建築協定を無視すると起こる法的リスクと対処法

建築協定を無視した場合のリスクと実務対応

建築協定を「古い取り決めだから実害はない」と軽く見ている不動産業従事者は、実は訴訟リスクを抱えたまま仲介を続けています。

この記事の3つのポイント
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建築協定違反は民事上の差止請求の対象になる

建築基準法に違反しなくても、協定違反だけで裁判所が工事差止めを認めた判例が存在します。

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重要事項説明での告知漏れは損害賠償に直結する

建築協定の内容を買主に説明しなかった場合、仲介業者が数百万円規模の損害賠償を求められたケースがあります。

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協定の有効期限・廃止手続きを確認すれば防げる

建築協定には必ず有効期間があり、正しく廃止・変更された協定なら問題ありません。事前調査で大半のリスクは回避できます。

建築協定を無視すると差止請求で工事が止まるリスク

 

建築協定とは、住民が自主的に締結し、特定行政庁の認可を受けた土地利用に関するルールです。建築基準法第69条以降に規定されており、認可された協定は法的拘束力を持ちます。

建築確認が下りたから問題ない」と考える業者は多いです。これは危険な思い込みです。

建築確認は建築基準法への適合を審査するものであり、建築協定への適合は別の話です。つまり、建築確認が通っていても建築協定に違反していれば、協定区域内の他の土地所有者(締結者)から民事上の差止請求を受けることがあります。

実際に、東京地裁の過去の判例では、建築確認取得済みの建物について、近隣住民が建築協定違反を理由に工事差止めの仮処分を申請し、認められたケースが存在します。工事が途中で止まると、施工業者への違約金や追加工事費が発生します。これは施主にとって数百万円規模の損失になり得ます。

不動産業従事者としては、物件調査の段階で建築協定の有無を必ず確認することが原則です。市区町村の建築指導課または都市計画課に問い合わせると、協定の認可状況・内容・有効期限を確認できます。

  • 📍 確認先:市区町村の建築指導課・都市計画課
  • 📄 確認内容:協定書の写し、有効期間、協定区域の図面
  • 🔍 調査タイミング:媒介契約締結前の物件調査時

協定の内容を把握していれば対応できます。

建築協定を無視した重要事項説明の不告知で起きる損害賠償

不動産取引では、買主に対して重要事項を説明する義務があります。建築協定はこの「重要事項」に該当します。

宅地建物取引業法第35条に基づく重要事項説明では、建物の建築上の制限に関する事項を明示しなければなりません。建築協定による制限(例:建物の高さを8m以下とする、木造以外は禁止、店舗・事務所への用途変更禁止など)は、買主が物件を購入するかどうかを判断する上で重大な影響を与える情報です。

告知を怠ると損害賠償です。

過去の裁判例では、仲介業者が建築協定の内容を説明せずに売買契約を成立させた結果、買主が希望通りの建物を建てられなかったとして、仲介手数料の返還に加えて数百万円の損害賠償を命じられた事例があります。1件の告知漏れが会社の信頼を失うことになります。

実務上は、重要事項説明書に建築協定の内容を明記し、協定書の写しを添付して交付するのが安全な対応です。協定が複数ある場合、それぞれについて個別に記載する必要があります。

確認項目 内容
協定名称 正式な協定書の名称
有効期間 認可日から満了日
協定区域 対象となる土地の範囲(図面確認)
主な制限内容 高さ・用途・外壁後退距離など
廃止・変の有無 廃止手続き済みか否か

重要事項説明書への記載が条件です。

建築協定の無視が発覚した後の行政・近隣対応の実態

建築協定違反が発覚した後の流れは、一般的な建築基準法違反とは異なります。行政が直接取り締まる仕組みではありません。

建築基準法違反であれば、特定行政庁が是正命令を出し、従わない場合は罰則(懲役や罰金)が科されます。一方、建築協定は「民間の契約」に近い性質を持つため、違反への対処は主に民事上の手続きになります。つまり、行政が動くのではなく、近隣住民・協定締結者が動くという構図です。

