居住用財産3000万円控除と住宅ローン控除の併用と選択

居住用財産3000万円控除と住宅ローン控除

3000万円控除を受けたら新居の住宅ローン控除が前後3年間使えなくなります。

この記事の3つのポイント
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併用不可の期間が拡大

2020年4月1日以降の譲渡では居住年とその前2年・後3年の計6年間で3000万円控除と住宅ローン控除が併用できない

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控除額の比較が必須

譲渡益や住宅ローン残高、年収によって有利な制度が変わるため売却前のシミュレーションが重要

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確定申告は必須手続き

3000万円控除は譲渡益がゼロでも確定申告しなければ適用されず修正申告での撤回も不可

居住用財産3000万円控除の基本要件

 

居住用財産の3000万円特別控除は、マイホームを売却した際に譲渡所得から最高3000万円まで控除できる制度です。所有期間の長短に関係なく適用を受けることができるため、短期間しか住んでいなかった物件でも対象になります。

この制度が適用されるのは基本です。

適用を受けるためには、売却した不動産が現在住んでいる家屋、または住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却した家屋である必要があります。例えば2023年5月に引っ越した自宅であれば、2026年12月31日までに売却すれば適用対象です。

建物を取り壊した後の敷地を売却する場合も条件を満たせば適用されます。取り壊してから1年以内に譲渡契約を締結し、かつ住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること、そして取り壊しから譲渡契約締結までの間に貸駐車場などその他の用途に供していないことが必要です。

注意すべきは族間売買です。

配偶者や直系血族、生計を一にする親族など特別の関係がある人への譲渡では、この特例は適用できません。さらに、この特例を受けることだけを目的として入居したと認められる家屋や、一時的な目的で入居した仮住まい、別荘のような保養目的の家屋も対象外となります。

国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」では、居住用財産の3000万円控除の詳細な適用要件と必要書類が解説されています。

住宅ローン控除との併用制限ルール

居住用財産の3000万円控除と住宅ローン控除は、原則として併用することができません。2020年度の税制改正により、この併用制限のルールが変更され、不動産業従事者として正確に理解しておくことが顧客へのアドバイスに不可欠です。

2020年4月1日以降に旧居を譲渡した場合、新居に入居した年とその前2年・後3年の計6年間において、3000万円控除と住宅ローン控除の併用ができないことになりました。以前は入居年とその前後2年の計5年間だったため、制限期間が1年延長されたことになります。

具体的にどういうことでしょうか?

例えば2024年4月に新居に入居した場合、2022年・2023年(前2年)、2024年(入居年)、2025年・2026年・2027年(後3年)の6年間に旧居を売却して3000万円控除を受けると、新居の住宅ローン控除が全く受けられなくなります。

逆のパターンも制限されます。新居で住宅ローン控除の適用を開始した後、その入居年から3年目に旧自宅を売却する場合、2020年4月1日以降の譲渡であれば、3000万円控除や10年超所有軽減税率の特例を適用できないということです。

既に3000万円控除を受けてしまった場合の救済措置はありません。住宅ローン控除を受けるために修正申告をして3000万円控除の適用を撤回しようとしても、税務上は認められないのです。

つまり制度選択は一度決めたら変更できません。

売却と購入のタイミング設計が重要です。

顧客が住み替えを検討している場合、どちらの制度を選択するかを売却前に必ずシミュレーションし、税負担が最小となる方法を提案する必要があります。一度確定申告をしてしまうと取り返しがつかないため、事前の計画が何よりも重要になります。

居住用財産3000万円控除の計算方法と税額

居住用財産の3000万円控除を適用した場合の税額計算は、譲渡所得の基本計算式に控除を加えたものになります。まず譲渡所得は「譲渡価格-(取得費+譲渡費用)」で算出され、この金額から3000万円を控除できます。

譲渡所得が3000万円以下であれば、控除後の課税所得はゼロになります。例えば自宅を5000万円で売却し、取得費が1500万円、譲渡費用が200万円だった場合、譲渡所得は「5000万円-(1500万円+200万円)=3300万円」です。

