特別受益・時効・改正で知る相続の落とし穴
相続開始から10年放置すると、何十年前の生前贈与でも特別受益として主張できなくなります。
特別受益の時効とは何か:基本ルールと誤解
「特別受益に時効はない」というのが民法の原則です。 被相続人が亡くなる30年前の生前贈与であっても、特別受益として持戻しの対象になり得ます。 この原則を知らずに「10年以上前の贈与だから関係ない」と判断してしまうのは大きな誤りです。chester-tax+1
では、なぜ「特別受益の時効は10年」という話が広まっているのでしょうか? 実はこれは「誤解」ではなく「例外ルール」の話です。 特別受益そのものの時効と、家庭裁判所で主張できる期間制限は、まったく別の概念として区別する必要があります。acropiece-lawfirm+1
不動産業に従事していると、相続した物件の売買・査定依頼を受ける場面が多くあります。その際、売主が相続人間のトラブルを抱えていたり、遺産分割が長年未了だったりするケースは珍しくありません。そういう状況です。特別受益と時効の関係を正確に理解しておくことが、適切なアドバイスにつながります。
| 区分 | 時効・期間制限 | 根拠 |
|---|---|---|
| 遺産分割協議における特別受益の持戻し | 原則なし(何年前でも対象) | 民法903条 |
| 家庭裁判所での具体的相続分の主張 | 相続開始から10年 | 令和3年民法改正 |
| 遺留分計算時の特別受益 | 原則として相続開始前10年以内の贈与のみ | 2019年7月1日施行の改正民法 |
つまり「場面によって10年ルールが変わる」が基本です。
参考)特別受益に時効はある?民法改正後の10年ルールを弁護士が解説…
特別受益の時効に関する令和5年民法改正の概要
令和3年に成立し、令和5年4月1日から施行された民法改正により、遺産分割における特別受益(具体的相続分)の主張に期間制限が設けられました。 相続開始から10年が経過すると、家庭裁判所に遺産分割の調停等を申し立てていない限り、特別受益を主張して相続分を修正することができなくなります。soudan.osakaben+1
期間制限はいつから適用されるかが重要です。改正前(令和5年4月1日以前)に発生した相続にも遡及して適用されます。 具体的には、以下の2つのパターンに分かれます。nexpert-law+1
- 📌 令和5年4月1日以降に相続が発生した場合:相続開始から10年が経過した日が期限
- 📌 令和5年4月1日より前に相続が発生した場合:相続開始から10年経過日と令和10年3月31日のいずれか遅い方が期限
例えば、平成26年(2014年)に被相続人が亡くなっていた場合、本来なら「10年後の2024年に期限」となるはずです。しかし経過措置により、令和10年(2028年)3月31日まで猶予が設けられています。 これは知っておくと得する情報です。
参考)【法改正情報】特別受益が10年間しか主張できなくなります!!…
注意点があります。「調停を申し立てた」だけでは足りず、10年以内に実際に遺産分割が終了していなくても、申立て自体を行っていれば特別受益の主張は保全されます。 売主から「まだ遺産分割が終わっていない」と言われた場合、まず「申立ては行ったか」を確認することが実務上のポイントです。
参考)https://soudan.osakaben.or.jp/?p=2232
参考:法務省による改正民法の詳細解説
法務省|民法等の一部を改正する法律について(令和3年法律第24号)
特別受益の時効と不動産業従事者が直面する具体的リスク
不動産業において特に問題になるのは、相続不動産の売買仲介や査定を行う場面です。売主が複数の相続人のうちの1人で、遺産分割が未了のまま物件を売ろうとしているケースでは、特別受益の主張権が時効(期間制限)を迎えているかどうかで、売主が受け取れる金額が大きく変わることがあります。
厳しいところですね。例えば、親が亡くなって11年が経過している場合、すでに家庭裁判所での具体的相続分による分割請求ができません。 このとき、もし他の相続人が過去に2,000万円の生前贈与(不動産)を受けていたとしても、それを遺産分割に反映させることができなくなります。 依頼者の相続分が実質的に大幅に下がる可能性があります。motolaw+1
また、被相続人が亡くなる前10年以内の贈与は遺留分の計算にも影響します。 遺留分侵害請求を検討している売主への対応では、「贈与がいつ行われたか」を必ず確認する必要があります。不動産の売買を急かしすぎると、売主が遺留分侵害請求の時効(相続開始を知った日から1年)を逃すリスクもあります。tsugunavi.funaisoken+1
