緑地協定廃止の手続きと不動産取引への影響
緑地協定の廃止を「地主が自由に決められる」と思っていると、取引が白紙になるリスクがあります。
緑地協定とは何か:不動産業従事者が最低限知るべき基礎知識
緑地協定とは、都市緑地法第45条・第54条に基づき、土地所有者等が合意して緑地の保全や緑化に関するルールを定める制度です。 住宅地や商業地の区画内で「この場所には必ず樹木を植える」「垣根の構造はこうする」といった事項を協定として縛る仕組みで、一度締結されると区域内の全土地所有者に効力が及びます。laws.e-gov.go+1
協定には2種類あります。
- 45条協定(全員協定):既存コミュニティの土地所有者等の全員合意で締結し、市町村長の認可を受けるもの
- 54条協定(一人協定):開発事業者が分譲前に単独で締結し、3年以内に複数の所有者が生じた時点で効力が発生するもの
不動産取引でよく問題になるのは54条協定です。分譲地を購入した後に「実は一人協定が設定されていた」と気づくケースが現場では少なくありません。協定の有効期間は5年以上30年未満と定められているため、残存期間の確認が重要です。
つまり、購入前の調査で協定の種類と期間を必ず確認することが基本です。
緑地協定廃止の要件:「過半数合意」の意外な落とし穴
緑地協定の廃止手続きは、区域内の土地所有者等の過半数の合意をもって申請し、市町村長の認可を受けなければなりません(都市緑地法第52条)。
参考)都市緑地法 第52条 第2項(緑地協定の廃止)|Lawzi…
ここで実務上の大きな落とし穴があります。
練馬区の手引きには「過半数(半分では不足)」と明記されています。 例えば区域内の土地所有者が10人の場合、5人の合意では廃止できません。6人以上の合意が必要です。「半分以上賛成してくれた」と思って申請に進むと、認可が下りずに取引が止まる事態になります。
参考)https://www.city.nerima.tokyo.jp/kurashi/shigoto/midori/seido/ryokutikyoutei.files/tebiki.pdf
変更の場合はさらに厳しく、全員の合意が求められます。 廃止より変更のほうが要件が重いのは直感に反しますが、法律上はそういう構造になっています。意外ですね。
参考)【不動産鑑定士試験対策|行政法規】都市緑地法(過去問出題論点…
廃止のプロセスは以下のステップで進みます。lawzilla+1
- 区域内土地所有者等の過半数(半数超)の合意を書面で取得
- 市町村長へ廃止認可申請書を提出
- 市町村長が公告を行い、2週間の公告・縦覧期間が設けられる
- 縦覧期間終了後に認可・公告
この2週間の縦覧期間が売買スケジュールに直撃します。決済日の直前に廃止手続きを始めると、スケジュールが崩れるリスクがあります。
緑地協定廃止が不動産売買に与えるリスク:スケジュールと価格への影響
緑地協定が付いた土地を売却する際、「廃止してから売る」という進め方を選ぶ場合、前述の手続き期間がそのまま引渡しの遅れに直結します。
スケジュールがズレると、それだけで売主・買主・仲介業者の三者に損失が発生します。 買主がローンの実行日を設定していた場合、金利の差額や手続き費用の再発生が起こり得ます。実務では、廃止申請から認可公告まで最短でも1か月程度は見ておく必要があります。
価格面での影響も無視できません。緑地協定が生きている土地は、植栽の維持義務や建築制限が課せられた状態で取引されるため、協定のない同条件の土地より査定額が低くなるケースがあります。一方で、緑豊かな住環境を好む買主層にとってはプラス評価になる場合もあり、ターゲット次第で評価が真逆になります。これは使えそうです。
協定廃止が困難な場面でどう対処するか、という点について、まず「廃止ではなく区域変更(縮小)」という選択肢を検討することが有効です。変更は全員合意が必要で廃止より難しい場合がありますが、協定区域から特定の筆だけ除外できれば、その筆の取引に協定の制約がなくなります。ただしこれも全員合意が必要なため、区画内の権利者数が少ない(2〜3名)ケースでなければ現実的ではありません。
緑地協定廃止後の土地活用:緑化義務がなくなると何が変わるか
緑地協定が廃止されると、協定で定めていた緑化義務(植栽の維持・保全、垣根の構造制限など)がすべて解除されます。 これにより、駐車場への転用や建築物の配置変更など、以前は協定違反になっていた土地活用が可能になります。
ただし注意が必要です。緑地協定が廃止されても、用途地域の建蔽率・容積率や、地区計画・建築協定など別の制限は当然残ります。 「協定を廃止したから何でもできる」と買主に説明してしまうと、後日クレームの原因になります。廃止後も他の規制を個別に確認することが条件です。
自治体によっては、緑地協定の締結・維持に対して助成措置を設けています。 廃止によってその助成対象から外れるケースもあるため、廃止前に自治体の担当窓口への確認が1アクションで済む確認事項として押さえておきましょう。廃止のメリット・デメリットを金銭面で比較した上で判断することが求められます。
廃止後に新たに緑化協定を再締結することも理論上は可能です。再締結の際はまた全員合意から始まりますが、分譲地の開発計画段階で54条協定(一人協定)として再設定する方法が比較的スムーズです。開発に携わる場合は、将来の廃止・再設定まで見越した設計が実務の質を高めます。
不動産業従事者が実務で差をつける:緑地協定調査の独自チェックポイント
多くの不動産業従事者が物件調査の際に確認するのは「緑地協定の有無」だけです。しかし実務で差がつくのは、有無だけでなく「廃止可能性の事前評価」まで調査できるかどうかです。
独自の実務チェックポイントを以下に挙げます。
- 📌 協定の種類(45条 or 54条)を確認:54条(一人協定)は分譲地で多く、所有者数が増えた後は廃止が複雑になりやすい
- 📌 協定区域内の土地所有者数を把握:所有者が多いほど過半数合意の取得難易度が上がる。10筆超えると廃止交渉は長期戦になりやすい
- 📌 有効期間の残存年数を確認:満了まで数年なら廃止申請よりも期間満了を待つほうがコスト・手間ともに低い
- 📌 自治体の助成制度との連動を確認:緑地協定に紐づく補助金・助成が廃止で停止される場合がある
- 📌 違反措置の内容を協定書で確認:協定書には「違反した場合の措置」が記載される。廃止前に協定違反状態になっていないかも要チェック
協定の有効期間は5年以上30年未満と定められているため、登記情報だけでなく、自治体の都市緑化担当窓口で協定書の原本を閲覧・取得することが確実です。 大阪市堺区や京都市・福岡市などの自治体ではウェブ上で申請書式を公開しているため、手続きの全体像を事前に把握しておくと動きがスムーズになります。city.sakai+3
緑地協定は登記簿に記載されない点に注意が必要です。法務局の登記情報では確認できず、自治体窓口での確認が必須になります。物件調査のチェックリストに「自治体への緑地協定照会」を標準で入れておくことが原則です。
以下のリンクでは、国土交通省が公開している都市緑地法の運用指針の全文が確認できます。緑地協定の成立・変更・廃止に関する行政上の解釈が詳しく記載されています。
国土交通省|緑地協定制度の概要(都市緑地法第45条・第54条)
都市緑地法の条文そのままを確認したい場合は、以下のe-Gov法令データベースが正確です。第52条の廃止要件・公告手続きが条文レベルで確認できます。