遺産分割調停の管轄は最後の住所地で決まらない

遺産分割調停の管轄と最後の住所地の関係を正しく理解する

相手方の住所地に申し立てると、出張費が数万円増えることがあります。

この記事の3つのポイント
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管轄の原則は「相手方の住所地」

遺産分割調停の管轄は、被相続人の最後の住所地ではなく、相手方(他の相続人)の住所地を管轄する家庭裁判所が原則です。

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審判との管轄の違いに注意

遺産分割審判は被相続人の最後の住所地が管轄となり、調停と審判で申立て先が異なる点が実務上の落とし穴です。

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合意があれば管轄を変更できる

相続人全員の合意があれば、被相続人の最後の住所地や不動産所在地など、任意の裁判所を管轄として選択することも可能です。

遺産分割調停の管轄裁判所の原則|「最後の住所地」は審判の話

 

遺産分割調停の管轄裁判所は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所です。 これは家事事件手続法第245条1項に明記されており、被相続人の最後の住所地(相続開始地)が管轄になるわけではありません。legalpro+1

不動産業に携わっていると、「相続は被相続人の最後の住所地の裁判所で手続きする」というイメージを持ちやすい場面があります。それは誤りです。

この誤解が生まれる理由の一つが、調停と審判の混同です。遺産分割審判の場合は、被相続人の最後の住所地(相続開始地)を管轄する家庭裁判所が原則となります。 調停と審判でルールが異なる点が実務上の落とし穴になっています。kyoto-t-leo-souzoku+1

具体例を挙げると分かりやすくなります。

  • 申立人が東京都在住
  • 被相続人の最後の住所地が愛知県(名古屋市)
  • 相手方(他の相続人)が大阪府在住

この場合、遺産分割調停の申立先は大阪家庭裁判所となります。 名古屋でも東京でもありません。調停において「被相続人の最後の住所地=管轄」と思って申立先を選ぶと、手続きのやり直しや余分な時間・費用が生じる可能性があります。

参考)遺産分割調停の管轄の裁判所はどこ?原則と例外を弁護士がわかり…

被相続人と相手方が全く異なる都市に住んでいたケースは少なくありません。それが基本です。

不動産相続の案件を扱う際に、依頼者から「どこの裁判所に申し立てるの?」と聞かれた場合、的確に答えられるよう基本ルールを押さえておくことが、実務の信頼につながります。

遺産分割調停の管轄|相手方が複数いる場合の選び方

相手方が1人であれば管轄の判断は比較的シンプルです。しかし実際の相続では、相続人が兄弟姉妹4人・5人といった複数になるケースが多く、管轄の判断が複雑になります。

相手方が複数いる場合は、そのうちいずれか1人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てることができます。 全員の住所地の家庭裁判所に個別に申し立てる必要はありません。

参考)遺産分割調停・審判と管轄裁判所

これは使えそうです。

たとえば、相続人が東京・大阪・福岡に散らばっている場合、申立人は申立しやすい1人の住所地を選んで申立てできます。 ただし、選んだ相手方の住所地の裁判所に、他の相続人も呼ばれることになるため、誰の住所地を選ぶかで関係者の負担が変わります。

参考)遺産分割調停の管轄はどこ?遠方でも無理なく参加できる方法も紹…

状況 管轄裁判所
相手方が1人(大阪在住) 大阪家庭裁判所
相手方が複数(東京・大阪・福岡) 東京・大阪・福岡のいずれか1つ
相続人全員が合意した場合 合意で定めた任意の家庭裁判所
自庁処理が認められた場合 申立人の住所地の家庭裁判所

不動産の相続案件では、遠方に住む相続人が複数いることも珍しくありません。 誰を「相手方」の筆頭に据えるかが、依頼者の交通費・日程調整のコストに直結します。早い段階で相続人全員の住所を把握し、申立先を戦略的に検討することが重要です。

参考)遺産分割における不動産のポイントと分筆登記の活用

遺産分割調停の管轄変更と「自庁処理」|申立人住所地でも可能なケース

原則として相手方の住所地が管轄ですが、例外として申立人の住所地の家庭裁判所で調停を行える場合があります。これを「自庁処理」といいます。

参考)自庁処理~管轄のない裁判所で遺産分割が行われる場合

自庁処理が認められる条件は、「事件を処理するために特に必要があると認めるとき」です。 抽象的に聞こえますが、実務的には次のような状況が該当します。

  • 被相続人の最後の住所地と不動産所在地が同じで、申立人もそこに居住している
  • 申立人が高齢・病気などの事情により遠方への移動が困難
  • 遺産の所在地(不動産所在地)の裁判所で審理することが合理的な場合

