抵当不動産の第三取得者とは何か、保護の仕組みを徹底解説
抵当権付き不動産を買った後でも、あなたは売主の借金を肩代わりしなければ所有権を守れないことがあります。
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抵当不動産の第三取得者とはどのような立場か
抵当不動産の第三取得者とは、抵当権が登記された状態のまま不動産の所有権(または地上権)を取得した者を指します。たとえば、AがBから1,000万円を借り入れ、自己所有のマンションにBの抵当権を設定・登記していたとします。その後、Aが第三者CにそのマンションをB名義の抵当権付きのまま売却した場合、Cが「抵当不動産の第三取得者」となります。
つまり、第三取得者です。
所有権はCに移転しているにもかかわらず、Bの抵当権は登記によって対抗力を持ち続けます。登記済みの抵当権には、後から取得したCは対抗できません。民法上の物権変動の原則として、登記を先に備えた抵当権者が優先されるからです。
注意が必要なのはここです。債務者Aが返済できなくなれば、抵当権者BはいつでもCが取得した不動産を競売にかけることができます。競売が実行されると、Cは購入した不動産の所有権を失います。代金を支払って買ったにもかかわらず、です。
この「所有権を失うリスク」が第三取得者にとって最大の問題です。
| 当事者 | 役割 | リスク |
|---|---|---|
| A(元の所有者) | 抵当権設定者・債務者 | 返済できなければ抵当権実行 |
| B(金融機関等) | 抵当権者・債権者 | 被担保債権の回収問題 |
| C(第三取得者) | 新しい所有者 | 競売により所有権を失うリスク |
なお、「物上保証人」と「第三取得者」は混同しやすいので注意が必要です。物上保証人は自分自身が抵当権設定時から担保提供者であるのに対し、第三取得者は抵当権設定後に所有権を取得した者です。立場が根本から異なります。
不動産従事者として実務を行う際は、取引対象の不動産に登記済み抵当権が残っていないかを必ず登記簿で確認することが前提となります。
参考:第三取得者とは何かをわかりやすく解説している不動産用語集
抵当不動産の第三取得者を保護する代価弁済と抵当権消滅請求の違い
民法は、第三取得者が所有権を失わないよう2つの固有制度を設けています。それが「代価弁済(民法378条)」と「抵当権消滅請求(民法379条以下)」です。似た名前ですが、仕組みがまったく異なります。
まず代価弁済から整理しましょう。
代価弁済は、抵当権者が第三取得者に対して「その買受代金を直接私に払ってください」と請求できる制度です。第三取得者がこれに応じて買受代金を抵当権者に支払えば、たとえその金額が被担保債権額を下回っていても、抵当権は消滅します。
重要な点があります。
代価弁済は抵当権者側からしか請求できません。第三取得者の側から「代価弁済してください」と申し出ることはできないのです。このため、実務上は第三取得者の保護にはあまり役立たないと言われています。第三取得者にとっては受け身の制度です。
一方、抵当権消滅請求は第三取得者が能動的に動ける制度です。第三取得者が自ら評価した金額(時価と競売売却見込み額を考慮したもの)を登記されたすべての債権者に書面で提示し、抵当権の消滅を申し出ることができます(民法379条)。
手続きには期限があります。
抵当権消滅請求は、抵当権の実行による競売の差押えの効力が発生する前に行わなければなりません。差押えが入ってからでは遅く、この制度は使えなくなります。
抵当権者が書面を受け取ってから2か月以内に競売申立てを行わない場合、第三取得者の提示金額を承諾したものとみなされます(民法384条)。この「みなし承諾」が抵当権消滅請求の重要なポイントです。
| 比較項目 | 代価弁済(民法378条) | 抵当権消滅請求(民法379条以下) |
|---|---|---|
| 請求できる者 | 抵当権者から第三取得者へ | 第三取得者から抵当権者へ |
