鑑定評価実務指針と改正対応の実務

鑑定評価実務指針の基準

実務指針を使わずに価格評価した書類は無効になる可能性があります。

この記事の3つのポイント
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鑑定評価実務指針の位置付け

日本不動産鑑定士協会連合会が公表する不動産鑑定士が準拠すべき指針で、不遵守の場合は合理的根拠の明示が必須となる

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依頼目的別の実務指針

証券化対象不動産、財務諸表、担保評価、農地など依頼目的に応じた複数の実務指針が存在し、それぞれ特有の留意事項がある

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実務指針違反のリスク

不当な鑑定評価として国土交通大臣から戒告または1年以内の業務停止処分を受ける可能性があり、信頼性確保のため厳格な運用が必要

鑑定評価実務指針の法的位置づけと準拠義務

 

不動産鑑定評価実務指針は、公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会が公表する、不動産鑑定士が実務を行う際に原則として準拠すべき指針です。この実務指針は単なるガイドラインではなく、不動産鑑定評価基準を補完する重要な規範として位置づけられています。

実務指針の最大の特徴は、その準拠義務の強さにあります。不動産鑑定士は鑑定評価業務を行う際、原則としてこの実務指針に従わなければなりません。ただし、準拠できない場合や他の方法によらざるを得ない場合も存在します。その際には合理的な根拠を明示することが義務付けられており、単に無視することは許されません。

平成26年の不動産鑑定評価基準改正に対応して策定された実務指針は、特に建物の個別的要因、調査範囲等条件、未竣工建物等鑑定評価、特定価格、継続賃料など、実務上特に留意すべき事項について詳細に記載しています。全ての実務に対応しているわけではありませんが、記載のない事項については従来からの実務慣行や基準に従うこととされています。

実務指針には評価の適正さを確認するための指針としての役割もあります。これは鑑定評価を活用する依頼者や市場関係者にとって、評価の信頼性を判断する参考資料にもなるということです。

不動産鑑定業界では、この実務指針を遵守しないことで懲戒処分を受けた事例も複数報告されています。国土交通省から戒告や業務停止処分を受けたケースでは、重要な評価条件を鑑定評価書に記載しなかった、ドラフトとして鑑定評価額を依頼者に提示したなどの事例が確認されています。

つまり実務指針は業務の質を守るものですね。

また、連合会の倫理規定においても価格等調査ガイドラインを遵守しなければならないとされており、違反した場合は懲戒の対象となり得ます。これは業界全体の信頼性を維持するための重要な仕組みといえます。

鑑定評価実務指針の種類と依頼目的別の適用

不動産鑑定評価実務指針には、基本となる「不動産鑑定評価基準に関する実務指針」のほかに、依頼目的や対象不動産の特性に応じた複数の実務指針が存在します。実務では依頼内容によって適用すべき実務指針が異なるため、正確な理解が不可欠です。

主な実務指針として、まず「証券化対象不動産の鑑定評価に関する実務指針」があります。これは資産流動化法や投資信託法などに規定する取引の対象となる不動産の鑑定評価に適用されます。J-REITなど証券化対象不動産の評価が増加したことを受けて整備されたもので、未竣工建物等鑑定評価や継続評価における特有の留意事項が定められています。

証券化実務指針と略称されます。

次に「財務諸表のための価格調査に関する実務指針」は、企業の貸借対照表に記載される不動産の価額決定の指標として利用される評価に適用されます。財務諸表作成に関連する評価では、会計基準との整合性が重視されるため、特有の手続きや記載事項が求められます。

財表実務指針と呼ばれています。

「担保不動産の鑑定評価に関する実務指針」では、金融機関が担保権を設定する不動産の評価における留意点が示されています。担保評価では原則として調査範囲等条件を設定してはならないなど、厳格な要件が定められています。

「農地の鑑定評価に関する実務指針」は、自作地、農業施設地、農地利用権、底地(農地)などの類型に応じた評価手法を示しています。農地は一般の宅地とは異なる特性を持つため、専門的な実務指針が必要とされます。

「所有者不明土地の利活用のための地域福利増進事業に係る鑑定評価等に関する実務指針」は、令和5年3月に制定された比較的新しい実務指針です。社会問題となっている所有者不明土地への対応として整備されました。

