後見事務報告書の書式と不動産売却での正しい使い方

後見事務報告書の書式を正しく使う不動産取引の実務知識

裁判所への提出が遅れただけで、後見人が解任されることがあります。

この記事の3つのポイント
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令和7年4月から書式が全国統一に

従来は家庭裁判所ごとに異なっていた後見事務報告書の書式が、令和7年4月1日から全国共通の書式に変更されました。不動産取引に関わる実務でも新書式への対応が必須です。

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居住用・非居住用で手続きが大きく異なる

居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が必須で、許可なしに売買すると契約無効になります。非居住用では許可が不要な場合もありますが、報告書への記載義務は同様です。

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報告期限の遅延は解任リスクに直結

報告提出期限は報告基準日の翌月末日。裁判所からリマインドは来ないため自主管理が必要です。期限を過ぎると職務違反として後見人が解任されるケースがあります。


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後見事務報告書の書式とは何か:基本と令和7年改訂のポイント

 

後見事務報告書とは、成年後見人・保佐人・補助人が家庭裁判所に対して後見業務の状況を報告するための公式書類です。法的根拠は民法863条で、家庭裁判所はいつでも後見人に対して事務の報告または財産目録の提出を求めることができると定められています。不動産従事者にとっても、成年後見が絡む売買取引や賃貸借取引でこの報告書の仕組みを理解しておくことは業務上の必須知識です。

令和7年(2025年)4月1日から、後見事務報告書の書式が大きく変わりました。これが最初のポイントです。

それまでは各地の家庭裁判所がそれぞれ独自の書式を運用していたため、東京と大阪、横浜と名古屋では書類の様式が異なるという状況でした。令和7年4月以降は最高裁判所が統一書式を整備し、全国どの家庭裁判所でも同じ様式が使われるようになっています。

のもう一つの柱は「身上保護事務の可視化」です。成年後見制度が始まってから25年が経過し、財産管理だけでなく本人の意思を尊重した身上保護の重要性が広く認識されるようになりました。民法858条には「成年後見人は成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うにあたって、成年被後見人の意思を尊重しなければならない」と明記されています。新書式では、後見人が本人の意思形成をどのようにサポートしたかという記録が報告書の中に盛り込まれるよう設計されています。

つまり令和7年以前の書式はすでに使えません。

不動産取引の現場で後見人から書類を受け取った際、旧書式が使われていないかをさりげなく確認することも、スムーズな取引進行のための実務的な視点といえます。

提出種別 主な提出書類 タイミング
初回報告 後見等事務報告書(初回)・財産目録・収支予定表 審判確定から1か月以内
定期報告 後見等事務報告書(定期)・財産目録・通帳コピー等 報告基準日の翌月末日まで(年1回)
不動産売却後 定期報告書に加え売買契約書・登記完了証・通帳コピー等 売却後の次の定期報告時または指示に応じて

裁判所の書式ダウンロードページ(全国共通の最新書式が入手できます)。

成年後見人・保佐人・補助人の報告書式 – 裁判所

後見事務報告書の書式ダウンロードと財産目録の記載例

最新の書式は、裁判所ポータルサイトからPDF形式でダウンロードできます。書式は種類によって分かれており、主なものは以下のとおりです。

  • 📄 後見等事務報告書(初回報告用):就任直後に1回だけ提出する書類で、3頁構成。後見事務の方針や本人の生活状況を記載する項目が新設されました。
  • 📄 後見等事務報告書(定期報告用):毎年1回提出する書類で、令和7年改訂後は6頁構成(別紙含む)に拡充。意思決定支援の取り組みについての記載欄が追加されています。
  • 📄 財産目録:預貯金・現金、有価証券、不動産、保険、負債などを一覧にしたもの。定期報告では変化のあった項目のみを記載すればよい(変化のない項目は記載不要)というルールが引き続き適用されます。
  • 📄 収支予定表:本人の年間の収入・支出の見通しを記したもの。名称は変わりましたが記載内容の基本は同様です。

財産目録の記載で不動産が含まれる場合、土地と建物をそれぞれ分けて記載します。これが基本です。

令和7年改訂後の財産目録では、「4 不動産(土地)」と「5 不動産(建物)」の欄が設けられており、建物については登記に合わせた床面積の記載が求められるようになっています。不動産が売却された場合は、売却後の定期報告において財産目録から当該不動産の欄を削除し、売却代金を預貯金の残高として反映させる必要があります。

