根抵当権者と根抵当権設定者の違い
根抵当権設定者なら完済後も権利は消えません。
根抵当権者とは|債権者としての立場
根抵当権者は、極度額の範囲内で継続的取引から生じる債権を担保する権利を持つ債権者のことです。銀行融資の場面では、お金を貸して根抵当権を設定してもらった金融機関が根抵当権者になります。根抵当権者は、債務者が返済不能に陥った際に、担保不動産を競売にかけて他の債権者に優先して弁済を受けることができる優先弁済権を持っています。
通常の抵当権者と異なり、根抵当権者は元本確定前であれば複数の債権をまとめて担保できる点が特徴です。例えば、1,000万円の融資、500万円の手形割引、2,000万円の当座貸越といった複数の取引による債権を、極度額5,000万円の根抵当権で一括して担保することが可能になります。
根抵当権者と担保される債権の債権者は同一人物でなければなりません。つまり、A銀行が根抵当権者として登記されている場合、その根抵当権で担保される債権の債権者もA銀行である必要があります。元本確定前は付従性がないため、債権が消滅しても根抵当権は残り続けることになりますね。
金融機関は、取引先企業との継続的な融資関係において根抵当権を活用します。毎回新たな抵当権を設定する手間とコストを省けるため、事業性融資では根抵当権が選ばれることが多いです。登録免許税は極度額の0.4%で計算されるため、極度額5,000万円なら20万円の税負担が発生します。
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根抵当権設定者とは|担保提供者の役割
根抵当権設定者は、自己の所有する不動産を担保として提供する立場の人を指します。銀行融資の場面では借主本人が根抵当権設定者になることが通常ですが、担保を提供するのは必ずしもお金を借りた者に限られません。
債務者本人が設定者となる場合と、第三者が設定者となる場合があります。第三者が他人の債務のために自己の不動産に根抵当権を設定した場合、その第三者は物上保証人と呼ばれます。例えば、子の会社が銀行から融資を受ける際に、父親が所有する不動産に根抵当権を設定するケースがこれに該当します。
物上保証人は債務そのものを負担するわけではありません。抵当権が実行されたときに不動産を失うだけで、債務の履行を直接請求されることはないのです。この点が、債務者と同等の責任を負う連帯保証人とは大きく異なります。
根抵当権設定者は、元本確定前であれば根抵当権設定時から3年経過後に元本確定請求をする権利を持っています。この確定請求の意思表示が根抵当権者に到達して2週間経過すると効力が発生します。また、設定者は被担保債権の範囲や債務者の変更について、根抵当権者と合意することで変更できます。
後順位抵当権者の承諾は不要です。
不動産取引の実務では、根抵当権が設定されたままの物件を売買する際の対応が重要です。売却前に根抵当権の抹消登記が必要になりますので、元本確定手続きと抹消の段取りを事前に確認しておく必要があります。
根抵当権の極度額と登記事項の違い
根抵当権の登記事項は通常の抵当権とは大きく異なり、極度額・債権の範囲・債務者の3つが中心的な登記事項となります。通常の抵当権では債権額・利息及び損害金・債務者が登記されますが、根抵当権は継続的取引を担保する性質から異なる情報が必要になるわけです。
極度額は、根抵当権で担保できる債権の上限金額を示します。例えば極度額5,000万円の根抵当権であれば、元本・利息・損害金の合計が5,000万円を超える部分については担保されません。極度額の設定は、担保不動産の評価額の70%から80%程度に設定されることが一般的で、金融機関の審査基準により決定されます。
債権の範囲は、どのような取引から生じる債権を担保するかを明確にするための登記事項です。「銀行取引」「売買取引」「手形割引取引」といった取引の種類を記載します。複数の取引を組み合わせることも可能で、「銀行取引、手形割引取引」のように併記されることもあります。特定の債権を他の不特定債権と併せて記載することもできます。
債務者は、担保される債権の範囲を画するための条件として登記されます。通常の抵当権における債務者とは意味合いが異なり、「誰に対する、どういう債権について担保する」かを特定する要素の一つです。債務者Aと債権の範囲を銀行取引と定めれば、債務者A以外の者との取引から生じる債権や、Aとの取引でも銀行取引以外の債権は担保されません。
登録免許税の計算では、極度額が課税標準となります。極度額の1,000円未満を切り捨てた金額に0.4%の税率を乗じ、100円未満を切り捨てた金額が登録免許税です。極度額3,500万円なら、3,500万円×0.4%=14万円の登録免許税が必要ですね。
根抵当権の元本確定と物上保証人の違い
根抵当権の元本確定は、継続的に変動していた被担保債権額が特定の時点で固定される手続きです。元本確定後は、根抵当権は通常の抵当権とほぼ同じ性質に変化し、新たな債権は担保されなくなります。実務上、この元本確定の仕組みを理解していないと、相続発生時に重大なトラブルが生じる可能性があります。
