買換え特例届出の基礎知識
同一年内の買換えで届出を忘れると特例が一切受けられません。
買換え特例届出が必要になった背景と制度改正の経緯
令和5年度税制改正により、令和6年4月1日以降の買換えについては、同一年度内に譲渡と取得を行う場合にも事前の届出が必要になりました。この改正は、大企業等が申告時に事後的に譲渡資産と買換資産の組み合わせを作成して特例を適用する実態があったためです。
国税庁は、買換え特例が特定の地域からの追い出し促進や土地の有効利用促進といった政策目的を達成するための制度であることを重視しています。そのため、譲渡または取得後一定期間内に本特例の適用を受ける買換えに関する届出を適用要件として追加することになりました。
従来は、譲渡年と取得年が異なる場合のみ届出が必要でした。譲渡の翌年に取得する場合は譲渡年の翌年3月15日まで、譲渡の前年に取得する場合は取得年の翌年3月15日までに「先行取得資産に係る買換えの特例の適用に関する届出書」を提出すればよかったのです。
つまり確定申告期限までに対応できました。
しかし令和6年4月以降は状況が変わりました。同一年内の買換えであっても、四半期ごとの期限内に届出書を提出しなければ特例の適用ができなくなったのです。この変更により、不動産業従事者はクライアントに対して、より迅速かつ正確な情報提供が求められるようになっています。
特例適用には事前の届出が必須です。
国税庁の「特定の事業用資産の買換えの特例の適用に関する届出」ページでは、届出の手続き方法や様式を確認できます
買換え特例届出の提出期限は四半期ごとに区分される
同一年内に譲渡資産の譲渡と買換資産の取得をした場合、譲渡日と取得日のいずれか早い日を含む四半期の末日の翌日から2ヶ月以内に届出書を提出する必要があります。この四半期とは、その事業年度を開始の日以後3ヶ月ごとに区分した各期間を指します。
具体的な提出期限は以下のとおりです。
- 1月1日から3月31日までの間に譲渡または取得した場合:5月末日まで
- 4月1日から6月30日までの間に譲渡または取得した場合:8月末日まで
- 7月1日から9月30日までの間に譲渡または取得した場合:11月末日まで
- 10月1日から12月31日までの間に譲渡または取得した場合:翌年2月末日まで
たとえば、7月15日に譲渡資産を売却し、9月20日に買換資産を取得した場合、いずれか早い日である7月15日が基準になります。7月15日は第3四半期(7月1日から9月30日)に属するため、その四半期末日である9月30日の翌日から2ヶ月以内、つまり11月末日までに届出書を提出しなければなりません。
法人の場合は決算月によって四半期の区切りが異なります。3月決算法人であれば、4月から6月、7月から9月、10月から12月、1月から3月がそれぞれ3ヶ月期間となります。12月決算法人であれば、1月から3月、4月から6月、7月から9月、10月から12月が3ヶ月期間です。
四半期末から2ヶ月以内が期限です。
個人の場合は暦年で考えるため、常に1月から3月、4月から6月、7月から9月、10月から12月の区分になります。不動産業従事者は、クライアントが個人か法人かによって四半期の計算方法が異なることを理解し、正確な期限を案内する必要があります。
期限を過ぎた場合の救済措置はありません。提出期限内に届出書の提出がない場合には、特例の適用ができなくなるため、期限管理が極めて重要になります。
買換え特例届出を忘れた場合の対処法と翌年取得への切り替え
同一年内の買換えで届出を忘れてしまった場合、その年の譲渡と取得による特例適用はできません。しかし、買換資産の取得が譲渡後を予定しているのであれば、取得を翌年に繰り越すという対処法があります。
買換資産の取得が翌年であれば、その届出期限は譲渡年の翌年3月15日までですから、確定申告期限まで対応が可能です。たとえば、年内に買換資産の売買契約を締結していたとしても、引渡しを翌年にすれば適用が可能になります。不動産の取得日は引渡日で判断されるため、契約日と引渡日を戦略的に設定することで期限管理のリスクを軽減できるのです。
この方法は、同一年内の四半期期限を逃してしまったケースでの救済策として有効です。ただし、事業計画や資金繰りの都合で翌年への繰り越しが難しい場合もあるため、最初から期限を守ることが最善の選択肢であることに変わりはありません。
翌年取得なら確定申告期限までOKです。
また、もしも良い物件があれば譲渡年に買換資産を取得する可能性が1%でもあるのであれば、とりあえず届出書だけは提出しておくことが推奨されます。提出しておいて結局は特例を適用しなくてもそれは問題ありません。しかし提出をしておかなければ、確定申告で特例の適用を選択することがそもそもできなくなります。選択肢を広げておきたいのであれば、届出を忘れてはいけないのです。
