取得費減価償却計算方法を正確に把握する
事業用と非事業用では耐用年数が1.5倍違います。
取得費における減価償却費の基本的な考え方
不動産を売却して利益が出た場合、譲渡所得税が課税されます。この譲渡所得を計算する際に必要となるのが「取得費」の正確な把握です。土地は時間が経過しても価値が減少しない資産として扱われるため、購入時の金額がそのまま取得費となります。
一方、建物は年月の経過とともに価値が減少していくと考えられています。どういうことでしょうか?建物は雨風にさらされ、設備が老朽化し、物理的な劣化が進行するためです。
そのため建物の取得費を計算する際には、購入代金から「減価償却費相当額」を差し引く必要があります。減価償却費とは、建物の価値減少分を数値化したものです。この計算を正確に行わないと、譲渡所得を過少申告してしまい、後から税務署に指摘されて追徴課税を受けるリスクがあります。逆に過大に計上してしまうと、本来より多くの税金を支払うことになり、数十万円から数百万円の損失につながる可能性も出てきます。
取得費の計算は不動産売却における税金対策の要です。特に不動産業に従事する方は、顧客に正確なアドバイスをするためにも、この計算方法を完全に理解しておく必要があります。
国税庁のタックスアンサーでは、建物の取得費計算について明確な指針が示されています。
取得費の減価償却計算における具体的な算出式
建物の減価償却費を計算する方法は、その建物が「事業用」として使われていたか「非事業用(マイホームや別荘など)」として使われていたかで大きく異なります。この区別を間違えると、計算結果に大きな差が生まれてしまいます。
非事業用不動産の計算式は以下の通りです。
減価償却費=建物の取得価額×0.9×償却率×経過年数
この式に含まれる「0.9」という数値には重要な意味があります。残存価額が10%あるという前提で計算するためです。つまり建物は耐用年数を過ぎても10%の価値は残るという考え方が反映されています。
償却率は建物の構造によって異なります。例えば、木造住宅(非事業用)の耐用年数は33年で、償却率は0.031です。鉄筋コンクリート造(RC造)の場合は耐用年数70年、償却率0.015となります。軽量鉄骨造で骨格材の肉厚が3mm以下の場合は耐用年数40年、償却率0.025です。
具体的な計算例を見てみましょう。平成20年に3,000万円で購入した木造住宅(非事業用)を令和7年に売却する場合、所有期間は17年です。減価償却費は3,000万円×0.9×0.031×17年=1,418万円となります。建物の取得費は3,000万円-1,418万円=1,582万円です。
事業用不動産の場合は異なる計算方法を用います。事業用不動産は毎年の確定申告で減価償却費を計上しているため、それらを合計した金額が減価償却費相当額になります。つまり過去に経費として計上した減価償却費の累計額です。
事業用の耐用年数は非事業用より短く設定されています。木造は22年、RC造は47年、軽量鉄骨造(肉厚3mm以下)は27年です。
非事業用の1.5倍という関係性が基本です。
経過年数の計算にも注意が必要です。6か月以上の端数は1年として切り上げ、6か月未満は切り捨てます。例えば所有期間が10年7か月なら11年として計算し、10年5か月なら10年として計算します。
減価償却費の上限は建物取得価額の95%です。どれだけ長期間所有しても、建物の取得費がゼロやマイナスになることはありません。最低でも取得価額の5%は取得費として残ります。
取得費計算で間違いやすい土地建物の按分方法
土地と建物を一括で購入した場合、売買契約書に土地と建物の内訳が記載されていないケースがあります。この場合、減価償却費を計算するためには、まず購入金額を土地部分と建物部分に按分する必要があります。この按分作業を誤ると、減価償却費の計算そのものが狂ってしまうリスクがあります。
最も一般的で信頼性が高い按分方法は「消費税から逆算する方法」です。消費税は建物にのみ課税され、土地は非課税です。そのため売買契約書に消費税額が記載されている場合、その消費税額を税率で割り戻すことで建物価格を算出できます。
