指導監督と補導援護の違い
補導援護の住居確保支援が成功しても家賃滞納リスクは消えません
保護観察制度における指導監督と補導援護は、犯罪をした人や非行のある少年が社会で更生するために不可欠な2つの柱です。不動産業に従事する方にとって、この違いを理解することは、保護観察対象者や刑余者(刑務所出所者)への住居提供において極めて重要な意味を持ちます。
令和元年の統計によれば、刑務所入所者の17.6%が犯行時に住居不定でした。累入者(再入所者)に限れば21.3%に上ります。住居が確保できないことが再犯につながる大きな要因となっているのです。この社会課題の解決に、不動産業者の協力が求められています。
指導監督と補導援護は更生保護法第57条と第58条にそれぞれ規定されており、保護観察の実施方法として車の両輪の関係にあります。指導監督は公権力の行使を背景とした心理規制的な側面を持ち、補導援護は福祉的・援助的措置の側面を持つという対照的な性格を持っています。
不動産業者が直接関わるのは主に補導援護の領域です。補導援護には適切な住居の確保支援、医療・療養の援助、職業補導と就職支援、生活環境の改善・調整などが含まれます。このうち住居確保は最も基本的かつ重要な要素とされています。
指導監督の基本的な内容と目的
指導監督は、保護観察対象者が再び犯罪や非行に陥らないよう、その行動を把握し必要な指示を与える活動です。
更生保護法第57条に基づき実施されます。
具体的には、面接その他の適当な方法により保護観察対象者と接触を保ち、その行状を把握することが基本となります。月に数回の面接を通じて、対象者がきちんと生活しているか、仕事に就いているか、問題を抱えていないかを確認するのです。
つまり見守りですね。
保護観察対象者には一般遵守事項と特別遵守事項が定められています。一般遵守事項には「再び犯罪をしないよう健全な生活態度を保持すること」「保護観察官や保護司の呼出しに応じること」などが含まれます。特別遵守事項は個別の事情に応じて設定され、例えば「特定の場所への立入禁止」「薬物使用の禁止」「被害者への接近禁止」などが定められることがあります。
指導監督には専門的処遇プログラムの実施も含まれます。薬物依存者には薬物再乱用防止プログラム、性犯罪者には性犯罪者処遇プログラム、暴力団離脱者には暴力団離脱指導プログラムなど、犯罪的傾向に応じた専門的な教育が行われます。令和元年には約2万9千人が保護観察を受けており、これらの対象者全員に指導監督が実施されているのです。
遵守事項違反があった場合には警告が発せられ、改善が見られない場合は少年院への送致や仮釈放の取消しといったサンクション(制裁)が科されることもあります。この点が指導監督の権力的性格を示しています。対象者にとっては強制力を持つ指導ということですね。
法務省の保護観察所ページでは、指導監督の具体的な方法について詳しい説明があります。保護観察制度の全体像を理解する上で有用な情報源です。
補導援護の具体的な支援内容
補導援護は、保護観察対象者が自立した生活を営むことができるよう支援する福祉的な活動です。更生保護法第58条に7つの方法が規定されています。
第一に、適切な住居その他の宿泊場所を得ること及び当該宿泊場所に帰住することを助けることです。これが不動産業者と最も関連の深い部分になります。刑務所出所時に帰る場所がない人は少なくありません。令和元年には3,381人が住居が確保されないまま満期釈放されました。また、仮釈放の申出がなされない理由の44.0%が「住居調整不良」であるというデータもあります。
第二に、医療及び療養を受けることを助けることです。精神障害を抱える受刑者は14.8%に上り、適切な医療につなげることが再犯防止に不可欠です。保護観察官や保護司が医療機関への同行支援を行うこともあります。
第三に、職業を補導し及び就職を助けることです。刑務所再入所者の70.9%が無職者であったというデータが示すとおり、就労支援は極めて重要です。ハローワークとの連携による「刑務所出所者等総合的就労支援対策」が平成18年から実施されており、専用窓口が設置されています。