ここから3000万円を控除できます。

控除後の課税譲渡所得は「3300万円-3000万円=300万円」となり、この300万円に対して税金が課されます。所有期間が5年を超える長期譲渡所得であれば税率は20.315%(所得税15.315%、住民税5%)なので、「300万円×20.315%=約61万円」が納税額です。

もし3000万円控除を適用しなければ、3300万円全体に20.315%が課税されるため、「3300万円×20.315%=約670万円」の税金がかかります。この差額は約609万円にも及び、3000万円控除の節税効果がいかに大きいかが分かります。

所有期間5年以下の短期譲渡所得の場合は、税率が39.63%(所得税30.63%、住民税9%)とさらに高くなります。先ほどの例で短期譲渡だった場合、控除後の300万円に対する税額は「300万円×39.63%=約119万円」、控除なしの場合は「3300万円×39.63%=約1308万円」となり、差額は約1189万円です。

取得費が不明な場合の対応も重要です。相続した不動産など購入時の資料が残っていない場合、譲渡価格の5%を概算取得費として計算できますが、これでは譲渡所得が非常に大きくなってしまいます。購入時の契約書や領収書を探す努力が必要で、見つからない場合は不動産鑑定士による取得時の時価評価も検討すべきです。

住宅ローン控除適用時の条件と控除額

住宅ローン控除は、住宅ローンを利用して住宅を新築・取得または増改築した場合に、年末時点のローン残高の0.7%を所得税(控除しきれない場合は翌年の住民税)から最大13年間控除できる制度です。2022年の税制改正により控除率が1%から0.7%に引き下げられました。

控除を受けるための基本要件を確認します。

新築・取得した日から6ヶ月以内に入居し、適用を受ける各年の12月31日まで引き続き居住していること、合計所得金額が2000万円以下であること、住宅の床面積が50㎡以上で床面積の2分の1以上が自己の居住用であることが必要です。

控除限度額は住宅の種類によって異なります。2024年以降に入居した認定長期優良住宅・認定低炭素住宅であれば借入限度額は4500万円、控除期間は13年間です。ZEH水準省エネ住宅は借入限度額3500万円で13年間、省エネ基準適合住宅は3000万円で13年間、その他の新築住宅はゼロ円となり控除が受けられません。

年間の最大控除額を計算してみます。

認定長期優良住宅でローン残高が4500万円ある場合、「4500万円×0.7%=31.5万円」が年間の控除可能額です。ただし実際に控除される金額は、納めている所得税と住民税の額に制限されます。

例えば年収600万円で所得税が15万円、住民税が30万円の人の場合を考えます。住民税からの控除上限は「課税所得×5%(最大9.75万円)」なので、仮に課税所得が300万円なら「300万円×5%=15万円」が住民税からの控除上限です。

所得税15万円+住民税15万円=30万円が実際の控除額ということです。

控除可能額が31.5万円でも、納税額が30万円しかなければ30万円までしか控除されません。13年間フルに控除を受けられれば、「30万円×13年=390万円」が最大の節税額となります。ローン残高が年々減少することも考慮すると、実際の総控除額は300~350万円程度になるケースが多いです。

住宅ローン控除は、入居した年とその前後2年の計5年間に3000万円控除などの譲渡特例を受けていないことが要件となっています。この要件を見落として3000万円控除を先に受けてしまうと、数百万円の節税機会を失うことになります。

どちらが有利か判断するシミュレーション方法

3000万円控除と住宅ローン控除のどちらを選択すべきかは、譲渡益の額、住宅ローンの借入額、年収、所有期間などの条件によって変わります。顧客ごとに具体的な数値でシミュレーションすることが不動産業従事者の重要な役割です。

譲渡益が少ない場合は住宅ローン控除が有利です。

例えば旧居の売却で発生する譲渡益が500万円、長期譲渡所得の場合を考えます。3000万円控除を使えば税額はゼロになりますが、そもそも控除なしでも「500万円×20.315%=約102万円」の税金です。一方、新居で住宅ローン4000万円を借り入れ、年間30万円×13年=390万円の控除が見込めるなら、住宅ローン控除を選ぶ方が「390万円-102万円=288万円」も有利になります。

逆に譲渡益が大きい場合は3000万円控除が有利です。譲渡益が4000万円、長期譲渡所得の場合、3000万円控除を使えば課税所得は1000万円となり「1000万円×20.315%=約203万円」の税金です。控除なしでは「4000万円×20.315%=約813万円」なので、約610万円の節税になります。