債務者の相続が発生した場合、相続開始から6ヶ月以内に指定債務者の合意登記をしなければ、相続開始時に遡って元本が確定したものとみなされます。この6ヶ月という期限は絶対で、合意だけでは不十分で登記まで完了させる必要があります。登記を失念すると、以降の追加融資が一切受けられなくなるため、法人の事業継続に深刻な影響を与えます。
物上保証人は、他人の債務のために自己の不動産に担保を提供する立場です。債務者本人とは異なり、物上保証人は債務の履行義務を負いません。根抵当権が実行されて不動産を失っても、それ以上の責任を追及されることはないのです。実務では、経営者個人の不動産に法人の債務を担保する根抵当権を設定するケースが典型例です。
物上保証人も、根抵当権設定時から3年経過後は元本確定請求ができます。確定請求権は設定者側の重要な権利で、長期間にわたって不動産が拘束される状況を解消するための手段として機能します。請求後2週間で効力が発生するため、金融機関側は確定請求を受けた時点で迅速な対応が求められます。
元本確定事由には、確定期日の到来、相続発生後6ヶ月以内の合意登記の不実施、根抵当権者や債務者の合併、設定者や物上保証人からの確定請求、第三者による競売や差押、破産宣告などがあります。どの事由に該当するかで対応が変わるため、状況に応じた判断が必要です。
根抵当権設定者と債務者の混同防止策
不動産取引の現場では、根抵当権設定者と債務者を混同するミスが発生しやすい状況があります。通常の抵当権では両者が一致することが多いため、根抵当権でも同様と考えてしまう担当者が少なくありません。しかし、根抵当権における「債務者」は登記上の条件を示すものであり、実際の債務負担者とは別概念です。
根抵当権の登記事項には債務者として「株式会社A」と記載されていても、実際の不動産所有者である根抵当権設定者が「代表取締役B個人」というケースがあります。この場合、Bは物上保証人として会社Aの債務を担保提供しているに過ぎず、債務そのものを負担するわけではありません。登記簿を確認する際は、権利部乙区の根抵当権の項目で「債務者」と「根抵当権設定者」の両方を必ず確認する必要があります。
実務上の混同を防ぐには、取引開始時点での登記事項証明書の精査が不可欠です。根抵当権設定者の住所氏名を権利部甲区の所有権登記と照合し、債務者欄に記載された者との関係性を把握します。法人が債務者で個人が設定者なら物上保証関係、同一人物なら債務者兼設定者と判断できますね。
金融機関との交渉場面でも正確な理解が求められます。根抵当権の抹消や変更を依頼する際、設定者と債務者が異なる場合は両者の協力が必要になる場面があります。元本確定前の被担保債権の範囲変更や債務者変更は、根抵当権者と設定者の合意で可能ですが、債務者本人の同意も実務上は求められることが多いです。
相続が発生した際の対応も両者の違いを理解していないと適切な手続きができません。債務者が死亡した場合と設定者が死亡した場合では必要な登記が異なります。債務者死亡なら指定債務者の合意登記、設定者死亡なら所有権移転登記と根抵当権の設定者変更が必要です。
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根抵当権における不動産業者の実務対応
不動産取引において根抵当権付き物件を扱う際は、通常の抵当権とは異なる対応が求められる場面が多数存在します。売買契約前の重要事項説明では、根抵当権の存在だけでなく元本確定の有無、極度額と実際の債務額の関係、抹消の可能性について詳細な調査と説明が必要です。
元本確定前の根抵当権が設定されている物件の売買では、売主側で元本確定手続きを経てから抹消登記を行う流れが一般的です。金融機関に対して元本確定請求を行い、確定後に全額弁済して抹消するという段取りになります。元本確定には根抵当権者からの確定請求が最も確実で、配達証明付き内容証明郵便で通知すれば登記可能です。
極度額と実際の債務残高の確認も重要なポイントです。極度額5,000万円の根抵当権でも実際の債務が2,000万円であれば、2,000万円の弁済で抹消可能です。しかし、元本確定前は債務額が変動する可能性があるため、決済日を確定期日として設定し、その時点での残高証明を取得する必要があります。
物上保証人が設定者となっている物件では、債務者本人だけでなく設定者の協力も必要です。抹消登記には根抵当権者の解除証書と設定者の登記識別情報が必要なため、事前に設定者の所在と意思確認をしておかなければなりません。設定者が行方不明の場合は公示催告手続きなど特殊な対応が必要になることもあります。
決済時の資金計画では、登録免許税の負担も考慮が必要です。根抵当権抹消登記の登録免許税は不動産1個につき1,000円で済みますが、元本確定登記を別途行う場合は追加で1,500円かかります。司法書士報酬と合わせた総コストを事前に買主に説明しておくことが円滑な取引につながります。

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