剰余主義と不動産競売で知る優先債権の落とし穴

剰余主義と不動産競売の仕組みを正しく理解する

あなたが競売を申し立てた物件、実は最初から売却できない案件だったとしたら、申立費用数十万円が丸ごと無駄になります。

🏠 剰余主義の3つのポイント
⚖️

原則:無益な執行は禁止

差押債権者への配当が見込めない場合、競売は実施されない。これが「剰余主義」の大原則。

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判断基準:買受可能価額で決まる

買受可能価額が「手続費用+優先債権の見込額」に満たない場合、競売は取り消される。

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例外:申立債権者が差額を負担すれば続行可

民事執行法63条2項により、申立債権者が不足額を負担するか、優先債権者の同意があれば競売続行が認められる場合がある。

剰余主義とは何か:民事執行法63条の基本ルール

 

剰余主義とは、不動産の強制競売において、売却代金から執行費用と優先債権(抵当権など)を差し引いて「剰余(余り)」が生じる場合にのみ、売却を認めるという原則です。 民事執行法63条に明文化されており、不動産競売に携わるすべての実務家が理解しておくべき基礎ルールといえます。ms-hyogo+1

なぜこのルールが存在するのか。理由はシンプルです。 国家が債務者の意思に関係なく強制的に不動産を売却する競売制度では、差押債権者への配当が一切見込めない「無益な執行」は許容されないという考え方が根底にあります。 競売は申立費用や手続費用がかかるため、結果として誰も得をしない手続きが走り続けることを防ぐための制度的歯止めが、剰余主義です。fudosanlaw+1

つまり「剰余が出る見込みがなければ売らない」が原則です。

参考)競売㊳

剰余主義の判断基準:「剰余判断」の具体的な計算方法

実務上、「剰余判断」は次の2パターンで行われます。

  • 優先債権がある場合買受可能価額 ≧ 手続費用の見込額 + 優先債権の見込額 が成立するか否かで判断
  • 優先債権がない場合:買受可能価額 > 手続費用の見込額 が成立するか否かで判断

たとえば、買受可能価額が800万円と査定された物件に、抵当権付きの優先債権が1,500万円、手続費用が50万円かかる場合を考えてみましょう。 優先債権+手続費用の合計は1,550万円であり、買受可能価額800万円を大きく上回るため、この物件は「無剰余」と判断され、競売は取り消されます。 東京ドームの面積に例えると、必要な土地(1,550万円分)に対して手持ちの土地(800万円分)が半分以下しかない、というイメージです。mansionbengo+1

これが基本です。

剰余主義と区分所有法59条競売の注意すべき関係性

マンション管理に携わる実務家が特に注意したいのが、区分所有法59条に基づく競売と、民事執行法63条の剰余主義の関係です。 区分所有法59条は、共同の利益に反する行為をした区分所有者の区分所有権を競売によって排除できる制度ですが、この手続きにも剰余主義が適用されるかどうかが実務上の論点になります。

参考)区分所有法59条に基づく競売と民事執行法63条の剰余主義との…

判例の立場では、区分所有法59条に基づく競売によって担保権者がその意に反した時期に投資の不十分な回収を強要される事態が生じたとしても、それは区分所有権の内在的制約が現実化した結果にすぎないと解されています。 つまり、担保権者に不測の不利益を与えるものではなく、不当な結果ともいえないとされている点が重要です。

意外ですね。

なお、無剰余となる物件でも管理組合の目的(問題区分所有者の排除)が優先されるケースがあるため、管理組合から競売申立の相談を受けた際には、通常の強制競売とは異なる法的枠組みで検討する必要があります。

剰余主義の例外規定:申立債権者が取れる3つの選択肢

無剰余と判断された場合でも、競売手続きを続けられる例外があります。 民事執行法63条2項により、以下の対応が認められています。

  • ①不足額の負担:申立債権者が、優先債権者への弁済に不足する金額を執行裁判所に納付することで、手続きを続行できる
  • ②優先債権者の同意:優先債権を有する全員が「競売を続けてよい」と同意した場合、売却が認められる
  • ③担保権消滅許可申請との組み合わせ:消除主義の観点から、担保権を消滅させた上で手続きを進める方法も存在する

    参考)https://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/download.php/AA1203413X-20130620-0085.pdf?file_id=75439

①の「不足額負担」は実務上もっとも使われるルートです。 たとえば優先債権が800万円、買受可能価額が500万円なら、差額の300万円を申立債権者が裁判所へ先払いするイメージです。これで手続きが止まらずに済みますが、申立債権者にとってはキャッシュアウトが発生するリスクがあるため、依頼者への事前説明が必須になります。

不足額を負担する前提で試算しておくことが条件です。

剰余主義を知らない不動産実務家が陥りやすい3つのミス【独自視点】

現場では、剰余主義の理解不足から生まれるミスが複数パターンあります。実務で特に見られる失敗例を整理します。

ミス① オーバーローン物件の競売申立を安易に受ける

依頼者から「この物件を競売にかけてほしい」と相談を受けた際、抵当権残高や優先債権の総額を事前に確認しないまま申立手続きを進めてしまうケースです。 抵当権などの担保権が通常は優先されるため、不動産の売却価格より担保されている債権額が大きい「オーバーローン状態」では、競売は無意味と判断されて取り消されます。 申立費用(登録免許税・予納金含め数十万円規模)が丸ごと無駄になります。

参考)arret:形式的競売にも消除主義と剰余主義が適用される: …

ミス② 「最低売却価額」と「買受可能価額」を混同する

剰余判断の基準は「買受可能価額」です。 これは最低売却価額の80%に設定されるため、実際の査定価格より低い数字で剰余判断が行われます。この80%という数字を知らないと、一見剰余が出そうな物件でも無剰余と判断される理由が理解できません。

80%が基準と覚えておけばOKです。

ミス③ 手続費用の見込額を過小評価する

執行費用は登録免許税だけではありません。 競売申立手数料、執行官費用、評価人費用、現況調査費用、売却手続費用など複数の費用が積み重なります。これらの合計を低く見積もって剰余が出ると判断すると、後から無剰余と判定されて手続きが止まります。

事前の費用試算は必須です。

不動産競売に関する詳細な手続きと費用体系については、裁判所の公式ガイドラインや実務書を確認することを強くお勧めします。実務上の判断基準についての権威ある解説は以下で確認できます。

区分所有法59条競売と民事執行法63条の関係についての詳細な判例解説。

区分所有法59条に基づく競売と民事執行法63条の剰余主義との関係|マンション弁護士.jp

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