例えば、令和元年10月以降に購入した不動産で消費税が200万円と記載されていた場合、消費税率は10%なので建物価格は200万円÷0.1=2,000万円です。総額が5,000万円なら、土地価格は5,000万円-2,000万円=3,000万円となります。この方法は税務署からも認められやすい客観的な按分方法です。
消費税の記載がない場合は「固定資産税評価額の比率による按分」を用います。毎年送られてくる固定資産税の納税通知書には、土地と建物それぞれの評価額が記載されています。例えば土地の評価額が2,000万円、建物の評価額が1,000万円なら、建物の比率は1,000万円÷3,000万円=33.3%です。購入総額が4,500万円なら、建物価格は4,500万円×33.3%=約1,500万円となります。
もう一つの方法が「建物の標準的な建築価額表による按分」です。国税庁が公表している建築価額表を使い、建物の構造・床面積・建築年から建物価格を推定します。この方法は古い物件や資料が少ない場合に有効です。
按分方法の選択は自由ですが、税務署から合理性を問われる可能性があります。意図的に建物比率を高くして減価償却費を増やし、譲渡所得を減らそうとする操作は否認されるリスクがあります。複数の方法で按分した結果を比較し、客観的に妥当と判断できる方法を採用するのが安全です。
按分比率の違いによる税額への影響は大きいです。建物比率が10%変われば、数十万円から百万円単位で譲渡所得が変動するケースもあります。
慎重な判断が求められます。
取得費が不明な場合の概算取得費5%ルールと代替手段
相続で取得した不動産や、購入が何十年も前で売買契約書を紛失してしまった場合、実際の取得費を証明できないことがあります。このような場合に適用できるのが「概算取得費5%ルール」です。売却金額の5%を取得費とみなして譲渡所得を計算できる特例制度です。
例えば不動産を5,000万円で売却した場合、概算取得費は5,000万円×5%=250万円です。譲渡費用が100万円なら、譲渡所得は5,000万円-250万円-100万円=4,650万円となります。この金額に対して長期譲渡所得税率20.315%を乗じると、税額は約945万円です。
しかし概算取得費を使うと、ほとんどの場合で大幅に不利になります。実際の購入価格が3,000万円だった場合、建物の減価償却費を差し引いても取得費は2,000万円程度になる可能性があります。この場合の譲渡所得は5,000万円-2,000万円-100万円=2,900万円で、税額は約589万円です。概算取得費との差額は356万円にもなります。
つまり概算取得費5%ルールは「最終手段」と考えるべきです。
取得費を証明する方法はいくつかあります。まず金融機関の住宅ローン契約書や返済予定表を探してください。
借入金額から物件価格を推定できます。
次に法務局で登記簿謄本の全部事項証明書を取得し、抵当権設定額を確認する方法もあります。
不動産会社の仲介で購入した場合、不動産会社に取引記録が残っている可能性があります。購入時期と不動産会社名が分かれば、問い合わせて資料を取り寄せられるケースもあります。
厳しいですね。
「市街地価格指数」を用いた推定取得費の計算方法もあります。一般財団法人日本不動産研究所が公表している市街地価格指数を使い、購入時期の地価から現在の地価への変動率を算出し、売却価格から逆算して購入価格を推定する方法です。税務署に認められるためには、不動産鑑定士の意見書などの裏付け資料が必要になる場合が多く、費用は10万円から30万円程度かかります。
ただし推定取得費が概算取得費より大幅に有利なら、その費用を支払っても十分にメリットがあります。譲渡所得税が数百万円単位で変わる場合、専門家への費用は必要経費として正当化できます。
取得費にリフォーム費用や増改築費用を含める際の注意点
不動産を所有している間に行ったリフォームや増改築の費用は、一定の条件を満たせば取得費に加算できます。この制度を活用すれば取得費が増え、譲渡所得を減らすことができるため、節税効果が期待できます。ただし全てのリフォーム費用が対象になるわけではありません。
取得費に含められるのは「資本的支出」に該当する費用です。資本的支出とは、建物の価値を高めたり、使用可能期間を延長したりする支出を指します。具体的には増築、大規模な間取り変更、耐震補強工事、外壁の全面改修、屋根の葺き替え、給排水設備の全面交換などです。
