代価弁済と抵当権消滅請求の違いを正しく理解する方法

代価弁済と抵当権消滅請求の違いと実務上の活用ポイント

保証人が物件を買っても、抵当権消滅請求は一切使えません。

この記事の3つのポイント
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主導権が逆になる2つの制度

代価弁済は抵当権者(債権者)が主導し、抵当権消滅請求は第三取得者(買主)が主導する。誰が動き出すかで制度が変わる。

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利用できる者に厳格な制限あり

抵当権消滅請求は所有権取得者のみが使える。地上権者・保証人・債務者・相続人は利用不可(民法第380条)。

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競売差押え前が絶対条件

抵当権消滅請求は競売による差押えの効力発生前にしか行えない。タイミングを逃すと制度そのものが使えなくなる。


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代価弁済とは何か・抵当権消滅請求との基本的な違い

抵当権が設定された不動産を取引する場面では、「代価弁済」と「抵当権消滅請求」という2つの制度が登場します。名前が似ているうえに、どちらも抵当権の消滅を目的とする制度なので、混同してしまいがちです。しかし、この2つは法的な仕組みも手続きの流れも根本的に異なります。

まず「代価弁済」から整理しましょう。民法第378条に規定される制度で、抵当不動産の所有権または地上権を「売買」により買い受けた第三者が、抵当権者(債権者)からの請求に応じて代価を支払ったとき、抵当権が消滅するという仕組みです。つまり、「抵当権者が先にオファーを出す」のが代価弁済の大きな特徴です。

具体的なイメージとして考えてみましょう。売主Aさんは銀行から1,500万円を借りており、自宅マンションに抵当権が設定されています。買主Bさんがそのマンションを1,200万円で購入した場合、銀行側から「1,200万円をAさんではなく当行に支払ってくれれば、抵当権を外します」と申し出ることができます。これが代価弁済です。

一方「抵当権消滅請求」(民法第379条〜第381条)は、流れが逆です。抵当不動産の所有権を取得した第三取得者の側から、「この金額を払うので抵当権を消滅してください」と抵当権者に請求できる制度です。買主側が主導権を持って動ける点が、代価弁済とは決定的に異なります。

つまり、主導権の所在が違います。代価弁済は抵当権者(銀行・債権者)発信、抵当権消滅請求は第三取得者(買主)発信、と覚えておくと整理しやすいでしょう。実務においては、この違いを押さえていないと、どちらの制度を活用できる立場なのかを誤って判断してしまうリスクがあります。

比較項目 代価弁済(民法378条) 抵当権消滅請求(民法379条〜)
主導権を持つのは 抵当権者(債権者) 第三取得者(買主)
誰が請求・提案するか 抵当権者 → 第三取得者へ提案 第三取得者 → 抵当権者へ請求
取得原因 売買のみ 売買・贈与など(相続は除く)
対象となる権利 所有権または地上権 所有権のみ
保証人による利用 可(抵当権者からの請求に応じる形) 不可(民法380条)

代価弁済の抵当権消滅請求との違い・取得原因と対象権利の制限

2つの制度は「利用できる人・権利の種類・取得原因」においても明確に異なります。これを正確に理解していないと、実際の取引現場で制度の適用可否を誤判断することになります。

まず取得原因から見ていきます。代価弁済が適用されるのは「売買」による取得に限られます。贈与や財産分与によって不動産を取得した場合は、代価弁済の対象になりません。これは制度の前提が「売買代金がある」という点にあるためです。代価がなければ弁済も成り立たない、という理屈です。

一方、抵当権消滅請求はより幅広い取得原因に対応しています。売買のほか、贈与や財産分与など「相続を除くすべての原因」による取得者が利用できます。相続が除外される理由は、相続人はあくまで被相続人の地位を引き継ぐ立場であり、新たな第三取得者とは位置づけが異なるためです。

