遺贈の放棄はいつまでできる?期限と手続きを完全解説

遺贈の放棄いつまでできるか、期限と手続きを徹底解説

特定遺贈は口頭でも放棄できますが、それだけで不動産の名義変更を止められるわけではありません。

この記事の3つのポイント

包括遺贈の放棄は3ヶ月以内が原則

包括遺贈を知った日から3ヶ月を過ぎると「単純承認」とみなされ、借金も含めてすべての財産を引き継ぐことになります。不動産業務で関わる機会が多いため、期限を正確に把握しておくことが重要です。

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特定遺贈はいつでも放棄できるが「催告」に注意

特定遺贈には法定の期限がなく、遺言者の死後であればいつでも放棄が可能です。ただし、相続人や利害関係者から「相当の期間」を定めた催告を受けた場合、その期間内に回答しないと承認したとみなされます。

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遺贈の放棄と相続放棄は「別の手続き」

遺贈を放棄しても、相続人としての立場は失いません。不動産を含む遺産をまったく受け取りたくない場合は、遺贈の放棄とは別に相続放棄の手続きも必要です。混同すると大きなトラブルに発展する恐れがあります。


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遺贈の放棄とは何か、不動産取引で押さえておきたい基本

 

遺贈とは、遺言者が遺言によって特定の人(受遺者)に自分の財産を無償で譲渡することをいいます(民法第964条)。相続と違うのは、法定相続人以外の第三者にも財産を渡せる点です。不動産業務においても、売主や買主の族関係の中で「遺贈された不動産を扱う」場面は珍しくありません。

遺贈には2種類あります。一つは「包括遺贈」、もう一つは「特定遺贈」です。この区別が、放棄の期限と手続きを大きく左右します。

包括遺贈とは、「遺産の3分の1をAに遺贈する」など、割合を指定して財産を渡す方法です。プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれる点が特徴です。不動産が多い遺産の場合、土地の管理コストや固定資産税なども包括受遺者が負担することになります。つまり包括遺贈です。

特定遺贈とは、「〇〇市の土地をBに遺贈する」など、具体的な財産を指定して渡す方法です。原則として負債は含まれません。これは使えそうです。不動産取引では特定遺贈の方が多く登場するため、不動産従事者は特に特定遺贈の仕組みを深く理解しておく必要があります。

遺贈の放棄とは、受遺者が遺言で指定された財産の受け取りを辞退することです。せっかく遺贈を受けても、遺留分侵害をめぐる親族トラブルを避けたい場合や、管理コストがかかる不動産を受け取りたくない場合などに利用されます。一度放棄すると基本的に撤回できないため、慎重に判断することが前提です。

受遺者が放棄を選択した場合、遺贈の効力は遺言者の死亡時点に遡って消滅します(民法第986条第2項)。放棄された財産は相続人に帰属することになるため、不動産の名義変スケジュールや遺産分割協議にも直接影響します。不動産従事者として、この連鎖を把握しておくことは実務上欠かせません。

三井住友トラスト不動産:遺贈の放棄について(弁護士解説)

上記リンクは、弁護士による遺贈の放棄の法的解説で、包括遺贈・特定遺贈の手続きの違いや放棄後の財産の帰属についてわかりやすく説明されています。

包括遺贈の放棄いつまでが期限か、3ヶ月ルールと家庭裁判所への手続き

包括遺贈の放棄に関して最も重要なのが「3ヶ月以内」という期限です。これが原則です。具体的には、受遺者が自己のために包括遺贈があったことを知った日(=遺言者の死亡と自分が受遺者であることを知った日)から起算して3ヶ月以内に、家庭裁判所に申述しなければなりません(民法第915条第1項、第990条)。

この3ヶ月という期間は「熟慮期間」と呼ばれ、遺産内容を調査して承認するか放棄するかを判断するための時間として設けられています。期間内に手続きをしなかった場合は「単純承認」とみなされます。単純承認になると、不動産を含むプラスの財産はもちろん、借金などのマイナスの財産もすべて無条件で引き継ぐことになります。これは痛いですね。

3ヶ月という時間は一見十分に感じられますが、遺産調査・弁護士相談・書類収集などを並行して進めると、あっという間に過ぎてしまいます。不動産を複数抱える遺産では、それぞれの評価や負担コストを試算するだけでも時間がかかることを覚えておいてください。

実は、3ヶ月の期限が過ぎても諦めてはいけません。遺贈があったことを知った後に、隠れていた借金が判明したなど特別な事情がある場合、家庭裁判所に「熟慮期間の伸長」を申請できます(民法第915条第1項ただし書き)。この制度は比較的柔軟に運用されているため、期限を過ぎてしまいそうな場合はすぐに弁護士に相談することが有効です。

包括遺贈の放棄手続きに必要な書類は以下のとおりです。

  • 📄 包括遺贈放棄の申述書(裁判所HPからダウンロード可)
  • 📄 遺言者の戸籍謄本・住民票除票または戸籍附票
  • 📄 申述人(包括受遺者)の住民票または戸籍附票
  • 📄 遺贈があったことが確認できる書類(遺言書の写しなど)
  • 💰 収入印紙800円分(申述人1人につき)+連絡用郵便切手