さらに「価格等調査ガイドラインの取扱いに関する実務指針」は、鑑定評価基準に則らない価格等調査を行う場合の手順や成果報告書の記載事項を定めています。

価格等調査GL実務指針と略されます。

これらの実務指針は相互に関連しており、例えば証券化対象不動産の評価であっても、基本となる「不動産鑑定評価基準に関する実務指針」の内容を理解した上で、証券化実務指針の特有事項を加味する必要があります。依頼目的を正確に把握し、適切な実務指針を選択することが評価の信頼性を担保する第一歩となります。

鑑定評価実務指針における建物評価の留意点

平成26年の不動産鑑定評価基準改正では、建物に関する個別的要因が大幅に見直されました。実務指針では建物の各用途に共通する価格形成要因を再整理するとともに、住宅、事務所ビル、商業施設、物流施設の用途ごとに留意すべき価格形成要因を明確化しています。

建物の各用途に共通する個別的要因として、建築の年次、面積・高さ・構造・材質、設計・設備等の機能性、施工の質と量、耐震性・耐火性等の性能、維持管理の状態、有害な物質の使用の有無及びその状態、建物とその環境との適合の状態、公法上及び私法上の規制・制約等が挙げられます。

特に重要なのが建物の性能評価です。耐震性については昭和56年の建築基準法施行令改正以降の新耐震基準に基づくものか、それ以前の基準に基づくものかによって、還元利回りや割引率の査定上、大きな差が生じています。さらに平成25年11月施行の「建築物の耐震改修の促進に関する法律の一部改正」では、旧耐震基準建築物のうち多数の不特定者が利用する大規模な建物について耐震診断の実施及び報告が義務づけられ、その結果が公表されることとなりました。

設計・設備等の機能性では、東日本大震災以降、防災対策や省エネルギー対策に関する設備の状況が着目されるようになっています。防災対策としては非常用電源や自家発電設備の有無とその稼働持続時間、非常用井戸の設置、帰宅困難者のための備蓄状況などが評価対象となります。

省エネルギー対策の設備としては、LED照明、自然採光システム、空調負荷軽減システムなどが挙げられます。また環境性能を示す指標として、CASBEE(建物環境総合評価システム)、LEED、DBJ Green Building認証などがあり、これらの格付けが個別不動産の市場価格形成に影響を及ぼすことがあります。

これらは市場で重視されています。

CASBEE評価では「Sランク(素晴らしい)」から「Cランク(劣る)」までの5段階のランキングが与えられ、建築物の環境品質と環境負荷の両面から評価されます。このような第三者評価は、テナント誘致や売却時の価格形成に有利に働くケースが増えています。

維持管理の状態は、建物の減価の度合いや将来見込まれる修繕費用の多寡に影響します。屋根、外壁、床、内装、電気設備、給排水設備、衛生設備、防災設備等の破損・老朽化状況及び保全状態を丁寧に確認することが求められます。適切な維持管理がなされている建物は経年劣化が抑制され、評価額にプラスの影響を与えます。

有害な物質の使用状況では、建築資材としてのアスベストの使用の有無及び飛散防止等の措置の実施状況、ポリ塩化ビフェニル(PCB)の使用状況及び保管状況に特に留意が必要です。対策工事費等の要否や多寡が価格形成に大きな影響を及ぼす可能性があるためです。

公法上及び私法上の規制・制約等については、増改築や用途変が行われている場合、現状の建築基準法等の法令に不適合な建物となっている可能性があります。古い建物の評価では既存不適格建築物に該当するか否かの確認が重要です。法令遵守状況は建物の利用可能性や将来の増改築の可否に直結するため、慎重な調査が不可欠といえます。

日本不動産鑑定士協会連合会の公式サイトでは、最新の実務指針が公開されています。

日本不動産鑑定士協会連合会 実務指針ページ

鑑定評価実務指針の改正動向と押印廃止への対応

不動産鑑定評価実務指針は、社会情勢の変化や法令改正に応じて定期的に見直しが行われています。最近の重要な改正として、令和3年11月24日に実施された押印廃止に伴う実務指針の一部改正があります。

この改正は「不動産の鑑定評価に関する法律」の改正に伴うもので、令和3年9月1日より不動産鑑定士又は不動産鑑定士補による鑑定評価書への押印が廃止されました。これに対応して「不動産鑑定評価基準に関する実務指針」「証券化対象不動産の鑑定評価に関する実務指針」「財務諸表のための価格調査に関する実務指針」などの複数の実務指針が一部改正されました。

押印廃止は行政手続のデジタル化推進の一環として実施されたものですが、実務上は署名による本人確認が引き続き求められます。鑑定評価書の信頼性確保のため、不動産鑑定士の署名は必須要件として残されています。この改正により書類作成の効率化が図られた一方で、本人確認の厳格性は維持されているということです。

