繰上返済で住宅ローンの利息・返済期間を短縮する方法
繰上返済は「早いほど効果が大きい」とよく言われます。でも実は——
繰上返済を10年後にすると、5年後の同額繰上げより利息削減額が約40万円少なくなります。
繰上返済の仕組みと「元金充当」の基本を理解する
住宅ローンの毎月の返済額は、「元金」と「利息」の2つに分かれています。通常の返済では、返済初期ほど利息の割合が高く、元金がなかなか減りにくい構造になっています。
繰上返済とは、この元金部分を通常のスケジュールより前倒しで返済することです。元金が減ることで、その後に発生する利息の計算対象が小さくなり、結果として総支払利息を圧縮できます。
たとえば、借入額3,000万円・金利1.5%・35年返済のケースで考えてみましょう。この条件では総支払利息はおよそ840万円になります。返済開始から5年後に100万円を繰上返済すると、利息削減効果は約45万円になります。
同じ100万円でも10年後に繰上返済した場合、削減効果は約28万円程度に下がります。つまり「いつやるか」で約17万円の差が生まれるということですね。
繰上返済の効果は「残存元金×残り期間分の利息」を削れる点にあります。早い時期ほど残存元金も残り期間も大きいため、削れる利息も多くなります。これが「早いほど効果大」の理由です。
不動産業に携わる人が顧客に説明する際、この「元金充当」のメカニズムを具体的な金額で示せると、顧客の理解度と信頼感が大きく変わります。数字を使った説明が基本です。
繰上返済の2種類|期間短縮型と返済額軽減型の違い
繰上返済には大きく分けて2つの方法があります。「期間短縮型」と「返済額軽減型」です。どちらを選ぶかで、効果の中身がまったく変わります。
期間短縮型は、毎月の返済額をそのままにして、ローンの残存期間を短くする方法です。総支払利息の削減効果が大きく、同じ繰上金額であれば返済額軽減型より利息削減額が約2〜3倍になるケースが多いです。
返済額軽減型は、返済期間はそのままで毎月の返済額を下げる方法です。月々のキャッシュフローが改善されるため、家計に余裕を作りたい人に向いています。利息削減の純粋な効果は期間短縮型に劣りますが、浮いた分を再投資や貯蓄に回せれば別の価値が生まれます。
どちらが「正解」かは状況次第です。利息をとにかく減らしたいなら期間短縮型、育児や転職で収入が変わりやすい時期には返済額軽減型が安心できます。
目的を整理してから選ぶのが条件です。
不動産会社が顧客にFP(ファイナンシャルプランナー)との連携を提案するケースが増えているのも、こういった選択肢の説明に専門性が必要だからです。顧客の状況に応じた提案は、業者としての差別化にもつながります。
繰上返済と住宅ローン控除の関係|控除期間中の判断ポイント
繰上返済を急ぎすぎると、住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)の恩恵を失うリスクがあります。意外ですね。
住宅ローン控除は、年末時点のローン残高の0.7%が最長13年間にわたって所得税から控除される制度です(2022年以降の入居分)。たとえば残高3,000万円なら年間最大21万円の節税効果があります。
ここで注意が必要なのが、繰上返済によって当初の借入期間が10年未満になると、控除の適用条件を外れてしまう点です。たとえば25年ローンを繰上返済で9年8ヵ月まで圧縮してしまうと、残りの控除期間分の節税メリットがゼロになります。
控除が残り3年あれば、3年分の節税額(最大で63万円相当)を丸ごと失う計算になります。痛いですね。
繰上返済の利息削減効果と、住宅ローン控除の節税効果を天秤にかけることが必要です。控除期間が終了してから繰上返済を実行する、あるいは返済期間が10年を切らない範囲で部分的に繰上返済するといった戦略が有効です。
参考:国税庁「住宅借入金等特別控除の適用要件」
※控除の適用条件(返済期間10年以上の要件など)を公式に確認できます。
