意思決定支援と看護文献が示すケアの実践と課題
不動産の契約や売買では、お客様が「どうするか決めかねている」場面に日々遭遇しますね。その背景に、高齢の親御さんや家族の健康問題が絡んでいることも少なくありません。実は、医療・看護の分野では「意思決定支援」という概念が長年にわたり体系化されており、その知見は不動産の現場でも応用できる部分が多数あります。
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意思決定支援とは何か:看護文献が示す基本的定義
「意思決定支援」とは、自ら意思を決定することに困難を抱える人が、日常生活や社会生活に関して自らの意思が反映された生活を送ることができるよう、可能な限り本人が自ら意思決定できるように支援することを指します。看護の世界では、この概念は単なる「説明して同意を得る」作業ではなく、本人の価値観・生活歴・希望を丁寧に引き出すプロセス全体を指します。
意思決定支援は大きく3つのプロセスから構成されます。それが「意思形成支援」「意思表明支援」「意思実現支援」の3段階です。意思形成支援とは、本人が意思を持てるように情報や環境を整える段階です。意思表明支援は、本人が自分の意思を外に出せるよう関わる段階であり、意思実現支援は表明された意思を実際の生活やケアに反映させる段階です。
つまり意思決定支援は一発の説明で完結しません。
この3段階のプロセスが国際的に推奨されているモデルと結びついています。それがShared Decision Making(SDM)、日本語では「協働的意思決定」と呼ばれる考え方です。SDMでは、医療者と患者・家族が対等なパートナーとして、エビデンスと本人の価値観・好みを統合しながら、最善の決定に向けて話し合いを重ねます。SDMは患者中心のケアを具現化するモデルとして、現在多くの看護教育や臨床実践の場で採り入れられています。
日本看護協会「意思決定支援と倫理(1)代理意思決定の支援」▶ 代理意思決定支援の考え方と看護職の役割が丁寧に整理されています
意思決定支援の看護文献に見る「代理意思決定」の重要性
看護文献の中で特に多く取り上げられるのが「代理意思決定」の問題です。代理意思決定とは、本人の意思決定能力が不十分と考えられるとき、本人に代わって家族や近しい人が意思決定を行うことです。これが実際には非常に難しいのです。
急激に生命の危機状態に陥った場合、患者はほとんどの場合に意思表示ができません。その状況で家族は、積極的治療を行うかどうか、延命処置をどうするか、在宅か入院かといった重大な選択を迫られます。精神的に危機状態にある家族が、冷静に「本人ならどう望むか」を判断するのは、想像以上に過酷な体験です。これは痛いですね。
看護師の役割はここで際立ちます。具体的には、患者の生活歴・価値観・これまでの言動をもとに、家族が患者の本来の意思に近い選択ができるよう情報提供と精神的支援を続けることです。一旦意思決定がなされても、家族の気持ちは変化しやすく、「あの選択は本当によかったのか」という後悔が生じやすい。看護師は「決定は後から変更できる」という安心感を家族に伝え続けることも、重要な支援行動として文献上で確認されています。
文献上の注目点として、看護師はしばしば「医師と家族の間の調整者」として機能していることも示されています。家族が医師に自らの意思決定内容を伝える際のアドボカシー(権利擁護)の担い手として、看護師が重要な役割を果たすのが原則です。これはチームケアの基本です。
| 代理意思決定の場面 | 看護師の主な役割 |
|---|---|
| 患者が意思表示できない場合 | 患者の生活歴・価値観を家族と共有する |
| 家族が選択肢を理解できていない場合 | 現状・メリット・デメリットをわかりやすく再説明する |
| 家族間で意見が割れる場合 | 多職種チームを交えた話し合いの場をセッティングする |
| 一度決めた意思を家族が迷い始めた場合 | 変更可能であることを伝え、寄り添い続ける |
厚生労働省「事例集:人生の最終段階における意思決定支援」▶ 在宅・病院での具体的な支援場面が事例形式で掲載されており実践的です
意思決定支援の看護文献が示すACPの実践的活用法
近年の看護文献の中で急速に重要度が増しているのがACP(Advance Care Planning)、日本語では「人生会議」とも呼ばれる取り組みです。ACPとは、将来の変化に備えて、将来の医療およびケアについて、本人を主体に、家族や近しい人、医療・ケアチームが繰り返し話し合いを行い、本人による意思決定を支援するプロセスです。
「繰り返し話し合う」という点が核心です。
ACPは一度だけ実施して書面に記録すれば終わりではありません。本人の状態・価値観・希望は時間とともに変化するため、定期的な対話を通じて内容を更新していく継続的なプロセスが求められます。大阪府看護協会が発行する「看護職のためのACP支援マニュアル」では、ACPの対象者は「疾患や障がいの有無にかかわらず、生まれてから亡くなるまでのすべての人」と明記されており、特定の病状に限定されるものではない点が強調されています。
訪問看護師を対象とした複数の文献によると、在宅療養の場でのACPの主な障壁として以下のことが指摘されています。
- 🗣️ 話し合いのタイミングが掴みにくい:本人・家族が「まだその話は早い」と感じていることが多く、介入のきっかけを作ることが難しい
- 🤔 意思が揺れ動く:一度確認した意向が、体調や家族の状況により変化することが頻繁にある
- 👨⚕️ 医師との連携不足:看護師がACPを進めたくても、医師から十分な説明がなされていない場合、支援を開始しにくい