一方で「修繕費」に該当する費用は取得費に含められません。修繕費とは、建物を元の状態に戻すための支出や、通常の維持管理のための支出です。例えば壁紙の張り替え、畳の表替え、雨漏りの修理、エアコンの交換などは修繕費として扱われます。
結論は資本的支出のみです。
判断が難しいケースもあります。浴室やキッチンのリフォームは、単なる交換なら修繕費ですが、グレードアップして高機能な設備に変更した場合は資本的支出になります。一つの工事で修繕費と資本的支出が混在する場合は、内容を分けて計上する必要があります。
リフォーム費用を取得費に含める場合、その費用も減価償却の対象になる点が重要です。建物本体と同様に、リフォーム費用×0.9×償却率×経過年数で減価償却費を計算し、差し引いた金額が取得費に加算されます。
例えば10年前に1,000万円の増築工事(木造)を行い、今年売却する場合、減価償却費は1,000万円×0.9×0.031×10年=279万円です。取得費に加算できる金額は1,000万円-279万円=721万円となります。
リフォーム費用を取得費に含めるためには、工事請負契約書や領収書などの証拠書類が必要です。領収書がない場合でも、工事を依頼した業者から工事明細書を再発行してもらえる可能性があります。金融機関からリフォームローンを借りていた場合は、その契約書や返済明細も証拠になります。
売却前に行ったリフォームは「譲渡費用」として扱われます。売却を目的として行った清掃、修繕、ハウスクリーニング、ホームステージングなどの費用は、取得費ではなく譲渡費用に計上します。譲渡費用も譲渡所得から控除できるため、節税効果があります。
中古物件購入時における取得費の減価償却計算の特例
中古の建物を購入した場合、減価償却の計算方法に特別なルールが適用されます。新築時からの経過年数を考慮する必要があるため、計算がやや複雑になります。この計算を誤ると、減価償却費が過大または過少になり、取得費の金額が大きく狂ってしまいます。
中古建物の耐用年数は「簡便法」を用いて計算します。法定耐用年数の全部を経過した建物の場合、耐用年数は「法定耐用年数×0.2」で計算します。例えば木造住宅(法定耐用年数22年)の場合、22年×0.2=4.4年となり、端数切り捨てで4年です。
法定耐用年数の一部を経過した建物の場合は「(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×0.2」で計算します。例えば築10年の木造住宅を購入した場合、(22年-10年)+10年×0.2=14年です。
この計算で求めた耐用年数に対応する償却率を使って減価償却費を計算します。ただし非事業用の場合は、さらに1.5倍した年数を使う点を忘れないでください。事業用の耐用年数が14年なら、非事業用は14年×1.5=21年です。
中古物件を購入後に大規模なリフォームを行った場合、リフォーム費用が物件取得価額の50%を超えるかどうかで扱いが変わります。50%を超える場合は、簡便法が使えず、法定耐用年数で計算しなければなりません。
つまり新築同様の扱いになります。
具体例を見てみましょう。築15年のRC造マンション(建物部分2,000万円)を購入し、1,200万円のリフォームを行った場合、リフォーム費用が取得価額の60%になります。この場合は法定耐用年数47年(非事業用なら70年)を使って減価償却を計算します。
一方、リフォーム費用が800万円(40%)なら簡便法が使えます。RC造の法定耐用年数47年で、築15年なら(47年-15年)+15年×0.2=35年です。非事業用なら35年×1.5=52.5年、端数切り捨てで52年となります。
中古物件の取得費計算では、前所有者の減価償却は考慮しません。あくまで自分が購入した時点の価格から、自分が所有していた期間の減価償却費を差し引きます。相続で取得した場合は被相続人の取得価額と取得時期を引き継ぎますが、売買で取得した場合は前所有者の取得費とは無関係です。
中古物件の築年数や構造が不明な場合は、登記簿謄本で建築年月日と構造を確認できます。法務局で全部事項証明書を取得すれば、正確な情報が記載されています。
これは必須です。

