遺言執行者の報酬と行政書士への依頼を正しく理解する
行政書士に頼むと、報酬が相続財産の約37万円(平均)で済む場合があります。
遺言執行者の報酬を決める民法1018条の3つのルール
遺言執行者の報酬は「自動的に決まる」と思われがちですが、実は決め方が3パターンあります。
民法第1018条は「家庭裁判所は、相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができる。ただし、遺言者がその遺言に報酬を定めたときは、この限りでない」と規定しています。 つまり、遺言書に報酬額が書いてある場合はそれが最優先です。machida-sozoku+1
報酬の決め方は以下の3つに整理されます。
- ① 遺言書に記載がある場合:「遺言執行者の報酬は金50万円とする」などと記載されていれば、その金額が基本となる
- ② 相続人と遺言執行者の合意:話し合いで決めることも法的に問題なし(報酬は相続財産から支払われるため)
- ③ 家庭裁判所への申立て:遺言書に記載がなく、合意も取れない場合は家裁が財産状況・手続きの難易度・費やした労力などを総合的に勘案して決定する
③の家裁決定パターンが発生するのは、主に遺言書作成時に報酬を定め忘れたケースです。不動産業に携わっていると、遺言書の内容確認を求められる場面もあるため、「報酬の記載がない遺言書は後でもめる可能性がある」と把握しておくと役立ちます。
報酬の記載は必須ではありません。しかし記載があると手続きがスムーズです。
行政書士に遺言執行者を依頼した場合の報酬相場と計算例
行政書士への依頼費用は、他の士業と比べてリーズナブルな水準です。意外ですね。
日本行政書士連合会の報酬額統計によると、遺言執行手続きの報酬は以下の分布です。
| 報酬帯 | 割合 |
|---|---|
| 10万円未満 | 18.2% |
| 10〜20万円未満 | 8.3% |
| 20〜30万円未満 | 20.7% |
| 30〜40万円未満 | 21.5% |
| 40〜50万円未満 | 7.4% |
| 50万円以上 | 24.0% |
| 平均 | 約37万円 |
20万円〜40万円の範囲に全体の42.2%が集中しており、行政書士への依頼は20万〜40万円前後が相場です。 最低15,000円という事務所もあれば、最大で330万円という事務所もあり、相続財産の規模で大きくブレます。souzoku-pro+1
具体的な計算イメージとしては、たとえば「相続財産の1%・最低報酬55万円(税込)」という料金体系の事務所であれば、財産総額5,500万円以上の案件からは財産額×1%が適用されます。 財産額が1億円なら報酬は100万円というイメージです。
参考)遺言執行者はどのような人がなることができるのですか?資格など…
他の士業との費用比較は以下のとおりです。aoilaw.or+2
| 士業 | 報酬相場 |
|---|---|
| 行政書士 | 20万〜40万円前後(平均約37万円) |
| 司法書士 | 20万〜75万円前後 |
| 弁護士 | 30万円〜(財産額が1億円で約150万円) |
| 銀行(信託) | 基本報酬100万円〜210万円前後(1億円の場合) |
費用面では行政書士が最も低い水準です。 ただし、費用だけで選ぶと業務範囲の制限にぶつかることがあります。それが次のポイントです。
行政書士が遺言執行者でも「相続登記」は原則できない理由
行政書士が遺言執行者になっていれば不動産の相続登記も任せられる、と思っていると痛いですね。
不動産が絡む相続案件で特に重要なのが、登記業務の範囲です。行政書士は「行政書士」という資格の立場では不動産登記申請ができませんが、遺言執行者という立場であれば登記申請が可能になるケースがあります。 ただし、これには大きな条件が付きます。
行政書士(遺言執行者)が登記申請できるのは「遺贈」の場合に限定されます。 「相続させる」という文言の遺言(特定財産承継遺言)では、相続人本人が登記申請人となる必要があり、遺言執行者は代理できません。nexillpartners+1
整理すると次のとおりです。
- ✅ 「遺贈する」という遺言 → 行政書士(遺言執行者)が単独で登記申請できる
- ❌ 「相続させる」という遺言 → 相続人本人の申請が必要。遺言執行者は登記申請不可
- ❌ 相続税の申告 → 遺言執行者の権限外。相続人の義務のため別途税理士が必要