申立人の状況次第で管轄が変わる可能性があるということです。

不動産業者が相続人から「自分は高齢で東京まで行けない」という相談を受けた場合、弁護士や司法書士に自庁処理の可能性を確認するよう助言することで、依頼者の負担軽減につながります。自庁処理は裁判所の職権で決定されるため、申立て時に事情を申述書等で丁寧に記載することが重要です。

また、相続人全員の合意がある場合は「管轄合意」として、任意の裁判所を選択できます。 たとえば、相続人が全国各地に散らばっているケースで、不動産所在地の近くにある家庭裁判所を合意で管轄に指定するという方法も現実的な選択肢です。

参考)神戸・姫路の弁護士による相続相談|弁護士法人法律事務所瀬合パ…

管轄合意は全員の署名・合意が条件です。

不動産所在地と管轄裁判所が一致すると、後続の相続登記手続きや現地確認のスケジュールを組みやすくなる側面もあります。実務上のメリットとして覚えておいて損はありません。

遺産分割調停における管轄の詳細は、裁判所の公式ページでも確認できます。

裁判所公式|遺産分割調停の手続概要(家庭裁判所)

遺産分割調停と審判の管轄の違い|不動産登記実務への影響

調停が不成立になると、自動的に審判に移行します(家事事件手続法272条4項)。 この移行後、管轄のルールが変わる点を理解しておくことが不動産実務では重要です。

参考)遺産分割調停の管轄裁判所の調べ方と注意点|複数人いる場合や遠…

調停から審判に移行した場合、原則として調停を担当していた裁判所がそのまま審判も担当します。 ただし、最初から遺産分割調停を経ずに審判を申し立てる場合は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所が管轄になります。

つまり、調停を飛ばして直接審判を申し立てると、管轄が「相手方の住所地」から「被相続人の最後の住所地」へと変わるということです。

手続きの種類 管轄の原則 根拠法
遺産分割調停 相手方の住所地 家事事件手続法245条
遺産分割審判(直接申立て) 被相続人の最後の住所地 家事事件手続法191条
調停不成立後の審判移行 調停担当裁判所(継続) 家事事件手続法272条

不動産登記の実務では、審判が確定すると審判書謄本(確定証明書付き)を添付して相続登記を申請します。 管轄裁判所が異なると、謄本取得の郵送先も変わるため、手続きの流れを事前に把握しておくことで無駄なやり取りを減らせます。

参考)遺産分割調停調書による相続登記|名古屋市の登記,相続専門司法…

登記申請に必要な書類は次の通りです。

  • 調停成立の場合:調停調書の謄本+申請人の住民票固定資産評価証明書
  • 審判確定の場合:審判書謄本(確定証明書付き)+申請人の住民票+固定資産評価証明書

調停調書による登記は、確定判決と同一の効力を持ちます。 相続登記を円滑に進めるためにも、どの裁判所で調停・審判が行われたかの記録を早い段階で整理しておくことが肝心です。

相続登記に必要な書類の詳細は司法書士への相談も有効です。

名古屋総合司法書士事務所|遺産分割調停調書による相続登記の解説

遺産分割調停の管轄と海外在住相続人・住所不明者の対応

相続人の中に海外在住者や住所不明者がいる場合、管轄の判断が一段と複雑になります。不動産業者が相続案件の相談を受けた際に、「相続人が海外にいる」と告げられたらまず確認すべきポイントがあります。

確認すべきは「住民票の所在地」です。

参考)調停の相手が海外にいる

相手方が実際には海外に住んでいても、日本国内に住民票を保持していれば、その住所地を管轄する日本の家庭裁判所に調停を申立てることができます。 一方、住民票を日本から抜いている場合は、その人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てることになります。sou-zoku+1

相続人の状況 管轄の判断基準
海外在住だが日本に住民票あり 住民票上の住所地を管轄する家庭裁判所
海外在住で日本の住民票なし 最後の住所地を管轄する家庭裁判所
行方不明(住所不明) 最後の住所地を管轄する家庭裁判所
相続人全員が海外在住 当事者の合意で定める裁判所

この場面で「最後の住所地」が初めて調停の管轄基準として登場します。意外ですね。

相続人に行方不明者がいる場合は、家庭裁判所へ「不在者財産管理人の選任申立て」を行うか、または「失踪宣告」の手続きが必要になることもあります。 この申立て先も、不在者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。

参考)こんな時どうする?相続人が行方不明の場合 – 高松の弁護士…

不動産案件で海外在住の相続人が含まれると判明した場合は、早期に専門家(弁護士・司法書士)に相談し、住民票の有無を確認した上で申立先を決めることをお勧めします。相続人調査の段階から丁寧に進めることで、調停申立後の管轄トラブルを防ぐことができます。

海外在住の相続人がいる場合の実務手続きについては、以下の解説が参考になります。

国際相続専門事務所|相続人が海外にいる場合の遺産相続手続きと管轄
田阪法律事務所|調停の相手が海外にいる場合の対処方法

第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務