| 金額の決定 | 売買代金がそのまま適用 | 第三取得者が提示した金額 |
| 対象者 | 所有権・地上権の第三取得者 | 所有権の第三取得者のみ |
| 実務上の有用性 | 低い(受け身の制度) | 高い(能動的に抵当権を消せる) |
登記された全債権者のうち一人でも書面送付が漏れると、他の債権者との関係でも抵当権消滅請求の効力が生じなくなります。複数の抵当権者がいる物件では、漏れなく全員に書面を送ることが不可欠です。これは実務上のミスが起きやすい部分です。
参考:代価弁済と抵当権消滅請求の仕組みを図解で解説(弁護士法人渡辺総合法律事務所)
渡辺総合法律事務所「第三取得者が抵当権を消滅させる方法」(PDF)
抵当不動産の第三取得者が使える第三者弁済と消滅時効援用という裏技
あまり知られていないのが、抵当権消滅の「一般的な手段」として使える2つの方法です。固有制度(代価弁済・抵当権消滅請求)と並んで活用できるため、不動産実務従事者は知っておく価値があります。
1つ目は第三者弁済です。
第三取得者は、売主(債務者A)に代わってAの借入金を全額弁済することができます。民法474条1項が原則として第三者弁済を有効と定めているうえ、第三取得者は「法律上の利害関係を有する者」とみなされるため、たとえ債務者が拒否しても弁済が認められます。被担保債権が消滅すれば、付従性によって抵当権も自動的に消滅します。
結論はシンプルです。
なお、第三者弁済を行った第三取得者は、債務者に対して求償権を取得します(民法567条2項)。売買代金と相殺する形で処理することも実務上あり得ます。ただし、弁済額が膨らめば第三取得者の資金負担も大きくなるため、利用場面は選びます。
2つ目が、実務で意外と見落とされがちな被担保債権の消滅時効援用です。
最高裁判所の判例は「抵当不動産の譲渡を受けた第三者は、抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することができる」と判示しています。これが原則です。
さらに、抵当権そのものの消滅時効という概念もあります。抵当権は、被担保債権の債務者・設定者以外の者(=第三取得者)との関係において、独自に20年の消滅時効にかかります(民法396条の解釈・民法167条2項)。時効の起算点は最終弁済期とするのが判例です。
これは使えそうです。
抵当権付き不動産を取得した際に、「被担保債権はいつ発生したのか」「最終の弁済期はいつか」「時効中断事由はないか」を調査することで、弁済をせずに抵当権を抹消できる可能性があります。売買前のデューデリジェンスとして、この視点を加えることが実務上の差別化につながります。
時効援用には期限があります。援用前に時効中断(更新)の事実がないか、弁護士・司法書士などの専門家に依頼して慎重に確認することが条件です。
参考:抵当不動産の第三取得者の時効主張に関する司法書士解説記事
抵当不動産の第三取得者による費用償還請求という知られざる権利
抵当不動産の第三取得者には「攻め」の手段もあります。それが民法391条に定める費用償還請求権です。これは、第三取得者が抵当不動産に必要費または有益費を支出した場合、競売代金から他の債権者よりも先にその費用を回収できるという優先権です。
厳しいところですね。
まず必要費とは、物件を現状維持するために必要な費用のことです。たとえば雨漏り修理費、給排水管の修繕費、外壁の緊急補修費などが該当します。現状を保つために「これをしなければ価値が下がる」といった費用が必要費です。
一方、有益費とは客観的に見て物件の価値を増加させる費用を指します。フルリノベーション費用、設備のグレードアップ工事費などが典型例です。ただし、単なる趣味や個人的な好みによるカスタマイズは有益費とは認められないことがあるため注意が必要です。
有益費は証明が条件です。