住宅ローン控除の総額が300万円程度なら差額は310万円です。

年収が高く所得税・住民税が多い人ほど、住宅ローン控除のメリットを最大限享受できます。年収800万円で所得税が30万円、住民税からの控除可能額が18万円なら、年間48万円近く控除できる可能性があります。逆に年収が低く納税額が少ない場合、住宅ローン控除を選んでも控除しきれずメリットが限定的です。

産休・育休期間がある場合も注意が必要です。住宅ローン控除は13年間の制度ですが、その間に産休や育休で所得が減少すると、その年は控除額が大幅に減ります。2年間の育休を想定して、実質11年分の控除額で計算しなければ正確な比較になりません。

短期譲渡所得の場合は税率が39.63%と高くなるため、3000万円控除の効果が非常に大きくなります。譲渡益3000万円なら税額は「3000万円×39.63%=約1189万円」ですが、控除を使えばゼロ円です。この場合、住宅ローン控除の総額が400万円でも、3000万円控除を選ぶ方が789万円有利という計算です。

複数のパターンで試算することが大切です。税理士への相談も含め、顧客にとって最適な選択を提示できるようにしておく必要があります。

譲渡損失が出た場合の損益通算・繰越控除

マイホームを売却して譲渡損失が発生した場合には、3000万円控除とは別の特例制度を利用できます。これらは住宅ローン控除との併用が可能なため、売却と購入のタイミング次第で大きな節税効果が得られます。

特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除という制度があります。

住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じた場合、その損失のうち住宅ローン残高から譲渡価格を差し引いた金額を限度に、給与所得など他の所得と損益通算できます。さらに損益通算しても控除しきれなかった部分は、翌年以後3年間繰り越して控除可能です。

例えば住宅ローン残高が3000万円ある物件を2500万円で売却した場合、損失額は500万円です。この500万円を給与所得から差し引くことができ、年収600万円なら課税所得が大幅に減少し、その年の所得税・住民税が軽減されます。

もう一つは居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除です。5年を超えて所有していた居住用財産を売却して損失が出た場合、新たに居住用財産を取得して住宅ローンを組むことを条件に、譲渡損失を損益通算・繰越控除できます。

重要なのは住宅ローン控除と併用可能という点です。

譲渡損失の繰越控除を使うと最長4年間にわたって所得税や住民税が軽減され、さらに新居には住宅ローン控除も適用できます。両方を組み合わせれば税負担が劇的に軽くなります。ただし繰越控除を適用できるのは、合計所得金額が3000万円以下の年に限られます。

損失が発生するケースは意外と多いです。購入時より相場が下落している、多額のリフォーム費用を取得費に加算できない、売却時の仲介手数料などの経費を考慮すると赤字になるなどの状況があります。

厳しいところですね。

こうした場合、3000万円控除は利益がないので使えませんが、損失の繰越控除制度を使えば節税が可能です。確定申告で「特定居住用財産の譲渡損失の金額明細書」と「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の対況明細書」を提出する必要があります。

国税庁「No.3390 住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき」には、損失の繰越控除制度の詳細な要件と計算方法が掲載されています。

確定申告の手続きと必要書類の準備

居住用財産の3000万円控除を受けるためには、譲渡益がゼロ円になる場合でも確定申告が必須です。申告をしなければ特例は自動的に適用されず、後から気づいても期限後申告となり加算税が課される可能性があります。

確定申告に必要な基本書類を確認します。

「確定申告書(第一表・第二表・第三表)」と「譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)【土地・建物用】」は必須です。これらは国税庁のホームページや税務署で入手でき、e-Taxを使えばオンラインでも提出できます。

マイホームの売買契約日の前日において住民票の住所と物件の所在地が異なる場合には、追加で「戸籍の附票の写し」または「消除された戸籍の附票の写し」などが必要です。これは売却した物件に実際に居住していたことを証明するための書類となります。

単身赴任で住民票を移していなかった場合などは特に重要です。

居住の実態を証明するために、電気・ガス・水道の使用記録、郵便物の配達記録、近隣住民の証言などが求められることもあります。税務署は形式的な住民票だけでなく、実際にそこで生活していたかどうかを厳しく審査します。