申立先は、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。申述が受理されると「申述受理通知書」が郵送されます。不動産の相続登記を進める際にも、この受理通知書が手続きに絡んでくるケースがあります。不動産登記と連動した動きを意識することが大切です。

裁判所公式:包括遺贈の放棄の申述(書式・手続き案内)

申述書の書式や提出先の詳細が裁判所公式サイトに掲載されています。手続きを依頼する際の参考資料として活用できます。

特定遺贈の放棄いつでもできるが、催告による「みなし承認」の落とし穴

特定遺贈の放棄には、包括遺贈のような法定の期限はありません。遺言者の死亡後であれば、いつでも放棄の意思表示が可能です(民法第986条第1項)。これが原則です。

ただし、「期限がない=いつまでも先延ばしにできる」とは限りません。ここが不動産業務における大きな落とし穴になります。

民法第987条では、遺贈義務者(相続人や遺言執行者など)その他の利害関係人が、特定受遺者に対して「相当の期間」を定めて遺贈の承認または放棄の意思表示を催告できると定めています。この「相当の期間」内に受遺者が回答しなかった場合、遺贈を承認したとみなされます。つまり放棄の権利を失うということですね。

不動産が遺贈対象に含まれている場合、遺産分割協議や相続登記の進捗を待っている相続人サイドから催告が届くケースがあります。催告状を受け取ったにもかかわらず、「どうしようか考えている間に」期間が過ぎてしまうと、放棄したくても承認したとみなされる状況になります。この「みなし承認」は、受遺者にとって非常に不利な結果をもたらします。

なお、特定遺贈の放棄の方法は包括遺贈とは異なります。家庭裁判所への申述は不要で、遺言執行者や他の相続人に対して放棄の意思を伝えるだけで足ります(口頭でも法律上は有効)。ただし、口頭だと「言った・言わない」のトラブルになりかねないため、実務上は内容証明郵便で意思表示を残すことが強く推奨されます。これは必須です。

特定遺贈が放棄された場合、その不動産は遺産分割協議の対象に組み込まれ、改めて相続人間で分割方法を話し合うことになります。すでに遺産分割協議が進行中だった場合は、再び協議をやり直す必要が生じる可能性もあり、手続き全体が数ヶ月単位で遅れることも珍しくありません。不動産売却のタイムラインに直結する問題です。

稲毛司法書士事務所:遺贈の放棄とは、相続放棄との違いや期限の解説

特定遺贈の「催告によるみなし承認」の仕組みと、包括遺贈・相続放棄との違いが詳しく整理されています。

遺贈の放棄と相続放棄の違い、不動産が絡む場合は両方の手続きが必要なことも

不動産従事者が特に混同しやすいのが、遺贈の放棄と相続放棄の違いです。この2つは似て非なるものです。

遺贈の放棄は「遺言で指定された財産の受け取りを辞退する行為」です。一方、相続放棄は「相続人としての地位そのものを放棄する行為」です(民法第939条)。制度の目的も手続きも、まったく別のものです。

重要なのは、遺贈を放棄しても相続人としての立場は失われないという点です。たとえば相続人Aが被相続人から「全財産の包括遺贈」を受けたとします。Aが遺贈を放棄した場合、その遺贈分の権利は失いますが、Aは依然として相続人のままです。結果として、法定相続分に基づいてAは遺産の一部を相続することになります。完全に何も受け取りたくない場合は、遺贈の放棄とは別に相続放棄の手続きが必要になる点を理解してください。

遺贈の放棄 相続放棄
対象 遺言で指定された財産 相続財産全体
手続き先(特定遺贈) 遺言執行者・相続人への意思表示 家庭裁判所への申述
手続き先(包括遺贈) 家庭裁判所への申述 家庭裁判所への申述
期限 特定遺贈:なし、包括遺贈:3ヶ月 3ヶ月以内
相続人の地位 失わない 最初から相続人でなかったとみなされる

2024年4月から相続登記の義務化が施行されました。不動産を相続または遺贈によって取得した場合、取得を知った日から3年以内に相続登記を申請しなければならず、怠ると10万円以下の過料が科される可能性があります。この「3年」という期限は、遺贈の放棄をするかどうかを判断する期間とも重なりやすいため注意が必要です。

相続登記の義務化は相続人だけでなく受遺者にも適用されます。しかし、適法に遺贈の放棄を行った場合は登記義務の対象外となります。つまり、放棄の手続きを適切に完了させることで、登記義務からも解放されるということです。これは不動産実務において非常に重要な視点です。

相続税専門税理士法人チェスター:遺贈を放棄する方法と相続放棄との違い

遺贈の放棄と相続放棄の違いを表形式で整理しており、「相続放棄をした人が特定遺贈を受けた場合」の詳しい説明も参照できます。

遺贈の放棄に関する注意点、不動産従事者が顧客に伝えるべき実務知識

遺贈の放棄を検討する際には、法的な手続き以外にも見落としやすいポイントが複数あります。不動産に関わる業務においては、顧客への正確な情報提供が信頼につながります。以下に、実務上特に重要な注意点を整理します。