不動産業従事者は、クライアントに対して「同一年内の買換えを検討する場合は、必ず四半期期限内に届出を提出する」という原則を徹底して伝える必要があります。万が一期限を逃しそうな場合は、早めに翌年取得への計画変更を提案することで、特例適用の機会を失わせないサポートができるでしょう。
買換え特例届出の提出方法とe-Taxでの電子申請手続き
届出書の提出方法は、書面による提出とe-Taxによる電子申請の2つがあります。令和6年4月以降の改正により、迅速な届出が求められるようになったため、e-Taxによる電子申請の活用が推奨されています。
個人の場合、「特定の事業用資産の買換えの特例の適用に関する届出書」を作成し、PDFファイルに変換の上、e-Taxソフトで提出します。国税庁のホームページから届出書の様式をダウンロードし、必要事項を記入してPDF化する流れです。e-Taxソフトを初めて利用する方は、利用者識別番号の取得や電子証明書の準備が必要になります。
法人の場合は、e-Taxソフトで届出書を作成・提出します。法人税の電子申告に慣れている企業であれば、同じシステムを使って届出書を提出できるため、比較的スムーズに対応できるでしょう。e-Taxを初めて利用する法人は、税理士と連携して電子申請の環境を整えることが重要です。
電子申請なら迅速に対応できます。
届出書には、譲渡資産および取得予定資産または買換資産および譲渡予定資産の概要を記載します。具体的には、資産の所在地、面積、取得予定時期、譲渡予定時期などの情報が必要です。まだ具体的な物件が決まっていない場合でも、取得予定地域や概算面積など、可能な範囲で情報を記載して提出することができます。
届出書を提出した後、届出内容と異なる資産を取得した場合でも、一定の事情があれば特例の適用が認められます。たとえば、届出書に記載した取得見込みの買換資産の取得が困難となったため、その買換資産以外の資産を取得した場合、やむを得ない事情として認められることがあります。
不動産業従事者は、クライアントに対してe-Taxの利用方法を案内したり、税理士との連携を促したりすることで、届出手続きを円滑に進めるサポートができます。特に四半期期限が迫っている場合は、電子申請の迅速性が大きなメリットになるでしょう。
e-Taxの「申請・届出手続(法人税関係)」ページでは、電子申請の方法や手順を確認できます
不動産業従事者が押さえるべき買換え特例届出の実務ポイント
不動産業従事者がクライアントに買換え特例を提案する際、届出の重要性を最初から説明することが不可欠です。特に、令和6年4月以降の改正により同一年内の買換えでも届出が必須になったことを、多くのクライアントは知りません。従来の知識で「確定申告時に対応すればいい」と考えているクライアントも少なくないため、早期の情報提供が重要になります。
売却活動を開始する段階で、特例適用の可能性がある場合は必ず届出の必要性を伝えましょう。譲渡日または取得日が決まった時点で、すぐに四半期の期限を計算し、カレンダーに期限日を記入することを推奨します。四半期ごとの期限は複雑で覚えにくいため、クライアントに期限一覧表を提供するなどの工夫が効果的です。
税理士との連携は必須です。
クライアントが法人の場合、顧問税理士との緊密な連携がこれまで以上に求められます。不動産業従事者が売買契約をまとめた後、すぐに税理士に情報を共有し、届出の準備を進めてもらう流れを確立しておくことが重要です。特に決算期末近くの取引では、四半期期限と決算期限が重なることもあるため、早めの情報共有が必要になります。
個人のクライアントの場合、税理士がいないケースも多いでしょう。その場合、不動産業従事者が届出の必要性を説明し、税務署への問い合わせや税理士への相談を促すことが求められます。届出書の様式や記入方法について、国税庁のホームページを案内することも有効なサポートになります。
また、第4四半期(10月から12月)に譲渡資産の譲渡と買換資産の取得をした場合、特例の適用を受けようとする事業年度の確定申告書に「別表十三(五)」を添付することで届出の代用とすることができます。ただし、別表十三(五)を届出の代用とするには届出の提出期限(事業年度終了後2ヶ月以内)までに申告書を提出することが必要です。確定申告期限の延長特例の適用を受けている法人は注意が必要になります。
不動産業従事者として、買換え特例の適用可能性を早期に見極め、クライアントに最適なスケジュールを提案することが、付加価値の高いサービス提供につながります。届出期限の管理という新たな実務負担が発生しましたが、これを適切にサポートすることで、クライアントからの信頼を高める機会にもなるでしょう。