この費用償還請求権の優先順位は、他の債権者より先という極めて強い効力があります。たとえば、競売で1,000万円の売却代金が出た場合、第三取得者が200万円のリノベーション費用(有益費)を支出していれば、その200万円分を抵当権者の配当より前に受け取ることができます。
実務では、第三取得者が費用を支出する際の証拠保全が非常に重要です。領収書・工事契約書・施工内容が分かる資料を必ず整理しておく必要があります。これらがないと費用の支出事実を証明できず、競売時に請求できなくなるリスクがあります。
費用支出の記録管理が必須です。
抵当不動産を扱う場面で、第三取得者が多額のリフォームを行うケースは珍しくありません。こうした費用が競売後に優先回収できる権利があることを知っているだけで、取引交渉や資金計画の組み方が変わってきます。不動産従事者として顧客にこの権利を適切に説明できることは、専門性の証明にもなります。
参考:民法391条「抵当不動産の第三取得者による費用の償還請求」の条文解説
クレアール司法書士講座「民法第391条 抵当不動産の第三取得者による費用の償還請求」
不動産実務で抵当不動産の第三取得者リスクを見抜くための確認ポイント
以上の法的な仕組みを踏まえたうえで、実際の不動産取引において第三取得者リスクをどのように管理すればよいのかを整理します。これは現場で特に見落とされやすい部分です。
意外ですね。
① 登記簿謄本の確認は必須中の必須
取引対象物件の登記簿(登記事項証明書)を必ず取得し、甲区(所有権)だけでなく乙区(所有権以外の権利)も精査することが不可欠です。乙区に抵当権・根抵当権・仮登記担保・譲渡担保などの担保権が記録されていれば、第三取得者リスクが発生します。
特に根抵当権には注意です。根抵当権は極度額内で繰り返し担保される性質があり、通常の抵当権と異なり元本確定前は抵当権消滅請求が使えません。通常の抵当権と同じ感覚で対処しようとすると、手続きを誤るリスクがあります。
根抵当権は別ルールです。
② 被担保債権の残高と時効の可能性を調査する
売主が同意している場合は、被担保債権の残高・最終弁済期・時効中断の有無を確認します。これは後述する時効援用の可否判断にも直結します。金融機関からの残高証明書を取り寄せることが現実的な方法の一つです。
③ 差押え前のタイミングを把握する
抵当権消滅請求は、競売の差押えが入る前に手続きを完了させなければなりません。差押えが入ってしまうと選択肢が大幅に狭まります。抵当権付き物件の取得後はタイムラインを常に意識し、「差押えが入る前に何をすべきか」を逆算して動くことが求められます。
④ 複数の抵当権者がいる場合は全員への対応が必要
抵当権消滅請求を行う場合、登記された全債権者に対して漏れなく書面を送付しなければなりません。実務上、1名でも漏れると他の債権者に対しても効力が生じなくなるため、登記簿で全債権者を把握し、適切な書面送付を確実に行う必要があります。専門家(弁護士・司法書士)のサポートを受けることが安全です。
⑤ 費用支出の記録は取得直後から管理する
物件取得後に修繕・リフォームを行う場合は、必要費・有益費の区別を意識しながら領収書・工事契約書・写真などの証拠を整理・保管します。証拠があれば競売時に費用償還請求権を行使でき、支出費用を優先的に回収できます。
以下に、不動産実務での確認フローをまとめます。
- 📋 登記簿の乙区確認:抵当権・根抵当権の有無と内容をチェックする
- 📅 被担保債権の時効調査:最終弁済期・時効中断事由を確認する
- ⏱️ 差押え前のタイミング管理:競売申立て前に抵当権消滅請求の手続きを完了させる
- 📨 全債権者への書面送付:登記された全員に漏れなく送ることが抵当権消滅請求の条件
- 🗂️ 費用支出の証拠保全:必要費・有益費の領収書・契約書・写真を整理して保管する
- 👨⚖️ 専門家への相談:弁護士・司法書士に手続きの適法性を確認する
これらを体系的に実践できる不動産従事者は、顧客から信頼される専門家として差別化できます。
参考:抵当権消滅請求の手続きと時期に関する宅建受験向け解説

