負担付贈与・住宅ローン・離婚で生じる税務の落とし穴
住宅ローンを引き継いだだけなのに、贈与者側に譲渡所得税が約200万円発生することがあります。
負担付贈与とは何か:住宅ローンを引き継ぐ仕組み
負担付贈与とは、受贈者に一定の債務を負担させることを条件とした財産の贈与です(民法553条)。 離婚の場面では、「住宅ローンを引き受けてもらう代わりに不動産を渡す」という形が典型的な例として挙げられます。fudosan-entetsu+1
単なる不動産の財産分与とは異なり、負担付贈与にはローン債務の承継が伴います。そのため、税務上の取り扱いが通常の贈与や財産分与と大きく変わります。
ここが落とし穴です。
不動産業の実務では、「離婚だから贈与税はかからないはず」と思い込んでいる当事者が少なくありません。しかし、住宅ローンを条件に不動産を移転する場合、それが「財産分与」の形式を取っていても、実質的に負担付贈与と判断されると課税対象となるケースがあります。 特に、不動産の時価が住宅ローン残高を上回る場合(いわゆるアンダーローンの状態)は、その差額に対して贈与税が発生します。
負担付贈与で「時価評価」が使われる理由と計算例
通常の贈与の場合、不動産の評価は相続税評価額(いわゆる路線価ベース)が使われ、時価の約80%相当が目安になります。 ところが、負担付贈与では評価額は時価(通常の取引価格)が基準になります。 この違いは非常に重要です。sozoku-yokohama+1
なぜ時価評価になるのか。相続税評価額とローン残高を同額に設定して贈与税をゼロにする「抜け道」を防ぐためです。 評価額を時価にすることで、そうした操作が封じられています。
具体的な計算例で確認しましょう。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 不動産の時価 | 3,000万円 |
| 住宅ローン残高(負担額) | 800万円 |
| 贈与税の課税対象額 | 3,000万円 ― 800万円 = 2,200万円 |
このケースでは、2,200万円が受贈者(ローンを引き継いだ側)の贈与税の課税対象になります。 「ローンを引き受けたのだから、その分は差し引かれる」という認識自体は正しいのですが、差し引いた後の金額がゼロにならない限り、贈与税は発生します。
2,200万円の贈与税は軽くありません。一般税率で試算すると、約460万円以上の税負担になります。これは見落とせません。
贈与者(渡す側)にも発生する「譲渡所得税」のリスク
負担付贈与では、不動産を渡す側(贈与者)にも課税リスクがあります。これを知らない不動産業従事者が多いのが現状です。
税務上、贈与者はローン残高に相当する金額で不動産を売却したものとみなされます。 つまり「住宅ローン残高=みなし売却価格」として譲渡所得が計算される仕組みです。
参考)個人に対する負担付贈与
計算式はシンプルです。
実際の売買では1円も受け取っていないのに、500万円の利益が出たとして課税されます。 厳しいですね。
ただし、離婚の場合は注意点があります。離婚「後」に元夫から元妻への負担付贈与を行い、元夫が確定申告すれば、3,000万円の特別控除が使えるため、元夫への課税が回避できることがあります。 離婚「前」と「後」では適用できる特例が変わるため、時期の選択が非常に重要です。
離婚の財産分与と負担付贈与の税務上の違い
離婚に伴う財産分与は、原則として贈与税がかかりません。 これは、財産分与が「元からある共有財産の清算」であるとみなされるためです。しかし、負担付贈与の形式が絡むと話が変わります。
参考)離婚で家を財産分与したとき、贈与税などの税金はかかるのか?