対象となる権利の種類にも違いがあります。代価弁済は「所有権または地上権」が対象です。これに対し、抵当権消滅請求は「所有権」のみが対象となります。地上権を取得した第三者は抵当権消滅請求を使えず、代価弁済のみが活用できる選択肢です。ここが意外と見落とされやすいポイントです。

地上権が絡む取引は少なくありません。たとえば、底地と借地権が絡む複合取引や、定期借地契約の絡む物件売買では地上権が問題になることがあります。その際に「抵当権消滅請求は地上権取得者には使えない」という知識が欠けていると、取引スキームそのものが崩れる可能性があります。これは実務上のリスクです。

抵当権消滅請求の代価弁済との違い・保証人と債務者は使えない理由

不動産実務で特に重要なのが「誰が抵当権消滅請求を使えないか」という点です。民法第380条は、「主たる債務者・保証人およびこれらの承継人は、抵当権消滅請求をすることができない」と明確に定めています。

保証人が物件を買っても使えません。これは多くの実務担当者が見落としやすい落とし穴です。たとえば、債務者Aさんの連帯保証人であるBさんが、抵当権付きの物件を購入したとしても、Bさんは保証人であるため抵当権消滅請求を行うことができません。これが冒頭の「驚きの一文」に繋がる現実です。

なぜ保証人は使えないのでしょうか? 保証人はそもそも債務の弁済義務を負っている立場です。仮に保証人が抵当権消滅請求によって、被担保債権よりも少ない金額で抵当権を消滅させることができるとしたら、債権者にとって大きな不利益となります。法律はこの不均衡を防ぐために、保証人からの消滅請求を認めないこととしています。

同様に、主たる債務者も利用できません。債務者自身が「この金額で抵当権を消してください」と請求できるなら、借りたお金を返さずに担保を消滅させることができてしまいます。これでは担保制度の意味が失われるため、債務者からの請求は認められていません。

一方、代価弁済については、保証人であっても「抵当権者からの請求に応じる形」であれば代価を支払うことができます。保証人が自ら動くのではなく、あくまで抵当権者側からのオファーに応答する形なので認められているのです。代価弁済の場合は受動的な立場での行為に過ぎないため、債権者保護の観点からも問題がないと解されています。

不動産取引の現場では、売主の連帯保証人が物件を引き取る形の取引(いわば身内での処理)が生じることがあります。そのような場面でこの制限を知らずに抵当権消滅請求を提案してしまうと、後になって手続きが無効となり、取引全体を組み直す事態になりかねません。取引設計の段階で当事者の立場を確認しておくことが必要です。

参考:民法第380条(主たる債務者等による抵当権消滅請求の禁止)の条文と解説は、法務省が公開している「日本法令外国語訳データベースシステム」でも確認できます。

日本法令外国語訳データベース(民法・物権編)|法務省

抵当権消滅請求の手続き・みなし承諾と2か月の期限を徹底解説

抵当権消滅請求は、手続きの流れと期限を正確に把握していないと、せっかくの権利が活かせません。民法第383条が定める手続きに沿って、書面の送付から決済完了までの流れを整理します。

まず第三取得者は、登記をしたすべての債権者(抵当権者・根抵当権者など)に対して、民法第383条所定の書面を送付しなければなりません。この書面には、①取得の原因および年月日・譲渡人・取得者の氏名・住所、②不動産の登記事項証明書(現に効力を有するすべての登記事項を証明したもの)、③第三取得者が提供する代価または金額、を記載する必要があります。

書面を受け取った各抵当権者は、受領後2か月以内に以下のいずれかを選択しなければなりません。

  • ✅ 提示された金額に承諾し、抵当権消滅に応じる
  • 🔨 承諾せず、抵当権の実行として競売の申立てを行う

2か月以内に競売の申立てを行わなかった場合、その抵当権者は抵当権消滅請求に承諾したものと「みなされます」(みなし承諾)。これは第三取得者にとって有利な規定です。抵当権者が書面を無視したり、返答を引き延ばしたりしても、期限が過ぎれば承諾扱いになるからです。