不動産を処分した際の後見事務報告書への主な記載ポイントをまとめます。

  • 売却日・売却価格・買主情報を正確に記入する
  • 売却代金の入金日と入金先口座を明記する
  • 売却益の使途(生活費・介護費・医療費など)を具体的に書く
  • 収支予定表を最新の状態に更新し、今後の資金計画も記載する
  • 売買契約書の写し・登記完了証・預金通帳の写しを添付資料として準備する

記載漏れが一番多いのが「売却代金の使途説明」です。

単に「売却した」という事実の記録にとどまらず、得られた資金をどのように本人の生活や医療のために用いる予定かという計画を合わせて記載することが、家庭裁判所からの信頼性を高めるうえで重要です。不動産取引後に後見人が作成に行き詰まっているケースに出会ったら、司法書士への相談を軽く促してみることも、長期的な顧客関係の観点で有効です。

成年後見人の後見事務報告書の作成 – 司法書士中川雅博事務所(提出書類の種類と記載事項の一覧として参考)

後見事務報告書の書式と不動産売却手続きの連携フロー

不動産取引において成年後見が絡む場合、売買手続きと後見事務報告書の提出はセットで考える必要があります。片方だけ完了しても、法的に完結しているとは言えません。

特に重要なのが「居住用不動産」か「非居住用不動産」かという区分で、この違いが手続き全体のフローを左右します。

居住用不動産とは、本人が現在住んでいる家だけでなく、現在は入院・入所中であっても将来的に居住する可能性がある不動産も含みます。この居住用不動産を売却・賃貸・抵当権設定・取壊し・賃貸借解除などの処分をする場合には、民法859条の3の規定により事前に家庭裁判所の許可が必要です。許可を得ずに売買契約を締結してしまうと、その契約は無効になります。

一方で、本人が一度も居住したことがなく居住する予定もない土地や収益物件などは非居住用不動産として扱われ、家庭裁判所の許可は原則不要です。ただし、非居住用であっても後見人が恣意的に売却できるわけではなく、本人の利益になる行為であることの説明責任は常に後見人に課されています。

全体の流れは次のとおりです。

  1. 🔍 不動産査定・売却方針の決定(不動産会社への依頼、書類リスト作成)
  2. 📝 売買契約書案の作成(裁判所申立時の添付資料になるため事前に準備)
  3. 🏛️ 家庭裁判所への売却許可申立て(居住用のみ。許可まで通常1〜2か月)
  4. 📜 許可決定書の受領後に売買契約締結(居住用は許可前の契約は無効)
  5. 🏦 代金受領・所有権移転登記(登記完了まで通常1〜2週間)
  6. 📋 後見事務報告書の提出(売却内容・売却代金使途・財産目録の更新を記載)

全体で3〜6か月が目安です。

不動産従事者がこの流れを頭に入れておくと、顧客への適切な期間案内や書類準備のアドバイスができるようになります。たとえば「売買契約書案を先に作成して裁判所申立の添付資料にする」というステップは、多くの不動産業者が見落としやすいポイントです。後でやり直しが発生すると手続き全体が1〜2か月単位で遅延するため、早い段階で確認することが重要です。

居住用不動産売却許可申立のための情報(東京家庭裁判所の詳細手続き案内)。

成年後見制度(後見・保佐・補助)– 東京家庭裁判所

後見事務報告書の書式の提出期限と遅延リスクを不動産従事者が知っておくべき理由

後見事務報告書には、明確な提出期限があります。期限は「報告基準日の翌月の末日」です。

たとえば本人の誕生月が6月であれば、報告基準日は6月30日となり、提出期限は7月31日になります。この期限は家庭裁判所ごとに異なる場合もあるため、審判書に同封された書面で個別に確認することが原則です。

重大なのは、裁判所から事前のリマインド通知は来ないという点です。

大阪家裁のQ&A集には「毎年定期的に提出することになっている後見事務報告書が期限に遅れたり、調査が必要と判断した場合に調査人が選任されることがある」と明記されています。さらに京都家裁のハンドブックでは「期限に遅れると職務違反を理由に後見人等を解任されることがある」と直接的に記載されています。

解任は法的リスクとして現実に存在します。

不動産従事者がこれを知っておくべき理由は2点あります。

第一に、取引中の物件の後見人が突然解任されると、売買手続き全体が停止するリスクがあるからです。新しい後見人が選任され、改めて家庭裁判所の許可を取り直すまでの間、契約の効力や決済スケジュールが大幅に乱れる可能性があります。

第二に、不動産売却後の報告書提出が漏れるケースが実務でも少なくないからです。売却が完了した時点で安心してしまい、「報告書を出し忘れた」という事態が起こりえます。後見人(特に親族後見人)が報告義務を把握していないケースも珍しくないため、取引完了後に「売却内容を報告書に記載する必要がある」という一言を添えることが、後のトラブル防止につながります。

