競売申立の流れと必要書類・費用・注意点
実は、競売申立後に債務者が全額弁済しても、あなたが負担した予納金の一部は戻ってきません。
競売申立とは何か:不動産競売の基礎知識
競売申立とは、債権者が裁判所に対して「債務者の不動産を強制的に売却して債権を回収させてほしい」と申し立てる手続きです。
根拠法令は民事執行法第45条以降に定められており、申立先は不動産所在地を管轄する地方裁判所になります。不動産業に携わっていると、金融機関からの委託や自社の未回収債権処理で、この手続きに関わる機会は少なくありません。
競売には大きく分けて「強制競売」と「担保不動産競売」の2種類があります。
- 強制競売:判決や和解調書など、確定した債務名義をもとに申し立てる
- 担保不動産競売:抵当権など担保権の実行として申し立てる
不動産業従事者が実務で多く関わるのは、抵当権付きローンが焦げ付いた際の「担保不動産競売」です。
担保権がある場合は債務名義が不要という点は、見落とされがちです。つまり、裁判で勝訴判決を取る前でも手続きを始められます。この違いを把握しておくと、回収着手までの時間を大幅に短縮できます。
競売申立の流れ:申立から開始決定まで
手続きの最初のステップは、必要書類の収集と申立書の作成です。
申立書には「申立書本体」「登記事項証明書」「担保権・被担保債権の存在を証明する書類(抵当権設定契約書等)」「送達場所の届出書」などが必要です。書類の不備は却下の原因になるため、地方裁判所の執行センターが公開しているチェックリストを必ず確認してください。
申立と同時に「予納金」を納める必要があります。
予納金の金額は物件の評価額や裁判所によって異なりますが、一般的な目安は次の通りです。
| 物件の種類・評価目安 | 予納金の目安 |
|---|---|
| 土地(評価額500万円未満) | 約60〜80万円 |
| 建物付き土地(評価額1,000万円前後) | 約80〜100万円 |
| 区分マンション | 約50〜70万円 |
これは裁判所の手続き費用(現況調査・評価・公告など)を賄うためのものです。手続きが順調に進めば最終的に配当から精算されますが、途中で取り下げた場合は使用済み分が差し引かれて返還されます。全額戻ってくると思い込んでいると、痛い出費になります。
申立書類の受理後、裁判所は内容を審査します。問題がなければ通常2〜4週間以内に「競売開始決定」が出て、登記簿に差押えの登記が入ります。
差押え登記が入った段階で、第三者への対抗力が生まれます。これが重要な節目です。
競売申立後の流れ:現況調査から入札・開札まで
競売開始決定が出ると、裁判所から執行官と不動産鑑定士(評価人)が選任され、現況調査と評価が行われます。
現況調査では、執行官が実際に物件を訪問して占有状況・建物状態・賃貸借契約の有無などを調べます。不動産業者が管理物件を抱えている場合、この段階で執行官から問い合わせや立入りの依頼が来ることもあります。対応を誤ると手続きが遅延する原因になるため、協力的に対応するのが基本です。
調査・評価が完了すると、裁判所は「物件明細書・現況調査報告書・評価書」(いわゆる「三点セット」)を作成します。
入札の最低価格となる「売却基準価額」は、評価書の評価額の約80%が目安です。たとえば鑑定評価額が2,000万円の物件なら、売却基準価額は約1,600万円になります。買受可能価額はさらにその80%(約1,280万円)となり、これを下回る入札は無効です。
三点セットは、BIT(不動産競売物件情報サイト)で一般公開されます。
入札期間は通常1週間程度で、入札者は売却基準価額の20%以上の保証金を事前に納めます。入札後の開札は公開で行われ、最高価格を入札した者が「最高価買受申出人」として仮決定されます。
競売申立の必要書類と費用:実務チェックリスト
申立に必要な書類は種類が多く、一つでも欠けると受理されません。
実務でよく使うチェックリストとして整理しておきましょう。
📋 担保不動産競売の申立書類(主要なもの)
- 申立書(裁判所書式)
- 登記事項証明書(3か月以内のもの)
- 抵当権設定契約書のコピー
- 被担保債権の額を証明する書類(残高証明書等)
- 資格証明書(法人の場合は代表者事項証明書)
- 送達場所届出書
- 収入印紙(申立手数料:土地・建物各4,000円、計8,000円が目安)
収入印紙の金額は申立物件数に応じて異なります。
