市街地再開発事業の仕組みと地権者が知るべきリスク

市街地再開発事業の仕組みと地権者への影響

この記事の3つのポイント
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第1種・第2種の違いを正確に理解する

権利変換方式と管理処分方式では、地権者の権利保護の仕組みが根本的に異なります。混同すると顧客への説明が誤ります。

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「等価交換」は名ばかりになるケースがある

保留床の設定次第で、地権者が受け取る権利床は従前資産の8割程度に抑えられることがあります。数字の根拠を必ず確認しましょう。

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不同意でも組合員になり事業リスクを負う

反対した地権者であっても、法的に組合員として事業リスクを負わされる仕組みになっています。この点を見落とすと取返しがつきません。

「再開発に反対した地権者でも、組合員として赤字リスクを丸ごと背負わされます。」

市街地再開発事業とは何か:都市再開発法の基本的な枠組み

 

市街地再開発事業とは、老朽化した木造建築物が密集し、公共施設も不十分な地域を対象に、土地の合理的・高度な利用と都市機能の新を図る事業です。 根拠法は都市再開発法(昭和44年制定)であり、建築物や建築敷地の整備、公園・緑地・街路などの公共施設整備を一体的に行います。

参考)https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/seido/06sigaichisai.html

不動産業に従事していると「再開発=街がきれいになる」という印象を持ちがちですが、実態はそれほど単純ではありません。

事業には次の3つの柱があります。

  • 地区内の建築物の全面的な除却
  • 細分化された敷地の統合と不燃化共同建築物の建築
  • 公園・緑地・街路などの公共施設整備

対象要件として、第1種事業では「高度利用地区や都市再生特別地区の区域内であること」「耐火建築物の割合が建築面積の概ね1/3以下であること」「土地の利用状況が著しく不健全であること」が必要です。 これを満たさない地区では、いくら地権者が望んでも事業を開始できません。つまり要件確認が原則です。

事業の完了までには、権利者数や事業規模にもよりますが、準備組合の勉強会から再開発ビルのオープンまで10年以上かかる場合もあるとされています。 これは客観的な事実です。

参考)事業の区別と仕組み 横浜市

参考:横浜市「市街地再開発事業の仕組み」(事業フローと各段階の詳細を確認できます)

事業の区別と仕組み 横浜市

市街地再開発事業の第1種と第2種の違いを正確に把握する

第1種事業と第2種事業は「目的は同じ、手法が異なる」と整理できます。 この違いを曖昧に理解していると、地権者への説明で重大なミスにつながります。

最大の違いは収支のしくみと権利の扱い方です。

比較項目 第1種事業(権利変換方式) 第2種事業(管理処分方式)
資産の扱い 権利を再開発ビルの床へ変換 一旦、施行者が買収・収用
地権者の選択 権利床を受け取る or 補償金で転出 買収代償を現金 or 床に変換
対象地区の特徴 高度利用地区などの要件を満たす区域 0.5ha以上、災害リスクや緊急性が高い地区
公共性・緊急性 通常レベル 著しく高い地区に限定

第2種事業は0.5ha以上かつ緊急性が特に高い地区に限られるため、発生件数は第1種より格段に少ない点も覚えておきましょう。 少ないだけに知識の抜けが出やすいです。

どちらの方式でも、高度利用によって新たに生み出された床(保留床)の処分収入で事業費をまかなう点は共通です。 保留床の売却が事業の財源の核心と言えます。

参考)都市:市街地再開発事業 – 国土交通省

参考:国土交通省「市街地再開発事業」(第1種・第2種の要件・補助内容の公式説明)

市街地再開発事業

権利変換の仕組みと「等価交換は保証されない」落とし穴

権利変換とは、再開発の際に従前の土地・建物を明け渡し、その代わりに再開発ビルの一部の権利(権利床)をもらう仕組みです。 「等価交換」という言葉が使われるため、「同じ価値の床がもらえる」と思い込みやすいです。

参考)https://lead-law-office.com/saikaihatsu/kiso/243/

これは危険な思い込みです。

実際には、再開発準備組合の担当者が「権利変換比率が低くなる」ことの説明をする場面では、「再開発ビルは新築で坪単価が大幅に増加するため、床面積は従前の8割程度になる」という説明がなされるケースがあります。 面積は減っても市場価格は上がるという論法です。

参考)再開発の反対運動

しかしその裏では、「権利床面積を最低限に抑え、残りの床をすべて保留床として事業者が総取りする」という構造が働くケースも指摘されています。 計算式で整理すると「総床面積-(最低限の)権利床=(最大限の)保留床」という形です。

参考)(197)地権者は等価交換して終わり? – 泉岳寺周辺地区を…

不動産業従事者として顧客にアドバイスするなら、以下の点の確認が重要です。

保留床が増えすぎて権利床が減る原因の多くは、建築工事費の膨張による事業費過大にあると指摘されています。 等価原則そのものの問題ではなく、事業費管理の問題です。

参考:新銀座法律事務所「再開発における等価原則と等価交換」(権利変換比率の根拠検証方法の解説)

再開発における等価原則と等価交換

市街地再開発事業で地権者が負う「事業リスク」の実態

多くの地権者は「再開発は行政が責任を持って進めてくれる事業だ」と思っています。これは大きな誤解です。

第1種市街地再開発事業では、損失が発生した場合、デベロッパーがリスクを負担する取り決めが組合と結ばれていない限り、損失は組合(=地権者)が負担するのが原則です。 これが地権者を直撃するリスクの核心です。