繰上返済の手数料と「無料化」の現状|ネット銀行と都市銀行の比較
以前は繰上返済に数万円単位の手数料がかかるのが一般的でした。現在はその常識が大きく変わっています。
多くのネット銀行では、繰上返済手数料が完全無料です。住信SBIネット銀行、楽天銀行、auじぶん銀行などでは、一部繰上返済・全額繰上返済ともに手数料ゼロで手続きできます。手続きもスマートフォンアプリ上で完結するため、窓口に出向く手間もありません。
一方、都市銀行や地方銀行では、窓口経由の繰上返済に1回あたり3,300〜55,000円程度の手数料が発生するケースがあります(金融機関・プランによって異なります)。ただし、インターネットバンキング経由なら無料または低額になるケースも増えています。
これは使えそうです。
手数料の差は、頻繁に少額繰上返済を行う場合に特に効いてきます。たとえば年2回・50万円ずつ繰上返済するスタイルをとるなら、手数料無料の銀行を選ぶだけで年間数万円の差が出る可能性があります。
借り換えを検討している顧客に対して、新しいローン先の繰上返済手数料まで確認するよう案内できると、不動産業者としての提案の質が上がります。ローン選びは金利だけで比較するのが原則ではありません。
繰上返済の「最適タイミング」と手元資金バランスの考え方
「お金が貯まったらすぐ繰上返済」は、一見正しいようで実は危険な発想です。
繰上返済に資金を集中させすぎると、手元の流動資金が不足します。急な医療費、車の修繕、子どもの進学費用など、想定外の出費は誰にでも起きます。一般的に、生活費の6ヵ月分以上を流動資産として確保しておくことが推奨されています。月の生活費が25万円なら、最低150万円は現金で持っておくべき目安です。
また、繰上返済より運用利回りが高い金融商品があれば、その差分だけ繰上返済より投資が合理的になるケースもあります。たとえば住宅ローン金利が1.0%であれば、年利3〜5%を目指すインデックス投資との比較検討は十分に意味があります。
ただし、投資にはリスクが伴います。元本割れの可能性がある以上、「繰上返済vs投資」は一概にどちらが正解とは言えません。確実な利息削減を優先するか、リスクをとって資産形成を優先するかは、顧客の年齢・収入安定性・リスク許容度によって変わります。
繰上返済が条件に合えば有効です。
不動産業従事者が住宅購入後のアフターフォローとして、この「繰上返済×資産形成」の視点を持っておくと、顧客との長期的な関係構築にも役立ちます。一度きりの売買で終わらない関係をつくる土台になります。
参考:住宅金融支援機構「繰上返済シミュレーション」
※繰上返済の効果を借入額・金利・時期別に試算できる公式シミュレーターです。
不動産業者が顧客に伝えるべき繰上返済の「失敗しない伝え方」
繰上返済のメリットを顧客に説明するとき、「とにかく早く返しましょう」だけでは不十分です。顧客の状況を無視したアドバイスは、後々のトラブルにもつながりかねません。
まず確認すべきは「住宅ローン控除の残り年数」です。控除期間中であれば、繰上返済のタイミングを控除終了後にずらすだけで数十万円単位の損失を防げます。
次に「現在の手元資金の厚さ」を確認します。繰上返済後に手元に残る金融資産が生活費の6ヵ月分を下回るようであれば、無理な繰上返済は勧めないほうが安全です。
そして「ローンの種類と手数料」の確認も必要です。変動金利か固定金利か、繰上返済手数料の有無によって戦略が変わります。
このような「3点確認」を顧客説明の前に整理しておくと、提案の説得力が段違いに上がります。
不動産業者が「売ったあとも相談できる存在」として顧客に認識されると、紹介・再来店につながります。繰上返済の知識は、それを実現するための重要なコンテンツです。
参考:金融庁「基礎から学べる金融ガイド(住宅ローン編)」
https://www.fsa.go.jp/teach/kou2.pdf
※住宅ローンの基礎から繰上返済の考え方まで、顧客説明の資料としても使えます。

