在価値に割り引いて価格を算出します。賃貸マンション、賃貸オフィスビル、商業施設など、収益を生む物件の評価に適しています。

直接還元法とDCF法の2種類があります。直接還元法は年間純収益を還元利回りで割って価格を求める簡便な方法で、DCF法は将来の各年度のキャッシュフローを個別に割り引いて現在価値を合計する精緻な方法です。投資判断では後者が重視される傾向にあります。

原価法は、主に建物の評価に使用される手法です。対象不動産を再調達するのに必要な原価を求め、そこから築年数に応じた減価修正を行って価格を算出します。戸建住宅の建物部分の査定に適用されることが多い方法です。

再調達原価の算定には、建物の構造、仕様、設備のグレードを詳細に把握する必要があります。木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造など構造によって単価が大きく異なり、使用部材のグレードによっても補正が必要です。減価修正では物理的な劣化だけでなく、機能的・経済的な陳腐化も考慮します。

適正価格と税法上のみなし贈与リスク

不動産取引における適正価格は、税法の観点からも重要な意味を持ちます。特に親族間や同族会社との取引では、みなし贈与のリスクに注意が必要です。

相続税法第7条では、著しく低い価額で財産を譲り受けた場合、時価との差額を贈与により取得したものとみなすと規定しています。

これがみなし贈与です。

実務上、時価の80%未満で取引された場合に「著しく低い価額」と判断される傾向があります。

具体例で考えてみましょう。時価5,000万円の不動産を親から子に3,000万円で売却したケースでは、差額の2,000万円がみなし贈与と認定される可能性があります。贈与税の税率は累進課税で最高55%に達するため、この場合約810万円の贈与税が課される計算になります。

これは大きな痛手ですね。

時価の判定基準は複数あります。相続税法上の時価は、相続税評価額(路線価や固定資産税評価額)ではなく、客観的な交換価値、つまり実勢価格を指すというのが税務当局の見解です。不動産鑑定士による鑑定評価額が最も信頼性が高い時価の証明となります。

国税庁|個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき

回避策としては、適正価格での取引が基本です。親族間売買でも、第三者との通常の取引と同様の価格で売買することで、みなし贈与のリスクを回避できます。不動産鑑定士による鑑定評価を取得し、その価格で取引すれば、税務調査でも説明可能です。鑑定費用は通常30万円から50万円程度かかりますが、将来の課税リスクを考えれば必要な投資といえます。

所得税法との違いにも注意が必要です。所得税法第59条では、時価の2分の1未満で譲渡した場合にみなし譲渡所得課税が発生します。つまり相続税法では時価の80%未満、所得税法では時価の50%未満という異なる基準が存在するのです。

適正価格を決める4つの公的価格の違い

不動産には複数の公的価格が存在し、それぞれ目的や算定方法が異なります。適正価格を判断する上で、これらの違いを理解しておくことが重要です。

公示地価は、国土交通省が毎年3月に公表する標準地の価格です。毎年1月1日時点の正常な取引価格を判定したもので、一般の土地取引の指標となります。全国で約26,000地点が調査対象となっており、不動産鑑定士が2名以上で評価を行います。

実勢価格の目安です。

基準地価は、都道府県が毎年9月に公表する基準地の価格です。毎年7月1日時点の価格を判定したもので、公示地価を補完する役割を持ちます。公示地価が都市計画区域を中心とするのに対し、基準地価は都市計画区域外も含めた約21,000地点を対象としています。

路線価には2種類あります。相続税路線価は国税庁が毎年7月に公表し、相続税や贈与税の課税評価に使用されます。公示地価の約80%の水準に設定されています。一方、固定資産税路線価は市町村が3年ごとに評価替えを行い、固定資産税の課税基準となります。

公示地価の約70%の水準です。

固定資産税評価額は、市町村が決定する土地や建物の評価額で、固定資産税、都市計画税、不動産取得税などの課税標準となります。土地は公示地価の約70%、建物は再建築価格の約50~70%程度が目安とされています。3年ごとに評価替えが行われるため、市場価格との乖離が生じることもあります。

実勢価格との関係を整理すると、以下のようになります。実勢価格を100%とした場合、公示地価・基準地価は約90~100%、相続税路線価は約80%、固定資産税評価額は約70%という関係です。ただしこれは目安であり、地域や市場動向によって変動します。都心部では実勢価格が公示地価を大きく上回るケースもありますし、地方では逆に下回るケースもあります。

査定への活用方法としては、これらの公的価格を参考値として使用します。ただし公的価格はあくまで画一的な基準による評価であり、個別の物件特性を十分に反映していないため、実際の査定では取引事例比較法などと併用する必要があります。特に路線価や固定資産税評価額は評価時点が古い場合があるため、最新の市場動向を加味した補正が不可欠です。

適正価格の説明義務違反と業務リスク

宅建業者が適正価格の根拠説明義務に違反した場合、さまざまなリスクが発生します。法的リスクだけでなく、業務上の信用問題にも発展する可能性があります。

行政処分のリスクが最も直接的です。価格根拠の説明義務違反は宅建業法違反となり、都道府県知事による指示処分や業務停止処分の対象となります。業務停止期間は違反の程度によって異なりますが、1ヶ月から1年の範囲で命じられます。業務停止中は新規の契約締結ができないため、経営に深刻な影響を及ぼします。

損害賠償請求のリスクも無視できません。不適切な価格査定により依頼者が損害を被った場合、民事上の損害賠償責任を問われる可能性があります。例えば過大な査定により売却機会を逃した場合や、過小な査定により安く売却してしまった場合などです。賠償額は数百万円から数千万円に及ぶケースもあります。

信用失墜による業務への影響も深刻です。行政処分を受けた場合、その情報は都道府県のウェブサイトで公開され、業界内でも知れ渡ります。顧客からの信頼を失い、新規顧客の獲得が困難になるだけでなく、既存顧客との取引も解約されるリスクがあります。長年かけて築いた信用が一瞬で失われることも珍しくありません。

具体的な違反事例としては、以下のようなケースがあります。

まず根拠を示さずに価格を提示する行為です。

「だいたいこのくらいです」「感覚的にこの価格です」といった曖昧な説明は認められません。必ず取引事例や査定マニュアルなど、客観的な根拠を示す必要があります。

過度に高い査定で媒介契約を獲得しようとする行為も問題です。いわゆる「高預かり」と呼ばれる手法で、実際には売れる見込みのない高額な査定価格を提示して専任媒介契約を取り、その後徐々に値下げを提案していくやり方です。これは依頼者の利益に反する行為として、業務停止処分の対象となります。

予防策としては、社内チェック体制の構築が有効です。査定書の作成には必ず根拠資料を添付し、上司や別の担当者によるダブルチェックを実施します。特に高額物件や特殊な物件については、複数の査定手法を併用して妥当性を検証することが望ましいでしょう。

継続的な研修も重要です。宅建業法の改正や不動産市場の動向、査定手法の最新情報などについて、定期的に社内研修を実施します。外部の専門家を招いた勉強会や、業界団体が主催するセミナーへの参加も効果的です。知識のアップデートが適切な業務遂行につながります。


価格の決定権を持つ経営