- ⏰ 時間確保の難しさ:訪問看護の限られた時間の中で、深い対話の時間を確保することが難しい
これらの障壁に対して文献が示す有効な対応策のひとつが、ACPシートなどの構造化ツールの活用です。本人の気持ち・生活歴・価値観を「見える化」する記録用紙を使うことで、訪問のたびに話題を拾いやすくなり、チーム全体でACPの情報を共有しやすくなります。こうした対話の記録は、入院や施設入居など「生活の場が変わる場面」でも引き継がれ、本人の意思が尊重されやすくなるため、非常に実用的です。これは使えそうです。
大阪府看護協会「看護職のためのACP支援マニュアル」▶ ACPの実践的な進め方・記録方法・多職種連携のポイントが詳細にまとめられています
意思決定支援の看護文献が明らかにした看護師の9つの困難
2025年に発表された福井大学の文献レビュー(村田ほか, 2025)では、医学中央雑誌で検索した247件から厳選した12文献を対象に、日本の高齢者の意思決定支援において看護師が困難を感じる事柄を整理しています。その結果として抽出されたのが、9つのカテゴリーと26のサブカテゴリーです。
- 😰 本人・家族の意思決定能力の不足:認知機能低下や理解力の問題で、本人が意思を固めることができないケース
- 🤐 本人・家族の意思表明への消極的姿勢:「先生にお任せします」というパターナリズムや、死に対するタブー感が根強い
- 👪 家族の意思優先:本人の意思よりも家族の希望が前面に出てしまう構造的な問題
- 💬 意思の相違:本人・家族・医療者それぞれの意向が食い違い、調整が困難になる場面
- 🔗 連携不足:多職種間や在宅サービス事業者間での情報共有がうまくいかない
- 👨⚕️ 医師の影響の強さ:医師の一言で患者・家族の意向が大きく動くため、看護師が介入しにくい
- ⏳ 時間不足:急性期・訪問看護いずれも、深い対話に割ける時間が構造的に不足している
- 📖 意思決定支援のスキル不足:意思決定支援の具体的な技術やコミュニケーション手法を学ぶ機会が少ない
- 🎓 看護師の認識・力量の差:同じ部署の看護師間でも、意思決定支援への理解度に大きな差がある
特に注目すべき点が「医師の影響の強さ」と「連携不足」です。看護師がいかに本人の意思をくみ取っていても、医師からの情報提供が不十分だったり、説明のタイミングがずれていたりすると、看護師が単独で意思決定支援を完結することはほぼ不可能です。看護師単独での対応には限界があります。
また「スキル不足」の問題も深刻です。川崎優子氏が執筆した『看護者が行う意思決定支援の技法30』(立花大学所蔵)のような実践書が現場で読まれている一方、系統的な教育の機会が依然として不足しているのが現状です。意思決定支援は「天性のコミュニケーション能力」に頼るものではなく、学習と実践の積み重ねで向上できる技術領域であることが、複数の文献で強調されています。
村田ほか(2025)「高齢者の意思決定支援における看護師の困難に関する文献レビュー」▶ 9カテゴリー・26サブカテゴリーの詳細な整理が参照できます
意思決定支援の看護文献における独自視点:不動産場面での応用可能性
ここからは、看護文献の知見を不動産現場に置き換えて考える、独自の視点をご紹介します。
不動産の売買・賃貸において「お客様がなかなか決めてくれない」という状況は、医療現場の「本人・家族が意思表明に消極的」という困難と非常に似た構造を持っています。看護文献では、このような場面への対応として「価値観の見える化」と「繰り返しの対話」が有効とされています。これは不動産の現場でも機能します。
具体的には、次のような看護由来のアプローチが参考になります。
- 📝 生活歴・価値観の把握を優先する:「今後どんな生活を送りたいか」「何を大切にして暮らしたいか」を先に聞く。物件スペックの説明より前に、お客様が大切にしていることを引き出す姿勢が、信頼関係の構築に直結します。
- 🔄 一度の説明で完結させない:ACPと同様に、不動産における意思決定も複数回の対話の積み重ねです。1回の商談で「決めさせよう」とせず、次回に向けた継続的なコミュニケーションを設計することが重要です。
- 👨👩👧 家族の意向と本人の意向を分けて把握する:代理意思決定の問題と同様、不動産でも「本人は家を売りたいが、子供が反対している」という構造は珍しくありません。誰がどの意思を持っているかを丁寧に整理することが、トラブル防止にも繋がります。
- 🤝 多職種連携的な姿勢で臨む:大きな住み替えを検討するお客様には、ケアマネジャーや地域包括支援センターとの連携が必要なケースもあります。看護文献が繰り返し強調する「チームでの支援」は、不動産従事者が地域の医療・介護と連携する場面でも求められるスキルです。
特に高齢者の住み替えや、相続・空き家問題を抱えるお客様との商談では、「本人の意思確認ができているか」「家族が代理で話を進めていないか」という視点を持つだけで、後々のトラブルを大きく減らすことができます。看護文献が示す代理意思決定の枠組みは、そのまま高齢顧客対応のチェックリストとして使える考え方です。
また、施設入居や老人ホームへの転居に伴う不動産売却の場面では、本人が意思決定できる「今」のうちに将来の意向を確認しておくACPの考え方が、直接的に活用できます。意思決定支援が条件です。早期から丁寧に本人の意思を引き出し、記録として残しておくことが、スムーズな不動産手続きにも大きく貢献します。
日本総研「高齢者住まいにおけるACPの推進に関する調査研究事業」▶ 住まいの変化とACPの関係性について調査・分析されており、不動産領域との接点を理解するのに役立ちます

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