売却に関する書類も準備が必要です。売買契約書の写し、登記事項証明書、譲渡費用の領収書(仲介手数料、測量費、印紙代など)を用意します。取得費を証明するために、購入時の売買契約書や領収書も必須です。

相続した不動産の場合は取得費の計算が複雑です。被相続人が購入した時の契約書が見つからない場合、概算取得費(譲渡価格の5%)を使うことになり、譲渡所得が大きくなって3000万円控除を使い切れない可能性があります。

確定申告の期限は譲渡した年の翌年2月16日から3月15日までです。例えば2024年中に売却した場合、2025年2月16日~3月15日に申告します。期限を過ぎると無申告加算税や延滞税が課されるため、余裕を持って準備することが重要です。

期限後申告でも特例は適用可能です。

ただし遅延によるペナルティは発生します。無申告加算税は原則として納税額の15%(50万円超の部分は20%)、自主的に期限後申告すれば5%に軽減されます。延滞税も日割りで加算されるため、早めの対応が必要です。

顧客が売却後に確定申告を忘れているケースは珍しくありません。不動産業従事者として、契約時に「翌年の確定申告が必要です」と明確に伝え、必要書類のチェックリストを渡すなどのフォローが信頼関係の構築につながります。

不動産業従事者が顧客に伝えるべき重要ポイント

不動産業従事者として顧客に正確な情報を提供し、後々のトラブルを防ぐことが何よりも重要です。3000万円控除と住宅ローン控除の選択は、数百万円単位で税負担が変わる重大な判断であり、売却前の段階で必ず説明すべき事項となります。

売却と購入のタイミング設計を最初に相談すべきです。

住み替えを検討している顧客には、旧居の売却時期と新居の購入・入居時期の関係で、どちらの控除が使えるのか、または選択できるのかが決まります。既に新居に入居してしまっている場合、そこから3年以内に旧居を売却すると住宅ローン控除が使えなくなる可能性を説明する必要があります。

譲渡益と住宅ローン額の概算を早期に把握することが大切です。売却予定価格、取得費、譲渡費用から譲渡所得を試算し、新居の購入予定価格と借入予定額から住宅ローン控除の見込額を計算します。この2つを比較して、どちらが有利かの判断材料を提供します。

税理士への相談を勧めることも重要です。

不動産業者が税務アドバイスを行うことには限界があり、具体的な税額計算や申告手続きは税理士の業務範囲です。信頼できる税理士を紹介できる体制を整えておくことで、顧客満足度が向上し、トラブル防止にもつながります。

修正申告では特例の撤回ができないという点を強調すべきです。一度3000万円控除を適用して確定申告をしてしまうと、後から「やっぱり住宅ローン控除の方が良かった」と思っても変更できません。この不可逆性を理解してもらうために、書面での説明や確認書の取得も検討すべきです。

譲渡損失が出る場合の制度も案内します。売却価格が購入価格より低い、ローン残債が多いなどで損失が発生する場合、損益通算と繰越控除の制度を使えば節税できます。これは住宅ローン控除と併用可能なので、両方のメリットを受けられることを伝えます。

確定申告のリマインドを行うことです。契約から引き渡し、そして翌年の確定申告期限まで長期間空くため、顧客が申告を忘れるリスクがあります。引き渡し時に確定申告の案内チラシを渡す、年明けにリマインドの連絡をするなどのサービスが差別化につながります。

物件資料の保管を促すことも大切です。購入時の売買契約書、領収書、リフォーム費用の明細など、取得費を証明する書類がなければ概算取得費(5%)しか使えず、税負担が大きくなります。売却時に「購入時の資料はありますか」と確認し、ない場合の対応策を案内します。

これは使えそうです。

顧客からの信頼を得るためには、税金の話を避けずに積極的に情報提供する姿勢が重要です。「税金のことは税理士に聞いてください」と突き放すのではなく、基本的な制度の概要や選択肢を説明した上で、詳細は専門家に相談するよう促すスタンスが理想的です。


Q&A 居住用財産の譲渡特例大全 -相続空き家の3,000万円特別控除から譲渡損失の繰越控除までを網羅-