平成26年11月の不動産鑑定評価基準改正では、多様化する鑑定評価ニーズを踏まえた大規模な見直しが行われました。特に建物の用途別価格形成要因の明確化、未竣工建物等鑑定評価の規定整備、特定価格の定義見直し、継続賃料評価手法の充実などが主な改正内容でした。実務指針はこの改正に対応する形で策定されており、平成26年11月1日以降に契約を締結する鑑定評価から適用されています。

さらに平成29年改正部分については平成29年12月1日以降に契約を締結する鑑定評価から適用されるなど、段階的な施行が行われてきました。これらの改正は遡及適用されないため、評価の基準時点がいつであるかを正確に把握し、その時点で有効な基準と実務指針を適用する必要があります。

基準時点の確認が重要です。

国土交通省では、不動産鑑定評価基準等の見直しを継続的に検討しています。市場環境の変化や新たな評価ニーズの出現に応じて、今後も実務指針の改正が予想されます。不動産鑑定士は常に最新の実務指針を確認し、改正内容を正確に理解して実務に反映させることが求められます。

実務指針の改正情報は日本不動産鑑定士協会連合会のウェブサイトで公表されるため、定期的にチェックする習慣をつけることが望ましいでしょう。改正内容を見逃すと不適切な評価となるリスクがあり、場合によっては懲戒処分の対象となる可能性もあります。業務の品質維持のため、継続的な学習と情報収集が不可欠です。

鑑定評価実務指針と不当評価による懲戒処分の実態

不動産鑑定評価実務指針を遵守しない場合、不動産鑑定士法に基づく懲戒処分の対象となる可能性があります。国土交通省が定める「不当な鑑定評価等及び違反行為に係る処分基準」では、実務指針に準拠しない評価が不当な鑑定評価として扱われるケースが明示されています。

懲戒処分の種類は、不動産の鑑定評価に関する法律第40条に基づき、戒告または1年以内の期間を定めた鑑定評価等業務の停止があります。不動産鑑定士が相当の注意を怠り不当な鑑定評価等を行ったときに国土交通大臣が処分を行うもので、処分内容は官報に公告されるとともに公表されるため、社会的信用を大きく損なう結果となります。

過去の懲戒処分事例を見ると、重要な評価条件を鑑定評価書に記載しなかった、ドラフトとして鑑定評価額等を依頼者に提示してしまった、鑑定評価書の個別的要因の説明が稚拙で対象不動産の確定・確認の説明が不十分であった、評価手法において不動産鑑定評価基準に適切に準拠していなかったなどのケースが報告されています。

不当な鑑定評価の判断基準として、当該不動産鑑定士等による評価額と対象不動産の近傍にある地価公示標準地や都道府県地価調査基準地の価格との乖離率が用いられます。乖離率が一定以上の場合、評価の適正性が疑われ、調査の対象となります。

乖離率は客観的指標です。

また、不動産鑑定士が価格等調査を行う場合でも、価格等調査ガイドラインを遵守しなければならないとされており、これに違反した場合も懲戒の対象となり得ます。連合会の倫理規定においても価格等調査ガイドラインの遵守が義務付けられているため、鑑定評価だけでなく価格等調査においても注意が必要です。

懲戒処分を受けると、日本不動産鑑定士協会連合会の正会員としての活動にも制限が生じます。例えば指導鑑定士の要件として「法40条1項又は2項(不当な鑑定評価等)に基づく懲戒処分を受けた日から起算して3年を経過していない者でないこと」が定められており、処分後一定期間は重要な役割を担うことができなくなります。

不当な鑑定評価による損害は依頼者のみならず、その鑑定評価書を信頼した第三者にも及ぶ可能性があります。特に証券化対象不動産や財務諸表のための評価では、投資家や株主など多数の利害関係者が存在するため、評価の誤りが重大な経済的損失を招くリスクがあります。

実務指針の遵守は単なる形式的な手続きではなく、評価の信頼性を担保し、依頼者や市場参加者を保護するための実質的な要件といえます。不動産鑑定士には高度な専門性と倫理観が求められており、実務指針に準拠した適正な評価を行うことが職業的責務となっています。

処分リスクを意識すべきです。

国土交通省の不動産鑑定業に関するページでは、処分基準や過去の処分事例が公表されています。

国土交通省 不当な鑑定評価等及び違反行為に係る処分基準(PDF)

企業会計のための時価評価