住居なくして就労なしというのが実情です。
第四に、教養訓練の手段を得ることを助けることです。対象者のスキルアップや資格取得を支援し、社会復帰を促進します。第五に、生活環境を改善し及び調整することです。不健全な交友関係からの離脱や家族関係の修復などが含まれます。
第六に、社会生活に適応させるために必要な生活指導を行うことです。生活リズムの確立、金銭管理、食生活の改善など、基本的な生活スキルの習得を支援します。刑余者の多くは長期の収容生活により社会生活スキルが低下しているため、こうした指導が不可欠なのです。
第七に、前各号に掲げるもののほか、保護観察対象者が健全な社会生活を営むために必要な助言その他の措置をとることです。
包括的な規定ですね。
更生保護法第58条には補導援護の法的根拠と具体的方法が明記されています。不動産業者が支援に関わる際の法的な位置づけを確認できます。
指導監督と補導援護の実施主体と役割分担
指導監督と補導援護は、保護観察官と保護司が協働して実施します。ここで注意すべきは、「保護観察官が指導監督を行い、保護司が補導援護を行う」という役割分担は法律上明記されていないという点です。
保護観察官は法務省の職員で、令和6年1月時点で1,376人が配置されています。専門的な知識と権限を持ち、保護観察所に勤務しています。一方、保護司は民間の篤志家で、法務大臣から委嘱されたボランティアです。全国に約4万7千人が活動しており、地域の実情に通じた立場から対象者を支援します。
両者は指導監督と補導援護の両方を実施します。更生保護法第61条は「保護観察における指導監督及び補導援護は、保護観察対象者の特性、とるべき措置の内容その他の事情を勘案し、保護観察官又は保護司をして行わせるものとする」と規定しています。つまり、ケースバイケースで柔軟に担当を決めるということですね。
実務上は、専門的処遇プログラムなど高度な専門性を要する指導監督は保護観察官が中心となり、地域密着型の面接や日常的な見守りは保護司が担当することが多くなっています。補導援護については、住居確保や就労支援など外部機関との調整が必要な場合は保護観察官が主導し、日常的な生活指導は保護司が行うという分担が一般的です。
不動産業者が保護観察対象者の住居探しに協力する場合、窓口となるのは保護観察所の保護観察官です。ただし、実際に対象者に同行して物件を見学したり、入居後の見守りをサポートするのは保護司であることも多くあります。
連携先を明確にしておくことが重要です。
令和2年度の資料によれば、更生保護施設入所者の76.7%が自立先の確保で困ったことがあると回答し、そのうち93.7%が「保証人が確保できない」ことを困った理由に挙げています。こうした課題に対応するため、保護観察官と保護司が協力して不動産業者や居住支援法人との連携を強化しているのです。
不動産業者が関わる補導援護の住居確保支援
不動産業者が保護観察対象者や刑余者の住居確保に協力する場合、補導援護の一環として重要な役割を果たすことになります。住居は就労や福祉サービス利用の大前提となるため、その確保は再犯防止の要と位置づけられています。
保護観察所では「生活環境調整」として、出所前から対象者の帰住予定地の調査と環境整備を行います。しかし、家族が受け入れを拒否したり、そもそも頼れる人がいないケースも多く、その場合は更生保護施設や自立準備ホームへの一時的な入所となります。全国に103の更生保護施設があり、大半が20名定員で数か月間の収容保護を行っています。
自立準備ホームはNPO法人等が管理する施設で、令和2年4月時点で703か所が登録されています。これらは一時的な居住支援であり、最終的には民間賃貸住宅への入居が目標となります。
ここで不動産業者の協力が必要になるのです。
実際の支援では、保護観察所の職員や更生保護施設の職員が対象者に同行して不動産会社を訪問します。不動産会社には対象者が刑余者であることが伝わるため、理解と協力が求められます。大家や管理会社の中には入居を拒否するケースもありますが、近年は住宅セーフティネット制度の下で、住宅確保要配慮者として保護観察対象者も支援対象に含まれるようになりました。