これは意外ですね。

具体的には、協定締結者による差止請求・損害賠償請求・原状回復請求が主な手段になります。こうした近隣トラブルは長期化しやすく、裁判費用だけでも1件あたり数十万円から数百万円に達することがあります。また、当事者が不動産業者の場合、SNSや口コミサイトでの評判悪化につながるリスクも無視できません。

一方で、建築協定違反でも行政が動くケースもあります。協定と建築基準法の両方に違反している場合、または協定の内容が地区計画や条例に反映されている場合です。この場合は行政指導の対象になります。

  • ⚖️ 民事手続き(差止・損害賠償)が主なリスク
  • 🏛️ 協定+地区計画違反の場合は行政指導の対象になることも
  • 📢 SNS・口コミによる評判リスクも近年増加中

状況を正確に把握することが重要です。

建築協定を無視してよいケース:廃止・失効・適用除外の条件

建築協定は必ずしも永続的に有効なわけではありません。廃止・失効・適用除外になるケースがあります。

まず、有効期間が満了しており、更新手続きが取られていない場合は失効しています。協定書には有効期間(多くは10年・20年・30年単位)が定められており、期間満了後に更新認可を受けていなければ、その協定は効力を持ちません。これは調べれば確認できます。

次に、協定の廃止手続きが正式に完了しているケースです。建築基準法第76条の3の規定に基づき、協定締結者全員の合意と特定行政庁への廃止申請・認可が完了している場合、協定は消滅しています。

また、「一人協定(単独所有者が設定した協定)」は、その土地が第三者に譲渡された時点で効力が消滅します(建築基準法第76条の3第6項)。これなら違反になりません。

  • ✅ 有効期間満了+更新なし → 失効
  • ✅ 廃止手続き完了(全員合意+行政認可)→ 消滅
  • ✅ 一人協定で第三者に譲渡済み → 効力消滅
  • ❌ 単に「古い協定だから無効」という判断は不可

現況確認が条件です。市区町村窓口で協定の現況を確認することで、有効か否かを確実に判断できます。「古そうだから無効だろう」という憶測での判断は絶対に避けてください。

参考:建築基準法第69条〜第76条の3(建築協定に関する規定)

e-Gov 法令検索:建築基準法(第69条〜第76条の3「建築協定」の条文)

建築協定の無視に気づかず仲介した場合の業者責任と再発防止策

「知らなかった」は免責になりません。これが原則です。

宅地建物取引業者は、善管注意義務(善良な管理者としての注意義務)に基づき、取引に関連する法的制限を調査・説明する義務を負います。建築協定は公開情報であり、市区町村窓口で誰でも確認できます。したがって、「調査しなかった=過失あり」と判断されるリスクが高いです。

実際に問題が起きた後の対処は、次のような流れになることが多いです。

  1. 買主・施主から仲介業者に対してクレーム・損害賠償請求が発生
  2. 仲介業者が売主・前所有者に対して求償(費用の一部負担を求める)
  3. 訴訟に発展した場合、宅建業法違反として宅地建物取引業免許の停止・取消しの対象になることも

宅建業法に基づく行政処分(業務停止免許取消)は、1件の案件でも発動し得ます。免許取消しになると、進行中のすべての取引にも影響が及びます。深刻なリスクです。

再発防止策として、物件調査チェックリストに「建築協定の有無と有効期間の確認」を必須項目として組み込むことをお勧めします。確認先は市区町村の建築指導課で、電話での事前問い合わせでも対応してもらえることが多いです。

  • 📞 事前問い合わせ先:市区町村建築指導課・都市計画課
  • 📋 チェックリスト必須項目に「建築協定の現況確認」を追加
  • 🗂️ 協定書の写しを重要事項説明書に添付して保管
  • 👥 社内で定期的に事例共有・勉強会を実施

参考:国土交通省による建築協定制度の解説ページ

国土交通省:建築協定制度について(制度概要・手続き・Q&Aを収録)

一度の見落としが取り返しのつかない結果を招くこともあります。調査と説明のプロセスを標準化することが、不動産業従事者としての信頼を守る最も確実な方法です。


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