費用面で見落としがちなのが「切手代」です。裁判所が債務者や利害関係人に通知を送るための郵便切手を、申立人があらかじめ提出する必要があります。金額は裁判所によって異なりますが、5,000〜1万円程度を準備することが多いです。
これらをまとめると、申立時に実際に用意するお金は次のようになります。
| 費用項目 | 目安金額 |
|---|---|
| 収入印紙(申立手数料) | 8,000円前後 |
| 郵便切手 | 5,000〜10,000円 |
| 登記事項証明書取得費 | 600円/通 |
| 予納金 | 50〜100万円超(物件・裁判所による) |
予納金が圧倒的に大きいです。申立前に回収可能性を精査しておくことが肝心です。
競売申立から配当までの期間と、手続きが止まるケース
競売手続き全体にかかる期間は、申立から配当完了まで平均して8か月〜1年半程度です。
物件の状況・占有者の対応・裁判所の混雑具合によって大きく変わります。スムーズに進めば8か月前後、複雑な占有問題や競売妨害が絡む場合は2年以上かかることもあります。
手続きが止まる主なケースを把握しておくことは、実務上とても重要です。
- 債務者による全額弁済:開札期日前であれば申立を取り下げることができる
- 債務者・第三者による執行停止申立:適法な申立があれば手続きが一時停止する
- 破産手続きの開始:債務者が破産した場合、競売手続きは中止(担保権実行は別途手続きが必要)
- 売却不許可決定:手続きに重大な瑕疵があった場合に裁判所が売却を認めないことがある
特に注意が必要なのが破産との絡みです。
債務者が自己破産の申立をすると、競売手続きは「中止」になります。ただし「取消」ではないため、担保権者は破産手続きの中で「別除権者」として優先的に扱われます。抵当権があれば破産後も競売は続けられる、というのが原則です。
配当段階では、申立人が「配当要求」の必要があるケースと不要なケースがあります。
担保不動産競売の申立人は基本的に配当要求不要ですが、配当額・順位に異議がある場合は「配当異議申立」という手続きで争うことができます。期限は配当期日当日に限られますので、配当計算書の内容は事前に必ず確認してください。
不動産業従事者が知っておくべき競売申立の独自視点:任意売却との比較と選択基準
競売申立を進める前に、「任意売却」との比較検討は欠かせません。
任意売却とは、債務者の同意のもとで担保物件を市場価格に近い価格で売却し、その代金で債務を返済する方法です。競売に比べて債権者にとってメリットが大きいケースも多く、実務では競売申立と並行して任意売却交渉を進めることが一般的です。
競売と任意売却を比較すると、次のような傾向があります。
| 比較項目 | 競売 | 任意売却 |
|---|---|---|
| 売却価格の目安 | 市場価格の60〜70%程度 | 市場価格の80〜90%程度 |
| 手続き期間 | 8か月〜1年半 | 3〜6か月程度 |
| 債務者の協力 | 不要 | 必要 |
| 費用負担(債権者側) | 予納金など高め | 仲介手数料等 |
| 残債リスク | 残りやすい | 任意売却で圧縮しやすい |
競売になると、売却価格が低くなりがちです。
つまり、回収額を最大化したいなら、競売申立は「最終手段」として位置づけ、可能な限り任意売却交渉を先行させるのが得策といえます。ただし、債務者が交渉に応じない・物件に不法占拠者がいる・連絡が取れないといったケースでは、競売申立を早期に進めることで「プレッシャーをかけて交渉テーブルに引き出す」という戦略的な使い方も有効です。
競売申立後でも、開札期日の前日までは取下げが可能です。
実務では、競売申立をきっかけに債務者から任意売却の申し出が来るケースも珍しくありません。申立費用が一部無駄になるリスクはあるものの、回収額の最大化を優先するなら柔軟な判断が重要です。競売申立の流れを熟知していれば、この「申立+任意売却並行戦略」を自信を持って実行できます。
任意売却の可否を判断する際には、対象物件の現在の市場価値と残債の差(いわゆるオーバーローンかどうか)を事前に把握しておくことが不可欠です。不動産鑑定士への査定依頼や、REINS(不動産流通標準情報システム)での類似取引事例の確認が、現場での判断精度を高めます。
法務省:不動産競売に関する手続き案内(公式)
裁判所公式サイト:不動産執行(担保不動産競売・強制競売)の手続きの流れ

不動産競売マニュアル 申立・売却準備編