参考)(160)地権者に「事業リスク」がとれるのか? – 泉岳寺周…

さらに深刻なのは、事業に「不同意」だった地権者に対しても、一律に組合員として事業リスクを負わせる仕組みになっている点です。 賛成していなくても関係ありません。

参考)(161)地権者に「事業リスク」がとれるのか?(続編) – …

なぜそうなるかというと、市街地再開発組合の設立には施行区域内の宅地について所有権または借地権を有する5人以上が共同すれば足り、反対者を含む全員が組合員になるからです。 組合員になることへの個人の拒否権は原則ないのです。

参考)https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/wg3/chiiki/150122/item1-1.pdf

加えて、金融機関のような「個人の支払い能力に対する事前の審査制度」が整備されていないため、支払い能力がない地権者でも事業リスクを背負い続けるという危険な状態が生まれます。 厳しいところですね。

岡山県津山市の事例では、人口わずか11万人の小都市に320億円もかけて巨大すぎる再開発ビルを建設した結果、事業が破綻するという事態が起きています。 事業規模の適正さを見極めることが不可欠です。

参考)(55)地権者必見!再開発の破たん事例(その1) – 泉岳寺…

参考:先学寺ヒューマンライツ「地権者に『事業リスク』がとれるのか?」(事業リスクの具体的な負担構造の解説)

https://sengakujihumanrights.com/160地権者に「事業リスク」がとれるのか?/

市街地再開発事業が周辺不動産価格へ与える影響と不動産業従事者の視点

再開発計画の発表は、周辺不動産市場に直接的な影響を与えます。期待感から物件価格が早期に高騰し、将来の値上がりを先取りした価格での取引が行われるケースも少なくありません。 注意が必要な場面です。

参考)コラム#157 再開発事業の落とし穴!?首都圏再開発から考え…

問題は、再開発による地価・物件価格の上昇の恩恵を実際には受けられないまま高値掴みをしてしまう投資家が出ることです。 計画発表後の上昇分はすでに価格に織り込まれている可能性があります。

また、市街地再開発事業では保留床を多く生み出す必要があるため、建物が「高く大きく」なりがちです。 地権者への補償費や老朽ビルの解体費も事業費に加わり、全体のコストが膨らみやすい構造です。

参考)「タワーマンションありき」の再開発に潜むリスク!50年後に街…

不動産業従事者として押さえておきたいポイントは次の通りです。

  • 再開発計画発表のタイミングと現在の価格水準の乖離を検証する
  • 2023〜2029年の東京・渋谷周辺だけでも8つのオフィス・商業ビル開発が進むなど、首都圏では「100年に一度」の規模の再開発が集中している
  • 地方都市では需要と規模のミスマッチによる破綻リスクが首都圏より高い

不確実性を前提としたリスク管理が問われる局面では、国土交通省が公表する都市再開発法に基づく手続きの進捗情報や都市計画決定告示を定期的に確認することで、計画の確実性を見極めることができます。

参考:KAIROS M「再開発事業の落とし穴!首都圏再開発から学ぶ不動産投資の注意点」(周辺不動産価格への影響とリスクの解説)

コラム#157 再開発事業の落とし穴!?首都圏再開発から考え…

市街地再開発事業で不動産業従事者が実務上やるべき「独自チェックリスト」

不動産業従事者の多くは、再開発の「表の情報」は知っていても、権利変換計画書の細部や補償交渉の実務まで精通している人は少ないです。これを知っているだけで差がつきます。

実務上、見落としがちなポイントを整理します。

確認フェーズ 確認すべき項目 見落とすと起きること
事業計画決定前 施行区域要件(耐火建築物1/3以下など)を満たしているか 要件未充足で計画が頓挫するリスク
権利変換計画段階 評価基準日(公告から30日後)の土地・建物評価が適正か 低評価により権利床が減少
補償金交渉 法91条補償金の受取期限(権利変換期日まで)を把握しているか 期限切れで補償金を受け取れない
組合設立段階 不同意の地権者も組合員になる旨を事前説明できているか 後からのトラブル・訴訟リスク
事業完了後 保留床の処分状況と事業収支が正常か 赤字が出れば地権者(組合員)に損失が帰属

また、再開発計画の白紙撤回は合法であることを知っておく必要があります。着工寸前の段階で新市長が計画を撤回し、再開発組合が市を訴えた裁判で組合が敗訴した事例が実際にあります。 行政認可済みでも安心はできません。

参考)再開発計画の白紙撤回は合法

地権者への補償交渉においては、弁護士など専門家への早期相談が損失回避のカギになります。 特に権利変換比率の根拠に疑問がある場合は、交渉の余地が生じる可能性があります。 早めの動きが条件です。fudosan-lawyer-akiyama+1

参考:日経クロステック「再開発計画の白紙撤回は合法」(行政による計画撤回と法的リスクの詳細)

再開発計画の白紙撤回は合法

参考:光法律事務所「都市再開発法に基づく第一種市街地再開発とどう向き合うか」(地権者の対応策と実務上の注意点)

https://hikari-law.com/j/column/8742

都市再開発法・建築基準法の解説: 再開発地区計画制度の創設,市街地再開発事業の拡充 昭和63年改正