| 区分 | 贈与税(受取側) | 譲渡所得税(渡す側) |
|---|---|---|
| 通常の財産分与 | 原則なし | 分与額に応じて課税の可能性あり |
| 負担付贈与(離婚時) | 時価―負担額がプラスなら課税 | ローン残高をみなし売却価格として課税 |
| 財産分与が過大な場合 | 超過分に贈与税 | 適正分は非課税 |
財産分与と負担付贈与は似ているようで、税務上は全く別物です。 名称の違いだけでなく、課税の根拠・評価方法・適用できる特例がそれぞれ異なります。
参考)【2026年版】財産分与で不動産をもらう側に税金はかかる?支…
不動産業の実務では、当事者が「財産分与のつもり」で進めていても、契約書の書き方次第で税務署から「負担付贈与」と判断されるリスクがあります。契約内容の確認が原則です。
また、財産分与の結果が「社会通念上相当な額」を大幅に超えると、超過分に贈与税が課される場合もあります。 離婚を利用して相続税・贈与税を逃れようとするケースが想定されているためです。kagayaki-law+1
負担付贈与と住宅ローン控除:元妻が住宅ローン控除を使えるケース
負担付贈与で住宅ローンを引き継いだ場合、受贈者(引き継いだ側)が住宅ローン控除を新たに使えるのかという疑問があります。
答えは条件付きのYESです。
元妻が住宅ローンの負担を承継した場合、住宅ローン控除の適用要件を満たしていれば、元妻は住宅ローン控除を受けられます。 要件の主なポイントは以下の通りです。
参考)【Q&A】離婚に伴い自宅を財産分与する場合の税務上の取扱い等…
- 引き継いだ住宅に実際に居住していること
- 金融機関の借り換え・名義変更審査に通過していること
- ローンの返済期間が10年以上残っていること
ただし、金融機関の審査は簡単ではありません。 離婚後の収入状況によっては審査に通過できず、名義変更そのものが実現しないケースも多くあります。
参考)離婚時に住宅ローンが残る家はどうする?妻(夫)が住む方法や確…
金融機関への相談と審査が条件です。
また、住宅ローンの返済に充てるための金銭の贈与については、住宅取得等資金贈与の非課税制度の対象外となります。 この点は不動産業者が見落としやすいポイントの一つであり、顧客への説明時に注意が必要です。
不動産業従事者が押さえておきたい実務対応のポイント
不動産の売買・仲介業務において、離婚に伴う不動産取引の相談を受ける場面は少なくありません。ここでは、実務で活かせるポイントを整理します。
まず、アンダーローンかオーバーローンかを確認することが基本です。
- ✅ アンダーローン(時価 > ローン残高):受贈者に贈与税が発生する可能性が高い
- ✅ オーバーローン(時価 < ローン残高):受贈者の贈与税はゼロだが、贈与者の譲渡所得も確認が必要
次に、婚姻期間が20年以上の場合は「贈与税の配偶者控除(おしどり控除)」の活用も選択肢に入ります。 この特例では、居住用財産に限り2,000万円まで贈与税が非課税となるため、離婚前の贈与として活用すれば税負担を大幅に圧縮できます。ただし、離婚「後」では配偶者ではなくなるため適用できません。
参考)離婚時の財産分与ではどんな税金がかかるの?|司法書士法人はや…
また、負担付贈与に関する税務的な判断は複雑です。
贈与者と受贈者の双方に課税関係が生じるため、売買・財産分与・負担付贈与のどの方法が最も有利かは個々の事情によって異なります。不動産業として顧客へのアドバイスを行う際は、税理士や司法書士への連携を積極的に案内することが重要です。
顧客トラブル防止のためにも、「負担付贈与になる可能性がある」という事実だけでもしっかり伝えるようにしてください。それが顧客の信頼につながります。
以下のページでは、国税庁が定める負担付贈与の課税ルールを直接確認できます。
財産分与で住宅を取得した場合の税務上の取り扱いについて(国税庁タックスアンサー)。
負担付贈与の贈与税課税ルールについて(国税庁タックスアンサーNo.4426)。
住宅ローンの名義変更に関する実務的な解説(東京メトロポリタン税理士法人)。

