建物状況調査実施者の資格・要件と実務での活用法

建物状況調査実施者の資格・要件と不動産実務での活用

建築士資格を持っていても、建物状況調査実施者として登録しなければ、インスペクションの報告書に署名できず、契約が無効になるケースがあります。

📋 この記事の3ポイント要約
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建物状況調査実施者とは?

既存住宅状況調査技術者講習を修了した建築士のみが「建物状況調査実施者」として認められ、法定インスペクションを実施できる。

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不動産取引での義務と注意点

2018年改正宅建業法により、媒介契約時と重要事項説明時に建物状況調査の実施有無を告知する義務が生じた。違反すると業務停止処分のリスクがある。

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実務で使いこなすコツ

調査実施者のあっせん方法、報告書の読み方、売主・買主への説明手順を理解することで、トラブルを防ぎ成約率アップにつなげられる。

建物状況調査実施者とは:定義と法的根拠

「建物状況調査実施者」とは、既存住宅状況調査技術者講習(通称:インスペクター講習)を修了し、登録された建築士のことを指します。2018年4月施行の改正宅地建物取引業法(宅建業法)第34条の2・第35条に基づいて制度化された、れっきとした法的な資格区分です。

単なる建築士ではなく、国土交通省が定める「既存住宅状況調査方法基準」に沿った調査を実施できる技術者であることが要件です。つまり、この講習を修了していない建築士は法定インスペクションを担当できません。

実務上の混同が多い点として、「ホームインスペクター」と「建物状況調査実施者」は別物です。ホームインスペクターは民間資格であり、誰でも名乗れます。一方、建物状況調査実施者は宅建業法上の明確な法的根拠を持つ、不動産取引に直結する公的な位置づけです。この違いは、重要。

法的な根拠を持つということは、宅建業者に対して告知義務が課されていることを意味します。媒介契約時・重要事項説明時ともに対応が求められます。

  • 根拠法令:宅地建物取引業法 第34条の2・第35条・第37条
  • 所管官庁:国土交通省
  • 登録者検索:公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センターのウェブサイトで確認可能
  • 調査方法の基準:「既存住宅状況調査方法基準」(告示)に準拠

参考:改正宅建業法における建物状況調査の制度概要(国土交通省)

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建物状況調査実施者になるための要件と講習の内容

建物状況調査実施者として認定されるには、まず「建築士」であることが大前提です。一級建築士・二級建築士・木造建築士のいずれかの資格保持者が対象となります。資格の種別によって調査できる建物の規模が変わるため、注意が必要です。

講習は「既存住宅状況調査技術者講習」として、国土交通省が登録した機関が実施しています。講習の内容は大きく2部構成で、座学(法令・調査方法の基準)と技術的な調査実技を含みます。修了後は登録番号が付与され、公的なデータベースで検索可能になります。

注意すべき点として、この修了登録には有効期限があります。登録は5年ごとに更新が必要で、更新しないと「建物状況調査実施者」としての資格が失効します。失効した状態で業として調査を実施した場合、宅建業者があっせんした報告書の有効性が問われるリスクがあります。

  • 受講資格:一級・二級・木造建築士の資格保持者
  • 講習実施機関:国土交通省登録の複数機関(公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター等)
  • 有効期限:修了から5年間(新制)
  • 受講費用の目安:3万〜4万円程度(機関により異なる)
  • 木造建築士の場合:木造2階建て以下の住宅に調査対象が限定される

建築士の資格ランク別に調査できる建物の規模をまとめると以下の通りです。

資格区分 調査可能な建物規模
一級建築士 規模制限なし(すべての既存住宅)
二級建築士 木造3階建て以下、延床500㎡以下など一定規模
木造建築士 木造2階建て以下の住宅のみ

宅建業者が果たすべき建物状況調査実施者のあっせん義務

改正宅建業法によって、宅建業者には媒介契約締結時に「建物状況調査を実施する者のあっせんの可否」を依頼者に伝える義務が生じました。これが実務上、最も見落とされがちなポイントです。

「あっせん」とは、依頼者に建物状況調査実施者を紹介・取り次ぐことを指します。あっせんを断ることは依頼者の権利であり、強制はできません。ただし、「あっせんできるかどうかを伝えること」自体は業者の義務です。この義務を怠った場合、行政処分の対象になり得ます。

媒介契約書面(34条の2書面)には、あっせんの可否を記載する欄が設けられています。実務では「あっせんする」または「あっせんしない」のいずれかにチェックを入れるのが一般的な対応です。記載漏れは書類不備となるため、チェックリストで管理するのが確実です。