2019年7月1日の相続法改正により、遺言執行者が特定財産承継遺言に基づいて登記申請できる権限が追加されましたが、これは2019年7月1日以降に作成された遺言書にのみ適用されます。 それ以前に作成された遺言書で指定された遺言執行者には、この権限がありません。
参考)遺言執行者は単独で相続登記可能!【法改正あり】手続き方法も解…
つまり登記は、遺言の文言次第が原則です。
不動産業に携わっている立場では、相続が絡んだ物件の売買・名義変更の相談を受けることがあるでしょう。そうした場面では、「遺言書の文言が『遺贈』か『相続させる』か」を早い段階で確認しておくと、その後の手続きの見通しが大きく変わります。
参考:遺言執行者の相続登記権限に関する詳細情報
遺言執行者が単独で登記申請できるケース・できないケースの詳細は、以下が参考になります。
遺言執行者が不動産登記に関与できる範囲について、法改正を踏まえた実務的解説。
遺言執行者に相続登記を全て任せることはできるのか?不動産の遺言執行者の相続登記について | Nexill&Partners
行政書士が遺言執行者として登記申請できる条件。
遺言書に報酬を定めるときの不動産案件ならではの注意点
不動産が相続財産に含まれる場合、報酬の計算基準が「相続財産の評価額×○%」という形になることがほとんどです。 この場合、土地・建物の評価額の取り方(固定資産税評価額か、路線価か、実勢価格か)によって報酬額が大きく変わります。
参考)遺言執行者の報酬 – 遺言執行者の報酬の相場や計…
実勢価格ベースで1億円の不動産でも、固定資産税評価額は7,000万円程度になるケースがあります。これを「どちらの評価額で計算するか」が事前に定められていないと、執行後にトラブルになることがあります。厳しいところですね。
不動産業に携わる立場として、遺言書の報酬条項を確認する際は以下の点に注意してください。
- 評価額の定義が明記されているか(固定資産税評価額・路線価・実勢価格など)
- 最低報酬額の設定があるか(財産額が小さくても一定の報酬が発生するため)
- 複数の専門家が関与する場合の費用分担が定められているか(行政書士+司法書士など)
相続財産に不動産が含まれる案件では、行政書士だけで完結しないことが多いです。 行政書士が遺言執行者として就任し、登記が必要な部分だけを司法書士に委任する、という連携体制が現実的です。
参考)遺言執行者に相続登記を全て任せることはできるのか?不動産相続…
こうした専門家間の費用分担が事前に遺言書に書かれていないと、報酬をめぐって相続人と揉める原因になります。これが原則です。
参考:不動産を含む相続・遺言執行の実務
不動産を売却する清算型遺言(遺言執行者が不動産を売却して現金化する形式)の注意点。
不動産を売却して寄付する清算型遺言の注意点 | 行政書士解説
不動産業従事者が遺言執行者・行政書士連携で得する独自視点
相続案件を扱う不動産業従事者にとって、行政書士との連携は「紹介」にとどまらない可能性があります。
遺言執行者として就任した行政書士が財産目録を作成する際、不動産の登記情報・評価額・現況確認が必要になります。 このプロセスに不動産業者が関与することで、物件の売却査定・買取案件の早期取り込みにつながるケースがあります。これは使えそうです。
参考)遺言執行者の報酬はいくら?決め方は?誰が払う?専門家に依頼し…
具体的には、次のような連携フローが考えられます。
- 行政書士が遺言執行者に就任 → 財産目録の作成フェーズで不動産業者に現況確認・簡易査定を依頼
- 清算型遺言(不動産売却して現金分配)の場合 → 不動産業者が売却を受任できる可能性
- 相続人が物件を引き継ぐ場合 → 相続後の売却・賃貸管理の相談を早期に受けられる
不動産業者が「相続に強い行政書士」と日頃から関係を構築しておくと、案件の入口から関与できます。 遺言執行者の報酬は相続財産全体から支払われるため、不動産業者への手数料とは別枠で計上されます。 費用の二重計上にはなりません。arrange-life+1
行政書士に遺言執行者を依頼する費用の目安として、財産総額が5,000万円の案件では「報酬率1%・最低55万円」の事務所でも55万円(税込)程度です。 不動産業者の仲介手数料と比較すれば、依頼者にとっても受け入れやすい金額です。
連携相手の選び方として、相続・遺言を専門とする行政書士事務所かどうかを事前に確認しておきましょう。相続業務の経験が乏しい行政書士の場合、遺言書の文言チェックが甘く、前述の「相続させる」vs「遺贈する」問題に後から気づくケースもあります。 事前確認が条件です。

