全期間固定金利型の仕組みと選び方を徹底解説
全期間固定金利型を「とにかく安全な選択」と勧めると、顧客の総返済額が変動型より200万円以上多くなるケースがあります。
全期間固定金利型とは?フラット35を中心とした基本の仕組み
全期間固定金利型住宅ローンとは、借入時に設定された金利が返済終了まで一切変わらないローン商品のことです。日本で最も有名な全期間固定金利型商品は、住宅金融支援機構と民間金融機関が提携して提供する「フラット35」です。最長35年間、金利が固定されます。
フラット35の2025年1月時点の最低金利水準は年1.82%前後(返済期間21〜35年・融資率9割以下)で推移しています。借入額3,000万円・35年返済のケースでは、月々の返済額は約9万8千円程度になります。これは、都内の賃貸マンション家賃と比較するとイメージしやすいでしょう。
全期間固定金利型の最大の特徴は「金利変動リスクがゼロ」という点です。変動金利型では、政策金利や市場金利の変動によって返済額が増減しますが、全期間固定では契約時の金利がそのまま適用され続けます。つまり、35年後まで返済額が変わりません。
一方で注意点もあります。変動金利型と比べると、全期間固定金利型の適用金利は一般的に0.5〜1%程度高く設定されています。たとえば変動型が年0.4%の時に、全期間固定型が年1.8%だとすると、その差は1.4%にもなります。金利差が長期間続くと、総返済額の差は数百万円規模になります。
不動産業従事者として顧客に説明する際は、「安心」という一言だけで済ませないことが重要です。
全期間固定金利型と変動金利型の総返済額を数字で比較
実際に数字で比較してみましょう。借入額3,000万円・返済期間35年で試算します。
| 項目 | 全期間固定金利型(年1.82%) | 変動金利型(年0.4%) |
|---|---|---|
| 月々返済額 | 約98,000円 | 約76,000円 |
| 総返済額 | 約4,118万円 | 約3,192万円 |
| 利息合計 | 約1,118万円 | 約192万円 |
この試算では、金利が変動しないと仮定した場合に差額は約926万円にのぼります。これは中古車1台分どころか、子どもの大学費用4年分に相当する金額です。痛いですね。
ただし、変動金利型はあくまで「現時点の金利が継続する」という仮定での計算です。今後、日本銀行が利上げを継続した場合、変動型の返済額は増加します。日本銀行は2024年3月にマイナス金利政策を解除し、その後も段階的な利上げを実施しています。この動きが続けば、変動型との差は縮小する可能性があります。
これが条件です。「将来の金利上昇リスクをどこまで許容できるか」という顧客の姿勢によって、最適な選択は変わります。
不動産業従事者としては、単に「固定が安心」「変動が得」という二項対立で説明するのではなく、金利シナリオを複数示してシミュレーションを共有することが顧客の信頼獲得につながります。
住宅金融支援機構「フラット35」公式サイト:金利・返済シミュレーション・申込条件の詳細確認に活用できます
全期間固定金利型が有利になる顧客属性と、不動産業従事者が見落としがちな提案基準
全期間固定金利型が本当に適しているのは、どのような顧客層でしょうか?
収入が固定給で安定しているサラリーマン層でも、金利が歴史的な低水準にある時期に借りた場合、変動型の方が長期的に有利になることが多いです。一方、以下のような属性の顧客には全期間固定金利型を積極的に提案すべき理由があります。
- 自営業・フリーランスなど収入が不安定で、返済額の変動に耐えられないリスクがある
- 育児・介護などで将来的に収入が下がる見込みがある
- 借入額が大きく(5,000万円以上)、金利上昇時の返済額増加ダメージが大きい
- 「金利のことを毎年気にしたくない」と明言している心理的な安定重視層
見落とされがちなのは「返済余力の絶対額」という視点です。月収30万円の顧客が月々の返済額10万円のローンを組む場合、金利が0.5%上昇して返済額が1万円増えると収入に占める割合が大きく変わります。逆に月収80万円なら同じ1万円の増加は誤差の範囲内です。つまり、返済余力の大きさが変動型リスク許容度を決める、ということですね。
不動産業従事者が顧客に「なぜこのローンを勧めたのか」を説明できる状態にしておくことは、トラブル防止の観点でも非常に重要です。根拠のない勧め方はクレームに直結します。
金融庁「住宅ローンの借り換え等に関する情報提供」:顧客への適切な情報提供義務について確認できます
全期間固定金利型の繰り上げ返済と団体信用生命保険の注意点
全期間固定金利型ローンの繰り上げ返済には、変動型にはない独自のルールが存在します。特にフラット35では、繰り上げ返済の最低金額が100万円以上と定められているケースがあります(窓口申請の場合)。ネット申請では10万円以上から可能な金融機関もありますが、上限・手数料の設定は機関によって異なります。
これは使えそうです。顧客が「余裕があれば少しずつ返したい」と希望している場合、フラット35よりも繰り上げ返済の自由度が高い銀行系固定金利商品を選ぶべきケースがあります。
団体信用生命保険(団信)についても注意が必要です。フラット35では団信への加入は任意であり、加入しない場合は金利が年0.2%低くなる設定になっています。一方で、民間銀行の全期間固定型ローンでは団信加入が原則必須です。
- フラット35:団信任意(未加入で金利▲0.2%、ただし死亡時に残債が残るリスクあり)
- 民間銀行の全期間固定型:団信必須(保障内容は商品により異なる)
- がん団信・三大疾病保障などの付帯オプションは金利上乗せが0.1〜0.3%程度
顧客が「団信未加入でコストを下げたい」という希望を持つ場合、遺族への残債リスクについて必ず具体的に説明する義務があります。これは原則です。
住宅金融支援機構「フラット35の団体信用生命保険」:加入・非加入のメリット・デメリットの確認に役立ちます
全期間固定金利型の「金利上昇局面での意外な落とし穴」不動産業従事者が今すぐ確認すべき点
これはあまり語られていない視点です。全期間固定金利型は「金利が上がっても安心」と思われがちですが、金利上昇局面において既存の全期間固定型ローン保有者が損をするケースが存在します。
具体的には「繰り上げ返済して他の運用に回した方が得だった」というケースです。たとえば、年1.82%の全期間固定型ローンを抱えながら、新NISAなどの積立投資で年4〜5%の運用益を出している場合、繰り上げ返済よりも投資継続の方が資産形成に有利という計算になります。これは意外ですね。
2024〜2025年にかけての日本の利上げ局面では、変動型ローン金利が上昇したため全期間固定型の相対的な安心感は高まりました。しかし、それと同時に新規で全期間固定型を組む場合の適用金利自体も上昇しています。2021年頃の全期間固定金利最低水準が約1.3%だったのに対し、2025年現在では1.8%台が一般的です。結論は「タイミングが重要」です。
不動産業従事者が顧客に今から全期間固定型を勧める際には、次のチェックリストを活用してください。
- ✅ 現在の適用金利水準は過去10年の平均と比較してどうか
- ✅ 顧客の月収に対する返済比率は25%以内に収まっているか
- ✅ 顧客が将来的に繰り上げ返済を希望しているか(最低返済額を確認)
- ✅ 団信の加入有無と保障内容を顧客が理解しているか
- ✅ 変動型との総返済額差をシミュレーション数字で提示しているか
このチェックだけ覚えておけばOKです。説明責任を果たすうえでも、数字ベースの根拠を残しておくことがトラブル防止の第一歩になります。