さらに、重要事項説明(35条書面)においては、「建物状況調査が実施されているかどうか」と「実施されている場合の結果の概要」を買主に説明する義務があります。これは売主だけでなく買主への説明義務である点を見落としがちです。

  • 📋 媒介契約時:あっせんの可否を書面で明示する
  • 📋 重要事項説明時:調査実施の有無と結果概要を買主に説明する
  • 📋 売買契約時(37条書面):調査結果の概要を記載する義務がある

参考:宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方(国土交通省)

https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001478472.pdf

建物状況調査実施者による調査の流れと報告書の読み方

実際の調査の流れを把握しておくと、売主・買主への説明がスムーズになります。調査は大きく「依頼→現地調査→報告書作成→報告」の4ステップで進みます。

現地調査では、主に「構造耐力上主要な部分」と「雨水の浸入を防止する部分」の2つを重点的に確認します。壁のひび割れ、雨漏り跡、基礎のクラックなどが主な確認対象です。ただし、建物内部の隠蔽部分(壁の中の配管など)は基本的に調査範囲外です。この点、意外に知られていません。

調査にかかる時間の目安は、一般的な木造2階建て住宅(延床100㎡前後)で2〜3時間程度です。東京ドームのグラウンド面積(約13,000㎡)と比べると、一般的な調査対象は100〜150㎡程度と非常に限定的な範囲であることがわかります。それだけ精密な目視確認が行われています。

報告書には「劣化事象等が認められた箇所」と「劣化事象等が認められなかった箇所」が明記されます。重要なのは、「問題なし」という総合評価ではなく、「どの部位に何の事象があったか」という個別記録を正確に読み取ることです。

  • 🔍 調査対象の2大カテゴリ:構造耐力上主要な部分・雨水浸入防止部分
  • 🔍 調査手法:非破壊・目視が原則(壁をはがすなどはしない)
  • 🔍 調査費用の相場:5万〜10万円程度(建物規模・機関により変動)
  • 🔍 報告書の有効期間:調査から概ね1年が目安(明確な法定期限はないが慣行として)

報告書の結果を売主・買主に説明する際は、「問題があった=欠陥」と誤解させない言い回しを意識する必要があります。これはクレーム防止の観点から重要です。「劣化事象が確認されました」という表現は、経年劣化の記録であり、即座の修繕必要性を断定するものではない点を説明できると、依頼者の安心感につながります。

建物状況調査実施者の活用で成約率を上げる不動産業者向け実務戦略

建物状況調査は義務的に案内するだけでなく、売買促進のツールとして積極的に活用できます。実はこの視点を持っている不動産業者はまだ少数派です。

売主側の活用例として、売り出し前に建物状況調査を実施しておく「インスペクション済み物件」として売り出す手法があります。買主に対して「調査済みで瑕疵リスクが低減されている」という安心感を提供でき、値引き交渉を抑制する効果が期待できます。調査費用5〜10万円の投資で、値引きを数十万円単位で防げたケースも報告されています。これは使えそうです。

買主側への説明では、「調査を希望しますか?」と単に聞くだけでなく、「調査報告書があることで住宅ローンの審査書類に加えられ、説得力が増します」など具体的なメリットを提示すると、依頼者の意思決定がスムーズになります。

既存住宅売買瑕疵保険との組み合わせも有効な実務戦略です。建物状況調査を実施したうえで一定の基準を満たした物件は、瑕疵保険への加入が可能になります。瑕疵保険付き物件は買主にとって大きな安心材料であり、価格競争力にもなります。

  • 💰 売主メリット:インスペクション済みを売りにして値引き交渉を抑制できる
  • 💰 買主メリット:見えないリスクを数値化・文書化することで購入判断がしやすくなる
  • 💰 業者メリット:説明義務を果たしつつ、付加価値提案で他社との差別化が図れる
  • 💰 瑕疵保険との連動:調査結果が保険加入の前提条件になるため、セット提案が効果的

また、建物状況調査実施者のあっせんを自社でできる体制を整えておくことで、依頼者からの「インスペクションをやりたいけどどこに頼めば?」という問い合わせに即座に対応できます。複数の登録済み調査実施者と日ごろから連携しておくと、物件種別(マンション・木造戸建てなど)に応じた最適な実施者を紹介でき、サービス品質の向上につながります。

参考:既存住宅売買瑕疵保険についての解説(住宅瑕疵担保責任保険協会)

https://www.kashihoken.or.jp/insurance/existing/index.html