遺言者の生前に放棄はできない

遺贈の放棄が認められるのは、あくまでも遺言者が死亡した後です(民法第986条第1項)。「遺言書に自分の名前が書いてあると生前に聞いた」「贈与を断ったと口約束をした」という状況でも、法律上は放棄として認められません。遺言者が亡くなった後、改めて正式な放棄手続きをとる必要があります。これが原則です。

財産を一部でも処分すると放棄できなくなる

受遺者に放棄の意思があったとしても、遺贈された財産の全部または一部を処分した場合には「単純承認したもの」とみなされます(民法第921条第1号)。「処分」には、財産の売却だけでなく、故意に損傷させる行為も含まれます。不動産の場合、受け取った土地の草刈りや建物の修繕を勝手に行ってしまうだけでも問題になる可能性があります。財産の管理はあくまで「自己の財産に対するのと同一の注意」をもって行い、処分行為は厳禁です。

放棄の撤回は原則として不可

一度遺贈を承認または放棄した場合は、原則としてその意思表示を撤回できません(民法第989条第1項)。撤回が認められるのは、錯誤・詐欺・強迫・制限行為能力者の単独行為など、極めて限られたケースに限られます。しかも撤回可能な場合でも、「追認できる時から6ヶ月以内」かつ「承認・放棄の時から10年以内」という二重の期限がかかります。つまり放棄は一発勝負です。この点を顧客に伝えておくことで、後悔による相談トラブルを防ぐことができます。

「相続させる」旨の遺言は遺贈とは異なる

遺言の文言として「○○に相続させる」と記載されている場合は、遺贈ではなく「特定財産承継遺言」と扱われます。この場合は遺贈の放棄の規定ではなく、相続放棄の規定が適用されます。不動産を対象とした遺言において、この区別ができていないと手続きを誤るリスクがあります。遺言書の文言を正確に読み取り、「遺贈」か「相続させる」かを確認することが重要です。

不動産を含む相続・遺贈の手続きは、民法と不動産登記法・相続登記義務化など複数の法律が絡み合う複雑な領域です。顧客から相談を受けた場合は、必要に応じて弁護士や司法書士への橋渡しを行うことも、不動産従事者の大切な役割の一つです。

越谷みらい法律事務所:遺贈は放棄できる!期限・手続き・注意点などを解説

遺言者の生前に放棄できない点、財産処分による単純承認みなしのリスク、放棄の撤回制限など、実務上の注意点が網羅的にまとめられています。

不動産従事者だけが知っておきたい、遺贈の放棄が不動産登記に与える影響

遺贈の放棄は、不動産登記の実務にも直接影響を与えます。この視点は一般的な相続解説記事ではあまり触れられていませんが、不動産従事者にとっては特に重要な知識です。

2023年4月の法改正により、相続人が受遺者である場合(相続人への遺贈)は、受遺者が単独で遺贈登記の申請ができるようになりました。これまでは相続人以外への遺贈登記と同様に、登記権利者(受遺者)と登記義務者(相続人全員または遺言執行者)が共同で申請する必要がありましたが、相続人への遺贈に限り手続きが簡略化されています。これは使えそうです。

一方、相続人以外の第三者への遺贈登記は、依然として共同申請が原則です。遺言執行者が選任されている場合は、受遺者と遺言執行者が共同で申請します。遺贈の放棄によって登記申請が取り下げられた場合、改めて相続人全員での遺産分割協議と相続登記が必要になるため、不動産取引のタイムラインに大きな影響が出る可能性があります。

2024年4月の相続登記義務化により、遺贈によって不動産を取得した受遺者にも登記義務が課せられています。「取得を知った日から3年以内」という期限を守れないと10万円以下の過料リスクが生じますが、この義務は適法に遺贈を放棄した場合には発生しません。受遺者が遺贈の放棄を選択した場合、速やかに放棄の手続きを完了し、必要に応じて登記申請が不要であることの証拠を残しておくことが安全です。

また、遺贈された不動産に抵当権や賃借権などの権利関係が設定されている場合、受遺者がその権利関係をそのまま引き継ぐかどうかも放棄の判断に影響します。たとえば、遺贈対象の土地に住宅ローンの担保設定が残っていた場合、包括遺贈の受遺者はそのローン返済義務まで承継する可能性があります。不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)を確認し、権利関係を把握した上で放棄の可否を判断するよう、顧客に助言することが実務上のポイントになります。

遺贈の放棄後に不動産が相続人に帰属する場合も、相続登記義務化の対象になります。放棄された財産を受け取る相続人側にとっても「取得を知った日から3年以内」の登記申請が求められることを、不動産従事者として顧客に伝える機会があれば積極的に情報提供することで、トラブル予防に貢献できます。

相続登記義務化と受遺者への適用範囲について(詳細解説)

2024年4月施行の相続登記義務化が受遺者にどう適用されるか、3年という期限の起算日など、不動産実務に直結する内容が解説されています。


政省令・施行通達対応 相続土地国庫帰属制度 承認申請の手引