不動産業者としての直接の義務ではありませんが、顧客の後見人が「報告書は売却後に何か必要ですか?」と問いかけてきたときに的確な情報を提供できる準備をしておくことで、信頼関係の構築につながります。提出期限の管理は手帳やスマートフォンのカレンダーアプリへの登録が最もシンプルな対策です。

後見事務報告書の書式と不動産実務で見落とされがちな独自視点:「居住用の定義誤認」が生む契約無効リスク

不動産従事者が後見案件で最も注意すべき落とし穴が「居住用不動産の定義の誤認」です。

「本人が今は施設に入所しているから、空き家になっているこの物件は非居住用だ」と判断して家庭裁判所の許可申立なしに売買を進めてしまうケースが実務で起きています。これは大きな誤りです。

裁判所が公開しているQ&Aには次のように記されています。「居住用不動産とは、本人が現在居住しているものだけでなく、現在は病院に入院していたり施設に入所したりしているために居住していないが、将来再び居住する可能性がある場合などを含む」とあります。つまり、空き家であっても「将来戻る可能性がある」と判断された時点で居住用の扱いになり、家庭裁判所の許可なしに売却すると契約が無効になるリスクがあります。

契約無効は取引全体の崩壊を意味します。

「施設に移ってから3年空き家になっているから非居住用」という判断は危険です。売却の前に以下の点を確認することが、不動産取引の安全性を担保するうえで欠かせません。

  • 🔎 本人の施設入所・入院の経緯と期間を聴取する
  • 🔎 将来的に自宅への帰宅意向があるかどうかを後見人に確認する
  • 🔎 担当の司法書士や弁護士に居住用・非居住用の判断を確認してもらう
  • 🔎 判断に迷う場合は、家庭裁判所に事前照会することも選択肢に入れる

また、後見事務報告書の書式にも不動産の処分に関する記載欄があります。定期報告では「その他重要な手続きの報告」の欄に不動産・式の処分等として記載することになっており、居住用・非居住用問わず処分した不動産は漏れなく報告する義務があります。これを忘れると、次の定期報告の際に家庭裁判所から追加説明を求められる事態になりかねません。

居住用不動産の定義について(名古屋家庭裁判所の解説が分かりやすい)。

居住用不動産処分許可の申立てについて – 名古屋家庭裁判所(PDF)

後見事務報告書の書式と保佐人・補助人の場合の違いと不動産実務への影響

成年後見制度には「後見」「保佐」「補助」の3つの類型があります。後見事務報告書の書式は令和7年4月以降、成年後見人・保佐人・補助人のいずれも同一の全国統一書式を使用します。ただし、実際の手続きの中身は類型ごとに大きく異なるため、不動産取引の現場では混同しないよう注意が必要です。

類型ごとの本人の判断能力と不動産取引への影響の違いをまとめます。

類型 対象者の状態 居住用不動産売却の許可 本人同意の要否
後見(成年後見人) 判断能力がほぼない 家庭裁判所の許可が必須 不要
保佐(保佐人) 判断能力が著しく不十分 家庭裁判所の許可が必要な場合あり 原則必要
補助(補助人) 判断能力が不十分 審判内容による 必要

書式は統一、でも手続きは類型ごとに違います。

後見の場合は本人の同意が不要で、後見人が単独で売買契約を締結できます(居住用は裁判所の許可が前提)。一方で保佐・補助の場合、本人が一定の法律行為を単独で行う能力を残しているため、不動産売却の場面で本人の意向を確認するプロセスが加わります。

不動産従事者の立場から見ると、最初に「後見人等の立場が後見・保佐・補助のどれか」を確認することが、必要書類や手続きの判断において最も重要な第一ステップになります。保佐人から「本人の同意書はいるのか」と聞かれた際に「後見と同じ書式だから同じ手続きです」と誤った案内をすると、後で手続きをやり直す事態になりかねません。

提出書式は同じでも、添付書類や申立の要否は類型によって変わります。

報酬付与申立についても、令和7年改訂後の新書式では消費税課税事業者かどうかの確認欄や、身上保護面の取り組みを考慮してもらいたい事項の記載欄が追加されました。専門職後見人が関わる案件では、この申立書の内容が報酬額にも影響する可能性があります。不動産売却という身上保護と財産管理の両面にまたがる重大業務は、報酬申立においても適切に記録・報告されることが後見人の利益にもなります。

リーガルサポート(公益社団法人成年後見センター)の書式案内や変更情報。

令和7年4月1日から後見事務報告書式が変わります – 成年後見センター・リーガルサポート神奈川県支部

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