- 🏡 相続不動産の売買仲介:遺産分割の完了有無と相続発生日の確認が必須
- 📋 査定依頼:特別受益がある場合、売主の取り分が法定相続分と異なる可能性を説明
- ⏰ 期間制限の把握:相続開始日から何年経過しているかを確認し、10年に近い案件は要注意
- 🔍 遺留分との区別:遺留分侵害請求の時効は「知った日から1年」と別途存在する
持戻し免除と特別受益の時効:不動産で使える知識
特別受益の持戻しは、被相続人が「持戻し免除の意思表示」をすることで、相続財産への加算を回避できます。 遺言書にその旨を明記するか、生前贈与契約書に免除条項を盛り込む方法が一般的です。daylight-law+1
これは使えそうです。特に不動産業で知っておきたいのが、婚姻20年以上の夫婦間で居住用不動産の贈与が行われた場合、法律上「持戻し免除の意思表示があったものと推定」されるルールです。 つまり、婚姻20年超の夫から妻への自宅の生前贈与は、遺産分割の計算に原則として含めなくてよいことになります。souzoku-pro+1
ただし、持戻し免除をしても遺留分計算には影響しない点に注意が必要です。 持戻しを免除した贈与であっても、遺留分を侵害していれば遺留分侵害額請求の対象になります。この点が混同されやすい落とし穴です。
参考)特別受益の持ち戻し免除とは?遺言で特定の相続人の取り分を増や…
| 状況 | 持戻し免除の可否 | 遺留分への影響 |
|---|---|---|
| 通常の生前贈与(遺産分割) | 遺言・契約で免除可能 | 相続開始前10年以内なら遺留分計算に含む |
| 婚姻20年超・居住用不動産の贈与 | 法律上、免除と推定 | 遺留分計算には含まれる可能性あり |
| 遺贈(遺言による贈与) | 遺言で免除可能 | 遺留分侵害額請求の対象になり得る |
不動産業者が持戻し免除について知っておくべき最大の理由は、売主から「この不動産は親から生前贈与を受けたもの」と言われたとき、それが相続財産に加算されるか否かで遺産総額の計算が大きく変わるからです。査定時に当事者が把握していないケースも多く、早めの確認が重要です。
参考:持戻し免除に関する法律解説(民法903条)
特別受益と時効:不動産業従事者だけが気づける改正の盲点
令和5年の改正で多くの解説記事が「10年以内に申し立てを」と強調していますが、不動産業の現場ではもう一段深い視点が必要です。それは「改正前に発生した相続でも、令和10年3月31日という期限が存在する」という点です。nexpert-law+1
例えば、平成18年(2006年)に親が亡くなっていたとします。その時点から20年が経過しており、「もう遺産分割は無理」と思われがちです。しかし、令和10年(2028年)3月31日までに家庭裁判所に調停を申し立てれば、特別受益を反映した遺産分割が可能です。 これを知らずに不動産売買を進めると、売主が本来受け取れたはずの分を丸ごと逃すことになります。
痛いですね。さらに、2019年の改正で「遺留分計算における特別受益は相続開始前10年以内の贈与に限定」されたルールは、それ以前から適用されています。 遺産分割の10年ルール(令和5年改正)と混同されやすいため、「どの場面の10年か」を常に区別することが、不動産業従事者として正確な説明をするうえで欠かせません。
参考)特別受益は改正で期間が10年に!?持ち戻しや時効、生前贈与時…
実務では、依頼者から「相続の話は弁護士に任せてあるから」と言われるケースもあります。しかし不動産業者として相続案件に関わるなら、特別受益・時効・持戻し免除の基礎的な知識を持ち、依頼者に「期限が迫っていないか」を確認するひと声をかけられるかどうかで、信頼度が大きく変わります。これが原則です。
- ✅ 相続発生日を必ず把握:令和5年4月1日以降か以前かで経過措置が変わる
- ✅ 令和10年3月31日の期限:改正前の相続でも2028年3月末が事実上のデッドライン
- ✅ 遺産分割未了案件は要注意:売買を進める前に相続人全員の同意と遺産分割完了を確認する
- ✅ 弁護士・司法書士と連携:期間制限が迫っている案件は、専門家への早期紹介が顧客の利益になる
相続不動産の取引に関わる不動産業者として、特別受益の時効・改正ポイントを一通り理解しておくことで、顧客トラブルの未然防止と専門家としての信頼構築が同時に実現できます。 相続発生日の確認という「たった一つの確認行動」が、数百万円規模の損失回避につながるケースは少なくありません。green-osaka+1
参考:相続開始から10年の期間制限に関する詳細
KD法律事務所|遺産分割・相続開始から10年が経過した場合の主張制限

事例にみる 特別受益・寄与分・遺留分 主張のポイント