「みなし承諾」は使えそうですね。ただし実務上は、複数の抵当権者が関与している場面で慎重な対応が求められます。登記されたすべての債権者に書面を送達しなければならず、1人でも欠けると他の抵当権者との関係においても消滅請求の効力が生じないとされています(弁護士・渡辺法律事務所「第三取得者が抵当権を消滅させる方法」より)。

すべての債権者が承諾し、第三取得者がその金額を払い渡しまたは供託した段階で、はじめて抵当権が消滅します(民法第386条)。不動産上のすべての担保物権が一括で消滅する点は、第三取得者にとって大きなメリットです。

また、競売による差押えの効力が発生した後は、抵当権消滅請求を行うことができなくなります。差押えが入った後は物件を自由に処分できなくなるため、消滅請求の前提が崩れるためです。任意売却の検討段階で依頼者から相談を受けた際には、「差押えが入る前に手を打つ」ことが最優先事項であると伝えることが重要です。

参考:手続きの流れと法的根拠については、以下のリンクで条文を確認できます。

民法第383条(抵当権消滅請求の手続)の解説|クレアール司法書士講座

代価弁済と抵当権消滅請求・不動産実務での使い分けと判断のコツ

2つの制度の違いを理解したうえで、不動産実務においてどう使い分けるかを整理します。どちらの制度が有効かは、当事者の立場・物件の状況・交渉の主導権によって変わります。

代価弁済は、実務上「抵当権者(銀行・金融機関)主導で交渉が進む」場面に向いています。たとえば、任意売却において金融機関側が積極的に売却に協力する方針を示している場合、代価弁済の形で「この買値であれば抵当権を外す」という合意が比較的スムーズに進みます。抵当権者が話を持ちかける形なので、第三取得者は条件に納得できれば応じるだけです。

抵当権消滅請求が有効なのは、「債権者が任意売却に同意しない・交渉が難航している」ケースです。後順位の抵当権者ほど配当を受けられる可能性が低いため、任意売却への同意を拒むことがあります。このような場面で第三取得者側から強制的に手続きを動かせるのが、抵当権消滅請求の強みです。これは使えそうです。

一つの注意点として、抵当権消滅請求は「第三取得者が金額を自由に提示できる」制度ですが、その金額が低すぎると抵当権者は競売申立てという対抗手段を取ります。競売に移行した場合、物件が市場価格の6〜7割程度の価格で落札されることが多いとされており、第三取得者にとっても抵当権者にとっても損失が大きくなるリスクがあります。提示額の設定は慎重に行う必要があります。

また、不動産実務において見落とされがちな視点があります。それは「代価弁済には応じる義務がない」という点です。抵当権者から代価弁済の提案があっても、第三取得者はその提案を断ることができます。代価弁済はあくまで任意の提案であって、義務ではありません。断った場合に抵当権が消滅しないだけです。一方、抵当権消滅請求を受けた抵当権者が対応しなければ、2か月後に「みなし承諾」となる強制力があります。この非対称性が、2つの制度の実質的な差です。

実際の取引では、代価弁済と抵当権消滅請求を組み合わせて検討するケースも存在します。まず債権者と交渉して代価弁済による解決を試み、交渉が行き詰まった場合に抵当権消滅請求へと移行するという段階的なアプローチが取られることがあります。当事者の立場と交渉状況を正確に見極めることが、不動産従事者として求められる判断力です。

場面 適した制度 理由
債権者が積極的に売却に協力している 代価弁済 債権者主導で交渉がスムーズに進む
後順位債権者が交渉に応じない 抵当権消滅請求 第三取得者側から手続きを強制できる
競売差押えが入る前で急いでいる 抵当権消滅請求(早期着手) 差押え後は請求不可になる
地上権取得者が抵当権を消したい 代価弁済のみ 抵当権消滅請求は所有権者専用