盛土規制区域の指定・許可・罰則を不動産業者が知るべき理由

盛土規制区域の指定・許可・罰則と不動産業者が押さえるべき実務知識

許可申請をせずに盛土した土地を売却すると、あなたも3年以下の懲役を問われる可能性があります。

📋 この記事の3ポイント要約
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盛土規制区域とは何か?

2023年施行の「宅地造成及び特定盛土等規制法」により新設された区域指定制度。従来の宅地造成等規制法より対象範囲が大幅に拡大され、農地・森林も含む幅広い土地が対象になりました。

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許可なしは即アウト

盛土規制区域内で許可を受けずに造成工事を行うと、3年以下の懲役または1,000万円以下の罰金が科される可能性があります。仲介業者も状況によっては責任を問われます。

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重要事項説明への影響

盛土規制区域内の土地は、宅建業者として重要事項説明での告知義務が生じます。説明漏れは宅建業法違反となり、行政処分・損害賠償リスクに直結します。

盛土規制区域の指定背景と「宅地造成及び特定盛土等規制法」の概要

 

2021年7月、静岡県熱海市で大規模な土石流が発生し、20名以上が亡くなりました。この災害の一因として、不適切な盛土が指摘されました。これを受けて政府は法律を抜本的に見直し、2023年5月26日に「宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)」が施行されました。

従来の「宅地造成等規制法」は、主に市街地に近い宅地造成工事を対象にしていました。対象が限定的だったため、農地や森林での盛土は規制の網をくぐり抜けることができていました。つまり旧法には大きな穴があったということです。

新法では規制対象が大幅に拡大されました。農地・森林を含む「盛土規制区域」と、より厳重な管理が必要な「特定盛土等規制区域」という2種類の区域が創設されています。都道府県知事(または政令市・中核市の長)が区域を指定し、その区域内での造成工事に許可または届出が必要になりました。

不動産業に携わる方にとって重要な点は、この法律が「工事をした人だけの問題」ではないということです。違反状態の土地を知りながら取引に関与した場合、宅建業法上の説明義務違反に発展するリスクがあります。制度の全体像を把握することが第一歩です。

項目 旧法(宅地造成等規制法) 新法(盛土規制法)
施行日 1961年 2023年5月26日
主な規制対象地 宅地造成工事規制区域(主に市街地周辺) 盛土規制区域・特定盛土等規制区域
農地・森林 原則対象外 対象に含む
罰則(無許可工事) 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 3年以下の懲役または1,000万円以下の罰金

罰則が大幅に強化されている点は見逃せません。

盛土規制区域の指定エリアと対象となる工事の種類

「盛土規制区域」はどこでも指定されるわけではありません。都道府県知事等が、宅地・農地・森林を問わず、盛土等により人家等に被害を及ぼしうる区域を調査・検討したうえで指定します。いわば「土砂災害のリスクがある場所に幅広く網をかける」制度です。

具体的には、傾斜地に接した土地・沢や谷を埋めた土地・過去に造成履歴のある土地などが対象になりやすいとされています。平地であっても、隣接する傾斜地の状況によって区域に含まれる場合があります。「うちの物件は平らだから関係ない」という思い込みは危険です。

盛土規制区域内で許可または届出が必要な行為は以下の通りです。

  • 🔨 盛土の高さが1mを超える工事(擁壁を設けない場合は0.5mを超えるもの)
  • 🔨 切土と盛土を同時に行い、その盛土部分の高さが1mを超える工事
  • 🔨 面積が500㎡を超える土地での盛土・切土工事(東京ドーム約0.01個分の広さが目安)
  • 🔨 廃棄物を含む盛土など、特に崩壊リスクが高い工事

「高さ1m」というのは、成人男性の腰のあたりまでの高さです。住宅の外構工事でも十分に該当し得るボリュームです。小規模だから大丈夫という認識は改めた方がよいでしょう。

また、盛土規制区域とは別に設けられた「特定盛土等規制区域」では、さらに小規模な工事(盛土高さ0.5m超など)でも届出が必要になります。二重の確認が必要です。

国土交通省が各都道府県の指定状況を公表しているため、対象物件の所在地の指定状況は必ず以下で確認することをおすすめします。

盛土規制法に関する国土交通省の公式解説ページ(指定区域の確認方法も掲載)

国土交通省|宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)について

盛土規制区域内での許可申請・届出の手続きと審査のポイント

盛土規制区域内で工事を行うには、都道府県知事等への許可申請が必要です。手続きの流れを把握しておくことで、取引の遅延リスクを大幅に減らせます。

許可申請の流れはおおむね次の通りです。

  1. 📄 事前相談:都道府県の担当窓口(土木事務所等)へ工事計画の概要を相談
  2. 📄 申請書類の作成:設計図書・排水計画・施工業者の資格証明書類などを整備
  3. 📄 申請書提出:許可申請書に添付書類を添えて提出
  4. 📄 審査:都道府県が技術基準への適合を審査(標準処理期間は概ね30〜60日)
  5. 📄 許可証の交付・工事着手

審査で重視されるのは、主に「排水施設の計画」「擁壁の設計」「崩壊防止策」の3点です。これらが技術基準を満たしていないと不許可になります。設計士・施工業者との連携が欠かせません。

