調査実施結果の概要を正しく理解する実務ガイド
調査結果を一度受領した書類は、何年経っても重要事項説明に使えると思っているなら、それは業法違反リスクに直結します。
調査実施結果の概要とは何か:宅建業法上の定義と位置づけ
「建物状況調査の結果の概要」とは、既存住宅状況調査(インスペクション)を実施した建築士が国土交通省の定めた書式で作成する調査報告書のことです。 宅建業法の改正(2018年4月施行)により、既存住宅の売買・交換において宅建業者が買主へ重要事項として説明することが義務付けられました。 概要書には部位ごとの劣化事象の有無が記載されており、「×(明らかな不具合)」「△(詳細調査が必要)」「−(調査不実施)」の記号で示されます。smtrc+2
この書類は取引の透明性を確保するための根幹となるものです。
宅建業者に課される義務は以下の3段階で構成されています。
参考)既存住宅状況調査(建物状況調査)とは?|既存住宅状況調査技術…
- ①媒介契約時:建物状況調査のあっせんに関する事項を媒介契約書に記載する
- ②重要事項説明時:調査の実施の有無と、実施している場合はその結果の概要を買主に説明する
- ③売買契約成立時:調査結果の概要を37条書面(売買契約書)により交付する
3段階すべてを正確に実施することが原則です。
調査実施結果の概要の有効期限と重要事項説明の対象範囲
調査結果の概要書には法的な「有効期限」という概念は存在しません。ただし重要事項説明の対象となる建物状況調査は、木造戸建て住宅の場合は「調査実施後1年以内」、マンション等(鉄筋コンクリート造の共同住宅)の場合は「2年以内」のものに限定されています。 2024年法改正によってマンションは1年から2年へと期間が延長されており、現場ではこの変更点を正確に把握しておく必要があります。kashihoken+1
有効期限の管理は必須です。
期限外の概要書しか手元にない場合でも、その古い調査結果で劣化事象が確認されていれば、消費者保護の観点から直近でない調査結果も買主に説明することが適当とされています。 これは重要なポイントで、「古いから説明不要」と判断すると、宅建業法違反(故意に事実を告げない行為)と見なされるリスクがあります。自然災害発生前の調査についても同様に説明が推奨されています。
参考)重要事項説明の内容|建物状況調査の実施の有無およびその結果の…
具体的な判断フローを整理すると次のとおりです。
- 1年以内(戸建て)または2年以内(マンション)の概要書あり → 結果の概要を説明・書面交付
- 有効期間外の概要書のみ → 「実施なし」として扱い、古い劣化事象は参考情報として説明
- 調査自体なし → 「建物状況調査を実施していない」と明示し、2024年改正以降はあっせん「無」の理由も記載
調査実施結果の概要の記載内容と現場でのチェックポイント
概要書は国土交通省が定めた書式(「建物状況調査の結果の概要(重要事項説明用)」)に基づき作成されます。 調査対象部位は基礎・外壁・屋根・内壁・天井・床・小屋組・土台・床組などに分類されており、各部位に「劣化事象等の有無」が○または×で示されます。
参考)https://www.mlit.go.jp/common/001180522.pdf
書類のどこを見るべきかが重要です。
概要書を受け取った際に宅建業者が確認すべき主なチェックポイントは以下のとおりです。
参考)建物状況調査報告書の見方|建物状況調査(住宅インスペクション…
- 「△(詳細調査推奨)」「×(明らかな不具合)」「不実施」の項目がないか確認する
- 調査実施日と現在の日付から「有効期間内か否か」を判断する
- 給排水管路調査が実施されている場合、別ページに追加の一覧が記載されていないか確認する
- レベル傾斜測定図が添付されているかを確認する
劣化事象「有」の部位については補修工事後に再調査を依頼できますが、再調査・再作成には別途費用が発生するケースが多い点を売主に事前説明しておくと、後々のトラブル防止になります。
参考:住宅瑕疵担保責任保険協会による建物状況調査の解説ページ(調査の流れ・宅建業法上の義務・概要書の見方)
既存住宅状況調査(建物状況調査)とは? – 住宅瑕疵担保責任保険協会
調査実施結果の概要の実施率から見える現場の実態
国土交通省のデータによれば、2021年時点での戸建住宅におけるインスペクション全体の実施率は37.5%です。 内訳は売主側が44.6%、買主側が30.6%となっており、売主の方が実施率は高い傾向にあります。意外ですね。
参考)建物状況調査のあっせん「無」に理由が必要に! 改正で変わった…
ただし2018年の義務化前(2016年)は売主15.3%・買主7.2%だったため、この5年間で実施率は大幅に改善したことがわかります。 一方で平成30年度の土地総合研究所のアンケートでは、調査等の実施実績がない事業者が約8割を占めており、件数ベースでは全流通戸数の4%程度にとどまると推計されています。mlit+1
実施率はまだ低水準にあります。
実施されていない最大の理由は「依頼が見込めない(58.6%)」であり、次いで「採算に合わない(20.4%)」「制度が認知されていない(19.2%)」と続きます。 この背景から、不動産業者がインスペクションを積極的に提案することが市場拡大のカギとなっていることがわかります。実施率の向上は業者側のあっせん姿勢に大きく依存する構造です。
参考)https://www.mlit.go.jp/common/001333002.pdf
参考:土地総合研究所「既存住宅状況調査の実施状況に関するアンケート調査結果」
既存住宅状況調査の実施状況に関するアンケート調査結果(国土交通省)
調査実施結果の概要を巡る法的リスクと不動産業者が取るべき対応
調査結果の概要の説明が不十分な場合、宅建業法における「故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為」に該当するリスクがあります。 これは行政処分の対象となりうる重大な違反です。厳しいところですね。
また2024年4月施行の宅建業法改正により、媒介契約書面における建物状況調査のあっせん「無」の場合、その理由を明記する義務が新たに加わりました。 「無」と記載するだけでは義務を果たしたことにならないため、現場での書面作成フローの見直しが必要です。
法的リスクを回避するための実務上のポイントをまとめます。
- 概要書の有効期限(戸建1年・マンション2年)を媒介受領時にカレンダーで管理する
- あっせん「無」の場合はその理由(例:売主が希望しない、物件が古すぎる等)を媒介契約書面に記載する
- 有効期限外でも劣化事象が確認されている概要書は「参考情報として」買主に説明する記録を残す
- 調査結果の概要書を紛失した場合は、調査実施者(建築士)に再発行を依頼する
参考:全宅連による宅建業法における建物状況調査Q&A(業者向け詳細解説)
宅地建物取引業法における建物状況調査に関するQ&A – 全宅連
参考:国土交通省による建物状況調査活用の手引き(業者向け実務ガイド)
建物状況調査(インスペクション)活用の手引き – 国土交通省

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