家賃債務保証の問題も大きな課題です。保証人を確保できない対象者が大半であるため、居住支援法人による家賃債務保証サービスの活用が有効です。国土交通省は保護観察対象者であることを承知して住居を提供する場合、法務省による継続的支援が受けられることを周知しています。つまり入居後のトラブル時には保護観察所が対応してくれるということですね。
不動産業者が協力するメリットとして、居住支援法人として指定を受ければ行政からの支援や情報提供が受けられること、社会貢献として企業イメージの向上につながること、空き家や空室の有効活用ができることなどがあります。一方で、家賃滞納リスクや近隣トラブルのリスクも考慮する必要があります。
国土交通省の刑余者支援資料では、不動産業者が関わる際の具体的な課題と対応策が示されています。居住支援協議会との連携方法についても参考になる情報が掲載されています。
指導監督と補導援護を理解した不動産実務のポイント
不動産業者が保護観察対象者の住居支援に関わる際、指導監督と補導援護の違いを理解していると、適切な対応とリスク管理が可能になります。
実務上押さえるべきポイントを整理します。
まず、入居審査の段階では、対象者が保護観察中であることが保護観察所から伝えられます。この時点で指導監督を受けている、つまり定期的な面接と行動確認が行われていることを理解しておくことが重要です。遵守事項違反があればサンクションが科されるため、一定の抑止力が働いているということですね。
契約時には、保護観察所との連絡体制を確認します。補導援護の一環として住居を提供することになるため、トラブル発生時には保護観察官や保護司に連絡できる体制を整えておきます。連絡先を明確にすることで安心感が生まれます。
入居後の見守りについては、保護司が定期的に訪問することが多くあります。
これは補導援護の生活指導の一環です。
不動産管理会社としても、通常の入居者対応に加えて、気になる点があれば保護観察所に情報提供することで、早期対応が可能になります。
孤立を防ぐことが再犯防止につながるのです。
家賃滞納が発生した場合、通常の督促に加えて保護観察所にも連絡します。補導援護の一環として金銭管理の指導が行われることがあります。また、生活保護受給者の場合は住宅扶助が直接家賃として支払われる「代理納付」制度の活用も検討できます。
福祉事務所との連携も重要です。
近隣トラブルが発生した場合も、保護観察所への速やかな連絡が有効です。指導監督の一環として、対象者に適切な行動を促す指導が行われます。場合によっては遵守事項に「近隣住民とのトラブルを起こさないこと」が追加されることもあります。
法的な後ろ盾があるということですね。
就労支援との連携も視野に入れます。補導援護には職業補導と就職支援が含まれており、保護観察所はハローワークや協力雇用主と連携しています。安定した就労が確保されれば家賃支払いの安定性も高まるため、就労状況について保護観察所と情報共有することも有効です。
退去時の対応では、敷金精算や原状回復費用の負担について、通常通りの契約に基づいて処理します。ただし、経済的に困窮している場合は保護観察所に相談することで、分割払いなどの調整が可能になることもあります。柔軟な対応が次の住まいへの移行を円滑にします。
不動産業者として理解しておくべき最も重要な点は、指導監督により対象者の行動が定期的にチェックされており、補導援護により生活全般のサポートが提供されているという二重の支援体制が機能しているということです。この仕組みを知っていれば、過度に不安を感じることなく、社会貢献の一環として住居提供に協力できるでしょう。
居住支援法人への登録を検討する際には、都道府県の居住支援協議会に問い合わせることをお勧めします。研修や事例共有の機会もあり、ノウハウを学びながら支援活動を始められます。不動産業としての新たな事業領域として、刑余者支援は今後ますます重要性を増していくと考えられています。