工事完了後には「完了検査」が必要で、検査済証を取得して初めて工事が適法に完了したと認められます。検査済証がない土地は、後の取引で問題になる可能性が高いです。

また、許可申請とは別に、一定規模以下の工事については「届出」で足りる場合があります。ただし「届出でよいか・許可が必要か」の判断を誤ると無許可工事扱いになるため、必ず行政窓口で確認することが原則です。

不動産業者が負う重要事項説明義務と説明漏れのリスク

宅地建物取引業者として最も気をつけなければならないのが、重要事項説明への対応です。盛土規制区域は、宅建業法第35条に基づく重要事項説明の告知項目に該当します。

具体的には、売買・交換・賃貸借の仲介・代理を行う際に、その土地が盛土規制区域内にあるかどうかを調査し、該当する場合には書面で説明する義務があります。これが条件です。

説明を怠った場合のリスクは以下の通りです。

「知らなかった」は免責にならない点が重要です。調査義務は業者側にあるため、「確認しなかった」こと自体が過失と判断されます。痛いですね。

調査方法としては、①都道府県の窓口(土木事務所等)への照会、②各都道府県が公開しているGISマップでの確認、③ハザードマップポータルサイトの活用、の3つが実務では有効です。複数の方法を組み合わせて確認するのが基本です。

国土地理院が提供する「地理院地図」でも地形・造成履歴の確認が可能です。工事履歴の目視確認に活用できます。

国土地理院|地理院地図(旧土地利用・地形確認に活用可能)

盛土規制区域での独自視点:既存不適格物件の取り扱いと売買実務上の注意点

多くの解説記事では触れられていない論点があります。それは「法施行前にすでに造成されていた土地」、いわゆる既存不適格状態の物件の取り扱いです。

盛土規制法の施行(2023年5月26日)以前に造成が完了していた土地は、原則として遡及適用されません。つまり旧法の基準で造成された土地は、新法の許可を取り直す必要はありません。これは使えそうです。

しかしここに落とし穴があります。施行後に当該土地で「追加の造成工事」や「大規模な改変」を行う場合は、新法の許可が必要になります。一部の改修でも新法の対象になり得るため、リフォームや外構工事を前提とした取引には注意が必要です。

さらに、施行後3年以内(2026年5月25日まで)は、既存の盛土について都道府県が調査を行い、危険な盛土と判断された場合には是正命令が出る可能性があります。このタイミングに今まさに差し掛かっているということです。

  • 🔍 施行から3年以内に既存盛土の調査が実施される可能性がある
  • 🔍 危険と判定されると所有者に是正工事の命令が下される
  • 🔍 是正工事費用は原則として土地所有者の負担
  • 🔍 売買後に命令が来た場合、買主から前所有者・仲介業者への責任追及も起こり得る

取引前に「過去の造成履歴の有無」「旧法時代の検査済証の存在」「都道府県による既存盛土調査の対象かどうか」を確認しておくことが、実務上のリスクヘッジになります。航空写真の経年変化を国土地理院の地理院地図で確認する方法も、調査手段の一つとして活用できます。

また、2026年5月に向けて各都道府県が既存盛土の調査結果を公表し始める可能性があります。タイミングを逃さずチェックしておくことが重要です。

国土交通省|盛土規制法の施行状況・都道府県の取組状況(随時更新)

盛土規制区域に関するよくある誤解と不動産業者が陥りやすいミス

実務でよく見られる誤解を整理しておきます。知っているだけで、大きなトラブルを防ぐことができます。

❌ 誤解1:「住宅地なら旧法の区域指定で管理されているはず」

新法は旧法の「宅地造成工事規制区域」とは別の区域指定を行います。旧法指定区域であっても、新法の盛土規制区域として改めて指定される場合があります。旧法の指定だけで安心してはいけません。

❌ 誤解2:「小規模な外構工事は関係ない」

盛土の高さが1m(擁壁なしの場合0.5m)を超えれば、住宅の外構工事でも規制対象になります。外構業者への丸投げはリスクがあります。

❌ 誤解3:「区域指定されていないから何もしなくていい」

盛土規制区域外であっても、特定盛土等規制区域に指定されていれば届出義務があります。区域の種類を2つ確認するのが基本です。

❌ 誤解4:「売主が許可を取っていれば仲介業者は関係ない」

許可の確認・説明義務は仲介業者にも独立して課されます。売主任せは通用しません。

これらは読者が実際にやってしまいやすいミスです。一つひとつが重大な法的リスクに直結しています。まず「自分の取り扱い物件がどの区域に該当するか」を確認することから始めましょう。各都道府県のWebサイトで公開されているGISマップまたは窓口照会が、最も確実な確認手段です。

  • ✅ 都道府県のGISマップで区域指定を確認する
  • ✅ 土木事務所等の窓口で区域種別(盛土規制区域・特定盛土等規制区域)を照会する
  • ✅ 過去の造成履歴を航空写真で確認する
  • 重要事項説明書の告知欄を最新法令に対応した書式に新する

チェックリストとして活用すれば、漏れは防げます。対応が一本化されていると安心です。


宅建 法令上の制限_特定盛土等規制区域